『マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』を渋谷シネパレスで見ました。
(1)とても面白かった第1作目『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(以下では「前作」とします)を見たものですから(注1)、続編も面白いかもと思って、遅ればせながら映画館に行ってきました。
本作(注2)の冒頭では、マリーゴールド・ホテルの宿泊人・ミュリエル(注3:マギー・スミス)と同ホテル支配人・ソニー(デヴ・パテル)とがオープンカーに乗って、ルート66を飛ばしています。
どうやら二人はアメリカ出張中で、カリフォルニア州サンディエゴへと向かっているようです。
目的のホテルに着いて、まずミュリエルが「中でお茶とビスケットを」と望むと、ボーイが「オーストラリアなまりですね」と余計なことを言います。
それを無視してソニーはミュリエルに、「チャンスに賭けましょう」と言いますが、ミュリエルは「とにかくやるのよ」「話は私にさせて」と答えます。
そして、二人は投資会社の社長のタイ・バーリー(デヴィッド・ストラザーン)と会います。
会議が始まる前に、ミュリエルがウェイターに向かって、「この国では生ぬるいお湯にティーバッグ。これでは違う。お茶の葉に熱湯を注ぐべき」と言うと(注4)、バーリーは興味を示して、「ホテルの話を聞きたい」と乗ってきます。
二人は、バーリーの会社からの融資によって、マリーゴールド・ホテルと同じようなやり方(注5)で運営されるもう一つのホテルをインドに開業しようと考えているのです(注6)。
話を聞いたバーレイは、「前向きに検討したいが、適否の判断をするために、身分を伏せた鑑定人を送り込みたい」と言います。
そして、インドのジャイプルにあるマリーゴールド・ホテルに一人の男が現れます。
さあ、このあと話はどのように展開することになるのでしょうか、………?
本作を見ると、やっぱり続編は続編だけのことでしかないという感じです。第1作と同じように、80歳を超える年齢ながら今もって第1線で頑張っているジュディ・デンチとかマギー・スミスといった女優らが同じように活躍するとはいえ、第1作のようなインドの素朴な雰囲気を大切にという気分がかなり後退して、もっと資金を得て近代的なホテルチェーンにしようという動きが前面に出てくるように思います。様々の男女の関係も、第1作目で描かれていたものが複雑化しただけのように思え、インド映画特有の歌と踊りはふんだんに盛り込まれるようになったとはいえ、第1作のままでオシマイにしたままでも良かったのではと思いました。
(2)前作と比べて本作の特色といえば、一つは、リチャード・ギアの登場でしょう(注7)。
彼は、ガイ・チェンバースという名前で突然マリーゴールド・ホテルに現れるのです。
ですが、フロントにいたソニーの母親(リレット・デュベイ)は、予約が入っていなかったので「満室です」と断ってしまいます。ところが、その様子を見たソニーは、ガイこそがバーリーが送ってきた鑑定人に違いないと決めつけて、逆に「失礼しました、当ホテルで最上のお部屋にご案内します」と言って、手のひら返しのもてなしをすることになります。
ガイは、ソニーに乗せられて豪遊を決め込むことはしないものの、ソニーの母親に盛んにアプローチをかけたりして、本作を盛り上げます。
もう一つの特色としたら、途中でも何回か描かれますが、最後の結婚披露宴で大盛り上がりを見せるボリウッドダンスでしょう。なにしろ、新郎新婦のソニーとスナイナ(テーナ・デザイー)が中心になって皆が総出で踊りまくるのですから!
さらに特色を挙げるとしたら、マリーゴールド・ホテルのあるジャイプルの観光地がいくつか紹介されていることでしょう。
例えば、王室墓園(ガイトール)では、説明を覚えきれないダグラス(ビル・ナイ)が、子どもの読む説明文を無線で聞きながら、観光客に説明をしています。
どの観光地もとても興味深い感じがして、ちょっと見ただけでも行きたくなってしまいます(注8)。
とはいえ、本作からは、前作で明らかになっていることをなぞり直しているに過ぎないのではという印象を受けてしまいます。
例えば、ソニーとスイナーの結婚式は本作の見どころになっているところ、前作の最後の方で、ソニーは母親を説得して婚約にまで至っているのです。本作では、ソニーとスイナーとの間に多少に行き違いが生じるとはいえ、既定路線に乗って事態が進行するに過ぎません。
また、ダグラス(ビル・ナイ)の妻・ジーン(ペネロープ・ウィルトン)が突然インドに現れて夫に離婚を申し入れます。ただ、前作ですでにジーンは、ダグラスをインドに一人置いてイギリスに帰国してしまっているのです。本作でジーンは、別の男に求婚されたからと夫に理由を述べるとはいえ、前作でダグラスとは別居状態になっていて、そうした方向性は見えていました(注9)。
さらに言えば、本作ではイヴリン(ジュディ・デンチ)が生地の買い付けの仕事に本格的に就く事になります。ですが、前作でも彼女は、電話セールスの仕事に就いてその力量を発揮しています。
またミュリエルは、本作の冒頭でマリーゴールド・ホテルの共同支配人として活躍するところ、共同支配人になる話は前作で描かれています(注10)。
マア、本作では、前作で方向性しか描かれていなかった人々の関係性の行き着く先が描かれていて、宙ぶらりん状態を好まない人にとっては落ち着くのかもしれません。でも、物語に終りがあるのは映画の上のこと、実際には本作の後にもそれぞれの人生が続くのであって、それがこの先どのようになるのかは思いもよらないところです。だったら、前作のような終わり方もまた良しと言うべきではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「明るくて、前向きで、開放的。これが70歳をゆうに超える俳優たちが醸し出す空気なのだから、恐れ入る。人生の先輩たちの「今こそ、最高の時」のメッセージに励まされた」として70点をつけています。
秋山登氏は、「終幕の結婚パーティーが圧巻だ。歌も踊りも賑々(にぎにぎ)しく、歓喜と祝意が噴きこぼれる。内向きの閉塞した作品が目立つ昨今、この映画の風通しの良さは貴重で、見ていて気が清々する」と述べています。
(注1)この拙エントリの「注2」で触れたように、第1作は「映画館で見ていますが、クマネズミの怠慢により、エントリをアップするに至」りませんでした。
(注2)監督は、前作と同様に、ジョン・マッデン。
脚本は、前作と同様に、オル・パーカー。
原題は「The Second Best Exotic Marigold Hotel」。
なお、出演者の内、最近では(前作を除きます)、ジュディ・デンチは『あなたを抱きしめる日まで』、マギー・スミスは『カルテット! 人生のオペラハウス』、リチャード・ギアは『クロッシング』、デヴ・パテルは『スラムドッグ&ミリオネア』で、それぞれ見ました。また、ペネロープ・ウィルトンは、マギー・スミスと同様、TVドラマ『ダウントン・アビー』で見ています。
(注3)宿泊人というよりも、今やマリーゴールド・ホテルの共同支配人。
(注4)ミュリエルは、「こんなぬるいお湯に漬けて葉っぱの色が変わるのを待っていたら時間がかかる。私の歳になると、そんな時間は遺されていない」と言うのです。
(注5)夜中に誰か死亡していないか確認するために毎朝点呼をとっていることなどをソニーは説明します。
(注6)マリーゴールド・ホテルは現在改装中で、その第2段階が進行中ながら、近くの「シュプリーム・クオリティ・ホテル」が売り出し中なので、そこを取得して規模の拡大を図ろうというのがソニーの計画です。ただ、そのための資金繰りがつかないので、バーリーの会社から融資を受けたいというわけです。
(注7)なにしろ、彼がレストランに現れるやいなや、ホテルに宿泊する婦人方が「子宮がうずく」などと言ってしまうのですから〔マッジ(セリア・イムリー)が「lord have mercy on my ovaries」と言います!
(注8)他の観光地としては、ハワ・マハル(風の宮殿)とかジャイガー・フォート(例えば、このサイト)が紹介されています。
(注9)ダグラスとジーンの夫婦は、乏しくなった退職金を有効に使うべくインドにやってきたものの、二人の間には隙間風が吹き、イヴリンを巡ってついに大喧嘩をしてしまいます。それで、ひょんなことから一人で帰国することになったジーンは、夫とイヴリンとの関係を暗に認めるように、「これからは幸せになってね」と夫に言い残します。
(注10)もっと言えば、本作のマッジやノーマン(ロナルド・ピックアップ)が盛んに男や女を求めるのは、前作でも描かれている姿です。
それに、本作のラストで、様々のカップルがオートバイに乗って道路を進んでいく姿が描かれますが、これは前作のラストでイヴリンとダグラスがオートバイにまたがっている映像を彷彿とさせます。
★★★☆☆☆
象のロケット:マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章
(1)とても面白かった第1作目『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(以下では「前作」とします)を見たものですから(注1)、続編も面白いかもと思って、遅ればせながら映画館に行ってきました。
本作(注2)の冒頭では、マリーゴールド・ホテルの宿泊人・ミュリエル(注3:マギー・スミス)と同ホテル支配人・ソニー(デヴ・パテル)とがオープンカーに乗って、ルート66を飛ばしています。
どうやら二人はアメリカ出張中で、カリフォルニア州サンディエゴへと向かっているようです。
目的のホテルに着いて、まずミュリエルが「中でお茶とビスケットを」と望むと、ボーイが「オーストラリアなまりですね」と余計なことを言います。
それを無視してソニーはミュリエルに、「チャンスに賭けましょう」と言いますが、ミュリエルは「とにかくやるのよ」「話は私にさせて」と答えます。
そして、二人は投資会社の社長のタイ・バーリー(デヴィッド・ストラザーン)と会います。
会議が始まる前に、ミュリエルがウェイターに向かって、「この国では生ぬるいお湯にティーバッグ。これでは違う。お茶の葉に熱湯を注ぐべき」と言うと(注4)、バーリーは興味を示して、「ホテルの話を聞きたい」と乗ってきます。
二人は、バーリーの会社からの融資によって、マリーゴールド・ホテルと同じようなやり方(注5)で運営されるもう一つのホテルをインドに開業しようと考えているのです(注6)。
話を聞いたバーレイは、「前向きに検討したいが、適否の判断をするために、身分を伏せた鑑定人を送り込みたい」と言います。
そして、インドのジャイプルにあるマリーゴールド・ホテルに一人の男が現れます。
さあ、このあと話はどのように展開することになるのでしょうか、………?
本作を見ると、やっぱり続編は続編だけのことでしかないという感じです。第1作と同じように、80歳を超える年齢ながら今もって第1線で頑張っているジュディ・デンチとかマギー・スミスといった女優らが同じように活躍するとはいえ、第1作のようなインドの素朴な雰囲気を大切にという気分がかなり後退して、もっと資金を得て近代的なホテルチェーンにしようという動きが前面に出てくるように思います。様々の男女の関係も、第1作目で描かれていたものが複雑化しただけのように思え、インド映画特有の歌と踊りはふんだんに盛り込まれるようになったとはいえ、第1作のままでオシマイにしたままでも良かったのではと思いました。
(2)前作と比べて本作の特色といえば、一つは、リチャード・ギアの登場でしょう(注7)。
彼は、ガイ・チェンバースという名前で突然マリーゴールド・ホテルに現れるのです。
ですが、フロントにいたソニーの母親(リレット・デュベイ)は、予約が入っていなかったので「満室です」と断ってしまいます。ところが、その様子を見たソニーは、ガイこそがバーリーが送ってきた鑑定人に違いないと決めつけて、逆に「失礼しました、当ホテルで最上のお部屋にご案内します」と言って、手のひら返しのもてなしをすることになります。
ガイは、ソニーに乗せられて豪遊を決め込むことはしないものの、ソニーの母親に盛んにアプローチをかけたりして、本作を盛り上げます。
もう一つの特色としたら、途中でも何回か描かれますが、最後の結婚披露宴で大盛り上がりを見せるボリウッドダンスでしょう。なにしろ、新郎新婦のソニーとスナイナ(テーナ・デザイー)が中心になって皆が総出で踊りまくるのですから!
さらに特色を挙げるとしたら、マリーゴールド・ホテルのあるジャイプルの観光地がいくつか紹介されていることでしょう。
例えば、王室墓園(ガイトール)では、説明を覚えきれないダグラス(ビル・ナイ)が、子どもの読む説明文を無線で聞きながら、観光客に説明をしています。
どの観光地もとても興味深い感じがして、ちょっと見ただけでも行きたくなってしまいます(注8)。
とはいえ、本作からは、前作で明らかになっていることをなぞり直しているに過ぎないのではという印象を受けてしまいます。
例えば、ソニーとスイナーの結婚式は本作の見どころになっているところ、前作の最後の方で、ソニーは母親を説得して婚約にまで至っているのです。本作では、ソニーとスイナーとの間に多少に行き違いが生じるとはいえ、既定路線に乗って事態が進行するに過ぎません。
また、ダグラス(ビル・ナイ)の妻・ジーン(ペネロープ・ウィルトン)が突然インドに現れて夫に離婚を申し入れます。ただ、前作ですでにジーンは、ダグラスをインドに一人置いてイギリスに帰国してしまっているのです。本作でジーンは、別の男に求婚されたからと夫に理由を述べるとはいえ、前作でダグラスとは別居状態になっていて、そうした方向性は見えていました(注9)。
さらに言えば、本作ではイヴリン(ジュディ・デンチ)が生地の買い付けの仕事に本格的に就く事になります。ですが、前作でも彼女は、電話セールスの仕事に就いてその力量を発揮しています。
またミュリエルは、本作の冒頭でマリーゴールド・ホテルの共同支配人として活躍するところ、共同支配人になる話は前作で描かれています(注10)。
マア、本作では、前作で方向性しか描かれていなかった人々の関係性の行き着く先が描かれていて、宙ぶらりん状態を好まない人にとっては落ち着くのかもしれません。でも、物語に終りがあるのは映画の上のこと、実際には本作の後にもそれぞれの人生が続くのであって、それがこの先どのようになるのかは思いもよらないところです。だったら、前作のような終わり方もまた良しと言うべきではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「明るくて、前向きで、開放的。これが70歳をゆうに超える俳優たちが醸し出す空気なのだから、恐れ入る。人生の先輩たちの「今こそ、最高の時」のメッセージに励まされた」として70点をつけています。
秋山登氏は、「終幕の結婚パーティーが圧巻だ。歌も踊りも賑々(にぎにぎ)しく、歓喜と祝意が噴きこぼれる。内向きの閉塞した作品が目立つ昨今、この映画の風通しの良さは貴重で、見ていて気が清々する」と述べています。
(注1)この拙エントリの「注2」で触れたように、第1作は「映画館で見ていますが、クマネズミの怠慢により、エントリをアップするに至」りませんでした。
(注2)監督は、前作と同様に、ジョン・マッデン。
脚本は、前作と同様に、オル・パーカー。
原題は「The Second Best Exotic Marigold Hotel」。
なお、出演者の内、最近では(前作を除きます)、ジュディ・デンチは『あなたを抱きしめる日まで』、マギー・スミスは『カルテット! 人生のオペラハウス』、リチャード・ギアは『クロッシング』、デヴ・パテルは『スラムドッグ&ミリオネア』で、それぞれ見ました。また、ペネロープ・ウィルトンは、マギー・スミスと同様、TVドラマ『ダウントン・アビー』で見ています。
(注3)宿泊人というよりも、今やマリーゴールド・ホテルの共同支配人。
(注4)ミュリエルは、「こんなぬるいお湯に漬けて葉っぱの色が変わるのを待っていたら時間がかかる。私の歳になると、そんな時間は遺されていない」と言うのです。
(注5)夜中に誰か死亡していないか確認するために毎朝点呼をとっていることなどをソニーは説明します。
(注6)マリーゴールド・ホテルは現在改装中で、その第2段階が進行中ながら、近くの「シュプリーム・クオリティ・ホテル」が売り出し中なので、そこを取得して規模の拡大を図ろうというのがソニーの計画です。ただ、そのための資金繰りがつかないので、バーリーの会社から融資を受けたいというわけです。
(注7)なにしろ、彼がレストランに現れるやいなや、ホテルに宿泊する婦人方が「子宮がうずく」などと言ってしまうのですから〔マッジ(セリア・イムリー)が「lord have mercy on my ovaries」と言います!
(注8)他の観光地としては、ハワ・マハル(風の宮殿)とかジャイガー・フォート(例えば、このサイト)が紹介されています。
(注9)ダグラスとジーンの夫婦は、乏しくなった退職金を有効に使うべくインドにやってきたものの、二人の間には隙間風が吹き、イヴリンを巡ってついに大喧嘩をしてしまいます。それで、ひょんなことから一人で帰国することになったジーンは、夫とイヴリンとの関係を暗に認めるように、「これからは幸せになってね」と夫に言い残します。
(注10)もっと言えば、本作のマッジやノーマン(ロナルド・ピックアップ)が盛んに男や女を求めるのは、前作でも描かれている姿です。
それに、本作のラストで、様々のカップルがオートバイに乗って道路を進んでいく姿が描かれますが、これは前作のラストでイヴリンとダグラスがオートバイにまたがっている映像を彷彿とさせます。
★★★☆☆☆
象のロケット:マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章