『悪夢ちゃん The 夢ovie』を渋谷HUMAXシネマで見ました。
(1)かなり低い評価を見かけるものの、以前TVドラマ(2012年)を見たこともあり、ご贔屓の北川景子の主演作というので映画館に行ってきました。
本作の冒頭では、「悪夢ちゃん」こと古藤結衣子(木村真那月)が、自分の書いた作文「これまでのこと」を読み上げながら、TVドラマの『悪夢ちゃん』の主だった要素を説明していきます(注1)。
それらを枠組みにして、本作の物語が始まります。
まず、クラスで、担任の彩未先生(北川景子)が「悪夢をいい夢に変えようとしたことを後悔しています。悪夢を見てしまう生徒の心が悪いから悪夢になってしまうのです。その心の方を変えなくてはいけません」などと話しています。
すると、外が暗くなって少年夢王子(マリウス葉)が怪鳥ハルピュイアに乗ってクラスの中に飛び込んできて、生徒を次々と消してしまいます。
そして、彩未先生の首を切ってしまうと、少年夢王子は、結衣子に「これからは僕が君の夢を受け止めるよ」と言います。
これに対して、「それなら、私とチューして」と言って唇を少年夢王子に向けたところで、結衣子は夢から目覚めます。
次いで、結衣子が学校に行くと、クラスに転校生・渋井完司(マリウス葉)が現れますが、なんと悪夢に登場した少年夢王子とソックリなので、彼女は酷く驚いてしまいます。
さあ、この転校生は、クラスにどんな騒動をもたらすでしょうか、彩未先生や悪夢ちゃんたちは、うまく事件を解決できるでしょうか………?
なるほど映画館の入り具合は報じられているとおりながらも(注2)、元々何でもありの夢の世界が描かれているのですから、あまり細かいことは言わずに奇想天外なファンタジーと受け止めて、出演者が楽しそうに演じていることでもあり、総じて面白い作品に仕上がっているのではと思いました。
特に、エンディングでは、中島みゆき作詞・作曲の「泣いてもいいんだよ」がモモクロによって歌われるので(注3)、随分楽しめました(注4)。
(2)映画評論家の渡まち子氏は、下記(3)で触れるブログ記事において、「そもそも全員が同じ夢を見るという最高レベルの思想統制の設定に激しく違和感を覚える」と述べています。
しかしながら、「夢」が「思想」かという問題はさておくとしても、この場合、クラス全員の無意識がつながって同じ夢を見たというだけのことであり、独裁者などに意識的に強制されて同じ夢を見たわけではないのですから、「思想統制」(特に、“最高レベルの”という修飾が付いた)とまでいえるのか甚だ疑問に思われます。
元々、本作で皆が同じ夢を見るというのは、あるいはユングの考え方によっているのかもしれません(注5)。
ユングは、後天的な個人無意識よりも更に奥深い領域に、先天的で人類に共通する普遍的無意識(集合無意識)を仮定します(注6)。
そして、ユングによれば、普遍的無意識の基本的内容は「元型」といわれるものですが、ただ、元型そのものを人は知覚することが出来ず、元型が心に作用して作られるイメージを通して知ることが出来ます。すなわち、精神病の幻覚妄想とか夢、神話・伝説・物語などといった非日常的な表象体験によって、元型に接近することが出来るようです。
としたら、ある同じ元型が人の心に同じように作用する場合には、複数の人が同じ夢を見ることにもなるでしょう。
本作のように、クラスの全員が同じ夢を見るというのも、あながちいい加減な作り話だとはいえないのかもしれません。
とはいえ、いくら普遍的無意識によって共通する夢を見るといっても、本作のように極めて具体的な内容の夢を皆が見るというわけのものではないことも明らかでしょう。
それも、本作の場合、過去のことにかかわるものではなく未来についての「予知夢」というのですから(注7)!
(3)渡まち子氏は、「本作の最大の売りは、ももいろクローバーとのコラボに他ならない。ももクロに北川景子が加わった“きもクロ”の、贅沢なプロモーションなのだ」として20点しかつけていません。
(注1)すなわち(以下では、映画の展開に従って明らかになることも含めます)、
・結衣子の祖父・古藤万之介(小日向文世)は、夢を映像にして見ることのできる機械「獏」を発明しました〔「夢札」(デジタル化された夢)を「獏」にセットすると、ディスプレイにその内容が映し出されます〕。
・結衣子は、他人の無意識とつながることによって、その人の不吉な未来を悪夢(「予知夢」)として見ることができる能力を持っています。
・クラス担任の彩未先生は、少女時代は「悪夢ちゃん」でしたが、今では、「夢判断」(陽子の予知夢を解読)をして結衣子の悪夢から人々を救ってくれます。
・琴葉先生(優香)は養護教諭で、始めの頃は彩未先生をいろいろ疑ったりしていましたが、本作では彼女の良き協力者になっています。
・志岐(GACKT)は古藤万之介の助手だった男で、TVドラマの中では、海に身を投げたにもかかわらず最後の最後に復活します。また、志岐と瓜二つの夢王子が、彩未先生の夢の中に出現します。
・その他、彩未先生と結衣子の夢の中には「夢獣(ユメノケ)」が現われて、2人を案内してくれます。
(注2)例えば、この記事とかこのサイト。
(注3)この歌のミュージック・ビデオはこちら、この歌についての中島みゆきのお喋りはこちら、モモクロのお喋りはこちら(「「蝕む」ってどういう意味?」「中島みゆきは架空の存在!」)。
(注4)最近では、北川景子は『抱きしめたい』で、優香は『黒執事』、小日向文世は『清須会議』でそれぞれ見ています。
また、渋井完司の父親(実は養父であり、また幼い彩未先生と同じ施設にいたとのことですが、……)の役で佐藤隆太が出演していますが、『天地明察』で見ています。
(注5)以下は、このサイトの記事とかWikipediaの関連記事によっています。
(注6)このサイトの記事が言うように、「この人類に共通するという集合無意識の存在を科学的に検証したり証明する方法は存在しない。その意味で、無意識や集合無意識の概念は、飽くまでフロイトやユングが創始した主観的な説明概念であり、効果的な心理療法に用いる仮説的概念として認識すべきもの」でしょう。
(注7)結衣子は、上記「注1」で申し上げたように、他人の無意識とつながることによって、その人の不吉な未来を悪夢(「予知夢」)として見ることができる能力を持っているとされます。
さらに、その「予知夢」については、例えばこのサイトの記事にあるように、実際の事例があるように言われたり、またこのサイトの記事にあるように、ユングの心理学が持ち出されたりすることもあるようです(尤も、そのサイトの記事では、ユングの心理学と予知夢との関係ははっきりしませんが)。
でも、元々夢は様々に解釈されますし、例えば本作にあるように、出来事のどこからどこまでが夢でいわれたことに該当するのかはっきりしないのですから(いったい井上葵の未来は、予知夢のようになったのでしょうか、ならなかったのでしょうか)、まあすべてはファンタジーと受け取るべきなのでしょう。
★★★☆☆☆
象のロケット・悪夢ちゃん
(1)かなり低い評価を見かけるものの、以前TVドラマ(2012年)を見たこともあり、ご贔屓の北川景子の主演作というので映画館に行ってきました。
本作の冒頭では、「悪夢ちゃん」こと古藤結衣子(木村真那月)が、自分の書いた作文「これまでのこと」を読み上げながら、TVドラマの『悪夢ちゃん』の主だった要素を説明していきます(注1)。
それらを枠組みにして、本作の物語が始まります。
まず、クラスで、担任の彩未先生(北川景子)が「悪夢をいい夢に変えようとしたことを後悔しています。悪夢を見てしまう生徒の心が悪いから悪夢になってしまうのです。その心の方を変えなくてはいけません」などと話しています。
すると、外が暗くなって少年夢王子(マリウス葉)が怪鳥ハルピュイアに乗ってクラスの中に飛び込んできて、生徒を次々と消してしまいます。
そして、彩未先生の首を切ってしまうと、少年夢王子は、結衣子に「これからは僕が君の夢を受け止めるよ」と言います。
これに対して、「それなら、私とチューして」と言って唇を少年夢王子に向けたところで、結衣子は夢から目覚めます。
次いで、結衣子が学校に行くと、クラスに転校生・渋井完司(マリウス葉)が現れますが、なんと悪夢に登場した少年夢王子とソックリなので、彼女は酷く驚いてしまいます。
さあ、この転校生は、クラスにどんな騒動をもたらすでしょうか、彩未先生や悪夢ちゃんたちは、うまく事件を解決できるでしょうか………?
なるほど映画館の入り具合は報じられているとおりながらも(注2)、元々何でもありの夢の世界が描かれているのですから、あまり細かいことは言わずに奇想天外なファンタジーと受け止めて、出演者が楽しそうに演じていることでもあり、総じて面白い作品に仕上がっているのではと思いました。
特に、エンディングでは、中島みゆき作詞・作曲の「泣いてもいいんだよ」がモモクロによって歌われるので(注3)、随分楽しめました(注4)。
(2)映画評論家の渡まち子氏は、下記(3)で触れるブログ記事において、「そもそも全員が同じ夢を見るという最高レベルの思想統制の設定に激しく違和感を覚える」と述べています。
しかしながら、「夢」が「思想」かという問題はさておくとしても、この場合、クラス全員の無意識がつながって同じ夢を見たというだけのことであり、独裁者などに意識的に強制されて同じ夢を見たわけではないのですから、「思想統制」(特に、“最高レベルの”という修飾が付いた)とまでいえるのか甚だ疑問に思われます。
元々、本作で皆が同じ夢を見るというのは、あるいはユングの考え方によっているのかもしれません(注5)。
ユングは、後天的な個人無意識よりも更に奥深い領域に、先天的で人類に共通する普遍的無意識(集合無意識)を仮定します(注6)。
そして、ユングによれば、普遍的無意識の基本的内容は「元型」といわれるものですが、ただ、元型そのものを人は知覚することが出来ず、元型が心に作用して作られるイメージを通して知ることが出来ます。すなわち、精神病の幻覚妄想とか夢、神話・伝説・物語などといった非日常的な表象体験によって、元型に接近することが出来るようです。
としたら、ある同じ元型が人の心に同じように作用する場合には、複数の人が同じ夢を見ることにもなるでしょう。
本作のように、クラスの全員が同じ夢を見るというのも、あながちいい加減な作り話だとはいえないのかもしれません。
とはいえ、いくら普遍的無意識によって共通する夢を見るといっても、本作のように極めて具体的な内容の夢を皆が見るというわけのものではないことも明らかでしょう。
それも、本作の場合、過去のことにかかわるものではなく未来についての「予知夢」というのですから(注7)!
(3)渡まち子氏は、「本作の最大の売りは、ももいろクローバーとのコラボに他ならない。ももクロに北川景子が加わった“きもクロ”の、贅沢なプロモーションなのだ」として20点しかつけていません。
(注1)すなわち(以下では、映画の展開に従って明らかになることも含めます)、
・結衣子の祖父・古藤万之介(小日向文世)は、夢を映像にして見ることのできる機械「獏」を発明しました〔「夢札」(デジタル化された夢)を「獏」にセットすると、ディスプレイにその内容が映し出されます〕。
・結衣子は、他人の無意識とつながることによって、その人の不吉な未来を悪夢(「予知夢」)として見ることができる能力を持っています。
・クラス担任の彩未先生は、少女時代は「悪夢ちゃん」でしたが、今では、「夢判断」(陽子の予知夢を解読)をして結衣子の悪夢から人々を救ってくれます。
・琴葉先生(優香)は養護教諭で、始めの頃は彩未先生をいろいろ疑ったりしていましたが、本作では彼女の良き協力者になっています。
・志岐(GACKT)は古藤万之介の助手だった男で、TVドラマの中では、海に身を投げたにもかかわらず最後の最後に復活します。また、志岐と瓜二つの夢王子が、彩未先生の夢の中に出現します。
・その他、彩未先生と結衣子の夢の中には「夢獣(ユメノケ)」が現われて、2人を案内してくれます。
(注2)例えば、この記事とかこのサイト。
(注3)この歌のミュージック・ビデオはこちら、この歌についての中島みゆきのお喋りはこちら、モモクロのお喋りはこちら(「「蝕む」ってどういう意味?」「中島みゆきは架空の存在!」)。
(注4)最近では、北川景子は『抱きしめたい』で、優香は『黒執事』、小日向文世は『清須会議』でそれぞれ見ています。
また、渋井完司の父親(実は養父であり、また幼い彩未先生と同じ施設にいたとのことですが、……)の役で佐藤隆太が出演していますが、『天地明察』で見ています。
(注5)以下は、このサイトの記事とかWikipediaの関連記事によっています。
(注6)このサイトの記事が言うように、「この人類に共通するという集合無意識の存在を科学的に検証したり証明する方法は存在しない。その意味で、無意識や集合無意識の概念は、飽くまでフロイトやユングが創始した主観的な説明概念であり、効果的な心理療法に用いる仮説的概念として認識すべきもの」でしょう。
(注7)結衣子は、上記「注1」で申し上げたように、他人の無意識とつながることによって、その人の不吉な未来を悪夢(「予知夢」)として見ることができる能力を持っているとされます。
さらに、その「予知夢」については、例えばこのサイトの記事にあるように、実際の事例があるように言われたり、またこのサイトの記事にあるように、ユングの心理学が持ち出されたりすることもあるようです(尤も、そのサイトの記事では、ユングの心理学と予知夢との関係ははっきりしませんが)。
でも、元々夢は様々に解釈されますし、例えば本作にあるように、出来事のどこからどこまでが夢でいわれたことに該当するのかはっきりしないのですから(いったい井上葵の未来は、予知夢のようになったのでしょうか、ならなかったのでしょうか)、まあすべてはファンタジーと受け取るべきなのでしょう。
★★★☆☆☆
象のロケット・悪夢ちゃん
おっしゃるように、北川景子さんの演技は「決して下手とは思わない」ですし、「子役の人達もそれぞれ頑張ってい」ました。興行収入は2週連続で10位以内には入っているようで、なんとか盛り返してもらいたいと思います。
ですが、実際には、「不評の空気」が圧倒的で、映画館内に5人ほどしか見当たらないのを見ると、やっぱりという気になってしまいます。
単に美人というより、必要ないのにトゲが露出した美人みたいで存在が変なんですよね。
北川景子は、このところ『ルームメイト』とか『ジャッジ!』、『抱きしめたい』など注目すべき作品に次々と出演していて、まさにおっしゃるように「目を離せない役者」だと思います。