『人生はシネマティック!』を新宿武蔵野館で見ました。
(1)予告編を見て面白いと思い、映画館に行ってきました。
本作(注1)の冒頭では、「1940年 ロンドン」の字幕。
銃弾を製造しているところを写している映画が映画館で上映されています。
その映画の中では、製造に従事している女たちが口々に話しています。
「ジムが行方不明なの」
「朝までに100万発よ」
「今日はもう10時間働いています」
情報省映画局の局長・スウェイン(リチャード・エ・グラント)が映画館にいて、観客の反応を見ています。
次いで、本作では乗合バスが映し出され、「ブルームズベリーはここで降りてください」との声が。
主人公のカトリン・コール(ジェマ・アータートン)がバスを降ります。
周囲では、爆撃後の消火活動が行われています。
カトリンは、許可証を見せて建物の中に入っていきます。
そこは映画プロダクションのベイカー・プロの事務室。
スウェインが「朝まで100万発じゃあ、観客もブーイングだ」と言うと、脚本を書いているパーフィット(ポール・リッター)は「脚本の問題だ」と応じます。
特別顧問で脚本家のバックリー(サム・クラフリン)が、「もっと意見を出してください」「もっと戦意を高揚させる映画を作りますよ」と言います。
そこへ、カトリンが顔を出すと、バックリーは「ようこそ、ミス・コール」「ご主人は空軍?」などと言って出迎えます。
カトリンは、「夫は、空襲監視員のボランティアをしています。スペイン戦争で足を負傷し、徴兵されていません」と答えます。
バックリーが「この広告コピーは君が書いたの?」と尋ねると、コピーライターの秘書をしていたカトリンは「皆、徴兵されてしまっていて」と答えます。
カトリンが自分のアパートに戻ると、夫のエリス(ジャック・ヒューストン)に「採用されたわ。週給2ポンドで」と報告します。
エリスは「君は僕の専属モデルだ」と喜びます。
そのあとで、空襲監視員のエリスは「そろそろ監視塔に行かなくては」と言って出ていきます。
こんなところが本作の始めの方ですが、さあここから物語はどのように展開するのでしょうか、………?
本作は、第2次大戦下のロンドンが舞台。「ダンケルクの戦い」で活躍した姉妹を描く戦意高揚映画の制作を巡るお話で、主人公の女は、初仕事ながら他の二人の男と脚本作りに邁進します。主人公は、愛する夫がありながらも、次第に脚本家の一人に惹かれていって、云々という次第。戦時下のお話ですから、様々な事件が起き、また女性の社会進出にも焦点が当てられていて、なかなか面白く見ることができました。
(2)本作で描かれるようなカトリンを中心とする三角関係は、ラブストーリー物ではよく見かけるように思います。
最近で言えば、例えば、『南瓜とマヨネーズ』が挙げられるでしょう。
同作では、家でブラブラしているミュージシャンのセイイチ(太賀)をサポートしているツチダ(臼田あさ美)が、昔の恋人のハギオ(オダギリジョー)とヨリを戻してしまうという具合に物語が展開します。これに対して、本作では、足が悪く家にいる画家の夫エリスを支えて脚本家の仕事を得た妻のカトリンが、同僚のバックリーとの恋に陥るのです。

とはいえ、物語の時代背景はまるで異なっていて、『南瓜とマヨネーズ』は天下泰平の現代日本ですが、本作は、第二次大戦中のイギリスです(注2)。
それも、主人公のカトリンや同僚のバックリーとかパーフィットは、情報省映画局の方から、戦意高揚映画のための脚本を書いてくれと委託されるのです。
その際の題材として提案されるのがダンケルクの戦い。
ダンケルクの戦いと言われて思い出すのは、NHKの海外ドラマとして放映された『刑事フォイル』の第2話「臆病者」(第3回と第4回放送分:2015年9月に放映)に登場する漁師のデビッド・レーンを巡る話です。
彼は殺人事件の容疑者として警察に捕らえられていましたが、ダイナモ作戦が発動されると、デビッドの父親のイアンが、フォイル(マイケル・キッチン)に掛け合って、デビッドを釈放させ(注3)、2人は漁船を操ってダンケルクの海に向かうのです。デビッドは実際には無実でしたが、ダンケルクから救出した兵士15名を運んできた漁船には、銃弾に倒れた彼の遺体が乗せられていました(注4)。
本作において、カトリンらが脚本を書くことになったダンケルクを巡る物語も、同じダイナモ作戦に従って、双子の姉妹が父親の漁船でダンケルクに行って、兵士を救出するというもの(注5)。
その映画『ナンシー号の奇跡』の制作にあたっては、様々な部署からイロイロな横やりが入ってきて、その都度、カトリンらは脚本の手直しに追われます。
そればかりか、カトリンとバックリーは、ロケ地とかスタジオでの撮影に立ち会ったりもします。
その間、2人はいろいろ対立して仲違いをしますが、関係も次第に深まっていきます。
本作では、そこらあたりがなかなかうまく描かれているように思いました。
さらに言えば、本作では、むしろ、女性陣に焦点が当てられていて、女性が物語の全体を引っ張っていくような感じがします。
例えば、主人公のカトリンは、脚本家として次第に男の脚本家と対等になっていきますし、彼女の周りには、情報局の局員のフィル(レイチェル・スターリング)とか、俳優・ヒリアード(ビル・ナイ)のエージェントのソフィー(ヘレン・マックロリー)といった女性がいます。
それに、カトリンらが脚本を書いた映画『ナンシー号の奇跡』で中心的なのは、兵士を救出する漁船に乗った姉妹(ステファニー・ハイアンとクラウディア・ジェシー)です(注6)。
他方で、本作に登場する男性陣は、どうも冴えない感じがします。
例えば、カトリンの恋人になるバックリーは、当初、カトリンを見出したものの、最初のうちは、女性だからということでそんなに期待はしていませんし(注7)、性格もやや歪んでいてカトリンに厳しく当たったりします。
また、カトリンの夫は、カトリンが映画制作にのめり込んでいるのを見て、別の女と浮気をしてしまいます。
さらに、『ナンシー号の奇跡』に出演する老優のヒリアードも、過去の栄光をなかなか忘れることができません(注8)。

こうした特色を持った本作ですが、はたして、カトリンとバックリーの愛は上手く成就するのでしょうか、………?
(3)渡まち子氏は、「虚構である映画をなぜ人々は愛し、求めるのか。その答えは本作の中にある。映画を愛し、人生を愛することを教えてくれるこの作品が、たまらなく好きになった」として75点を付けています。
渡辺祥子氏は、「戦争で増した女性の社会進出、映画に加わる女性の視点が興味深いが、メロドラマ的な魅力も十分」として★4つ(「見逃せない」)を付けています。
毎日新聞の高橋諭治氏は、「あくまで人間臭く、最後にはほろりとさせられる“映画賛歌”である」と述べています。
(注1)監督は、『ワン・デイ―23年のラブストーリー』のロネ・シェルフィグ。
脚本はギャビー・チャッペ。
原題は「Their Finest」。
なお、出演者の内、最近では、ジェマ・アータートンは『アリス・クリードの失踪』、サム・クラフリンは『あと1センチの恋』、ビル・ナイは『マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』、ジャック・ヒューストンは『リスボンに誘われて』、エディ・マーサンは『戦火の馬』、ジェレミー・アイアンズは『アサシン クリード』で、それぞれ見ました。
(注2)ドイツ軍の空襲によって、老優ヒリアードのエージェントだったサミー(エディ・マーサン)が死亡しますが、ヒリアードも顔を背けたくなるような損傷を負った遺体でした。
なお、エージェントの仕事を引き継ぐソフィーは、サミーの姉という設定です。
(注3)父親のイアンは、船は息子のデビッドがいないと操縦できないとフォイルに主張しました。
(注4)父親のイアンは、釈放された息子のデビッドを必ず連れて帰るとフォイルに約束していたのです。
(注5)ただし本作では、当初、この話は実話とされたものの、実際には、船のエンジンが故障して途中まで行ったに過ぎず、それでも、その時遭遇した船に溢れていた兵士を乗り移させて帰還した、とされています(実際の話は、取材に行ったカトリンに姉妹が話します)。
(注6)TVドラマ『刑事フォイル』でも、フォイルの乗る自動車の運転手・サム(ハニーサックル・ウィークス)が色々と活躍します。
(注7)バックリーは、カトリンについて、せいぜい女性の台詞を担当する人くらいにしか見ていませんでした。
(注8)さらに言えば、アメリカの戦争参加を促そうとする陸軍長官(ジェレミー・アイアンズ)の指示により、急遽出演が決まったアメリカ人俳優のランドベックは、イケメンながらも、空軍大尉で演技はからきし下手くそです。
★★★☆☆☆
象のロケット:人生はシネマティック!
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(1)予告編を見て面白いと思い、映画館に行ってきました。
本作(注1)の冒頭では、「1940年 ロンドン」の字幕。
銃弾を製造しているところを写している映画が映画館で上映されています。
その映画の中では、製造に従事している女たちが口々に話しています。
「ジムが行方不明なの」
「朝までに100万発よ」
「今日はもう10時間働いています」
情報省映画局の局長・スウェイン(リチャード・エ・グラント)が映画館にいて、観客の反応を見ています。
次いで、本作では乗合バスが映し出され、「ブルームズベリーはここで降りてください」との声が。
主人公のカトリン・コール(ジェマ・アータートン)がバスを降ります。
周囲では、爆撃後の消火活動が行われています。
カトリンは、許可証を見せて建物の中に入っていきます。
そこは映画プロダクションのベイカー・プロの事務室。
スウェインが「朝まで100万発じゃあ、観客もブーイングだ」と言うと、脚本を書いているパーフィット(ポール・リッター)は「脚本の問題だ」と応じます。
特別顧問で脚本家のバックリー(サム・クラフリン)が、「もっと意見を出してください」「もっと戦意を高揚させる映画を作りますよ」と言います。
そこへ、カトリンが顔を出すと、バックリーは「ようこそ、ミス・コール」「ご主人は空軍?」などと言って出迎えます。
カトリンは、「夫は、空襲監視員のボランティアをしています。スペイン戦争で足を負傷し、徴兵されていません」と答えます。
バックリーが「この広告コピーは君が書いたの?」と尋ねると、コピーライターの秘書をしていたカトリンは「皆、徴兵されてしまっていて」と答えます。
カトリンが自分のアパートに戻ると、夫のエリス(ジャック・ヒューストン)に「採用されたわ。週給2ポンドで」と報告します。
エリスは「君は僕の専属モデルだ」と喜びます。
そのあとで、空襲監視員のエリスは「そろそろ監視塔に行かなくては」と言って出ていきます。
こんなところが本作の始めの方ですが、さあここから物語はどのように展開するのでしょうか、………?
本作は、第2次大戦下のロンドンが舞台。「ダンケルクの戦い」で活躍した姉妹を描く戦意高揚映画の制作を巡るお話で、主人公の女は、初仕事ながら他の二人の男と脚本作りに邁進します。主人公は、愛する夫がありながらも、次第に脚本家の一人に惹かれていって、云々という次第。戦時下のお話ですから、様々な事件が起き、また女性の社会進出にも焦点が当てられていて、なかなか面白く見ることができました。
(2)本作で描かれるようなカトリンを中心とする三角関係は、ラブストーリー物ではよく見かけるように思います。
最近で言えば、例えば、『南瓜とマヨネーズ』が挙げられるでしょう。
同作では、家でブラブラしているミュージシャンのセイイチ(太賀)をサポートしているツチダ(臼田あさ美)が、昔の恋人のハギオ(オダギリジョー)とヨリを戻してしまうという具合に物語が展開します。これに対して、本作では、足が悪く家にいる画家の夫エリスを支えて脚本家の仕事を得た妻のカトリンが、同僚のバックリーとの恋に陥るのです。

とはいえ、物語の時代背景はまるで異なっていて、『南瓜とマヨネーズ』は天下泰平の現代日本ですが、本作は、第二次大戦中のイギリスです(注2)。
それも、主人公のカトリンや同僚のバックリーとかパーフィットは、情報省映画局の方から、戦意高揚映画のための脚本を書いてくれと委託されるのです。
その際の題材として提案されるのがダンケルクの戦い。
ダンケルクの戦いと言われて思い出すのは、NHKの海外ドラマとして放映された『刑事フォイル』の第2話「臆病者」(第3回と第4回放送分:2015年9月に放映)に登場する漁師のデビッド・レーンを巡る話です。
彼は殺人事件の容疑者として警察に捕らえられていましたが、ダイナモ作戦が発動されると、デビッドの父親のイアンが、フォイル(マイケル・キッチン)に掛け合って、デビッドを釈放させ(注3)、2人は漁船を操ってダンケルクの海に向かうのです。デビッドは実際には無実でしたが、ダンケルクから救出した兵士15名を運んできた漁船には、銃弾に倒れた彼の遺体が乗せられていました(注4)。
本作において、カトリンらが脚本を書くことになったダンケルクを巡る物語も、同じダイナモ作戦に従って、双子の姉妹が父親の漁船でダンケルクに行って、兵士を救出するというもの(注5)。
その映画『ナンシー号の奇跡』の制作にあたっては、様々な部署からイロイロな横やりが入ってきて、その都度、カトリンらは脚本の手直しに追われます。
そればかりか、カトリンとバックリーは、ロケ地とかスタジオでの撮影に立ち会ったりもします。
その間、2人はいろいろ対立して仲違いをしますが、関係も次第に深まっていきます。
本作では、そこらあたりがなかなかうまく描かれているように思いました。
さらに言えば、本作では、むしろ、女性陣に焦点が当てられていて、女性が物語の全体を引っ張っていくような感じがします。
例えば、主人公のカトリンは、脚本家として次第に男の脚本家と対等になっていきますし、彼女の周りには、情報局の局員のフィル(レイチェル・スターリング)とか、俳優・ヒリアード(ビル・ナイ)のエージェントのソフィー(ヘレン・マックロリー)といった女性がいます。
それに、カトリンらが脚本を書いた映画『ナンシー号の奇跡』で中心的なのは、兵士を救出する漁船に乗った姉妹(ステファニー・ハイアンとクラウディア・ジェシー)です(注6)。
他方で、本作に登場する男性陣は、どうも冴えない感じがします。
例えば、カトリンの恋人になるバックリーは、当初、カトリンを見出したものの、最初のうちは、女性だからということでそんなに期待はしていませんし(注7)、性格もやや歪んでいてカトリンに厳しく当たったりします。
また、カトリンの夫は、カトリンが映画制作にのめり込んでいるのを見て、別の女と浮気をしてしまいます。
さらに、『ナンシー号の奇跡』に出演する老優のヒリアードも、過去の栄光をなかなか忘れることができません(注8)。

こうした特色を持った本作ですが、はたして、カトリンとバックリーの愛は上手く成就するのでしょうか、………?
(3)渡まち子氏は、「虚構である映画をなぜ人々は愛し、求めるのか。その答えは本作の中にある。映画を愛し、人生を愛することを教えてくれるこの作品が、たまらなく好きになった」として75点を付けています。
渡辺祥子氏は、「戦争で増した女性の社会進出、映画に加わる女性の視点が興味深いが、メロドラマ的な魅力も十分」として★4つ(「見逃せない」)を付けています。
毎日新聞の高橋諭治氏は、「あくまで人間臭く、最後にはほろりとさせられる“映画賛歌”である」と述べています。
(注1)監督は、『ワン・デイ―23年のラブストーリー』のロネ・シェルフィグ。
脚本はギャビー・チャッペ。
原題は「Their Finest」。
なお、出演者の内、最近では、ジェマ・アータートンは『アリス・クリードの失踪』、サム・クラフリンは『あと1センチの恋』、ビル・ナイは『マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』、ジャック・ヒューストンは『リスボンに誘われて』、エディ・マーサンは『戦火の馬』、ジェレミー・アイアンズは『アサシン クリード』で、それぞれ見ました。
(注2)ドイツ軍の空襲によって、老優ヒリアードのエージェントだったサミー(エディ・マーサン)が死亡しますが、ヒリアードも顔を背けたくなるような損傷を負った遺体でした。
なお、エージェントの仕事を引き継ぐソフィーは、サミーの姉という設定です。
(注3)父親のイアンは、船は息子のデビッドがいないと操縦できないとフォイルに主張しました。
(注4)父親のイアンは、釈放された息子のデビッドを必ず連れて帰るとフォイルに約束していたのです。
(注5)ただし本作では、当初、この話は実話とされたものの、実際には、船のエンジンが故障して途中まで行ったに過ぎず、それでも、その時遭遇した船に溢れていた兵士を乗り移させて帰還した、とされています(実際の話は、取材に行ったカトリンに姉妹が話します)。
(注6)TVドラマ『刑事フォイル』でも、フォイルの乗る自動車の運転手・サム(ハニーサックル・ウィークス)が色々と活躍します。
(注7)バックリーは、カトリンについて、せいぜい女性の台詞を担当する人くらいにしか見ていませんでした。
(注8)さらに言えば、アメリカの戦争参加を促そうとする陸軍長官(ジェレミー・アイアンズ)の指示により、急遽出演が決まったアメリカ人俳優のランドベックは、イケメンながらも、空軍大尉で演技はからきし下手くそです。
★★★☆☆☆
象のロケット:人生はシネマティック!
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