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斉木楠雄のΨ難

2017年11月25日 | 邦画(17年)
 『斉木楠雄のΨ難』を渋谷Humaxで見ました。

(1)コメディ映画ということで映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、女が犬を連れて散歩をしています。
 そこに男が現れて、「このワンちゃん、可愛いですね」と言います。それに対し、女が「嬉しいわね、ポチ美ちゃん」と応じると、男は「僕も、犬、大好き」「触ってもいいですか?」と言いながら、犬に触ります。
 ですが、同じように道を歩いている主人公の斉木楠雄山崎賢人)には、男が心の中で「本当は犬なんか嫌いだ」と言っているのがよくわかります。
 すると、犬が走り出してしまいます。
 その時、別の方向から車が走ってきて、その犬を轢きそうになります。
 ですが、それに気がついた楠雄は、持っている超能力の一つのサイコキネシスを使って、その車を少し上に持ち上げて犬を飛び越えさせて、犬が轢かれないようにします。

 次いで、楠雄の声。「今から15年前、僕は平凡な夫婦の間に生まれた」。

 父親(田辺誠一)が「本当に可愛いいな。ママの次に」などと言っていると、生まれたばかりの赤ん坊の楠雄が「恥ずかしながら、大便の処理をお願いしたい」と言葉を発するのです。

 楠雄の声。「生後1ヶ月で立って歩いた」「空中も」。
 「1歳ともなると、切れたみりんをたくさん揃えた」。
 母親(内田有紀)が「やっぱり変よ」と言い、父親も「連れて行くしかないな」と応じます。
 そして、母親が「このみりんは、万引きしたのよ」と言うと、父親は「明日、スーパーに連れて行こう」と応じます。
 楠雄の声。「この2人は、ノーテンキな上に、バカップルだった」。

 そして、楠雄の声。「現在、僕は高校生。でも、超能力は健在」。「ギャンブルなんて、お金が手に入るゲームにすぎない」。
 「だが、この力のせいで、僕の人生はメチャクチャなのだ」。

 バス停にいる女の子が今何考えているのか、楠雄には分かってしまいます。
 「あの男の子、タイプ。でも、どうでもいい。ウンコ漏れそう。早くバスが来ないかな」。

 楠雄の声。「僕は、生まれたときから不幸な男なんだ」。
 「苦労して何かを成し遂げたときの達成感とか、サプライズパーティで驚くこととか、僕には何もできないのだ」「とにかく、平穏に生きるのが僕の望み」「基本的に、僕は自分を受け入れている」「この学校でも、僕は、普通の生徒として受け入れられている」。

 ここでタイトルが流れます。
 こんなところが、本作の始めの方ですが、さあ、これからどのように物語は展開するのでしょうか、………?

 本作は、人気漫画を実写化した作品。超能力を持つ高校生の斉木楠雄が、高校の文化祭で引き起こされる問題を一つずつ解決していくうちに、云々というコメディ。ですが、クマネズミには、最初から最後までほとんど笑える要素が見つかりませんでした。おまけに、クマネズミが好まない学園物ときていますから、見なければよかったと思います。でも、酷く面白かったとする感想がネットでいくつも見受けられますから、こういう作品を面白がる感性がクマネズミには欠如しているということでしょう!

(2)本作はコメディとされてはいるものの、『ロスト・イン・パリ』を見たときと同様に、ほとんど笑うことができませんでした。
 とはいえ、笑える要素がまったくないわけではありません。
 例えば、上記(1)に記しましたが、楠雄の幼い時の様子などは、父親と母親のバカ親ぶりと合わせて、まあまあ面白いなと思いました(注2)。

 ですが、バス停でバスを待っている女生徒の内心が分かっても、彼女がごく卑俗なことしか考えていないので、少しもおかしくありません。
 これは、学校一の美少女の照橋心美橋本環奈)の内心が、楠雄の超能力のテレパシーを通じてわかる時も同じです(注3)。



 それから、楠雄のクラスメートの3人組、すなわち、燃堂力新井浩文)、海藤瞬吉沢亮)、それに窪谷須亜蓮賀来賢人)は、いったい何なんでしょう(注4)?



 また、高校の文化祭(「PK祭」)の出し物でイリュージョンショーを演じる蝶野ムロツヨシ)も、他で見られるような勢いが感じられません。箱に入った蝶野に剣を何本も差し込むマジックを演じるのですが、問題が生じると予見した楠雄が、蝶野の代わりに箱の中に入って剣を避け、蝶野は安全なところに現れるというのですから、全くつまりません。

 『銀魂』でそれなりに面白かった佐藤二朗にしても、校長の神田という役柄でごく短い出番に過ぎませんし(注5)、クラスのまとめ役の灰呂笠原秀幸)も、尻を出して倒れるシーンが2回ほどありますが、別にドウということもありません。



 なお、文化祭で問題が起きれば来年から取りやめにすると先生から言われていて、それだけは困ると楠雄は(注6)、ラストになって、超能力によって、学校の周辺を1日元に戻すことにします。すると、学校内では、文化祭の日が朝からもう一度やり直されることになります。
 ですが、そんなことをしたら、同じ問題がまたまた起こるだけのことであり、楠雄はもう一度文化祭をやり直さざるを得なくなることでしょう。
 そして、それは無限に続けられることになり、結局は、楠雄が楽しみにしていることは実現できなくなってしまうことでしょう(注7)。

(3)渡まち子氏は、「誰からも干渉されない静かな生活を望むのに、気が付けば宇宙規模の大事件が発生し、地球を救うハメになる斉木楠雄。この無駄なスケール、まったくやれやれ…である。どこまでも笑いだけを追求する福田監督らしい快作コメディだ」として60点を付けています。



(注1)監督・脚本は、『銀魂』の福田雄一
 原作は、麻生周一著『斉木楠雄のΨ難』(ジャンプコミックス)。

 なお、出演者のうち、最近では、橋本環奈や吉沢亮ムロツヨシ佐藤二朗は『銀魂』、新井浩文は『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』、笠原秀幸は『天地明察』、賀来賢人は『森山中教習所』、田辺誠一は『紙の月』、内田有紀は『俺俺』で、それぞれ見ました。

(注2)原作漫画の第1巻に描かれているような、楠雄の父親と母親の口汚い夫婦喧嘩といったものが、本作でも描かれていたら最悪でした!

(注3)例えば、照橋は楠雄の気を引こうと近づくのですが、注目されたくない楠雄は彼女を避けます。すると、照橋は、「どうして、楠雄は、皆のように「おっふ」と言わないのかしら?」「きっと、驚きすぎて正気でないのね」と心の中で言ったりします。そして、「私、完璧な美少女だから、私のこと、夢か幻と思っているに違いない」「もう一度チャンスをあげよう」と心の中で言いながら、照橋は楠雄に近づくのですが、今度は瞬間移動を使って楠雄は消えてしまいます。すると、照橋は「私、幻を見ていたのかしら」と不思議がるのです。
 でも、こんな自己中の女の子の心の中を見せられても、殆ど面白さを感じないのですが。

(注4)38歳の新井浩文が、「ケツアゴ」を付けモヒカンヘアとなって、15歳の高校生役(それも、“ミステリアスバカ”なので、気配を楠雄はつかむことができないのです)を演じているのはものすごいことですが、だからといって面白いわけではないでしょう。
 また、海藤ですが、中二病患者で、「漆黒の翼」となって「ダークリユニオン」(この記事が参考となります)と戦っている自分を演じている、というのでは笑いようがありません。
 さらに、元ヤンの窪谷須も、いくら白目をむいても何それという感じです。

(注5)ミスコンテストを見ながら「実に欲情しますね」と言うだけに過ぎません。

(注6)文化祭の当日は、自分の出番がないために、楠雄は、テレポートを使って日帰り温泉旅行に行く計画を持っていたのです。

(注7)ただ、今回の文化祭のように、楠雄が、問題が起こらないようにと文化祭を隅々まで監視するのであれば(今後開催される文化祭についても、楠雄が同様に対処するのであれば)、元々、上記「注6」に記した日帰り旅行などに行く時間的な余裕はないことになるのではないでしょうか?



★★☆☆☆☆



象のロケット:斉木楠雄のΨ難



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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ふじき78)
2017-11-26 01:08:50
しかし、よく考えたら何故この映画が面白いのだろう。おそらく、皆がこの映画を忖度しているからに違いない。何か与党的な「圧」が。いやいやいやいや、

以前、「テッド2」という映画でアマンダ・セイフライドが自らの容姿がゴラムに似てる事を容認する展開があって「何とも度量が深い」と感動を覚えたのですが、今回もそれに近いです。
この「斉木~」はとても「くだらない」映画で、役者がこの映画に出る事で自身のキャリア・アップを目指すとかは全くない一本です。その中で橋本環奈の「自分が美少女である事を自覚しすぎている少女」という役は、一般的にはそんな役をやらない方が得に決まっているじゃないかという役です。でも、やった。思い切りよくやった。そこでメタ構造が発生した。橋本環奈演じながら橋本環奈像が壊れるの楽しんでいるな。そして、その楽しそうに虚像(もしくは実像)が破壊されるのを劇場で見させられている自分ってどうなのよ。新井浩文にしても同様。何を見てもメタ構造が貯まっていく。
何となく、ダラダラした福田雄一の演出を共犯関係で「まあ、しょうがないや福田だから」と見ている自分が悪い意味で面白いような気がします。だって、福田雄一なんて基本、面白くはないでしょ。それなのに、それに馴れてお金を払って。

うーん、説明しづらいな。まあ、この映画が「つまらない」でも私的には何も困る事がないから、極論どっちでもいいですという気もしてきたから、そんな感じで。
Unknown (クマネズミ)
2017-11-26 07:30:41
「ふじき78」さん、TB&長文のコメントをいただき有難うございます。
「メタ構造」についての議論は、なかなか興味深い視点だなと思いました。
ただ、クマネズミにとっては、橋本環奈は『銀魂』の神楽役でしか知らず、同作でもかなり弾けていましたから、彼女が今回の役を演じても、「橋本環奈像が壊れる」とはあまり思えませんでした。また、新井浩文は、これまで実にたくさんの役柄を演じていて(近いところでは、「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」で、顔面を松尾スズキにメッタ斬りにされています!)、「虚像(もしくは実像)が破壊」というよりも、今回もその幅広い守備範囲の一つなんだな、としか思えなかったところです。
また、「福田雄一なんて基本、面白くはない」という点に関しては、「まあ、しょうがないや福田だから」と言えるほどたくさん見ておりませんが、おっしゃるとおりかもしれません。『銀魂』や『HK/変態仮面』はまずまずながらも、『俺はまだ本気出してないだけ』はイマイチというところから、その出来栄えに波があるように思え、あるいは今回は底の状態だったのかもしれません。
Unknown (ふじき78)
2017-11-26 21:00:03
橋本環奈は「暗殺教室」のチョイ役、「セーラー服と機関銃」の主演、「ハルチカ」の割と突っ込んだ演技、で、普通の役者として頑張るのかと思ってたところ「銀魂」「斉木楠雄」と繋がったので壊してきたな、と感じた次第です。
福田雄一は企画を絵にする事と、細かいギャグをいろいろ詰めるのはなかなか上手だと思うけど、ドラマの全体を俯瞰して、真面目にしても不真面目にしても一本の映画としての見応えを作るのが下手なので、見ないでもないけれど、そんなに期待はしてないですね。
Unknown (クマネズミ)
2017-11-26 21:17:12
「ふじき78」さん、再度のコメントを有難うございます。
なるほど、それだけ橋本環奈をご覧になっているのであれば、「ふじき78」さんが「橋本環奈像が壊れる」という気持ちになるのもうなずけるところです。
また、福田雄一監督についても、その作品を見た数は少ないながらも、「企画を絵にする事と、細かいギャグをいろいろ詰めるのはなかなか上手」という点は、なんとなく納得できるところです。

なお、本日をもって、gooブログからのTB送信はできなくなってしまいます。
今後とも宜しくお願いいたします。
TBありがとうございました (KGR)
2017-11-26 23:35:31
今まで多くのTBをいただきありがとうございました。

コメント機能は残るようですが、TBがなくなるのはきついです。

正直、この映画はそれほど面白いとは思えませんでした。
美少女たる橋本環奈に変顔をさせる福田監督に、エル・ファニングに奇怪なメイクをさせるスピルバーグ監督と通じるものを感じました。
Unknown (クマネズミ)
2017-11-27 05:26:46
「KGR」さん、TB&コメントを有難うございます。
gooブログのTB機能は本日撤廃とのことですが、こちらこそ、多くのTBをいただき有難うございました。
コメント機能とTB機能とはまるで違う性質のもので、おっしゃるように、「TBがなくなるのはきつい」と思っております。
なお、「エル・ファニングに奇怪なメイクをさせるスピルバーグ監督」と述べておられますが、スピルバーグ監督作品に通じていないクマネズミには、どの作品について言及されておられるのかわからないので、ご教示ください。
エル・ファニング (KGR)
2017-11-27 15:58:15
大変失礼しました。
「スーパーエイト」のことでした。
子供たちがスーパー8(8mm)カメラで映画を撮るのですが、エル・ファニングがゾンビメイクをします。
なお同作は正確には監督はJJエイブラムスでスピルバーグは監督ではなく製作でしたので、訂正しておきます。
Unknown (クマネズミ)
2017-11-27 18:34:59
「KGR」さん、わざわざご教示いただき誠に有難うございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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