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バリー・シール

2017年11月09日 | 洋画(17年)
 『バリー・シール アメリカをはめた男』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)トム・クルーズの主演作ということで映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、ジミー・カーター大統領の演説(注2)のシーンが入って、「Based on true story」の字幕。

 次いで、時点は1978年。
 TWAの旅客機のコックピットの操縦席に、パイロットのバリー・シールトム・クルーズ)が座っています。
 退屈しきったバリーは、隣の操縦席にいるパイロットが寝込んでいるのを見て、自動操縦のスイッチをオフにしてしまいます。すると、旅客機は大きく揺れ出し、酸素マスクまで上から各座席に落ちてきます。バリーは、機内放送で白々しく「乱気流でした」とアナウンスします。

 バリーの自宅は、ルイジアナ州のバトンルージュにあり、帰宅すると、妻のルージーサラ・ライトト・オルセン)が出迎える暇もあらばこそ、すぐにベッドに入って寝てしまいます。

 ある時、バリーはホリディ・インにチェックインします。
 その後、ホテルのバーの椅子に座っていると、シェイファー(実は、CIA局員:ドーナル・グリーソン)が近づいてきて、「バリー?」と話しかけてきます。
 シェイファーは、なおも、「ここで木曜日に稼いでいるだろう?」「キューバ亡命者のためにキューバ産の葉巻を密輸入しているのでは?」「興味深い経歴だな」「TWAの最年少パイロットなんだろ」「中米では、革命の匂いがしないか?」「我々は、そこで国を作っている」「君の手を借りたい」と話します。
 流石にバリーも、「CIAだな」と小声で言って、驚きます。

 シェイファーは、バリーを飛行場の格納庫に連れていき、バリーのために用意した小型飛行機を見せます。
 バリーは、「高速の双発機だ!瞬時に時速500kmになる」「信じられない」とその飛行機に魅せられてしまいます。

 シェイファーは、「民主主義の敵が相手だ」「奥さんのルーシーにも、このことは秘密だ」と付け加えます。
 バリーが「合法なのか?」と尋ねると、シェイファーは「正義の味方という意味ではそうだ」と答え、「乗り心地を試してみないか」と誘います。
 そこで、バリーは、その小型飛行機を操縦してみます。



 家に戻ったバリーは、妻のルーシーに、「自分でビジネスをする」「IFC(注3)と言うんだ」と告げます。
 すると、ルーシーは「あなたは、TWAのパイロット」「それで家族を養っているの」「IFCなんてインチキ臭い」と文句を言います。
 それでも、バリーはTWAを辞めてしまいます。

 「CIA ‘78」との字幕が映し出されて、CIAに移籍したバリーの操縦する小型飛行機が低空を飛んで、中米のグアテマラ、ホンジェラス、エルサルバドルの革命軍の様子を写真撮影します。

 こんなところが本作の始めの方ですが、さあ、ここからどんな物語が展開するのでしょうか、………?

 本作は、CIAにスカウトされ、またコカインの密輸に手を出し、ホワイトハウスにも雇われた実在の男のバリー・シールを描いた作品。隠す場所がなくなるくらいの大量の札束を手にするまでの主人公の破天荒な物語は、いつものトム・クルーズの面目躍如と行ったところながら、他方で、本作では、中南米諸国とアメリカとの政治的な関わりについてもある程度ウエイトを置いて描かれていて、単なる娯楽映画に終わっていないところは、評価すべきかもしれません。

(2)バリーに扮するトム・クルーズは、これまでの作品と同じように、なかなか格好良く描き出されています。
 例えば、バリーは、革命軍の様子を低空飛行で撮影する際に、地上からの射撃によって片方のエンジンが破壊されてしまっても、なんとか帰還しますし、あまりにもたくさんのコカインを積み込んだために離陸が危ぶまれながらも、そして樹木に機体をこすりつけながらも、なんとかジャングル内の狭い空地から小型飛行機を飛び立たせることに成功し、目的を達成してしまうのです。
 それに、アーカンソー州の司法長官のもとに手錠姿で引き出されながらも、そこに集まってきた職員らに軽口を叩きながら、結局は解放されることになるのです(注4)。

 何と言っても凄いのは、危険な飛行を達成するたびに得る札束の多さです。
 コカインをコロンビアからアメリカに密輸することの報酬が2000ドル/キログラムですから、お金は貯まる一方です。

 ここで思い出すのがTVドラマの『Breaking Bad』(注5)。
 同作においては、高校の化学の教師ウォルター(注6)が、自分が肺がんであることを告知され、その治療費と家族の将来に当てるための資金とを捻出するために、高校時代の教え子ジェシーと覚醒剤の製造に乗り出すというお話ですが、製造したものが上手く捌けだすと(注7)、本作と同様に、札束がみるみるうちに貯まるようになります(注8)。

 また、本作においては、バリーをFBIとかDEA(アメリカ麻薬取締局)などが追い詰めますが、同作においても、ウォルターの義理の弟ハンクがDEAの捜査官であり、ウォルターの製造する高純度の覚醒剤をなんとか取り締まろうと躍起になっています。

 さらに言えば、主人公の家族の反応も、両作である程度類似するところがあるように思います(注9)。

 それはさておき、本作においては、トム・クルーズのいつもの笑顔や軽妙さなどがいろいろ窺えるとしても、最後がいつものようにならないところは、事実に引き寄せられて仕方がないとはいえ、やや拍子抜けしてしまうところです(注10)。

 なお、本作においては、当時の中南米の政治情勢の一部が描き出されていて、興味を惹かれます。
 例えば、バリーは、パナマに侵攻したアメリカ軍によって拘束されてアメリカで一時期服役したことがあるノリエガ将軍とCIAとの間を取り持ったり、ニカラグアのサンディニスタ政権と戦っているコントラに武器を運んだりします。

(3)渡まち子氏は、「ノリはあくまでも軽く、トム・クルーズはあくまでも俺様スター。社会派映画でありながら、コミカルな味付けの風刺をたっぷり込めた歴史秘話的エンタテインメントとして楽しめる」として65点を付けています。
 渡辺祥子氏は、「バリー・シールの破天荒な悪行をハリウッドの快男児トム・クルーズが軽妙に演じ、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』で彼と組んだダグ・リーマンが監督して生まれたウソのようなホントの話」として★3つ(「見応えあり」)を付けています。
 真魚八重子氏は、「トム・クルーズは近年、頭が切れ腕も立つ超人的な役柄が多く、浮世離れした印象が定着している。その彼が人間臭いバリー・シールを演じるところが面白い」と述べています。



(注1)監督はダグ・リーマン
 脚本はゲイリー・スピネッリ。
 原題は「American Made」〔なお、元々の原題は「Mena」(バリーの家族は、当局の追求を逃れるために、ルイジアナ州のバトンルージュからアーカンソー州のミーナに引っ越します。)でしたが、最終的に「American Made」(「アメリカ製」でしょうか)に変更されました〕。

 なお、出演者の内、最近では、トム・クルーズは、『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』で見ました。

(注2)1979年の「信頼の危機」と題する演説の一部(Wikipediaのこの記事に掲載)。
 「アメリカのデモクラシーに対する最大の脅威についてお話しましょう」「その脅威は目に見えません」「それは、信頼の危機です」「国民の大部分が、これからの5年間はこれまでの5年間に比べて事態は悪化すると信じています」云々。

(注3)Independent Flight Consultant。

(注4)州の司法長官のデイナジェイマ・メイズ)は、「アーカンソー州は、一生、刑務所から出られないようにする」とバリーに断言したにもかかわらず、知事から電話がかかってくると、バリーを無罪放免にしてしまいます。その間、部屋の外にいたバリーは、取り囲んだ職員らに対して、「皆さん一人一人にキャディラックをやろう」などと軽口を叩きます。



(注5)海外のTVドラマは殆ど見ていなかったのですが(例外は、『Downton Abbey』)、デープ・スペクター氏によるこの記事を読んで触発され、『Breaking Bad』のDVDをTSUTAYAから借りて見たところ、そのあまりの面白さについハマってしまい、全話を見ることになってしまいました。

(注6)主人公のウォルターを演じるのは、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたブライアン・クランストンですが、トム・クルーズとは対照的に酷く地味な感じの男優です。

(注7)ウォルターは、大層才能のある化学者で(研究仲間との行き違いで、興した会社を去って高校教師になっています)、純度の極めて高い覚醒剤・メタンフェタミンを自分の手で製造することができ、一度それが市場に出回ると、高い値段で捌くことが出来る、という設定になっています。

(注8)最後には、8千万ドルものお札が、レンタル倉庫に隠されていたり、7つのドラム缶に分けられて地中に埋められたりします。

(注9)本作においても『ブレイキング・バッド』においても、主人公の妻(本作ではルーシー、『ブレイキング・バッド』ではスカイラー)は、お金が潤沢になるのを見て怪しみ、「汚いお金なら嫌だ」と夫の行動をなかなか受け入れようとしませんが、大金によって事態が改善されてきて、さらに事情が説明されると、次第に状況を受け入れるようになります(特に、会社経理を長くやっていたスカイラーは、資金洗浄に力を発揮します)。



 また、近親者の一人〔本作ではルーシーの弟JBケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)、『ブレイキング・バッド』では主人公の義理の弟ハンク〕が、麻薬組織の手の者によって殺されます。

(注10)トム・クルーズの作品を熱心に見ているわけではありませんから、おいそれとは言えないのですが、死の瀬戸際まで追い詰められても決して死なない男の役を演じることが多いように思います。確かに、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のように何度も死んで何度も蘇るといった作品はあるにしても、本作のようにあっけなく殺されておしまいという作品は、トム・クルーズにしては珍しいのではないでしょうか?



★★★☆☆☆



象のロケット:バリー・シール アメリカをはめた男


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6 コメント

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Unknown (ふじき78)
2017-11-10 08:33:57
IFC=インデペンデント・フライド・チキン と考えると深いような気がする。奥さんKFCだったって言ってるし。下請け仕事しながら、本業が運び屋になってインデペンデントだし、フライは飛行にかかるけど、チキンは飛べない鳥だったりだし。
こんにちは (ここなつ)
2017-11-10 17:31:51
こんにちは。
トム・クルーズが実在の人物が行っていた悪徳を凌駕する程カッコ良かったです。
でも、いやいや、彼も不死身キャラではないですよ!「オール・ユー・二―ド~」はアレSFですもの!(笑)
Unknown (クマネズミ)
2017-11-10 18:37:28
「ふじき78」さん、TB&コメントを有難うございます。
おっしゃるように、「IFC=インデペンデント・フライド・チキン と考えると深いような気」がするところ、“フライド”の「フライ」はflyではなくfryからきているようですから、バリー家の人たちは日本語を理解する必要があるでしょう。
Unknown (クマネズミ)
2017-11-10 18:42:27
「ここなつ」さん、TB&コメントを有難うございます。
おっしゃるように、トム・クルーズは「不死身キャラではない」にしても、笑顔を見せて「ヨオッ」というラストになってくれると、こちらも笑顔で映画館を後にすることも出来るのですが。
Unknown (atts1964)
2017-11-12 09:52:29
天才的なパイロットであり、茶目っ気があったところが、彼の面白さであって利用されて行くんですね。
あの出来損ないの義弟がいなくてもどこかで破綻はしたんでしょう。
いつもTBありがとうございます。5738
Unknown (クマネズミ)
2017-11-12 17:42:12
「atts1964」さん、コメントを有難うございます。
おっしゃるように、「出来損ないの義弟がいなくてもどこかで破綻はした」と思われます。
バリーは、金儲けというよりも、自分の操縦技術でなにかスカッとするところがやりたかったのでしょうから、どこかで限界に達してしまうように思われます。

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