映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

あんてるさんの花

2012年06月26日 | 邦画(12年)
 『あんてるさんの花』を吉祥寺バウスシアターで見ました。

(1)これは「ムサシノ吉祥寺で映画を撮ろう!」というプロジェクトの第3弾で、御当地物だとしても、近くに住んでいるのだからその誼で見てみようと映画館に出かけてみました(上映館もバウスシアターだけです!)。
 確かに、映画の舞台はすべて吉祥寺で、井の頭公園や駅前のハモニカ横丁など、おなじみの風景はいくらでも映し出されます(注1)。
 でも、案に相違してまずまずの作品に仕上がっているなと思いました。

 物語の主人公は、吉祥寺ハモニカ横丁で小さな居酒屋を営む「あんてるさん」(安藤照夫の通称:小木茂光)。地元ラジオに出演した時に、リスナーからのメールで「アンデルセンの花」のことを知ります。
 そのメールによれば、南米ペルーの奥地に咲く花で、その花びらに触れた人は、その人しか見えない幻が見え、なおかつそれを真実と思ってしまうそうで、ただ幻が見えるのは花が咲いている3日くらいの間だけだから、現地の人は「マッチ売りの少女の花」とも言っているとのこと。
 あんてるさんは、ラジオ番組収録からの帰り道に、花屋で偶然「忘れろ草」(別名が「アンデルセンの花」)を見つけ、買って帰り居酒屋のカウンターに置いておきます。

 ただ、あんてるさんの店はどうも閑古鳥が鳴いているようで、妻・奈美恵田中美里)に、「もうそろそろ店を止めたい」と話しますが、妻は、「この花が本当にラジオで言っていた花なのか、みんなに試してもらったらいい。お客さんも来るし一石二鳥」と答え、その結果集まった3人の常連客が、その花びらに触って試すことになります。

 一人は離婚したばかり男(徳山秀典)、もう一人はライブハウスで歌う若い女性ミュージシャン・チサト柳めぐみ)、それにアルバイトで倉庫の警備員をしている青年(森廉)。
 彼らはそれぞれ悩みを持っています。妻(佐藤めぐみ)と離婚した男は、小学生の息子を抱えていますし、女性ミュージシャン・チサトは、売れるためには一からやり直さないとだめだとプロデュサーに言われています、警備員の青年も、飛び出てきた故郷の家のことが心配だったりします。
 はたして、それぞれどんな幻を見て、悩みをどんなふうに解決していくのでしょうか、………?

 吉祥寺を舞台とする作品としては、昨年見た『吉祥寺の朝比奈くん』の印象が強く残っていてついそれと比べたくなりますが、本作は、工夫を凝らしたファンタジーであり(注2)、なおかつオムニバス形式ということで違ったものとしてとらえた方がいいのではないか、その場合には、それなりの出来栄えといるのではないかと思いました(注3)。

 とはいえ、離婚したばかりの夫(徳山秀典)に関しては、なぜかその元妻(佐藤めぐみ)も「忘れろ草」を栽培していて、話がかなり込み入ってしまいます(注4)。



 また、チサト(柳めぐみ)のエピソードは、かなり使い古されたものではないでしょうか(注5)。



 それに、いくら故郷を飛び出してから10年以上経過しているとしても、はたして自分の姉を見間違えるだろうか(注6)、などさまざまの疑問がわいてしまいます。



 でも、これらの3つの話をさらに、あんてるさんとその妻との話で包み込んで(注7)、全体の構成をしっかりとしたものにしている点で、本作は評価できるでしょう(注8)。

 加えて、あんてるさん役の小木茂光は、長編映画初主演とのことながら、黙々と居酒屋を営む中年男性としてうってつけの感じでした。
 また、その妻・奈美恵を演じる田中美里は、登場すると画面がずっと華やかになり、これならもっと場面を増やしてもらったらよかったのにと思ったりしました(注9)。

 何はともあれ、吉祥寺を舞台とするこうした映画を見ることによって、観客自身も、「忘れろ草」に触れて、吉祥寺を幻としてとらえることになるのではないかと思いました。



(注1)たとえば、この記事とかこの記事が参考になるでしょう。

(注2)「忘れろ草」をめぐる話については、その花びらに催眠効果を誘発する物質が付いていて、それに触れると眠ってしまい、眠っている間に自分が見たいと無意識的に思っていた事柄を夢の中で見ることになる(あらかじめ「見たいと思ったことを見ることができる」と誘導的に言われていることもあって)のではと想像されるところです。

(注3)様々な工夫を凝らしている点からしても、御当地物の典型といえる『恋谷橋』とは比べものになりませんし、吉祥寺の光景を控えめに描いているという点で、御当地物とはいえないにせよハワイの観光スポットなどがふんだんに登場する『ファミリー・ツリー』よりも好ましいのではないか、と思いました。

(注4)離婚した妻が、子供のことが忘れられずに、幻として呼び出してしまうのはわかりますが、夫は、妻に対して「自分が修一(息子の名前)に何をしたのかわかっているのだろう」などと離婚原因について大層強いことを言っていながらも、妻を幻として呼び出してしまい(井の頭公園の池で一緒にボートに乗ったりするのです)、結局は元のさやに納まるようなのは、話として都合がよすぎる印象です。

(注5)チサトを巡る話は、ストリート・ミュージシャンからプロになったものの、自分を見失って行き詰ってしまい、再度一人で路上ライブを敢行するというものです(この話に、元のバンドのメンバーだった直美が幻として絡んできます)。
 でも、映画の中で柳めぐみが歌う「君が教えてくれたこと」(作詞 柳めぐみ、作曲 小西貴雄)はなかなかいい曲だなと思いました。

(注6)青年(森廉)は、警備している会社の門の前に突然現れた幼馴染が幻だと思ってしまいますが、実は、彼の部屋に入り込んで「部屋が汚い」など大騒ぎする姉が幻だったのです(彼がよく見るAVビデオに登場する女優とされています!)。

(注7)あんてるさんは、買ってきた「忘れろ草」を居酒屋のカウンターに置く際にすでに花びらに触れていて、登場する彼の妻自体が幻なのです!

(注8)さらには、倉庫番の青年と恋人が、自販機のところにいた子供を見咎めますが、離婚したばかりの夫(徳山秀典)の息子なのです。
 とはいえ、あんてるさんの居酒屋などで、時々遠くから様子をうかがう男性(螢雪次朗)が、実は自分の家で「忘れろ草」を栽培していたといったシーンが描かれるところ、別にそれでこの花にまつわる謎が説明されるわけのものでもありませんから、なくもがなという気がしました。

(注9)『カルテット』に出演したのを見ましたが、これも、浦安市を舞台とする御当地物でした!




★★★☆☆





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