『ローマでアモーレ』を渋谷のル・シネマで見ました。
(1)本作は、『恋のロンドン狂騒曲』でロンドン、『ミッドナイト・イン・パリ』でパリというように、このところヨーロッパの大都市を舞台にして映画を制作しているウディ・アレン監督が、今度はローマに場所を移して作り上げた作品。
ローマの目抜き通りで交通整理をしている巡査が、「僕は、ローマっ子、ここに立つといろいろなものが見える。この街ではすべてが物語となる」などと話すところから始まります。
先ずは、カンピドリオ広場に登場する弁護士のミケランジェロ。次いで、彼に「トレヴィの泉」の場所を尋ねるヘイリーが現れ、それがきっかけとなって、ついに二人は結婚することに。
そこで、ヘイリーの両親がアメリカからローマにやってくるところ、実は、その父親・ジェリーを演じているのが監督のウディ・アレンで、役柄は引退したオペラの演出家。
両親がミケランジェロの家に行くと、職業は葬儀屋ながら、彼の父親・ジャンカルロ(ファビオ・アルミリアート)が、シャワーを浴びながら実に見事な歌声でアリアを歌っているではありませんか!
ジェリーは、むらむらと職業意識が沸き立ってきて、ジャンカルロをレコード・デビューさせようと動き出しますが、……(注1)。
話変わって、有名な建築家のジョン(アレック・ボールドウィン)は休暇でローマを訪れたところ、昔学生生活を送っていた街(トラステヴェレ地区)で、建築家志望の若者・ジャック(ジェシー・アイゼンバーグ)と遭遇します。
ジャックはどうやら若い頃のジョンのようで(注2)、恋人のサリーと同棲生活を送っていたところ、アメリカからサリーの友人のモニカ(エレン・ペイジ)がやってきて同じアパートで暮らすことに。
ハテどんな騒動が持ち上がることやら、……。
さらにこちらは、地方からローマにやってきた新婚のアントニオとミリーのお話。
ミリーが美容院に行くと言って宿泊先のホテルから外出した隙に、人違いながら、コールガールのアンナ(ペネロペ・クルス)が入り込んで来て、アントニオとの間でひと騒ぎを引き起こします。
他方で、ミリーの方も、道が分からなくなって、ポポロ広場などをうろつきまわった挙句、……。
そして最後に、ローマに住んでいる中年男のレオポルド(ロベルト・ベニーニ)は、地道に平凡な暮らしを営んできたところ、ある日、何の前触れもなくマスコミ陣に取り囲まれ、あれよあれよという間にローマで一番有名な人物になってしまいますが(共和国広場に敷かれたレッドカーペットを、レオポルドは妻と一緒に試写会会場まで歩んだりします)、……。
というように、本作は、ローマで引き起こされる4つの物語から構成されています。
前作の『ミッドナイト・イン・パリ』では、場所の移動のみならず時点も過去に移しているところ、本作では、イタリアを4+α組のカップルの「アモーレ」でとらえ、それを数多くあるローマの観光名所(コロッセオとかスペイン階段など)の中で、時間の遡りはせずに描き出しています(注3)。
ただ、笑いの要素がふんだんにちりばめられていて実に面白いものの、他方で、4;α組のカップルを巡るエピソードがばらばらに進行していて相互の繋がりを持たない点が残念なところといえるかもしれません。
次作あたりは東京を舞台にしてはどうでしょう(注4)?
俳優陣の中では、コールガール役に扮したペネロペ・クルスに度肝を抜かれました(注5)。
(2)本作は、底抜けに面白い4つの物語を単に笑って楽しめばいいのでしょう。
そんな作品にああでもないこうでもないと一々ケチをつけたり人生訓を導き出したりするのも興醒めですから(注6)、こちらもほんの少しでもローマを楽しんでみたらと思います。
例えば、ジャックらがでかけるヴィッラ・ディ・クインティーリ(クインティーリ荘)に行ってみましょう。
Google地図検索に「villa dei quintili appia antica」と挿入して現れる地図の「A」地点でストリートビュー(↓)を見ると、上記の写真に類似した遺跡を見ることができます。
どうやらこの遺跡は、古代アッピア街道に沿って広がっているようで、さらにGoogle地図では、その広大な遺跡の内部地点から撮影した数多くの写真をも見ることができます。
なお、この遺跡は、公式サイトの説明によれば、「151年頃貴族のクインティーリ(クインティリアヌス)兄弟がその基礎を築き、その後コンモドゥス帝により拡大された」とのこと(注7)。
映画に映し出されるその他の観光名所なども、こんな風にネットで調べてみれば、実際の広大さとか大きさなどは実感できなくとも、その雰囲気ぐらいは味わうことができるのではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「演出は確信犯的にユルく、良くも悪くもワンパターン。それでも複雑で味わい深い人間模様を軽妙に描くタッチと、人の生活が息づく街を魅力的にみせる技は、冴えている。型が決まった「寅さん映画」にも似た、愛すべきアレン流マンネリズムと言えようか」として65点をつけています。
(注1)ジャンカルロは、シャワーを浴びながら歌うと実に素晴らしい出来栄えを示すことが分かり、ジェリーは、アルジェンティーナ劇場でオペラ『道化師』を上演した際に、主役の道化師カニオに扮したジャンカルロを馬車の後ろに取り付けたシャワー室の中に入れて歌わせます。
とはいえ、ジェリーがいくら前衛的な演出家といっても、そんなことをしたら、浮気な妻や浮気相手は自分から進んで殺されるように、シャワー室の中にいるカニオの前までわざわざ出向かざるを得なくなってしまい、あとの批評でさんざんこき下ろされることになるのも当然でしょう!
なお、ジャンカルロに扮したファビオ・アルミリアートは有名なテノール歌手。
(注2)ジョンは、背後霊のごとくジャックについてまわり、その行動の一々に意見したりします。あるいは、ジャックは若き日のジョンということなのかもしれません。
(注3)といっても、コロッセオなど古代ローマ帝国の遺跡がふんだんに登場しますから、タイムトリップしているも同然なのかもしれません!
(注4)ただ、東京には世界的な観光名所と言えるものはローマほどありませんし、パリでのように過去に遡るというのもなんでしょうから、例えば、日本料理を含め世界各国の料理を味わえる様々のレストランを巡ってのドタバタ喜劇といったものは考えられないでしょうか?
(注5)最近では、ペネロペ・クルスは『抱擁のかけら』で、アレック・ボールドウィンは『恋するベーカリー』で、ジェシー・アイゼンバーグは『ソリタリー・マン』で、エレン・ペイジは『スーパー!』でそれぞれ見ています。
(注6)劇場用パンフレットの「Production Notes」には、例によって、ウディ・アレン監督の解説がいくつも掲載されているところ、例えば、歌手になったジャンカルロについて、「本当に才能がある人は、表現する場が必要なんだと思う。そういう人は遅かれ早かれコミュニケーションをとりたくなるものだ」云々とウディ・アレン監督は語りますが、シャワーを浴びながらでないと実力を発揮できないテノール歌手というアイデアが閃いてからの事後解説としか思えないところです。
(注7)塩野七生著『ローマ人の物語 30』(新潮文庫)には、「ローマの城壁を後に古のアッピア街道をしばらく行くと、広壮なヴィラの遺跡が見えてくる。……これが今でも「クィンティリウスのヴィラ」と呼ばれる、クィンティリウス一門の別邸だった。……このクィンティリウス兄弟が陰謀に加担していた可能性は実に希薄で、庶民までが、このヴィラを欲しいあまりにコモドゥスが罪をでっち上げた、と噂し合ったくらいだった」とあります(P.184)。
なお、クィンティリウス兄弟のうち「シリアに駐在していた弟は危機一髪のところで逃亡に成功したが、皇帝の義兄である兄のほうは首都にいたのが不幸だった。捕えられ、裁判にもかけられずに殺された」とのこと(同)。
また、この遺跡の詳しい様子は、このサイト(その1、その2、その3)に掲載されている写真などからもある程度わかるでしょう。
★★★☆☆
象のロケット:ローマでアモーレ
んーとですね、こんな林家木久扇師匠みたいな映画を作られたら、誰も何にも言えないっすよね。
せいぜい「や~ね~」とつぶやくくらいでしょうか?