『カラスの親指』を新宿武蔵野館で見ました。
(1)阿部寛がお笑いの村上ショージと共演するのが面白いと思い、映画館に出かけました。
物語の冒頭では、競馬場で、どの馬券を買うべきか思案に暮れている男タケ(阿部寛)が映し出されます。すると彼のそばに、いかにも訳知りの男テツ(村上ショージ)が近づいてきて、自分は競馬場の獣医で秘密の情報を持っていると告げ、確実に入りそうな馬を教えます。
その忠告に従って、タケが馬券を買うと、なんと当たってしまうのです。
その一部始終を、別の男(ユースケ・サンタマリア)が見ていました。彼はタケに近づき、前日の分をも含めた当たり馬券を買い取ってくれます。
ところが、実際には、タケとテツはつるんでいて、一緒になってユースケ・サンタマリアを騙したというわけです。彼が、当たりのはずの馬券を引換機に入れると、「読み取れません」という表示が出てしまうのですから。
映画は、こうしたタケとテツとが一緒になって生活している家に、若い3人組が転がり込んでくるところから、新しい展開となり、皆でタケを脅かす闇金業者を、得意技の詐欺で騙してやっつけてやろうという話となっていきます。
さあ、そんな危ない話はうまくいくのでしょうか、……?
本作は、コンゲームに絡むお話ながら、手が込んでいる仕掛けが何重にも施されていて面白く(従って、さすがのこのレビュー記事でも余り多くを書けません)、実に楽しく見ることができました。
さらに、お笑い芸人としての村上ショージは余り買いませんが、この映画における演技は絶妙で、彼なくしてこの映画の味は出てこなかったのでは、と思ったところです。
肝心の阿部寛は、このくらいの役どころだと手慣れた感じで、無難にこなしています(注1)。
さらに、タケとテツの家に転がり込む3人組のうちの2人は姉妹で、それを石原さとみと能年玲奈とが演じています。
石原さとみは、『月光ノ仮面』などで見ましたが、本作の姉・やひろの役は、恋人(小柳友)と一緒ながらも妹におんぶにだっこという難しい役ながら、持ち前の演技力でうまくこなしています。
また、能年玲奈は本作で初めて見ましたが(注2)、若いながらもなかなか頑張っているなと思いました。
(2)本作と同様にコンゲームを扱っている作品として、最近のものでは『夢売るふたり』があります(注3)。
同作品では、確かにコンゲームが何件も取り扱われていますが、すべて妻の里子(松たか子)の指示に基づいて夫の貫也(阿部サダヲ)が実行する単純な結婚詐欺であり、本作のような大掛かりなものとは言えません。
また、同作品では、2人が結婚詐欺というコンゲームをやるのは、焼けて失ってしまった自分たちの小料理店を再建するための資金を集めるためという目的が明確ですが、本作においては、むろんお金をせしめることが重要なのでしょうが、それよりなにより、皆でコンゲーム自体を楽しんでいます。
そういうこともあってか、同作品では、資金集めという目的が薄れてくると、里子と貫也の関係にもヒビが入ってきてしまいますが(注4)、本作においては、自分たちのやっていることに対する反省は一切せずに(注5)、皆が新たな方向に向かって幸せに旅立つことになります。
一年のうちのこうした対照的なコンゲーム物を2作品見ることができるというのも、なかなか面白いことだなと思っているところです。
(3)渡まち子氏は、「サギ師が仕掛ける一世一代の大芝居を描く「カラスの親指」。コンゲームの爽快さより人情噺のウェットさが勝っている」として60点をつけています。
(注1)阿部寛については、前作『麒麟の翼』で何もこの人が出演しなくともという感じがしましたが、世評が高いものの見逃してしまった『テルマエ・ロマエ』をDVDで見たところ、なかなかの演技で見直しました(なお、『テルマエ・ロマエ』について、原作にない役を演じている上戸彩がイマイチだとか、映画の後半部分は不要だとかの批判があるようですが、クマネズミは決してそのようには思いませんでした)。
(注2)能年玲奈は『告白』に出演していたようですが、印象に残ってはおりません。
(注3)『夢売るふたり』をクマネズミは映画館で見たものの、専らその怠慢のせいでレビューを書かなかったのですが、本年は、そうした作品が他にもたくさんあり、いたく反省しているところです。
(注4)『夢売るふたり』では、ちょっとした偶然で貫也が大金を手にし、それを店の再建に使おうとしたところ、里子は、その出所に気が付き夫を激しく責め立てながらも、ある計画(それが結婚詐欺)を思いつくところから、コンゲームが開始されます。
ただ、里子が、貫也の最初の浮気を許したのかどうかはっきりしないうちに、貫也は様々の女に結婚詐欺を働くわけで、当然のことながら、騙した女と夫との肉体関係を里子は認めているのでしょう。ですが、里子と貫也との間には肉体関係がなくなってしまっているようなのです。
そうこうするうちに、貫也は、ある女(木村多江)との関係にのめり込んでしまい、里子のもとを離れてしまうのですが、そこで事件が持ち上り、結局、当初の小料理屋再建計画も頓挫してしまいます。
とはいえ、貫也が木村多江との関係にのめり込むのは、どうやら子供のせいなのですが、そのことを里子が知ってガーンときてしまうシーンが挿入されているのには、自分たちが夫婦生活を営んでいないのに、という感じがしてしまいました。
それはともかく、『夢売るふたり』は、結婚詐欺というコンゲームを描いてはいながらも、専らの焦点は、里子と貫也の関係の微妙な変化(それも性的な)の方に当てられているように思われます。
逆に、本作では、性的な要素は徹底的に排除されているといえそうです(やひろは恋人を連れ回しているものの)。
(注5)騙された人が、実際に損害をうけないようにいろいろ配慮されています。
例えば、上記(1)の冒頭で最終的に騙されるユースケ・サンタマリアが受け取る馬券は2重貼りになっていて、表面の馬券はインチキなものにしても、その裏にもう一つの馬券が隠されていて、それは当たり馬券なのです。
★★★★☆
象のロケット:カラスの親指
(1)阿部寛がお笑いの村上ショージと共演するのが面白いと思い、映画館に出かけました。
物語の冒頭では、競馬場で、どの馬券を買うべきか思案に暮れている男タケ(阿部寛)が映し出されます。すると彼のそばに、いかにも訳知りの男テツ(村上ショージ)が近づいてきて、自分は競馬場の獣医で秘密の情報を持っていると告げ、確実に入りそうな馬を教えます。
その忠告に従って、タケが馬券を買うと、なんと当たってしまうのです。
その一部始終を、別の男(ユースケ・サンタマリア)が見ていました。彼はタケに近づき、前日の分をも含めた当たり馬券を買い取ってくれます。
ところが、実際には、タケとテツはつるんでいて、一緒になってユースケ・サンタマリアを騙したというわけです。彼が、当たりのはずの馬券を引換機に入れると、「読み取れません」という表示が出てしまうのですから。
映画は、こうしたタケとテツとが一緒になって生活している家に、若い3人組が転がり込んでくるところから、新しい展開となり、皆でタケを脅かす闇金業者を、得意技の詐欺で騙してやっつけてやろうという話となっていきます。
さあ、そんな危ない話はうまくいくのでしょうか、……?
本作は、コンゲームに絡むお話ながら、手が込んでいる仕掛けが何重にも施されていて面白く(従って、さすがのこのレビュー記事でも余り多くを書けません)、実に楽しく見ることができました。
さらに、お笑い芸人としての村上ショージは余り買いませんが、この映画における演技は絶妙で、彼なくしてこの映画の味は出てこなかったのでは、と思ったところです。
肝心の阿部寛は、このくらいの役どころだと手慣れた感じで、無難にこなしています(注1)。
さらに、タケとテツの家に転がり込む3人組のうちの2人は姉妹で、それを石原さとみと能年玲奈とが演じています。
石原さとみは、『月光ノ仮面』などで見ましたが、本作の姉・やひろの役は、恋人(小柳友)と一緒ながらも妹におんぶにだっこという難しい役ながら、持ち前の演技力でうまくこなしています。
また、能年玲奈は本作で初めて見ましたが(注2)、若いながらもなかなか頑張っているなと思いました。
(2)本作と同様にコンゲームを扱っている作品として、最近のものでは『夢売るふたり』があります(注3)。
同作品では、確かにコンゲームが何件も取り扱われていますが、すべて妻の里子(松たか子)の指示に基づいて夫の貫也(阿部サダヲ)が実行する単純な結婚詐欺であり、本作のような大掛かりなものとは言えません。
また、同作品では、2人が結婚詐欺というコンゲームをやるのは、焼けて失ってしまった自分たちの小料理店を再建するための資金を集めるためという目的が明確ですが、本作においては、むろんお金をせしめることが重要なのでしょうが、それよりなにより、皆でコンゲーム自体を楽しんでいます。
そういうこともあってか、同作品では、資金集めという目的が薄れてくると、里子と貫也の関係にもヒビが入ってきてしまいますが(注4)、本作においては、自分たちのやっていることに対する反省は一切せずに(注5)、皆が新たな方向に向かって幸せに旅立つことになります。
一年のうちのこうした対照的なコンゲーム物を2作品見ることができるというのも、なかなか面白いことだなと思っているところです。
(3)渡まち子氏は、「サギ師が仕掛ける一世一代の大芝居を描く「カラスの親指」。コンゲームの爽快さより人情噺のウェットさが勝っている」として60点をつけています。
(注1)阿部寛については、前作『麒麟の翼』で何もこの人が出演しなくともという感じがしましたが、世評が高いものの見逃してしまった『テルマエ・ロマエ』をDVDで見たところ、なかなかの演技で見直しました(なお、『テルマエ・ロマエ』について、原作にない役を演じている上戸彩がイマイチだとか、映画の後半部分は不要だとかの批判があるようですが、クマネズミは決してそのようには思いませんでした)。
(注2)能年玲奈は『告白』に出演していたようですが、印象に残ってはおりません。
(注3)『夢売るふたり』をクマネズミは映画館で見たものの、専らその怠慢のせいでレビューを書かなかったのですが、本年は、そうした作品が他にもたくさんあり、いたく反省しているところです。
(注4)『夢売るふたり』では、ちょっとした偶然で貫也が大金を手にし、それを店の再建に使おうとしたところ、里子は、その出所に気が付き夫を激しく責め立てながらも、ある計画(それが結婚詐欺)を思いつくところから、コンゲームが開始されます。
ただ、里子が、貫也の最初の浮気を許したのかどうかはっきりしないうちに、貫也は様々の女に結婚詐欺を働くわけで、当然のことながら、騙した女と夫との肉体関係を里子は認めているのでしょう。ですが、里子と貫也との間には肉体関係がなくなってしまっているようなのです。
そうこうするうちに、貫也は、ある女(木村多江)との関係にのめり込んでしまい、里子のもとを離れてしまうのですが、そこで事件が持ち上り、結局、当初の小料理屋再建計画も頓挫してしまいます。
とはいえ、貫也が木村多江との関係にのめり込むのは、どうやら子供のせいなのですが、そのことを里子が知ってガーンときてしまうシーンが挿入されているのには、自分たちが夫婦生活を営んでいないのに、という感じがしてしまいました。
それはともかく、『夢売るふたり』は、結婚詐欺というコンゲームを描いてはいながらも、専らの焦点は、里子と貫也の関係の微妙な変化(それも性的な)の方に当てられているように思われます。
逆に、本作では、性的な要素は徹底的に排除されているといえそうです(やひろは恋人を連れ回しているものの)。
(注5)騙された人が、実際に損害をうけないようにいろいろ配慮されています。
例えば、上記(1)の冒頭で最終的に騙されるユースケ・サンタマリアが受け取る馬券は2重貼りになっていて、表面の馬券はインチキなものにしても、その裏にもう一つの馬券が隠されていて、それは当たり馬券なのです。
★★★★☆
象のロケット:カラスの親指