三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ『錯覚の科学』1

2012年04月24日 | 

○注意の錯覚(目は向けていても見落としてしまう)

バイクに乗ってて横断歩道を渡っている人にぶつけたことがある。

目の前の歩行者にどうして気づかなかったのかと、かなり落ち込んだ。
ところが『錯覚の科学』によると、見ていても見ていないことはめずらしくないそうだ。

「見えないゴリラ」という実験を著者たちはしている。

被験者はバスケットボールの試合のビデオを観て、白いユニフォームを着たチームがパスを何回したかを数えてもらうよう指示される。
ゴリラの着ぐるみが画面を横切る(9秒)のだが、約半数が気づかないそうだ。

著者のサイトでこのビデオを見ることができる。
妻にそのビデオを見せたら、妻もゴリラには気づかなかった。
「目の前に予期せぬものが登場しても、それに気づかない」

車の運転手はバイクに気づきにくい。
なぜなら「バイクはどちらかというと予想外のものなのだ。ドライバーは予想外のものを見落としがち」だから。

プールの監視員も溺れた人に気づかない。
「同様に私たちは、水泳プールの監視員なら、溺れかけた人にかならず気づくと考える。だが水泳場で広い水面に目をこらし、めったに起きない事故を監視する仕事は、不可能に近いほどむずかしい」

注意の錯覚で思い出したのが、地下鉄サリン事件での辺見庸氏の見聞についての某氏の話。

地下鉄出口で苦しんで倒れている人をまたいで行く人がいたと、辺見庸氏は書いているそうだ。
苦しんでいる人が目の前にいても、手を差し伸べずに見て見ないふりをするどころか、わざわざまたぐのである。
信じられない話だと思ったのだが、『錯覚の科学』を読み、会社に急ぐ人たちは倒れている人が目に入らなかったのではないかと思った。

『錯覚の科学』に、ヴァイオリニストのジョシュア・ベルが金曜の朝、ラッシュアワーにワシントン市の地下鉄駅で、バッハの『シャコンヌ』などを300万ドルのストラディヴァリウスで43分間、演奏したことが書かれている。
その間、1000人以上が通り過ぎたが、立ち止まって耳を傾けたのは7人、演奏で得た金額は32.17ドルだった。
このときの映像をネットで見ることができる。

『ワシントンポスト』の記者ジーン・ウェインガーテンはこの記事でピュリッツァー賞を受賞している。

ウェインガーテンは「世界最高の演奏家による珠玉の作品の演奏に、しばし足を止めて耳を傾けるゆとりもないとしたら、人びとが現代社会の大波に吞まれ、これほどの存在を前にしても耳は聞こえず、目も見えなくなっているとしたら――私たちは、ほかにどれほどのものを失っているだろう」と書いた。
辺見庸氏と同じような慨嘆をしている。

しかし、ジョシュア・ベルの演奏に気づかないのは注意の錯覚なのである。
「人びとは、ヴァイオリンの巨匠を見ようとして(あるいは聞こうとして)いなかった。彼らは、仕事場へいこうとしていたのだ」
そのあたりで靴磨きをしているエドナ・スーザは「みんなエスカレーターが上がるときは、前しか見てないのよ。前だけを見て、自分のことしか考えない」と語っている。

「実験で言えるのは、人は一つの作業(職場にいくこと)に、注意(視覚および聴覚)を集中させているとき、予期せぬものに出会っても、気づく可能性が薄い、ということだ」
地下鉄サリン事件の場合も、人情の希薄さではなくて注意の錯覚じゃなかろうかと思った次第です。

記憶の錯覚(自分が体験したことを鮮明かつ正確に記憶できると思っているが、記憶はゆがむことが多い)の紹介は省略。

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9 コメント

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一人静に気づく時 (わたし、アホ)
2012-04-25 09:26:01
①映画のコマおくりに、コーラの瓶を気づかれないように入れておくと、その日の売り上げが伸びたという話を、思い出しました。今は、こういう撮影、禁止。見えないものも、見えていた。
②水泳のインストラクターをしていた友達の話。選手コースの児童が、どこに行ったか、わからない。プールの底で、見つかったそうです。とても、痛ましい事故です。
③わたしは、大学出てもバイトの身。人生あせらず、横道しながらのんびり行こうかな。
 一人静 咲いて旅の こときまる
          秋桜子
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どこまでも行こう ()
2012-04-25 15:36:49
①はサブリミナル効果ですね。
現在ではサブリミナル効果は否定されているそうですし、そもそもコーラの実験は作り話らしいです。

 どこまでも行こう
どこまでもゆこう
道はきぴしくとも
□笛を吹きながら
走ってゆこう

どこまでもゆこう
道はけわしくとも
幸せが待っている
あの空の向こうに
http://www.youtube.com/watch?v=s_H7edPgWUA
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うわさを信じちゃいけないよ。 (わたし、アホ)
2012-04-25 17:16:41
そうなんですか、円さんて物知りなんですね。でたらめ、信じるところでした。ありがとうございます。
ところで、連休はどうして過ごすのですか?
わたしは、連休はこむのでどこにも行かず、そのかわり、6月1日から中国旅行を計画しています。
といっても、中国の近間。お金ないし。
青島か大連か、どっちか、迷っています。
青島は、おもしろい話を作った昔の人が住んでいたところで、そのお話を描いた壁画があるみたいでいいし、大連はその頃、アカシアが真っ盛りで綺麗だそうです。お友達と、どっちにしようか、話あっているんですけど、気の強い人ばかりで、二者選択がまだできていません。
友達、選びたいよ。
返信する
日常の錯覚 (京都8月2日)
2012-04-26 14:42:24
自宅でも、物を取ることに集中して、床のでっぱりに足をぶつけたりする時があります。まぁ、ほとんどが私の不注意ですが。

過去に言われた嫌なことを思い出しますが、ひょっとして、その記憶も自分がゆがめてる部分もあるのではないか・・・と最近思うようになりました。記憶のゆがみで、相手や周囲を悪く誤解している部分もありますね。
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コメントありがとうございます ()
2012-04-26 17:51:47
>わたし、アホさん
物知りではありません。
『錯覚の科学』にありました。

連休はいつもどおりです。
ジェット・リー主演の『海洋天堂』はどこが舞台かと思ってたら、青島でした。
山東省の奥地に住む中国残留孤児が日本に来て、中国人通訳も何言っているかわからなかったという記事を読んで、三国志の英雄たちはどうやって話をしたのかと思いました。
面白い小説を書いている莫言も山東省の出身。

戦前、大連に住んでいた人(複数です)は、大連はいい町だと懐かしそうに話していました。
ある人は何十年ぶりかで大連に旅行したら、かつて住んでいた家があったと言って、写真を見せてもらいました。
タイムマシンで旅した感じでしょうか。

何にせよ友達がいることはシアワシ君です。

>京都8月2日
私の子どもが「小学生の時に怒られた」とか「中学の時に反対された」と文句を言うことがあるんですが、こんなふうに記憶を変えて物語を作っているのかと感心しました。
「記憶の錯覚」とは目撃証言が当てにならないといったように、記憶は歪めておぼえているということです。
高校時代の知人と20数年ぶりに会って話をして、私の記憶とずいぶん違っているのに驚いたことがあります。
おっしゃるように、過去のいやな思い出がはたして事実そのままかどうか。
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ビールか餃子 (わたし、アホ)
2012-04-26 21:17:34
まだ、先の話ですが、青島行ったら、ビール。大連行ったら、アカシアの花びらの入ったご当地餃子。おみやげに買ってきまーーす。
 楽しみにね!
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ヒトデもあります ()
2012-04-27 16:44:35
大連国際ビール祭りというのがあるそうです。
http://4travel.jp/overseas/area/asia/china-liaoning_province/dalian/travelogue/10484605/
7月末~8月初ですので、大連にはこの時期にどうですか。
これは何だ、という串焼きがおいしそうです。
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大連に決定しましたが (わたし、アホ)
2012-04-27 19:24:19
友達の考えたスケジュールこなすだけです。シアワシです。でも、なんとか、これは何だというもの、自力で探してきますね。
しかし、せっかくの旅ですから、自発海参(ズファハイシェン)だけは、外さないようにしてきます。もどした干しナマコらしいです。
学生の頃、関西旅行して明石の魚市場で、ナマコ初めて見ました。どうやって、お料理するのかな、と思いました。
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老人の昔話ばかりで ()
2012-04-28 18:18:57
↓これですか。
http://www.haodou.com/recipe/179495
なにやら・・・という感じですね。

鶴見良行『ナマコの眼』(「本の雑誌」年間ベストテン3位)を読んで中華のナマコ料理を食べてみたいと思い、食したのは12年後。
なんとも行動力のない話です。
ぷるぷる感が中国人は好きなのでしょうか。
それにしても、最初にナマコを食べた人は勇気があるし、湯がいてナマコを乾燥させた人は賢いなと思います。
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