三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

松永和紀『食の安全と環境』2

2012年12月24日 | 

化学合成農薬と化学肥料は日本では特に問題視される。
しかし、数十年前の農薬と現在の農薬とでは違うそうだ。
「昔の農薬は、食糧増産を目的に比較的毒性の大きな農薬が多用された」
しかし、現在の農薬は「リスク」の考え方によっている。
「生き物にどの程度、害を与えるかという「リスク」の大きさは、それが本来持つ「毒性」と、体の中に取り入れる「量」の両方から決まる」
現在の農薬は「人やほかの動物などへの毒性が低く、ターゲットとなる病害虫や雑草などにのみ効果を発揮する選択毒性の研究が進んだ。(略)
使用されて効果をもたらした後は、速やかに分解する易分解性もなければならない。そのうえで、使い方や使う量、使う時期などを厳しく規制することで、人やほかの動物などの曝露量を減らし、リスクを小さくしてゆく」

メダカがいなくなったのは農薬のせいだと思われているが、そうでもないらしい。
加藤倫教「除草剤をいっぱいやるから、メダカがいなくなったんだという。それもないとはいえないんですが、だんだんわかってきたことは、作付けのほうが影響しているという研究結果があるんですよ。
米の品種を全部コシヒカリにかえてしまった。(略)このあたりでコシヒカリを作ろうとすると、田んぼを中干しする時季に、トノサマガエルはまだオタマジャクシに脚が生えていないんです。だから、中干しして水がなくなったあとに、累々たるオタマジャクシの干からびたのが連なる。(略)
いままでは、土地にあった別の品種を作っていたのが、早生のコシヒカリにしたもんだから、自然環境に影響を及ぼしてしまったということですよね。(略)
去年と一昨年、うちの田んぼとつながる用水路を、水を止めずに、ずっと入れっぱなしにしたことがあったんです。そうしたら、メダカだらけになりましたから」(朝山実『アフター・ザ・レッド』)

化学肥料についても誤解だらけ。
「日本では、化学肥料は徹底的に嫌われている。インターネットで検索してみると、「毒である化学肥料は使わず、堆肥や有機質肥料で栽培した安全で環境によい野菜」というような記述が多く見つかる。(略)
しかし、堆肥や有機質肥料も分解されれば無機物となり化学肥料と同じ成分になるのだから、「化学肥料は毒」と断定するのは間違いだ」

化学肥料がなければ地球上で現在の三分の一から半分程度の人口しか養えない。

堆肥や有機質肥料のほうがいいのかというと、病原性微生物の問題があるそうだ。

「有機農業が化学肥料を使わず、家畜由来の堆肥や有機質肥料などを多く使うことは、病原性微生物による汚染という観点からは懸念材料になる」
有機農産物と慣行栽培農産物を比較すると、大腸菌の感染割合は有機農産物が約六倍高い。

家畜糞尿の量は年間約9000万トン、現在は主に堆肥化が行われている。

「だが、堆肥を使うから環境に良いとは限らない。堆肥でも使いすぎれば土壌に養分が蓄積し、地下水も汚染するからだ。化学肥料であれば養分含有量は一定であり、計算しながら作物にやることができる」

こんなこともあるそうだ。
「古くから土づくりのために堆肥の利用を推し進めてきた産地や有機農業産地で、長年の過剰使用がたたり野菜のNO3濃度や重金属濃度が高くなる例が最近目立っている。ブランドに傷がつくため公表されることはほとんどないが、農業関係者の公然の秘密である」
知りませんでした。

有機農業も環境への負荷を免れない。
「有機農業を行う有機農家は、合成化学物質の利用を極力避け旬の栽培を行い加温栽培などはしないため、環境負荷はなさそうに見える。だが、有機農家も害虫よけのネットやビニールなどの資材を多用する。また、家畜糞尿や稲ワラなどから堆肥を作り畑に持って行き投入するという作業にも、機械やトラックが必要」

作物がなんの障害もなくすくすくと育ち実ったと仮定して得られる収量を100とすると、
病害虫や雑草をまったく防除しないで得られる収量 34.2
農薬などを用いて防除して得られた収量 61.9
農薬を使わない場合の減収率は、
リンゴ 97%
モモ 70%
キャベツ 67%
キュウリ 61%
ジャガイモ 33%
コメ 24%

「コメを無農薬で栽培した場合、収量は農薬を使用した場合の7~8割というのが通説だ。収量の低下を抑えるため、農家はさまざまな工夫をし、虫をとったり雑草を手で抜いたり機械で刈り取ったりするなどして働き、労働時間は増える」

リンゴの栽培で農薬の使用回数を半分に減らすためには、通常であれば除草剤を二、三回使うところを、一回しか使えない。
「果樹栽培は、雑草との戦いでもある」
雑草が繁茂すると、水分や養分がリンゴの木に行き渡らなくなり、木の生育が悪くなるし、害虫やカビや病原菌なども増殖しやすくなる。
アルバイトを雇って草刈り機で草刈りするのに一週間かかる。
それを二、三回しないと、除草剤一回散布の代わりにならない。

「現実には「農薬の使用は環境に悪い」という前提で、生産者は機械による除草を行い、労働量の増加、人件費増に喘いでいる」
ところが、国は化学肥料や農薬の使用回数を減らすように指導している。

「有機農産物=安全」かと思ってたら、そういうわけではないらしい。
イギリス食料基準庁は2003年に「有機食品がより安全だとか、より栄養があるという科学的な根拠はない」という見解を明らかにしている。

・農薬
「有機農産物は農薬の使用量が通常の農産物よりも低いか、不使用だが、現在の一般的な農薬は分解性が高く、使われても農産物が店頭に並んだ段階で不検出になっている場合も多い」

・カビ毒
「農薬を使わずにカビの増殖を抑えるのは容易ではない」

・植物のストレス耐性
「植物は温度変化や水分不足、病害虫の襲来などさまざまなストレスに対して、体内で自ら防御物質を作り身を守る性質を持つ。(略)農薬をあまり使わない有機農産物は、病害虫の食害などストレスを受けており、農薬を使い病害虫などを防いでいる慣行栽培に比べて、より多くの二次代謝産物を作り出している可能性がある」
この二次代謝産物が人間にとって毒になることがある。

「農薬や化学肥料を使わないから安全、という世間一般の思い込みは、あまりにも単純化された思考だと言えるだろう」

「農薬や化学肥料、遺伝子組換え、抗生物質などを頭から否定してしまう有機農業の姿勢は科学的ではない」
農薬や化学肥料は適度に使えばいい。
「化学合成農薬や化学肥料などの使用量を抑え資源の循環利用を進めるとともにそれらの利点も活かし、遺伝子組換えなどの新しい技術もリスク評価したうえで利用し、食料生産力アップへつなげていく―。それが世界の趨勢だ」

松永和紀氏は「有機農業は主義主張」だと言う。
エコや有機農業の考え方の中にはニューエイジ・スピリチュアル的なものがあって、あやしい主張もある

安全や健康を求め、環境を大切にするのがどうしていけないと言われると返答に窮するのですが。

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
この本 (となりのみよちゃん)
2012-12-26 04:33:18
夫にも、紹介します。お野菜作ってるので、興味があると思います。良い本のご紹介、ありがとうございました。

下から、3行目。私はそう感じて、あやしいのではと主張する。って言うこと?
返信する
これなら、理解できます。 (となりのみよちゃん)
2012-12-26 17:18:12
いつの間にか、直してありましたので。
あやしいと感じる主張もあるって言うことですよね・・・
指摘したから、その部分、分かり易くするため、わざと(と)を抜かしたのですか?
円さんて、本当に、あきない方でいらっしゃいます。それで、忙しくても、ついつい、コメントに、はまっていくのです。
まだ、大掃除済んでいないのに。困ったことです。どうせ、今からお掃除しても、また、お正月までに、汚れてしまうから、良しとしますか・・・どう思われます?
返信する
また直しました ()
2012-12-26 22:14:49
私は人に説明する能力、説得する能力が欠けているのではという気がします。
自分の考えていることを伝えられないのか、考えているつもりでも考えていないのか。
大掃除は29日の予定です。
年に一回ぐらいは掃除しませんと。
返信する
そんなことも、ないです。 (となりのみよちゃん)
2012-12-27 04:29:02
特に、説得力に欠けているとは、思いませんけど。いろんなこと、納得させるご本を選ぶのも、お上手です。

そうですね、一夜飾りはよくないと言われてますから、29日に大掃除するのは、いいタイミングかも。
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これでおしまい ()
2012-12-27 16:27:08
『食の安全と環境』は3回でおしまい。
環境問題には疑似科学が入り込みやすいように思います。
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ゆったりした時間のお楽しみ (となりのみよちゃん)
2012-12-27 18:20:09
夜か早朝、ゆっくり、読ませていただきます。今、少し忙しくて、ごめんなさいね。
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のんびり・ゆったりとコメント (となりのみよちゃん)
2013-01-13 06:36:53
してると、どこに続きを書いていいのか、わからなくなってきますね。遠くに旅行するときは、最後にコメントした日を記しておくのですが・・・

円さんが、『論語』を読んでらっしゃないということなので、書こうかどうか迷っていたことがあったのです。

士師とは、今でいうところの裁判官と検事を兼ねたような役職なのですが、その士師の心得を
「民の犯罪の実情を得ることがあっても、罪の証拠を握ったなどと喜ぶことがにようにしなさい」
と孔子の弟子が説くところがあり、いい言葉だと思っています。
返信する
Unknown ()
2013-01-13 18:15:05
これも意味が取りにくかったのでネットで調べました。
もし民の犯罪の実情を知ることがあっても、むしろ哀れみ憐れと思い、自分の聡明な力で罪の証拠を握ったなど思い喜ぶことがないようにしたいものだ。
http://bonjinrongo.seesaa.net/index-6.html
例え犯罪の情報を得たとしても喜んではならず、むしろ哀れむべきなのだ。
http://blog.mage8.com/rongo-19-19
もし犯罪の実情をつかんだときは、彼らに同情すべきであり喜んではいけない。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~mind/knowledge/classic/rongo019_3.html
もし容疑者が罪を認めたなら、不憫に思いこそすれ、手柄を立てたなどと喜んではならんぞ
http://www.niigata-ogawaya.co.jp/rongo3/s-19-500.htm

それぞれニュアンスが違いますね。
前半の言葉がないと、理解は一層難しいですよ。
返信する
私の古典の読み方 (となりのみよちゃん)
2013-01-13 19:19:36
これは、弟子の中で會子が言ったというのが、キーポイント。門人で、「子」がつく人は何人もいますが、必ず「子」がつけられるのは、彼だけ。それだけ尊敬されていた人ですし、仁(敢えて言えば人類愛)の強い人。

彼の言ってるところを、抜き出して考えてみます。
彼が言ったことをすべて調べてから意味を考えると、「どうして犯罪が起きたのか、その・実情・背景を考えることが大切」と言ったと思えてくるのです。あとは、古典を読むときは、読み手の性格が、おおいに反映と思います。

曾子では、吾が身を三省す、が有名だと思います。なかなか、このような立派な生き方はできないものです。
返信する
前段を説明しないと ()
2013-01-14 17:07:35
上その道を失いて、民散ずること久し。
この訳もいろいろです。
・為政者が正道を失っている為、人民は長いこと一家離散の憂き目に遇っている。
・今は民の上に立つ人が道義を失い、民の心もバラバラになってもう長い。

政治家がおかしなことをやっている、だから犯罪者に同情しなさい、というようなことでしょ。
つまりは政治批判がまずあるわけじゃないですか。
返信する

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