三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

中川智正弁護団『絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?』1

2012年04月09日 | 死刑

某氏から『絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?』をいただいた。
『絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?』はオウム真理教事件の中川智正死刑囚の裁判に弁護人が提出した書類がもとになっている。

絞首刑の具体的方法は、明治6年の太政官布告に定められている。
「上からつるしたロープを死刑囚の首にかけます。次に死刑囚が立っている床(踏板)を開き、死刑囚を下に約2.4メートル落とします。死刑囚はロープで床から約30センチの高さにつり下げられます」

絞首刑は首の骨が折れて一瞬のうちに死ぬものだと私は思っていたが、そうではないらしい。

「ときおり、過度に短い落下距離を与えられた者はゆっくり絞殺されて死亡し、また過度に長い落下距離を与えられた者は頭部が切り落とされた」(『死刑に関する英国審議会報告書』1953年)

オーストリア法医学会会長のヴァルテル・ラブル博士によると、ほぼ瞬間的な死はまれで、死刑囚は最低でも5~8秒程度、長ければ2~3分程度意識があり、その間に激しい痛みや苦痛を感じる。
「首が折れても意識はなくなりません。絞首刑で死刑囚の首の骨を意図的に骨折させるのは困難です。死刑囚の意識はすぐになくならず、一方で首はひどく傷付くので激しい痛みがあります。絞首刑で使うロープを皮でおおっても、首の切断やゆっくりとした窒息死を防ぐことはできません」

絞首刑で首が切断されることもあるという。
1942年アメリカのサン・クエンティン刑務所でメージャー・リゼンバーが死刑を執行された。
刑務所長のクリントン・ダフィは著作に次のように書いている。
「一人の記者が聞いた。
「わたしは、カリフォルニア中の人が、みな処刑の光景を見たらよかったと思う。リゼンバーの顔から、ロープのために肉がもぎ取られ、半ばちぎれた首や、飛び出した眼や、垂れ下がった舌を、みんなが見たらよかったと思う。宙ぶらりんに揺れ動く彼の脚を見たり、彼の小便や脱糞や、汗や固まった血の臭いを、みんなが嗅いだらよかったと思う」
だれかがあえぎ、一人の記者がつぶやいた。
「所長、そんなことは活字に出来ませんよ」
「出来ないのは分かっている。しかし出来たら、みんなのためになる。州民たちに、彼らの指令がいかに遂行されたか正確に知るのに役立つ。かつて死刑に票を投じた陪審員全部、かつて宣告を下した裁判官全部、私たち皆に、この苦しい試練を通り抜けることを余儀なくさせる法律の通過を助けた立法者全部は、今日、わたしと一緒にいるべきだった」」

死刑囚本人もさることながら、執行に立ち会う刑務官にとっても絞首刑は残虐である。
執行の際、刑務官たちが3つか5つあるボタンを押す。
どのボタンが床をはずすのかわからない仕組みになっている。
だが、2006年12月25日に執行された藤波芳夫死刑囚の時は、藤波死刑囚がリウマチであるけなかったため、通常とは違っていた。
青木理『絞首刑』には「藤波の車椅子を刑務官が再び押し、執行台まで近づけると二人の刑務官が両脇を抱えて藤波の身体を無理やり立たせた。そこまら執行台までのわずかな距離を、老いた藤波の身体は抵抗もできないまま二人の刑務官によって運ばれて行った。首に太いロープをかけられても藤波は自力で身体を支えることができない。合図とともに執行ボタンは押され、足元の床が「バタンッ!」という激しい音とともに開くと藤波は叫び声もあげることなく地階へと落ちて行った」とある。
刑務官は歩けない藤波芳夫死刑囚を抱きかかえて絞縄に首を吊るしたわけである。

首が切断されないようにちゃんと準備すればいいかというと、そうはいかない。
「絞首刑の対象は、生きた人間であるから、その受刑者の頭部が離断するか否かを事前に実験することは不可能である。個体差がある個々の受刑者全てについて同人の頭部が絶対に離断されず、しかも同人をすみやかに死に至らしめるような執行条件を合理的な根拠の下に決定し、その執行条件を全ての死刑執行について漏れなく反映することは、不可能か少なくとも著しく困難であろう」

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6 コメント

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Unknown (Akira.S.Tsuneduka)
2012-04-12 16:28:09
イギリスの死刑執行人のJames Berryという人が体重と適切な紐の長さの対照表を作っているそうです。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/murder/text/lee_john.html
長さが一律に2.4mと決められているということは、この表に従えば体重54kg以下では長すぎ、58.8kg以上では短すぎるということになりますね。
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Unknown (Akira.S.Tsuneduka)
2012-04-12 16:31:53
追加でこんな表も。

公式ドロップテーブル - Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%BC%8F%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB
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教えてください (わたし、アホなんです。)
2012-04-13 06:11:39
死刑に関すること、たくさん、知ってらっしゃるんですね。すごーーい!以前、読んだ本に、たぶん、本当はこわい、スポーツの歴史みたいな?そこに、サッカーは、戦いで殺された人の首を森の中に投げたのが、起源。スキーのジャンプの起源も、死刑だったとか。ジャンプがうまくできた人は、生き延びたみたいです。平和の祭典が、そこから始まったとわかり、驚きでした。ぜんぜん、関係ないけど、走れメロス、読んだことおありですか?マラソンのこと、思い出しちゃって。読んでいらしたら,これの読後感も知りたいナ。おしまい。
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コメントありがとうございます ()
2012-04-13 15:02:27
『絞首刑は残酷な刑罰ではないのか?』に、1959年当時に絞首刑を採用していたアメリカ陸軍の「軍の死刑執行に関する手順」にある、受刑者の体重と落下距離の表が掲載されています。
「この種の表は以下に掲示する米陸軍由来のもののほか英国由来のものが各国で用いられているが、内容的に大差はない」とのことです。
どうしてこうした表が使われるかというと、絞首刑によって受刑者の頭部が離断することを防止するためです。
しかし、このような規定に従っても、「頭部を離断される受刑者が出ている」そうです。

サッカーの起源をネットで調べると、イングランドでは敵の将軍の首を蹴って勝利を祝ったという説があるそうです。
スキーのジャンプが処刑法だったということは、ウィキペディアによると俗説です。
『走れメロス』は中学校の時に読んで感動しました。
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感動しました (わたし、アホ)
2012-04-13 17:20:57
走れメロス、アホな、わたしも、感動しました。感動しない人って、心冷たいのかな?それとも、もっと、すごいの読んでいるのかな?
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感動の種類もいろいろ ()
2012-04-13 19:45:10
私は単純な人間ですから、『タイタニック』『アーティスト』『アメリ』『スタンド・バイ・ミー』などなどにもほろりとしました。
それと『ジャングル大帝』と大島弓子。
あげていけばきりがありません。
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