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祖父の威厳

「コラー!お巡りさんが来たぞ!!やめろ!」と路上での子供同士の取っ組み合いをやめさせようと大人が叫んでいるが、治まる様子がない。だれかが「魚屋のおじいさんが来たぞ!!」と声をあげるとパタリとその騒ぎは治まってしまう。 それ程魚屋のおじいさんは恐れられていた。

私の祖父、吉野精一郎である。昭和26年5月頃私は小学校一年生。「今日は雨降りで納豆売りに行くのは嫌だなー」と言ったところ祖父は「雨降りはなあ、お客さんも買いに来るのが大変なんだよ!だからお前が行って助けてあげるんだよ、元気を出して行って来なさい」恐い祖父になだめられ,重いカラカサをさし、編み上げの篭に15個ほどの三角納豆をいれ、夕方売りにでかけた。

「柱の傷はおととしのー」ラジオからそんな歌声が流れていたような気がする。1個10円、売れて利益が1円、5軒に1個売れたら良いほうだった。その日はさっぱりで半分以上売れ残った。帰り道、風も出てきてカラカサを飛ばされないように懸命にもち、やっとの思いで我が家へたどり着いた。入り口でカラカサをすぼめると目の前に祖父が立っていた。私からカサを受け取り、売れ残った納豆の入った篭を黙って観ていた。

「どうもご苦労さん。」と声がかかるのかと思った瞬間、バシン!と音がして納豆の入った篭と一緒に右方向へ3メートルほど飛んで路上の水溜りの中にいた。ビンタを左側の頬に貰ったのだ。雨の中、納豆もまわりにちらばっていた。「いいか!良く聞けよ、これからは雨降りにはカラカサは納豆に懸けて歩くんだ。お前はぬれて歩け!ぬれた頭や体は拭けば直る。ぬれた服は乾かせばいい。ぬれた納豆はどうにもならない。今日のことは一生忘れるな!!」はい!

57年経った今も,之から先も忘れません!このときに出た眼からの火花は今も私の足元を照ら
している。感謝!かんしゃ!

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