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巻き添え食ってたまるかよ

ノマドランド

2021-09-06 18:52:32 | 映画(映画館)
Nomadland@早稲田松竹/監督制作脚色クロエ・ジャオ/原作ジェシカ・ブルーダー/出演フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ/2020年アメリカ

ドキュメンタリーとフィクションの境界線を超えた、かつてないロードムービー。

ネバダ州エンパイアはジプサム社の企業城下町であったが同社が石膏採掘工場を閉鎖して撤退したためゴーストタウンに。長年住み慣れた住居を失った60歳のファーンは、亡き夫との思い出をキャンピングカーに詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として日雇い労働の現場を渡り歩く。その日、その日を懸命に乗り越え、自活の経験値を積み、各地で出会うノマドたちとの交流や助け合い、古い友人との再会などを経て車上生活という生き方に自尊心を持って貫いてゆくファーン──。

アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちを描き、ベネチア国際映画祭最高賞(金獅子賞)、そしてことしのアカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞の3冠に輝いた『ノマドランド』。ノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、これで主演女優賞3度目となるマクドーマンドが実在の車上生活者たちの中に身を投じ(スワンキー、ボブ・ウェルズらは原作にも登場する本人)る形で、前作『ザ・ライダー』が高く評価されたクロエ・ジャオ監督がメガホンをとる。彼女はマーベル・スタジオの最新ヒーロー大作『エターナルズ』の監督に抜擢されている。


小説家の岩井志麻子? 芸人のAマッソ加納? 引用するのもためらわれるひどい差別発言を公の場でしてしまったんです? 彼女らは特別な才能に恵まれているわけでなく、普通の日本人の感受性を持ちつつちょっとだけ優秀なことで有名人になっていると考えられよう。自由が嫌いで差別が好き。コロナの病人が入院できず自宅放置のいっぽうワクチンの職域接種、若者向けにネット予約できない接種会場を設け長蛇の列、そしてワクチンパスポートと差別につながる政策はドシドシ行う。

「亭主元気で留守がいい」「○○さんの旦那さん、接待でゴルフや宴席の多いお仕事だからコロナ危ないんじゃないかしら、しかもハゲてらっしゃるし」。敬語使ってるけど陰口叩いて差別してるな。主婦や会社員や学生の部活・サークルに象徴される日本の「世間」には監視・査定・選別の機能があり、卑屈で自由のない生きづらさにつながるいっぽう、中国のように国民を厳密に管理しなくても犯罪が少なかったりコロナ死も先進国としては少なく、何より平均寿命が世界トップクラスという現実がある。たとえ異論やマイノリティを排除する差別的・欺瞞的な幸福でも「安心して生きられる」ことが免疫を高めるのだろう。


2014年をピークにアメリカ人の平均寿命はジワジワ縮み始め、さらにコロナ禍により一挙に1.5年縮んだと伝えられる。コロナ以前に問題となっていたのは「絶望死」と呼ばれる酒・薬物・自殺による中年・若者の死で、全体が縮むより早く非大卒の白人の間で顕在化したという。

映画はずっとアメリカ文明の広報宣伝役を務めてきた。ハリウッドの娯楽映画やディズニーランドのように大量消費や恋愛結婚イデオロギーのプロパガンダとして機能するだけでなく、近年は仕事と引き換えにセックス強要される被害の告発「ミートゥー運動」の主要な舞台にも。本作がアカデミー賞を受けたと聞いたとき、硬派な内容と知って、おそらく昨年興行収入1位の鬼滅アニメと両方を見ているのは業界関係者か一部のマニアしかいないのではと、アカデミー賞の形骸化や娯楽を通じた人びとの分断を想像してしまったが、米映画界は思った以上にしたたかである。原作を読んで感銘を受けたマクドーマンドが資金を出し、インディーズ映画で才能を示した中国人女性ジャオを監督に起用。ジャオは北京の富裕な家庭の子女で日本の娯楽漫画が好き。そしてアカデミー賞受賞と、アメリカ型の「リベラル能力資本主義」と中国型の「政治的資本主義」が手を組んで成功した格好。

「若いころ頑固な変わり者といわれていたけど、いまの(車上生活の)あなたを見て勇敢で正直な人と分った」。活劇志向の監督のようで編集などの手際はあまりよくないが、やはりマクドーマンドの映画なのだと思う。家族や地域の思い出を胸に、車上生活仲間や友人と交流しながら独立心旺盛に生きる高齢女性というヒロイン像。企業が撤退したあと、主人公がネバダ州で定期的に仕事を得られる場はアマゾンの倉庫だけ。格差を広げ、高齢者から家を奪うような金銭万能の資本主義そのものへの批判はない。そこはアメリカ映画なので。「絶望」死と真逆の方向性、生活のすみずみまで自力でコントロールし、財産や企業に縛られず金銭よりは仲間に頼り、弱い立場でも毅然として自由に生きる姿をみせてくれたことは素晴らしい。
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