科学が記述する物質現象は、神話、伝説など他のどの言い伝えよりも存在感がある。目に見える物質現象はもちろんですが、目に直接は見えなくても科学によって存在が確認されている現象は、明らかに存在するように感じられる。それは、科学者が昔からの言い伝えを信じないで、自分の目で見て自分の手で動かしてみたものだけを信じて、明快な言葉で語り合ってきたからです。それは、だれが実験しても何度でも同じように起こるような、再現性があるものでなくてはいけない。そして報告するときは嘘を語らない。それは科学者の職業倫理でもありますが、なによりも科学者は、専門に関して嘘を語ると、科学者として生きて行けない社会に暮らしているからです。つまり、自分は科学者として生きていけなくてもかまわない、などと思うようないい加減な志願者は科学者になるための厳しい修行に耐えられないはずですから、これは強い縛りになっている。そういう科学者たちがその研究成果を報告し互いの評価に曝される国際学会は、どの国の政治からも宗教からも独立している。その倫理と社会的構造によって、科学者の学会で認められる科学は、その信頼性を保証される仕組みになっています。
科学が大成功した理由は、成功するはずのことだけをしたからです。仲間どうしの間で、だれの目でも見ることができて、だれの手でも触れて動かすことができて、だれもに通じるはっきりした言葉で語ることができて、正確に繰り返し確かめ合えること、つまりだれにも共有できる経験にもとづいている再現性のある物質現象だけを研究の対象にする。あやふやなことは避ける。はじめから自分以外の研究者が後から追実験をして確認できるような形で研究発表をする。つまり、だれの目にも明らかに、いつでも、何度でも、はっきり目に見える。何度でも触って確かめられる。そういう現象だけを対象にして、観察し実験し、正確に語り合い記録してきたからです。
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拝読サイト:不老長寿