台北を訪れる際に当地の魚料理を調べたところ、旅の達人によるサイトで「鹹蚋仔(シジミもろみ漬け)は必ず味わって欲しい台湾料理10選」と力説されていた。日本のより大振りのシジミを生から漬け込んだもので、自身の貝好きも関心を後押しし、3日間で忘れずに食べようと頭の中で繰り返していた。すると初日の1食目で訪れたルーロー飯の店で、おかずの一品でチョイスできるのを発見。自ら選ぶ台湾料理の記念すべき一品となった。
小鉢に盛られたシジミは見た感じ、日本のより殻がやや白っぽい。半あきの殻を開け、トロリと薄茶の身をつまみ口へ放り込めば、角がとれた醤油のまろさがじっとり染みている。淡い殻の色は砂地に棲んでいる種の証拠で、黒色の日本のシジミよりも土の香りがなく味が澄んでいる。だから醤油味がシジミの滋養と一体になり、実に美味なる海鮮漬け。一緒に漬け込んだ唐辛子にニンニク、ショウガも効いていて、こなれた味は技法を凝らした中国料理の前菜らしい。
貝つながりで頼んだハマグリ汁は、大きめの塗り物の椀にすましのつゆと貝、薬味はネギが少々。しっかり白濁した汁は飲むからに滋養が染み、体に行き渡るありがたさだ。こちらはシジミと対称に日本のより粒が小振りだが、プリプリ柔らかな身は汁に味を出したあとも旨味が残っている。シンプルな見た目と味わいは、日本の漁港の食堂で味わう漁師汁のようでもある。
同じ日本でおなじみの貝でも、料理法がそれぞれの国の特徴を生かしてあり、食べ比べるとその対称さが分かる。魚以外にも麺、飯ものなど、忘れず食べたい料理は両手の指ほどあるが、日台の食文化や嗜好の違いを意識して味わえば、ローカルごはん台湾版巡りも一層味が深く感じられるかもしれない。