ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカルミートでスタミナごはん1…いわて短角和牛/岩手県盛岡市  『味の箱舟 大地』

2009年10月31日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

【いわて短角和牛】
 ■系統・掛け合わせ…日本短角種(南部牛+ショートホーン)
 ■肉質・等級など…A2・B2以上
 ■年間出荷頭数…200頭
 ■生産出荷元…JA新いわて

 味のいい高級和牛と聞くと、大理石模様のように緻密な霜降りが入った肉を思い浮かべる人も多いだろう。牛肉の旨みの要素の大部分を占めるのは、この脂の甘み。もっとも、「霜降り信仰」は日本人特有の嗜好らしく、肉食文化の本場である欧米では、脂よりも赤身の味を好むといわれている。
 最近は日本でもヘルシー志向の影響で、脂がのった肉よりも赤身が中心の肉が、注目を集めつつある。岩手県内陸部で肥育されている、いわて短角和牛もそのひとつ。ルーツは南部藩の時代からの在来種、南部牛で、南部牛追唄の歌詞でも歌われているように、かつては荷役牛として活躍した。足腰が強く厳しい自然環境にも適応でき、米や塩を担いで内陸と沿岸部を往来していたという。
 これにアメリカ産のショートホーン種を掛け合わせて、品種改良の上で生まれたのが、いわて短角和牛。毛色の赤い赤牛で、この地方では「赤べこ」とも呼ばれていた牛だ。昭和32年に、日本固有の肉専用種として認定されている。

 県内には「いわてあしろ短角牛」「いわいずみ短角牛」「いわて山形村短角牛」と、3ヶ所生産地があるうち、いわいずみ短角和牛が生産される岩泉町は、本州一広い町として知られている。北上山地に三陸海岸、龍泉洞を擁する豊かな自然環境の中、春から秋は広大な牧草地に放牧、冬は里に下ろして牛舎で肥育する、「夏山冬里」と呼ばれる方式が、いわいずみ短角和牛の育て方の特徴だ。
 放牧による豊富な運動量のおかげで、肉に余分な脂肪が付かず、赤身はイノシン酸やグルタミン酸が多く含まれた、引き締まった肉質の赤身となる。また牧草を主に食べて育つため、ベータカロチンも摂取される。有名な銘柄牛で、霜降りをきれいに出すためにビールを飲ませたり、マッサージを施したりする話を聞いたことがあるが、いわて短角牛は自然に基づいた飼育方法による、原種ならではの味が特徴なのだろう。

  

岩手城址公園の近くにある「大地」。ウッディな内装が落ち着いた雰囲気

 9月の半ばの盛岡は、もう秋の気配が濃く、駅からたそがれの盛岡市街を歩いていると、夜風が少々冷たく感じる。目指す『味の箱舟 大地』は岩手城跡公園の近く、間口の狭い飲み屋やじゃじゃ麺の店など、庶民的な店が並ぶ神社の参道の奥にある。
 しゃれた隠れ家風の外観で、2階の県庁側の堀沿いの緑を見下ろす窓際の席へと通された。店内も焼板や木の床にテーブルと、ウッディなイメージ。控えめに流れるジャズが落ち着ける。
 店は岩泉町を中心とした、岩手県内の食材を使用しており。「いわて地産地消レストラン」2つ星にも認定。本日のおすすめメニューにはサンマ、カツオ、スルメイカなど三陸沖の旬の幸が並ぶが、この日は肉料理が目当て。テーブルには岩手短角牛のミニサイズの幟が立っている。

 

左は突き出し3種。右は県北産のにんにく揚げと、岩泉産の豆腐の冷奴

 しゃきしゃき瑞々しいレタス、キュウリ、赤玉ネギ、ラディッシュのサラダに、ねっとり土の香りがするジャガイモにゴボウ、ニンジンの煮物など、地元の野菜を使った突き出しで味覚が目覚めたところで、自慢の短角和牛の料理をオーダーすることに。
 前菜代わりに短角牛肉のたたきサラダ、メインディッシュはいわて短角和牛サーロインステーキとし、まずはたたきサラダが登場。生の部分が深紅色、火が通った周囲がが薄茶で、白い脂のサシは全くない。たたきなど肉の生系の料理は、一般的に弾力がありかみきりづらいが、ひと切れ口に運ぶとサクサク、キュッキュッと食感が心地よい。
 赤い部分は例えると、マグロの赤身の淡白な味。焼いた部分じゃ牛肉の香ばしい匂いがする。脂の甘味がない分、赤身の旨みが出てくるようで、ガツンとパワーのある押しがない一方、さりげない主張の肉ではある。

短角牛のたたきサラダ。肉にはサシが入っていない

 そして、階段をジューッとの音とともに、鉄板の器にのったステーキが運ばれてきた。こちらも見た感じ、脂はほとんどついておらず、純粋に赤身肉だけのステーキに見える。焼き方は特に聞かれなかったが、ザシザシとナイフを入れると、肉汁はほとんど出ないのに中心はちゃんとミディアムレアのほの赤い色。「焼き具合は、いつもだいだいこんな感じですね」と、運んできたお姉さんが笑っている。
 おろし醤油とゆずコショウが薬味で添えてあるが、まずは塩コショウだけの味付けでひときれ。脂のとろ味のない、ザックリ純粋に赤身肉の味わいで、牛肉ならではの香りが強調されている。歯ごたえはサクサクで軽やか、大雑把にほぐれる繊維が心地よく舌にからむ。脂身はほんの少しで、ピンポイントで強力に甘いのが印象的。

 

断面はほんのりレア。ナイフで抵抗なく切れる柔らかさ

 塩コショウのみで素材の実力を満喫したら、それぞれの薬味も試してみる。おろし醤油は普通、脂身をさっぱりさせるものだが、脂がない肉に添えると、赤身の旨みがよりくっきりしてくる。ゆずコショウは肉の香りがゆずの香りにより、はじかれて際立ってくるよう。ゆっくり食べても固くならず、かえってじんわりと熱が通ってふっくらしてくるようで、思いのほかペロリと平らげられた。

 店のご主人は岩泉町の出身で、ステーキは200グラムでも食べられたかも、と話すと、「赤身が中心でヘルシーですからね。女性のお客様も、結構ステーキを食べていかれますよ」。店はもとはアンテナショップで、契約期間が切れた後にご主人が営業を継続、岩泉町を中心とした、県産の食材による地産地消を展開しているという。
 原価率が高くて経営が大変、とご主人は笑っているが、岩泉ならではのいいものをちゃんと味わってほしいので、肉も野菜も本物を出していきたいです、との言葉に力が入る。短角牛も生産量はそれほど多くないため、時に品切れになることもあるが、別の銘柄の牛肉を出すことはしない、とのこだわりようだ。

 ステーキにたたきといった短角牛の料理に、地場産の食材を使った一品料理、さらに「男山」をはじめとする地酒の数々をいただき、かなり満腹になった。脂分が少ない短角牛とはいえ、食って飲んでホテルですぐ寝てでは、食べたものがバッチリ身に付くこと必至だ。
 南部牛の脂肪の少ない引き締まった質は、荷を担いで延々歩いたこと故だし、自らの身の締りのなさを憂うよりは、岩手城址をしっかりウォーキングして帰るべきか?(2009年9月8日食記)

【参照サイト】
いわて牛のホームページ(いわて牛普及推進協議会) 
http://www.iwategyu.jp/index.html
JA新いわて http://www.jaiwate.or.jp/shin-iwate/kumiai/index.html


魚どころの特上ごはん92…岡山 『すし茶屋吉祥』の、烏城黄金寿司とさわしゃぶ

2009年10月18日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん


 岡山市の南東に浮かぶ犬島で、産業遺跡の銅精錬所を見学し、西大寺を経て県道177号線を児島湾に沿って岡山市街を目指した。沿岸には海中から小屋が立ち並び、そこから広げて吊るされた大きな網。案内人によると、名物の「四つ手網」とのことで、夜間に網を沈めて、電灯の明かりに寄ってくる魚をすくいあげる漁という。ベイイカと呼ばれる小イカや、今はあまりとれなくなったがワタリガニなどが主な漁獲だそうで、「小屋で宴会をしながら、獲物を待つんだよ」と案内の方。
 聞くからに実にのどかな漁だが、それだけこの地が豊かな魚介に恵まれているのだろう。豊穣な瀬戸内海に面する岡山は、沿岸での底引き網漁や内海での船曳網、刺し網、釣漁業など、さまざまな漁法で多彩な魚種を漁獲している。鯛にイワシ、メバル、ママカリ、シャコ、アナゴ、そして最近岡山の地魚として知られるようになったサワラなど、名高いものだけ挙げても、枚挙に暇がないぐらいだ。

児島湾岸に立つ四つ手網の小屋。カラオケ付きの小屋も

 黄昏時の岡山市街へと到着したら、そんな瀬戸内の味覚を堪能すべく、やってきたのは繁華街の西大寺町にある、すし茶屋吉祥という店。瀬戸内の魚介を用いた郷土料理が自慢とあり、同席いただいたご主人の、料理の説明を伺いながらの宴となった。
 突き出しのママカリ酢漬けは、やや小ぶりのが小皿に数匹のっている。正式名を「サッパ」といい、イワシの子に見えるがニシン科の小魚である。瀬戸内一帯でとれる魚だが、常食しているのは主に岡山市周辺に限られる。というのも、岡山市の沿岸には高梁川などの大河が数本流れ込み、ママカリの餌となるプランクトンが大量に運ばれるおかげで、脂がのり身が太くなるという。
 魚体が小さいので、調理法は主に酢締めにされるほか、開いて軽く酢で締めたのをタネにしたママカリ寿司が代表的。酢の締め加減は軽めで、中骨がバキバキと歯ごたえあるぐらいが地元流とか。ご主人によると、店で使うママカリは主に、下津井などで揚がるものを使っているという。

 続いて運ばれてきたお重を開いてみると、色とりどりの魚介や野菜が美しく並んだ、華やかなちらし寿司が現れた。瀬戸内の海の幸や旬の野菜、山菜を彩り鮮やかに盛り込んだ、岡山郷土の寿司、バラ寿司である。
 見た目は華やかなこのバラ寿司、そもそもは江戸期の倹約令対策のための料理だったという。贅沢に対する監視の目は厳しいが、うまいものが食べたい。そこで具は飯の底に隠して一見質素に見せておき、食べるときにはひっくり返すと豪華ちらし寿司になる、という訳。江戸庶民の、食に対する欲求へのあくなき追求の賜物なのかも知れない。
 この日に出されたのは、そのバラ寿司を発展させた、その名も「烏城黄金寿司」。烏城とは岡山城の別名で、藩主だった池田家の家紋である、揚羽を型どった盛付が特徴だ。揚羽の羽にはエビとママカリを、末広がりに配置。ほか、魚介はタコ、エビ、サワラ、アナゴなど。山の幸は美作産の岡山黒豆に、黄ニラ、米も地場産の朝日米を使っている。

絢爛豪華な烏城黄金寿司。黒豆は金箔のせ

 魚介の中でもサワラは、今や岡山の名物地魚として、すっかり全国区になったといえる。岡山はサワラの消費量が全国一で、日本で水揚げされるサワラの6~7割が食べられている。地元では刺身やたたきなど生食もされ、生食用では全国の7割を消費しているとか。そのサワラからいただくと、酢の締め具合が軽く身がしっとり、舌ざわりがサラサラ。ほのかな土の香りが、赤身の魚独特である。
 そして野菜の中では、岡山近郊で栽培している地場産の野菜、黄ニラがポイントだ。同席の生産農家でPR活動に尽力する、その名も「黄ニラ大使」の植田さんによると、この黄ニラをバラ寿司に使い、「黄ニラばら寿司」として展開。郷土料理であるバラ寿司と、地場産の野菜である黄ニラの両方を広めるべく、努力しているという。

 普通のニラより香りが強く、甘みがあるのが特徴らしく、バラ寿司のネタをそれぞれ一緒にいただいてみることに。サワラは黄ニラと食べると、身のほの甘さが際立ってくる。アナゴは焼き目がバリッ、ふっくら香ばしく、身はねっとり。黄ニラの刺激と香ばしさが、相乗効果をかもし出す。タコはプリプリ、プッツリ歯切れが良く、かむと口の中で甘みが広がっていく。黄ニラで甘みが倍増し、プリプリと黄ニラのシャキシャキの好対照な歯ごたえが楽しい。
 そしてこの日の主役は、もう一品のサワラ料理、さわしゃぶ。サワラのしゃぶしゃぶである。昆布でだしをとった煮汁にサワラの切り身を通し、ポン酢で食べるもので、サワラは刺身が一番、と譲らない地元の人も、このさわしゃぶは別格だそう。刺身で食べられる切り身をほんの一瞬くぐらせて、表面がほんのり白く中が生なのがベスト、とご主人。刺身よりもしっかり甘く、身はしっとり。脂が熱で活性化して、白身の淡白さをくるむような広がりのある甘みがある。

  

サワラも黄ニラも、さっと汁に通すのがコツ。サワラはホクホク、黄ニラはシャキシャキに

 サワラは本来は名の通り春の魚だが、近年の人気のため、通年サワラ料理を提供する店も増えてきた。そのため近頃、瀬戸内で漁獲される地物だけではまかないきれなくなってきた、とご主人。本来、地物のサワラは、6月ごろに瀬戸内海に回遊してきたのを漁獲するのだが、産卵期のため白子や真子はうまい半面、身の味は今ひとつ。サワラの旬は秋から冬で、この時期には九州の壱岐や対馬、五島などで揚がる、脂ののったサワラが岡山の市場へと入ってくる。この、上物の他所物の影響を受けて、地物の評価が下がることが問題になっているのだとか。
 さっと汁にくぐらしてはどんどんと食べるため、サワラの身はあっという間に平らげてしまった。追加を待つ間、黄ニラもしゃぶしゃぶでいただくのがお勧め、と黄ニラ大使。サワラと同様に数秒くぐらせて口に運ぶと、シャキッときて、ややしてからピリッ、そこからニラの香りがムワッ。生で食べるよりも甘みがしっかりと分かり、これはこれでうまい。締めのご飯も黄ニラをタネにした握り寿司で、岡山の郷土料理は瀬戸内の地魚づくし、そして、黄ニラづくしでもある。(2009年10月1日食記)


魚どころの特上ごはん91…君津 『スーパー回転寿司やまと』など、内房の地魚名物の回転寿司

2009年10月10日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん


 東京湾アクアラインの通行料が、期間限定で割引になり、思い立ったら橋を渡って、気軽にお魚料理を食べに行けるようになった。東京近辺在住のお魚好きにとっては、何ともうれしい措置だろう。
 鮮度抜群の魚介を素材とした漁師料理もいいが、意外におすすめなのが、回転寿司。場所柄、地元の漁港で水揚げされるネタも揃えている上、値段は回転寿司のお手ごろ価格。加えて店舗は多くがロードサイド型で、駐車場の心配も無用だ。
 東京湾フェリーのターミナルである浜金谷にも、そんな名物地魚回転寿司の店がある。「地魚回転寿司 船主総本店」は、JR浜金谷駅付近の国道127号線に面して店を構える。ネタの地魚はすべて、東京湾の天然物のみにこだわり、すぐそばが金谷漁港という立地を生かして、地元で水揚げされるネタも取り揃えている。

 店内には、「○○港直送」「朝とれ」「近海産」などの札がのった皿が巡回し、壁には「本日の近海魚」と記されたボードも掲げられ、まさに地魚尽くし、といった感じだ。ボードの品々を検討した上で、普段あまり食べることのないネタに挑戦すべく、ブダイとホウボウの握りを注文してみる。
 ブダイは鯛と名が付くがスズキの仲間で、外見も桜色の真鯛と異なり、ずんぐりした青っぽい魚体が特徴。沿岸の岸に近い浅い岩礁に棲息する磯魚で、主に海藻を餌にしているからか、身がやや青臭くかなり瑞々しい。白身の淡白さでは、本家の真鯛よりもこちらが上かも。
 一方、ホウボウは赤っぽく細長い体型をしており、大きな胸ビレが特徴ある魚体。底魚のため網にかかることが少ないが、白身の透き通るような甘みに、真鯛より味がいいとの評価もある。淡白な白身のサクサクとした食感が、確かに上品だ。

 そして、金谷ならではの地魚も忘れてはいけない。湾口の浅い海域で水揚げされる東京湾のキンメダイは、栄養価に富んだ潮目に棲息するだけに、甘味がたっぷりと脂がのっている。舌触りもきめ細かくトロリと柔らかで、キンメで有名な銚子や駿河湾の上物にも、勝るとも劣らない旨さかも。
 さらに金谷の地魚といえば「黄金アジ」。名の通り、黄身を帯びた黄金色の魚体をしており、回遊せず湾口の瀬に居つきエビやカニなどを餌に生育しているため、シャクシャクの歯応え、びっしりとのった濃厚な脂が、強烈に印象に残る。ちなみにこの店、東京湾フェリーのターミナルに隣接しており、こうした名物地魚が棲息する湾口を船でまたぐ? 際にも、気軽に立ち寄れるのがありがたい。



スーパー回転寿司やまとの店内。大きな生簀に活魚が泳ぐ

 これに対し、アクアラインでのドライブに便利なのが、館山道の木更津インターそばにある「スーパー回転寿司やまと」。君津市街の国道一二七号線の沿道に位置し、アクアラインに乗る前や後の腹ごしらえに、おあつらえ向きの一軒である。
 入り口を入った右手には大きな生け簀が据えられ、ヒラメや鯛などが注文に応じてタモアミでバタバタと引き上げられ、実に豪快。店は房総の活魚問屋が営業しているため、これら活魚や、房総沿岸の市場で買い付けた様々な地魚を提供しているのが、人気の秘訣という。
 カウンターに腰掛けると、目の前についてくれた板前さんが、「どうぞ、何でもお好きなものを言ってください」と、まるで回ってない寿司屋のような客あしらい。さっそく、本日の地魚をチェックしようと、「今が旬」と記されたボードに目をやると、クロムツ、メダイ、トビウオ、カマスなど、東京湾ならではの魚介が並び食欲をそそる。

 

店内には地魚を宣伝する幟が。ボードには今日の地魚の入荷状況が表示

 板前さんによると、地魚の中には日替わりで出される希少なものもあり、売り切れ御免なので食べたいネタはお早めに、とのこと。まずは、日替わりの房総地魚三種盛りを注文。ピンクの身がワラサ、皮が黒いのがカマス、赤身がトビウオと、説明を受けた順にいただくと、旬の青魚らしいみずみずしさ、ほんのり脂がのった甘味、ややくせのある青臭い香りと、個性の強い地魚それぞれの主張が際立っている。
 続いては、先ほどいただいたキンメと同じ、赤身系のネタ二品だ。濃いピンク色のほうがクロムツで、身にキュッと腰があり、後から口の中に広がる皮目のさりげない甘味が、実に品がいい。小振りのは比較的浅瀬、大型の成魚は深海の岩礁に棲息し、秋から冬にかけて脂がのり、味がよくなるという。
 もうひとつのメダイも、クロムツと同様に冬場が旬で、南房総近海に数多く棲息している。身の色は淡いピンク色をしており、舌触りはむっちり、ひんやり心地よい。赤身にしては淡泊な味わいが、名の通り鯛のようでもある。

  

左からサワラ、ヒラメの縁側、アナゴと地アジ。いずれも近海の地物ネタ

 板前さんの勧めに従い、東京湾の地魚ネタはさらに続く。ヒラメの縁側は歯ごたえコリコリで、上品な白身魚にしては味が濃いのは、アラならでは。珍しいのはサワラで、瀬戸内や対馬沖など西の方で漁獲される魚だが、房総半島沿岸でもいくらか水揚げがあるという。皮つきの薄いピンクの身はほのかに土の香が漂い、サワラの本場・岡山でいただいたのを思い出させてくれる。
 ここでも締めくくりに選んだのは、活アジである。注文すると店の生簀から、背に黒味を帯びた立派なのを網ですくい、その場で締めておろして握っていただいた。黄金アジではないが、アジはスズキやアナゴ、シャコと並ぶ、東京湾を代表する地魚。鮮度のよさが味の良さに直結するだけに、おろしたてで身がツルツル、ジューシーで、じんわりと染み出る脂の甘みがとても素直。東京湾の地魚回転寿司の主役といえる、見事な一カンである。

 最後は店の自慢という、ねっとり、フワフワの白身が魅惑的な江戸前のアナゴをいただいて、これで地物はほぼお出ししました、との板前さんの言葉に充分満足。あおさ汁でひと息ついて、あとは東京湾をまたいで家路につくドライブが残っている。
それでも小一時間後には、浜金谷の産直市場で買ったクジラのタレを肴に、自宅でビールで一杯といけるのだろう。豊饒の東京湾をまたぐアクアラインの割引の恩恵に、重ね重ね感謝、である。(2009年8月15日食記)