ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…いわき 『丸克食堂』の、他所もののノドグロ煮付け

2011年09月27日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

    福島県内の一斉操業自粛でまったく漁のない小名浜だが、一部の鮮魚店や食事どころは魚どころ・小名浜を活性化させるために営業を再開している。魚市場を抜けたところに小名浜漁協の直売所と数軒の飲食店が集まっていて、直売はやっていないが食事どころはそこそこお客が訪れ、水揚げがない地物にかわり、他所から仕入れた魚で定食や海鮮丼などを出している。

 この丸克商店は1階が鮮魚店、2階が食堂だが、津波はこの建物の1階が水没するほど押し寄せ、9月に入ってから通常営業をようやく再開。昼食を兼ねて訪れてみると、連休の最終日ともあり8割ほどの入りの賑わい。「おかげさまで、ここまでお客さんに来てもらえるようになって」とおばちゃんが話す。窓際の席に座り、修復中の岸壁と休業中の魚市場、復旧なった食堂街と遠くに復旧中の直販所「ら・ら・みゅう」を眺めながらの昼ご飯となった。

   震災から復旧したとはいえ福島県内の漁は操業自粛のため、他所物の魚介を取り寄せて何とか営業している、というのが正直な印象だ。品書きによると定食と丼ものがメインで、定食は刺身、煮魚、焼き魚のほか赤次とヤナギと鮭ハラスとホッケ(売り切れだった)。

 小名浜といえば、名の通り大きな目で甘みのある白身がうまい深海の小魚・メヒカリが名物で、ニュースによるとこの店は宮崎などから取り寄せて出しているとあったが、この日はあいにく入っていないとのこと。「漁がないため、地物が全然なくて」と兄さんがすまなそうだ。

 ビールとアテに刺身盛り合わせを頼んで、状況下、どんな魚が入ってるかを見てみることに。マグロ、サーモン、甘エビ、イカ、カンパチで、全体的に脂がのっていたり食味がトロリ。特にイカがねっとり、熟成甘い。漁港食堂の磯の香りや歯ごたえのシャキシャキ感を楽しむのではなく、海鮮料理屋の脂の甘みや上品さを楽しむ造りといった感じだ。

 自分は漁港の食堂へいくと「地魚重視」のため、マグロは水揚げ地、イカは朝とれや活けなどでないと頼まず、北洋が主のサーモンなどまず注文しない。なのでこのような定番の盛り合わせをたまに食べてみると、これが一般的に人気のラインナップなのを再認識させられる。

  「今日の定食の魚で本来なら小名浜の地魚なのは?」と兄さんに聞くと「煮物のノドグロ」。底引き網の主要漁獲で、この日は北海道のものという。角皿にたっぷりの煮汁と出されたが、それほど甘く味も濃くはない。ノドグロも時節柄脂が控えめであっさりしており、ご飯のおかずというより酒の魚向けの、さりげない味付けだ。煮加減が絶妙で身の骨離れがとてもよく、中骨についた身は大きく外れてホッコリ、ホクホクさが堪能できる。背のアラや胸ビレのところはひれを持ち上げれば身がハラリとほぐれ、箸でつついたりほじったりしゃぶったりする必要がない。

 地物がなく魚の流通が少ない中、残すのはご法度と頭も分解して頭肉やほお、くちびる、胸ビレの付け根などもきれいにさらった。魚が酒肴向けの分、付け合わせの大根が煮汁の甘みとノドグロの旨味をたっぷり吸い、締めのご飯の最高のおかずである。

 漁港の地魚料理紀行「ローカル魚で絶品ごはん」の取材で訪れた際は、あちこちにメヒカリやドンコが暖簾干しされ、食堂では自家製の一夜干しに舌鼓を打ったものだ。一日も早く、小名浜の市場食堂街にもそんな活気が戻ってほしいと願ってやまない。


いわきてくてくさんぽ4

2011年09月27日 | てくてくさんぽ・取材紀行

  もうひとつ、これは被害が甚大だった1号埠頭の市場の様子。こちらはマグロやカツオの水揚げ場だが、地震で岸壁が全体的にボコボコになってしまい、岸壁と荷捌き場の中間に延々とピシッと亀裂が入り、ひどいところだと50センチはありそうな段差がついている。
 荷捌き場の建屋は危険なため立ち入り禁止の黄色いテープが貼られ、床面はボコボコ。しかも岸壁寄りは隆起沈降のせいで。段差ができて崩壊したり柱がむき出しになっていたりと、かなり危険な状態だ。隣接の冷凍倉庫は扉が壊れ、中から魚臭い匂いが漂っていた。震災後電気が止まったり氷不足で、保管してあった魚が大量に腐敗したのをニュースで見たが、それと関係があるのか。


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2011年09月27日 | てくてくさんぽ・取材紀行

  そしてこれが小名浜魚市場前の岸壁の様子。地震で壊れた荷捌き場から海側の岸壁を修復工事中である。小名浜は震災後、周辺海域のモニタリング調査の結果を受け操業自粛中で、ウニとアワビ漁は今期の休漁を決定。底引き網漁などの沿岸漁業は9月からの再開を断念。加えてカツオは「福島産」は売れないことから各地の漁船が寄港せず水揚げが行われない。
 そのため、かつて訪れた際は大小、近海遠洋様々な漁船が数珠繋ぎに停泊していたが、この日は係留する漁船はまばら。しかもほぼすべてが艫を見るといわきか福島の船籍で、後部に開口板とウインチを備えた、休漁が決まったばかりの底引き船が多い。
 荷捌き場を眺めると、水揚げもセリもなくすっかり渇き切ってしまった印象。青やオレンジのコンテナや水槽が各所に高々と積まれ、選別用の機械や魚を運ぶコンベアも数連が放置状態。場内には運搬トラックや荷を運ぶフォークリフトの代わりに、駐車車両や岸壁の工事をするユンボなどが目に入る。隣接の製氷工場など周辺の関連施設も被害を受け、製氷工場は分厚い扉が曲がったりゆがんで閉まらなくなっている。
 漁船、魚市場、岸壁、製氷や冷蔵施設、流通、造船や修理など、あらゆる漁業機能が停止した広大な港湾は、台風が近い曇天もあり空気が重く、時間の流れも重々しい。


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2011年09月27日 | てくてくさんぽ・取材紀行

  小名浜魚市場付近には鮮魚店や海鮮料理の店が集まっているが、これらも壁に穴が空いたりガラス窓が割れたりと、営業不能状態。特に休業中の大型直販所「いわきら・ら・みゅう」からバス通りに向かう途中にこうした被災店舗が並び、看板が落下していたり、観光案内板ががれきに積まれているのが寂しい光景だ。
 漁船の接岸岸壁の近くには漁業関連施設が多く、海に近い分もっとも被害を受けている一角。観光案内所は1階がむき出しに崩壊していて、その近くの通船会社の建物も1階の内部がめちゃめちゃ。やや先の漁協の直売所とレストランは休業中で、「海は強いよみがえれいわき」「復活」「心まで汚染されてたまるか」との看板がなんとも痛い。


いわきてくてくさんぽ1

2011年09月27日 | てくてくさんぽ・取材紀行

いわき駅で高速バスから路線バスに乗り換えて40分ほど。小名浜港の震災と津波の被害は、あまり報道されていないが予想以上にひどかった。バスを下車した小名浜目抜き通りの商店街は、このあたりまで津波が来た痕跡を残す。人通りも車通りも少ない上に店が閉まってシャッターが目立ち、土台がいくらかひずんだりシャッターがへこんだりと被害が見られる。
 ここから漁港に向けて小名川沿い歩き出すと、川沿いの道が陥没していたりひび割れていて、スプレーで「危険」の指示が。護岸が崩れてビニールシートがかぶせた場所や、川の中から沈んだ船の舳先が飛び出していたりも。この先の魚市場通り沿いが、鮮魚店や魚料理の店が集まるエリアなのだが…。