ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん114…上大岡  『名物らーめん 一力』の、名物やわにくそば

2008年01月27日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 酒を飲んだ後で無性にラーメンが食べたくなるのには、生理学的な根拠があるという。アルコールの分解に肝臓が血糖を使用するため空腹感が増す、のどが渇くので汁物が飲みたくなる、嗅覚や味覚が酔ってしまうため濃い味の食べ物が欲しくなるなど、いずれも自らの経験からしても分かるような気がする。
 もちろん真夜中の寝る前に炭水化物に脂や塩分を摂取するのが、体にいい訳はないけれど、翌朝の胃もたれも、宿命的な体重増も覚悟の上で、つい誘われてしまうのが人情というか、酔っ払いの優柔不断さというか。今の時期には酔っての帰りの寒さもあって、飲んだ最後に逃れられない魔の魅力(笑)が、締めのラーメンにはあるようだ。

 神楽坂界隈で催された新年会の帰り、あまりつままずに深酒したこともあって、帰る前にラーメンを一杯食べていかないと、お腹がどうにも落ち着かない。通りにはチェーンの「天下一品」「日高屋」があるが、新年会シーズンのおかげか、終電前で込む時間帯だからか、数人の行列ができている。
 こちらも終電が微妙な時間で、何とも胃の座りが悪いがあきらめ、電車を乗り継いで最寄の上大岡駅へ戻ってきたら、すでに夜中の0時が近い。周辺でやっている店は牛丼屋ぐらいか、でも何も食べないよりましか、などと思案しているうち、5、6年前に何度か訪れたラーメン屋のことを思い出す。豚骨スープに背脂たっぷり、チャーシューもどっさりの濃ゆいヤツで、お腹にどっしりたまるラーメンだった。近頃は醤油や塩などさっぱり系のラーメンを好むようになり、足が遠のいてしまっていたが、深酒後で体がラーメンを求める典型的な状況である今は、ある意味理想的なラーメンかも。

 駅のすぐ近くということもあり足を向けてみると、営業時間0時までと、ギリギリ間に合った。久々に見た店頭は、『一力』の店名とともに「名物らーめん」と大書されたウッディな看板がライトアップされ、赤地に白文字で「麺」のひと文字が染め抜かれた暖簾が揺れる。かつて訪れていたときよりも、幾分スタイリッシュになったようだ。
 そして店内に入ってビックリ。かつてはラーメン専門店のような、内装に手をかけないシンプルな店だったのが、ひと言で言えばオリエンタルなテイストに。「香港九龍碼頭」との看板が掲げられ、ほかにも中国語の貼紙、カウンターの上にはトタン屋根風の飾りなど、香港屋台をイメージしているのだろうか。カウンターの向こうも、以前の白Tシャツ白前掛け白手ぬぐいのラーメン職人スタイルだったのが、黒いTシャツに赤いバンダナの兄さんが2人。こんな時間なのにほぼ満席の客を相手に、厨房でがんばっている。


スタイリッシュな店頭の暖簾をくぐると、中はオリエンタルムード


 ずいぶん店の雰囲気が変わったけれど、メニューのほうは食券の券売機を見たところ、以前と大きく変わっていないよう。スープは豚骨醤油スープ、トリガラ醤油スープの2種類が選べる仕組みで、かつてよく食べていた、豚骨醤油スープに背脂たっぷりの「名物ラーメン」も健在だ。
 今日のところは酒の後という勢いもあり、「名物ラーメン」のトッピングにさらにボリュームをもたせた、「名物やわにくそば」に挑戦。席に着くと、卓上にあるみじん切りのニンニクがツンと香ってくる。ほか豆板醤、ラー油、酢など薬味が豊富で、薬味で自分好みの味に微調整する「家系ラーメン」を思い出す。

 カウンターから厨房を眺めていると、スープを張った丼にゆであがった麺を入れ、メンマ、ネギ、青菜、煮卵、「やわにく」をどっさりトッピング。そして仕上げに、ザルを使って丼の上から背脂を、まるで雪を積もらせるようにサラサラとふりかけてできあがり。カウンターに置かれた丼には、スープの上から丼の淵まで、背脂がびったりとついている。全体的にえらく濃そうだが、今はこれがグッと食欲をそそる。
 突撃、とばかり、まずはひとすすり。麺はストレートでツルツル、中太麺のため食べ応えがあり、空腹の胃にしっかりたまるボリュームだ。スープはかなりこってりだろう、とレンゲですすると、塩分は濃い目だが意外に脂っこくない。脂の甘みは感じられるが胃に応えるほどくどくなく、これならサラサラと飲めそうだ。
 丼の上にのったやわにくは、豚の角煮のことで、厚切りチャーシューのような燻製臭が香ばしい。名の通りホコホコ、ホロリとした食感が心地よく、スープに浸すと脂の部分がトロリといい味に。メンマと煮卵も甘めに味付けしてあり、トッピングも全体的に味が濃い目か。どっさりのネギと青菜が、しゃっきり、さっぱりと味覚を変えてくれる。


麺は中太のストレート。結構食べ応えあり


 横浜にあるラーメン屋で豚骨醤油スープ、さらに背脂といえば、いわゆる「家系ラーメン」と思うかもしれないが、この店は家系ラーメンとは異なる。違いは豚骨やトリガラなど動物系の素材に加え、魚介系の素材を組み合わせてスープをとっている点。よって家系よりもスープはさっぱりしているのが特徴で、ヘビーな家系ラーメンがお腹にきつい人にとっては、これぐらいライトだとありがたいかも知れない。
 ある程度食べ進めたら、テーブルの上のニンニク、豆板醤もスープにぶち込んでみる。すると豆板醤の赤、ネギの緑、背脂の白と、丼の上が見た目鮮やか、ますます食欲をそそる。味も香りもツンツンのダイナマイトな味わいになり、スープでズッ、ズッとすするたびに、酔いが少しずつ覚めていくようだ。

 丼をすっかり平らげて、店を出る頃にはお腹はすっかり落ち着いたよう。体も温まったことだし、冷えないうちにタクシーに乗り込んで、帰ったらこのまま寝るとしよう。明日の腹回りが少々心配だけれど、たまの深酒、たまのラーメンだからまあいいだろう、と自らに言い訳して自己完結するところもまた、酔っ払いの締めのラーメンらしいか?
 明日は酒を控えて、スポーツクラブでがっちり泳いで今宵摂取した炭水化物を消費するか、でも確か、別の飲み会が入っていたような。優柔不断の深夜のラーメン食いは明日も続くようで、「明日から節制」の明日は永遠にやって来ず… 。(2008年1月10日食記)


町で見つけたオモシロごはん113…長崎・五島 『山戸海産』の、五島でとれた水いかのスルメ

2008年01月20日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 「お酒はぬるめの燗、肴はあぶったイカ」と、あの名曲を耳にするたび、うらぶれた港町の片隅に店を構える、小ぢんまりした飲み屋が思い浮かんでくる。カウンターには人生に疲れた感じの無骨な男がひとり、カウンターを介して寡黙な女将が向かい合う。店にほかに客の姿はなく、静寂の中に燗徳利がつけられた小さな鍋が、時折クツクツと沸き立つ音をたてる、なんて具合に。
 哀愁漂う演歌の世界も心に染みるけれど、あぶったイカを肴にぬる燗で一杯、とのくだりがまた、飲んべの気持ちを惹いてやまない。「あぶったイカ」とは多分、スルメだろう。燗付きの鍋の隣でレンジにかけられた焼き網の上で、ジリリ、ジリリと丸まっていく様子は、「舟歌」のうらぶれた世界観を絶妙に演出しているように思える。

 スルメを肴に日本酒を呑む、というベタな機会は、ありそうで意外にないものだ。するとたまたま仕事先の友人が、冬休み中の旅行の土産にスルメを買ってきてくれた。長崎県の五島を訪れたとのことで、イカ漁が盛んな島らしくなかなか物がいいという。正月用に買った一升瓶の日本酒が残っていたのも思い出し、今宵はあぶった五島のイカを肴に「舟歌」の世界に浸ってみるのもいいかも。
 包みを開くと中には1匹丸のままのイカが、ビニール袋に入って登場。スルメと聞いて思い浮かぶ、頭が三角にとんがったのではなく、胴体がずんぐりと丸い形で、色も褐色ではなくやや色白だ。緑のラベルには「水いかするめ 五島富江名産」とあり、水いかという種類のイカらしい。包みを開いた時点ですでに、イカの香りがしてくるほどで、ビニールを開くとさらに強烈。まだスルメを焼いても裂いてもいないうちからすでに、ぬるめの燗が頭をよぎる。

 世界の総漁獲量の4分の1ほどを消費しているほど、日本人はイカ好きと言われている。世界有数のイカ漁場である日本海を有することに加え、世界各地の海域からの輸入量も相当なもので、それだけ、日本人の食卓にイカが深くなじんでいる証拠だろう。
 スルメイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、モンゴウイカ、アオリイカなど、耳にしたことがあるイカの種類をあげてみると、ざっとこれだけずらり。旬は夏が中心だが、これだけの種類のイカが全国各地で水揚されるのだから、地域によって旬はまちまちである。
 五島ではケンサキイカとこのミズイカが、主に漁獲されるイカの種類である。ミズイカとは一般に言うアオリイカのことで、五島のミズイカの漁獲量は、日本でも有数。胴のまわりにフリルのようなひだがついていて、これでヒラヒラと海中を泳ぎ餌を求めて沿岸へ寄ってくるところを、夜間の漁で漁獲されるという。

水いかするめのラベル。ラベルのイラストも、ずんぐり丸いミズイカがモデル


 袋から取り出したイカはそのまま頂いてもうまそうだが、能書きによるととろ火でじっくり焼くとある。そこで胴体とゲソの部分を分けて、続いて胴体を真ん中から2つに、あとはハサミでバチバチと細長く短冊切りにしていく。乾物なのに、手に取るとイカのムチッとした手触りが。網焼きにしたいところを、手間を省いてオーブンであぶること5分ほど。ビチビチ焼かれる音とともに、部屋中がイカの香りで充満したところでできあがりだ。
 隅にマヨネーズを添えた皿いっぱいに焼きたてのスルメを盛り、これまた鍋での燗の手間を省いてレンジで温めた燗酒と一緒にテーブルへ。レンジの設定を間違え、ぬるめの燗どころか熱燗になってしまったが、これで役者が揃いスルメの酒宴、いざ開宴。
 まずは胴の部分をグッとかじったら、カチンとした歯ごたえ。かぶりついて引きちぎろうにも、なかなかちぎれない。かなり固く、なかなか手ごわいスルメだ。目一杯の力でかみついて何とか引きちぎり、しっかりかみ締めてみても、何だかあまり味がしない。
 これはアゴのいいトレーニングだな、と難渋しながら口の中でグイグイやっているうちに、次第に味が出てきた。スルメといえばイカの味に加えて、砂糖のようなみりんのような甘さがにじみ出てくるものだが、この味は純粋にイカの淡い甘みのみ。イカの旨みに支えられた、素朴でほのかな甘みが、実に後を引く。一片をブチッとひきちぎり、かんで、かんで、かんで、味が出たところでようやく、日本酒をグッ。ゲソの部分はマヨネーズをちょん、とつけて頂くとパキパキ食べやすく、胴よりも味がしっかりと濃いため、酒がどんどん進む。

あぶった五島の水いかスルメ。マヨネーズをちょっとつけてもうまい


 「スルメ」とは一般的に、スルメイカという種類のイカを指す場合と、イカのワタをとって胴を干した加工品を指す場合がある。ややこしいからここでは素材のイカを「スルメイカ」、加工品の乾物を「スルメ」と呼ぶことにして話をすすめることに。
 よってスルメにはいくつかの種類のイカが使用されており、ヤリイカやケンサキイカのスルメは「一番スルメ」、スルメイカが材料のスルメは「二番スルメ」と呼び方が異なる。一般的には「一番」のほうが高級品とされ、五島ブランドの「五島スルメ」も、ケンサキイカを使った一番スルメである。
 その一番スルメよりも味がいい、とされているのが、このミズイカのスルメなのだ。福江島南部の富江町にある『山戸海産』では、親子2代でこのミズイカを使ったスルメ製造を続けている。ミズイカの旬は春先~夏という説もあるが、ここでは冬場のミズイカを使用。こちらのほうが夏を越してしっかり餌をとったおかげで、身が厚いのに柔らかく、身の味がしっかりしているそうである。さらに大きさは1キロ前後の大型、成魚に成長する途上の段階と、素材は徹底して選び抜いている。
 そして乾物ながらも、素材の鮮度はやはり、重要。「活水」と呼ばれる、水揚げ直後でまだ身が透き通っているほどの使っており、主に天日干しで自然乾燥させ、乾き具合を細かくチェック。型押しや伸ばしといった成型にも気を配り、見た目はもちろん、水分と甘みを保ったベストの段階で仕上げるこだわりの品だ。スルメイカを素材につくったスルメよりも高級品、いわばスルメの王様、といったところか。

 えらく固いが味の良さが後をひき、次々にスルメに手が伸びてはじっくりじっくりかみしめて、味を楽しんでは猪口をグイッと空けて、と繰り返し。場末の飲み屋で出される安酒のアテとは格が違う、五島の高級スルメに黙々と(笑)舌鼓を打ちつつ、酒宴はゆるゆると進んでいく。
 スルメに時間がかかるから、ちんちんの熱燗がいつの間にか、ちょうど飲み頃の熱さに冷めていた。加えて一緒に呑んでいる家内もスルメに集中して、すっかり寡黙に。あぶったイカのおかげで熱燗はぬるめになり、おまけに女も無口なほうがいい、と、場は何となく「舟歌」の世界へ? (2008年1月8日食記)


町で見つけたオモシロごはん112…銀座  『レストランあずま』の、豚肉のジュージュー焼きなど

2008年01月13日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 

 今年の冬休みは、仕事納めから大晦日までがあっという間、年が明けてからが何だか長かった気がする。お正月に続いて土日があったためだけれど、おかげで仕事始めの日もいまひとつ、お休み気分が抜け切らない。
 昼飯を食べてからエンジンをかけて今年の仕事をスタートしよう、と気合を入れたところで、携帯にメールが入ってきた。家族が自分の仕事場がある銀座界隈に買い物でやってくるそうで、まだ学校が冬休み中の子供たちも一緒とのこと。
 せっかくだから昼ごはんをごちそうしよう、と再び家族と過ごす冬休みモードに逆戻り。8丁目の博品館にやってくるので、そのあたりでいい店がないか、考えをめぐらせてみる。家族で気兼ねなく入れて、予算内で収まって、でも銀座らしい雰囲気のある店で、などいい店選びにやっきになるのは、銀座のグルメ本を作った担当としてのプライドか、はたまた父親の職場近くということで権威誇示のためか?

 子連れでも楽しめる飲食店として、浮かぶのは洋食屋だろう。いろいろと候補はあるのだけれど、銀座の洋食屋といえば店の紹介記事に「老舗」「こだわり」と称するところが多く、オムライスやハンバーグ、スパゲティといったお子様御用達メニューも、店によっては結構いい値段がする。
 博品館に近い洋食屋といえば、以前手がけた某著名料理評論家が著者のグルメ本で紹介した、オムライスが自慢のカフェが新橋の駅前にある。割と高価な店を主に紹介しているこの本の中では、手ごろな値段だが、それでもオムライスが1400円ほど。この分だと、冬休み明けで財布の中身がさびしい身としては、少々ヘビーな家族サービスとなってしまう。
 あれこれ迷っているうちに博品館に到着し、皆と合流してとりあえず和光方面へと向かう。おいしい洋食屋ねえ、と考えていて、ハタと思いついた。そうだ、「おいしい洋食屋」があったじゃないか! 

 で、やってきたのが銀座通りから交詢社通りへと折れ、さらに細い西五番街へ入ったところ。路地裏にある小ぢんまりした洋食屋である。店頭のガラスケースには、オムライス、ハンバーグ、シチューにステーキといった定番洋食のサンプルが並び、店の上には赤い日除けに白い文字で『レストランあずま』の店名。それに添えて文字通り、「おいしい洋食の店」とも書かれている。
 扉を軽く押して店内へ入ったとたん、扉がするりと閉まっていく。吊るした砂袋の重みで扉が閉まる、いまどき珍しいローテク自動ドアだ。さすがは銀座で40年の歴史をもつ老舗洋食屋、と半ば感心、半ば驚きつつ、レトロムードの店内に数客並んだテーブル席へ。昔の人に合わせてあるのか少々狭めなのを、空いているのをいいことに、店のお姉さんが2つつなげて使わせてくれた。子供連れ、しかも買い物帰りで大荷物なのでありがたい。

 


赤い日よけが印象的な店頭。老舗らしく内装はシック

 

 時間はすでに16時近く、自分はかなり遅めの昼ご飯、ほかの皆は早めの夕食といった時間で、一同かなり空腹の様子。さっそくメニューを開くと、牛ヒレ和風ステーキ、自家製ハンバーグ、ドライカレーなど、目移りするほど種類が豊富だ。この店、銀座のど真ん中という恵まれた立地ながら、ランチメニューはかなりリーズナブルなことでも知られ、ほとんどのメニューが1000円前後というからうれしい。
 安心して、皆に食べたいものを好きにどうぞ、と選んでもらうと、家内と娘は人気メニューのオムライス。食欲旺盛な息子は何にするのか見ていると、なんと一番高いジャンボハンバーグにいってしまった。自分のお目当ての豚肉ジュージュー焼きは、たっぷりのキャベツにたっぷりの豚肉を鉄板で炒めただけ、というシンプルな料理で、メニューにある「老舗の味・名物。おいしさがジュージュー音を立ててやってきます」のコピーが実に食欲をそそる。この料理、店の名物ながらもランチの底値メニューで、高めのジャンボハンバーグを予算的に多少カバーできそうだ(笑)。

 先に運ばれてきたオムライスは、付けあわせを選べる仕組みで、それぞれカニクリームコロッケとエビフライをトッピングされてきた。卵はふわふわ、トロトロに仕上がっていて、中はオレンジのチキンライスなのが、正統派のオムライスといった感じ。卵好きの娘は、これまた好物のカニクリームコロッケも頂きながら、ご満悦の様子である。
 ジャンボハンバーグは、手のひらを思いっきり広げたぐらいのハンバーグの上に目玉焼きものっており、さらにスパゲティナポリタンも添えられている見るからにボリュームメニュー。ハンバーグは300グラム以上というから、普通のの2つぶん近い大きさである。先に目玉焼きを平らげ、ハンバーグに挑みかかっている横から、ひと切れ試食してみると、大きさの割にはつなぎが少なく、しっかり挽肉でできていて本格的。渋めの味のデミソースがちょっと大人向け、銀座の味といったところか。

 そして自分の席にはまず紙ナプキンが届けられ、続いて「ジュワーッ」という音とともに鉄板に大盛りの肉が運ばれてきた。「鉄板が熱いです、あと熱い肉汁がとびますので気をつけてください」と店の人の指示に従い、先ほどの紙ナプキンを敷いた上に鉄板を置いてもらい、鉄板の上が沈静化するまでナプキンを少々たくし上げて待つ。ソースを上からかけてみたら、さらにジャーッと賑やかに。
 トッピングの生卵を混ぜ合わせてから、キャベツと豚肉をまとめてガバッとひと箸とり、まずはひと口。豚肉はこま切れで脂が多めで、熱々のため肉汁と脂がジュッと染みてくる。皿のライスといっしょにキャベツ、豚肉とジャンジャン進めると、底抜けの空腹にはうれしい食べ応えである。焼きキャベツといっしょに頂くので結構さっぱり、おろしポン酢風のソースもあっさり感をより演出している。どこまでいってもひたすら、豚肉にキャベツだが、飯がガンガン進む一品である。

 どのメニューも皆食べきれるかちょっと心配なぐらいの量だったけれど、オムライスのふたりも野菜サラダも含めてほぼ完食。巨大ハンバーグも結構な勢いで小さくなっており、本当にみんな空腹だったようだ。例のローテク自動ドアを再びくぐって店を出ると、あたりはもうすっかり真っ暗になっている。
 街路樹のネオンがきらびやかな並木通りを抜けて、皆を有楽町駅まで送り届けたら、自分は仕事場へと引き返す。やや延長となった冬休みの家族サービスを、これにて終了。老舗のたっぷり名物洋食のおかげで結局、自身も早めの夕食もかねて満腹となったようだ。このあたりで遅まきながら、ようやく仕事始めの日の仕事モードに切り替え、といこうか。(2008年1月7日食記)


旅で出会ったローカルごはん98…神戸 『寿司うを勢総本店』の、ネタがジャンボで安い握り

2008年01月10日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 

 昨年のゴールデンウィーク頃に、三ツ沢球技場での横浜FCvsヴィッセル神戸戦の観戦記を綴ったことをご記憶だろうか。神戸在住のヴィッセルサポーターである友人が、アウェイである横浜まで遠征してくれ、今期J1に昇格したチーム同士の雨中の熱戦を応援するも、残念ながらわが横浜FCの完敗。そのまま夜の野毛から伊勢佐木町へと流れ、サッカー談義に明け暮れながらのはしご酒となったものだ。
 そこで秋のアウェイ戦、つまり神戸での試合にはこちらから出向く予定だったが、あいにく横浜FC戦の日は自身の都合がつかない。そこで同じ横浜のJクラブでも、強豪・横浜FMの試合に振り替えていただき、羽田からスカイマークの便で神戸空港へ、1430分キックオフのホームズスタジアム神戸へとはせ参じた。

 試合のほうは、ここで勝てば10位以内が確定するヴィッセル神戸の気迫に、横浜FMがやや押され気味の展開となり、双方決定力に欠けてスコアレスドローという結末。それにしても、築数十年で屋根もないオンボロ球技場の三ツ沢に比べ、ヴィッセルのホームスタジアムはワールドカップも開催されただけあり、最新鋭でとてもきれいなこと。その上、ゴール裏に控えるサポーターの熱気も、横浜をはるかに上回るものがあり、おらが町のチーム、としてしっかり根付いている点はちょっとうらやましかったか。

 地下鉄で三宮へと流れれば、その後の展開は横浜の時と同様、神戸の夜のはしご酒となる。アテンドは友人任せにしたところ、三ノ宮駅の南側から、一杯飲み屋がごちゃごちゃと軒を連ねる通りを抜け、北長狭通り界隈の繁華街へ。まず連れて行かれたのはなんと、寿司屋だ。一杯、の前に軽く腹ごしらえをしてから、というのが今宵最初の趣向のようだ。
 18時をちょっと回ったところなのに、店頭にはすでに数人の客が行列している。夕方の営業は1630分からとあるのに、結構な人気店のようだ。10分ほど待ったところで順番が回ってきて、店内へと足を踏み入れると、カウンターとテーブル席主体の一見、本格的な寿司屋だ。普段は「回る寿司」が御用達の身としては、思わず身構えてしまう。
 2名さんはカウンターの空いてるとこへどうぞ、とお姉さんに案内され、ちょうど空いたところへと腰掛ける。久々の回らない寿司で緊張するかと思いきや、カップルや親子連れなど客層が幅広く、回転寿司のように気楽で居心地はいい。カウンターで「ぼくぜんぶサビ抜き」と頼む、小さな常連さんらしい子供の姿も見られ、なかなか庶民的な店だ。カウンターの向こうには職人さんが5人ほどずらり並び、満席御礼の店内から山ほど飛んでくる注文をランダムに受けてはキュッと握り、と忙しそうだ。

 


三ノ宮駅のすぐ近くにある。多客に応じて板前さんがフル稼働


 そんな店の雰囲気同様、テーブルの上の品書きに書かれた値段は200300円程度、高いものでも500円ほどと、回転寿司値段なのにホッとする。さっそく注文、まずは回転寿司の時のように、まずはイワシ、シャコとサバといった「200円ネタ」で様子見だ。目の前の親父さんにオーダーすると、伝票に手書きで逐一チェックしてから握り始める。皿の勘定がICチップ式の回転寿司に比べ、アナログというか風情があるというか。
 ややしてから目の前のつけ台に敷かれた笹の葉の上に、トン、と出された寿司を見てビックリ、とにかくネタが大きいのだ。小振りのシャリを覆うような切っつけがこぼれ落ちないように頂くと、どれも鮮度がよく歯ごたえがしゃっきり。特に青魚の2種はネタがピカピカ光っており、脂がしっかりのってこれはうまい。値段は回転寿司なのにネタの実力は本格寿司といった、関西らしく値ごろ感がある寿司である。「回転寿司に行っても、あれこれ頼むと結構高くついてしまう。ならここのほうが、ネタがいいからね」と案内の友人の言葉にもうなづける。

 この『寿司うを勢本店』店は、ジャンボなネタで評判を呼んでおり、特に昼時のランチは握り10カンで1000円を切る値段もあって、長蛇の行列必至とか。ネタの大きさに加え、ネタと酢飯のバランスがいいから、味もいいのが人気の秘訣のようだ。大阪の曽根崎、天満などにも、同様な格安寿司の評判店があり、ネタに手を加える「江戸前の仕事」を売りとする東京の寿司に対し、関西の寿司屋は値段の安さとネタの大きさで勝負、といったところか。カウンターで肩肘張らずに気軽に寿司がつまめる、というのは、屋台で供していた江戸前の寿司の本来の姿に近いようにも思えてしまう。


肉厚な白ミル。ネタはどれも2カン単位で握られる


 初手の品に気をよくしたこともあり、アジにモンゴウイカ、鉄火巻きと、定番の品を続々と追加する。アジもサバやイワシ同様、脂がよくのっていてトロリ濃厚、イカは甘みがしっかりしていて、シコシコした身が口の中で跳ね回るようだ。
 気をよくして調子に乗り、ちょっと高めのネタにも挑戦だ。まずはミル貝。白ミルで、磯の香りと甘みがミックスされ、コリコリとした歯ごたえ。続いてサーモンは生のと、品書きにあった「皮の握り」も注文。脂があふれるようにトロトロな生サーモンはもちろん、珍しいサーモン皮あぶりが意外にうまい。焦げ目がつくぐらい皮目をしっかりとあぶってあり、かぶりつくとバリッ、そして脂がジュッとあふれてくる。いわば焼きジャケのテイストで、鮭好きにはたまらない味わいだろう。

 いっそここで腰を据えてしまいたいところだが、店頭の行列は次第に伸びており、飲む前の腹ごしらえで食べすぎてもいけない。腹五分程度で席を立って次の店へ向かうべく、生田通り界隈を流れていく。寿司屋で長居は無粋だし、と粋がってはみるものの、魅力的なネタがいくつかあったので少々後ろ髪を引かれる思いでもある。
 来年のリーグ戦での「ホーム&アウェイ観戦」で神戸に応援しに来た際に、また店を再訪しよう、と思ってはみたが、片や神戸は好成績でJ1に残留、一方わが横浜FCはダントツの最下位でJ2に降格してしまい、来期はマッチメイクの機会がないのでは? 格安ジャンボ寿司を食べたさに、来期は応援するチームを横浜FMに鞍替えして神戸を再訪するかな… 。(200712月1日食記)


2008謹賀新年・ことしも「まぜまぜごはん」をよろしくお願いします。

2008年01月02日 | ◆旅で出会ったローカルごはん



新年明けましておめでとうございます。ことしも、本ページをよろしくお願いいたします。と、年賀状を見てこのページに来ていただいた方もいらっしゃると思うので、ちょっとご挨拶を兼ねて。

昨年11月末に更新意欲の低下して以来、年が明けましたがいまだに完全には復活していません。とはいえ、書かなければ書かないなりにストレスもたまる一方なので(笑)、週1回、週末更新を半ば自身に義務づけて、ここを区切りに少しずつリハビリしていきたいと思います。で、せっかくなので、最近食べたもので面白かったものを、軽くひとネタ。

年末に京都に行ったときのこと。嵐山を歩くつもりが紅葉見物の客ですごく込んでいたので、人ごみを避けて京福電車で北野へ。北野天満宮の門前の湯豆腐の名店「くろすけ」でお昼にするつもりが、昼飯で3000円以上ってのも高いか…。と通りを歩いていると、見つけたのが「豆腐カフェ ふじの」という店。向かいにある豆腐屋「京豆腐藤野」がやっている店で、豆腐や湯葉や揚げを使ったカフェというのが興味深く、寄ってみることに。


しゃれたカフェ風の店内。手作り豆腐がたっぷり使われている


メニューには湯豆腐ほか、豆腐を素材にしたデリが数品盛られたプレート、あと豆腐を使ったパフェやケーキなどスイーツも。自分は「ゆばあんかけ丼」に。軽く盛ったご飯に生湯葉と豆腐、その上からたっぷりのあんがかけてあり、薄味だから豆腐の大豆のしっかりした味が楽しめてこれはなかなか。豆腐がつるり、湯葉がクニュッ、トッピングの揚げ湯葉があんの汁気を吸ってクシュッと、3者3様の食感も楽しい。ご飯の上に昆布の佃煮が載っているのが隠し味で、仕上げに食が進むこと。

で、その夜に訪れたのが対照的な店で、地下鉄京都市役所駅の近くに取った宿に並んであった、立派な町屋を利用した食事どころ。京懐石か何かの老舗かと思いきや、これが洋食レストランというから驚き。「La Porte Bleue(ラ・ポルト・ブルー)」という店で、メニューはカレーが中心で、ほかパスタやオムライス、1品料理のアラカルトなどが中心。カレーを頼もうと検討すると、週代わりで豆腐ステーキカレーというのがあり、お昼とあわせて豆腐尽くしにすることに。

町屋を生かした洋食屋。カレーはニンニクをトッピング、スパイシーな味わい。


ご飯の上にはのりをまぶした豆腐ステーキがゴロゴロ。ほかシメジやエノキ、トッピングで注文したニンニクチップがびっしりのっている。肉がないのは「畑の肉」大豆でつくった豆腐があるからか、精進風カレーか? ルーをさっとかけ回してひとさじ頂くとかなり甘く、トマトの酸味と甘さが爽やか。豆腐をルーと一緒に食べるとツルンと心地よく、昼のあんかけ丼を思い出す。のりがたっぷりまぶしてあるので磯の香りがたち、磯辺風の味も。マイルドなルーが豆腐を包み込むようで、不思議な食感のカレーといった感じ。

…昼は京伝統の味をカフェで、夜は町屋のハイカラ洋食レストランと、建物と料理がそれぞれ逆にミスマッチな2題を紹介して、年頭のひとネタに。それでは、ことしもよろしくお願いいたします。(2008年1月2日記)