チューブを上下するアザラシや、高所のロープを行き来するオランウータンなど、北海道の旭山動物園の影響で今、動物園は生態展示のブームである。首都圏の動物園や水族館でも、同様の展示方式が導入されはじめたおかげで、はるばる現地まで行かなくても、そうした展示を見られるようになった。発案元である旭山動物園も相変わらず話題沸騰、入込客数は上昇の一途で、今では北海道旅行において富良野や美瑛よりも、旅行者のニーズが高まっている人気アイテムなのだとか。
家から近いため、普段からよく訪れる横浜八景島シーパラダイスにも、このたびイルカやクジラ、アザラシなどの生態展示を行う、「ふれあいラグーン」という施設が設置されることになった。一般へのオープン前に、マスコミ関係者へのプレ招待が行われ、仕事に出かける前にちょっと寄ってみることに。招待状には施設内での食事券と、おみやげのチケットもついているので、そちらもまた楽しみである。
ふれあいラグーンは、八景島の名物である海上を走る「サーフコースター」の近くにあり、ゲートを入ると左手にはイルカやクジラたちとふれあえるプール、右手にはアザラシやトドなどひれ足動物の展示施設が設けられている。プールでは、イルカがトレーナーの方々とトレーニング中で、その様子を間近に見られるのもひとつの売りだ。
そしてこのプール、すぐ際までお客が近づくことができ、直にイルカやクジラにふれられるのが目玉でもある。もっとも近い分、水しぶきは直撃なんてものではない。シロイルカ君たちは、今日のところはまだ引っ越して間もないため、おとなしくしているけれど、いたずらっ子の彼らに目の前でバシャーンとやられた日には、頭からずぶぬれになってしまうだろう。まあそれも、「ふれあい」のひとつといった感じか。
ショーの舞台裏、トレーニングの様子が見られるのが面白い
あまりの暑さに、プールの水を手でバシャバシャとやりながら、トレーニング風景をひとしきり眺めたら、隣接するひれ足動物の展示施設にも足を伸ばしてみる。こちらはステージに出てくる海獣たちをなでたり、触ったりできるのが特徴で、普段は施設の上に渡してある通路から、オタリア、アザラシ、トド、ペンギンたちを見下ろすことができる。通路を歩きながら眺めてみると、ペンギンは整列してえさをもらう順番待ち、オタリアは岩の上をのったり散歩、トド君はこの暑さで、巨体のためちょっとしんどそうだ。
そしてプールで泳いでいるアザラシは、中ほどにあいている真ん丸い穴にスッと入っては上がってきて、を繰り返している様子。この穴が、例のチューブへの入り口になっているのだ。階段を下りて、建物の中に設置されているチューブの前で待っていると、下からスーッとアザラシ君が上がってきて、目の前でピタリと静止、こちらをキョロキョロと見回している。チューブの存在をつい忘れて、まるで直接対峙しているようで、何だか不思議な気分になってしまう。
トンネルを下へくぐった先で、パイプ越しにアザラシ君とご対面
ふれあいラグーンは、島にある宿泊施設「ホテルシーパラダイスイン」に面していて、ホテルの2階にはラグーンを見渡せるレストランがある。三崎マグロ丼ややまゆりポークを使った料理など、神奈川の地の食材を使っているとあり、早めのお昼をここで頂いてから仕事に向かうつもりだった。ところが残念なことに、プレス招待についている食事券は、ホテルのレストランは利用できないとのこと。
前述の通り、八景島へは家族でしょっちゅう遊びに来るので、食事どころの事情は大体分かっている。バイキングとかハワイアン、中華、焼肉、寿司などで、「ここならでは」のカラーを感じられるところは、正直あまりない。今日はラグーンで日に当たりすぎで少々バテて食欲がさほどなく、バイキングとかのボリュームメニューはきついかも。
あまり選択肢のない中、今まで入ったことがない『Palmeston』というレストランに決めて店内へ。店は海上にせり出す形で立っていて、通された席からは目の前、というか真下がすぐに海。正面にヨットハーバーと、先ほどのラグーンが遠望できる、なかなかのロケーションだ。
品書きを開き、軽くオムライスと、それでも何か地元ならではのメニューがないか探したところ、あった。シーフードサラダの説明書きに、「八景島付近の幸など」とある。八景島に隣接する柴漁港は、シャコやアナゴが水揚される東京湾でも有数の漁業基地だけに、これは期待できそうだ。
という訳で、お姉さんにオムライスとシーフードサラダを注文すると、「オムライスもサラダも、結構ボリュームがありますが、大丈夫ですか?」。先日も、神谷町のダイニングバーで、オムライスの大盛りを頼んだ挙句に残したことを思い出し、ここはトーストにしておくことに。
シーフードサラダは細長い大皿に盛られ、確かに量が多いけれど、レタスやカイワレといった野菜に、ワカメなど海草が豊富だから、暑いときにはビタミンが補給できてうれしい。運んできたお兄さんに、シーフードサラダに使われている魚介を尋ねたところ、「カンパチにハマチ、ホタテ、トリガイ、海老のから揚げ、タコ、メゴチ揚げです」とのこと。
まずはホタテ、ハマチ、カンパチから、レタスにくるりと巻いて、ドレッシングにからめてひと口。多少身が柔らか目で、酸味の利いた和風ドレッシングのおかげで、食欲をそそる。対照的に、タコはガチッと歯ごたえが固め。これら刺身よりも、海老とメゴチの揚げ物コンビがなかなかいい味で、とくにメゴチはグッグッと腰があり、かみ締めるたびに甘い身の味がじわじわとでてくる。ドレッシングにからめて食べると、南蛮漬け風の味わいになり、これまたいける。
シーフードサラダ(左)と、仕事中にうれしい低アルコールビール
こうなればやっぱりビールを… といつもの展開ではそうなるのだが、今日ばかりはこの後の仕事の内容を考えると、絶対にまずい。するとうまくしたもので、メニューには「低アルコールビール」があった。あののど越しと麦の味の気分さえあれば、アルコール分は我慢しよう、と注文することにした。グッといくと、ビリッとしびれるのど越しに、これはこれで至福の瞬間。普通のビールなら、このあとグラグラッ、とくるところが、グラッ、ぐらいで収まるのが、低アルコールならではか。
厳しく見れば、刺身の味は少々微妙、「八景島の幸」というのも怪しいが、テーマパークのレストランで、しかも食事券を使ったタダ飯で、あまり深く突っ込むのも野暮というもの。東京湾を見ながら、間違いなく地物のメゴチ揚げに満足できたところで、良しとしておこうか。外に出るとさらに暑さは増しており、低アルコールビールでもさらに酔いが回り、グラグラッときてしまう。
酔いはすぐに覚めるとして、これから仕事に行く上で困ったのは、プレス招待のもうひとつの特典である、おみやげの大袋。中ではこれまた大きな白イルカ君のぬいぐるみが、ニッコリと笑っている。大荷物だけれども、娘の喜ぶ顔を思い浮かべながら、がんばって1日連れて歩くとするか。(2007年7月24日食記)