ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん26…江ノ島 『富士見亭』の、サザエたっぷりの江の島丼

2006年03月29日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 江ノ島はここ数年で、ずいぶんと見どころが増えた。大人向けスパ施設の「江ノ島シーサイドスパ」、もと江ノ島植物園と灯台をリニューアルした洋風庭園の「サムエル・コッキング苑」、そしてこの日やってきた、島南部の磯にある海食洞窟を利用した「岩屋」は、照明やオブジェを駆使した神秘的なムード漂うスポットである。ローソクを片手に洞内を拝観した後、天気がいいので稚児ヶ淵の岩場でちょっとのんびり。そろそろ引き返そうと思ったが、何度も上り下りを繰り返した上で江ノ島神社奥津宮にたどり着き、そこから急な石段を延々と磯へと下ってここまで来たことを思い返すと、ついつい歩き出すのが億劫になってしまう。昼時というのもあり、沿道の茶屋のどこかで食事がてら休んでいきたい。

 海を臨む稚児ヶ淵から、島のほぼ頂上の奥津宮までの間には、急な階段に沿って3軒の茶屋が並んでいる。海側から順に見晴亭、富士見亭、魚見亭で、一番上の魚見亭は高い位置にあり景色がいいと思われるからか、3軒の中ではもっとも混んでるらしい。そこで2番目の『富士見亭』を目指して、ぼちぼちと石段を登っていく。創業120年という歴史の古い茶屋らしく、店内は映画「男はつらいよ」で出てくる団子屋のとらやのよう。昔懐かしいレトロムード満点である。客は数組と確かに空いていて、店内の席よりも海が見えるテラス席… というと聞こえがいいが、まるで物干場にテーブルを並べたようなコーナーだ。もちろん眺望はバツグン。水平線が見渡す限り180度広がり、陸はまったく見えない爽快な眺望である。「天気がいいと店名の通り、富士山や伊豆大島まで遠く見渡せますよ」と、お冷やを運んできた店の人が話すが、さっき稚児ヶ淵にいたときの晴天からうって変わって、次第に曇り空が広がってきた。展望がいい分、近づいてくる前線の雲の先端も迫力モノだ。

 これは雨が降る前に食事を済まさなければ、と急いで注文。島内あちこちの茶屋やみやげ物屋の店頭で、サザエやハマグリを焼いているのを見かけ、これでビールを、と思ったが値段が少々割高だ。サザエはともかく、磯に囲まれた江ノ島の周辺でハマグリがとれるのだろうか、と思いつつ食事メニューへと目を向けると、ズバリ「江ノ島丼」なる丼物を発見。当地を名のる品だけに味には期待できるのか、それとも観光客御用達のメニューなのか、と迷ったけれど、その名にひかれてこれと中ジョッキに決めて待つことしばし。ジョッキで乾杯は間に合ったが、江ノ島丼が出てくる前についにポツポツと降り出してしまった。

 店の人に運ぶのを手伝ってもらいながら、急いで店内の窓際の席へと撤収すると同時に江ノ島丼の盆が運ばれてきた。どんぶり飯の上に玉子でとじた具がのっていて、見た目は親子丼かカツ丼風か。ジョッキをグイッとやりながら丼にも箸をのばすと、玉子でとじてあるのは何と、サザエ。弁天通商店街の「ハルミ食堂」がルーツといわれるこの料理、鶏肉の替わりにサザエをつかった以外は親子丼と全く同じで、ほかの具はタマネギのみ、仕上げには刻みのりがのっている。弁天通商店街の飲食店や奥津宮周辺の茶屋など、江ノ島内の飲食店の多くが出している、島ならでは(?)の定番メニューなのである。

 いくつも入っているサザエのぶつ切りの、シコシコした歯ごたえが心地いい。おばちゃんによると、サザエは江ノ島の地物を使っているとのことで、どこでとっているのか聞いたら窓の外を指す。江ノ島の南側の磯あたりでとれるそうで、行けば拾ってこれるか聞いたら沖の深いところにいる、と笑っている。ダシが親子丼らしく甘辛いため、サザエ独特の潮の香りがやや押されているが、玉子丼のおまけにサザエが入っていると思えばちょっとお得感があるか? 玉子の半熟加減がトロリと程良く、ごはんがグイグイと進んでいく。

 丼物だが少々軽めで、あっという間にごちそうさま。再び石段を登って帰ろうと思ったが、雨が本降りになってきた模様だ。もう少し食べたりないこともあり、雨宿りを兼ねて追加のジョッキと、さっき迷ったハマグリ、サザエの焼き物を頼んでみることにするか。窓の外の春の海、そして春の雨でも眺めつつ。(2006年3月19日食記)

町で見つけたオモシロごはん31…横浜 『日本のすぱげてぃー赤とんぼ』の、赤とんぼ風カルボナーラ

2006年03月26日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 とある休みの日、昼過ぎに横浜駅で娘を預かり、3時間ほどお守りをすることになった。天気がよければひと駅電車に乗って、入園無料の野毛山動物園にでも行こうかと思っていたら、この日は気温が低い上にあいにくの雨模様。屋外に連れ出して風邪でもひかれたら大変、しかも給料日前なので映画とか遊覧船という訳にも行かず、高島屋やそごうなどのおもちゃ売り場をはしごして遊ばせて時間をつぶした。そうこうしているうちに午後3時、お散歩のおやつにはアイスクリームが欠かせない娘に、そろそろ何か食べさせなければご機嫌が悪くなる頃合いである。そういえば自分も、昼飯を食べる前に娘を預かったので、結構腹が減ってきた。

 駅西口の地下街「ザ・ダイヤモンド」を歩いていると、ケーキやパフェなどが食べられるようなパーラーや喫茶店はいくつかあるものの、幼児と父親の二人、という組み合わせで入れる店が意外とない。どこも買い物客で混んでいたり、煙草の客が多かったりと、なかなか決まらないままメインの通りからどんどんと細い通路を奥へ。人通りが少ない横浜ベイシェラトンホテルあたりまで来たところで、うまいこと空席がある店を見つけた。店頭のショーケースにはスパゲティのメニューが並び、デザートもいくつかあるよう。人混みの中を長々と歩かせてしまい娘もお疲れのようなので、このお店ならアイスがあるよ、と誘って店内へと入ることに。

 食事の時間を外れているから、地下街のかなりはずれにあるからか、店内にはほかに客の姿は2組ほどしかない。子連れだと空いているほうが何かと落ち着くので、これはありがたい、と席につく。内装は和風のテイストで、中間照明で落ち着いた雰囲気。内装だけでなく、品書きを広げるとスパゲティも和風のものが中心である。おろしなめたけ、明太子とあさりと海老の京風だし仕立て、たらこバターと水菜、中には伊達鶏と蓮根の湯葉クリームソースなんてのもあり、トマトソースやぺペロンチーノといったオーソドックスなほうが少ないぐらいだ。

 新宿に本店があるこの『赤とんぼ』は、品数の豊富さと値段の手ごろさで女性を中心に人気の高い店だ。店名に「日本のすぱげてぃー」と冠するように、細麺のスパゲティを使った和風のメニューが売りで、日本独自の食材や調味料を、本場イタリアのパスタと合わせたメニューが各種並ぶ。スープとデザートつきの赤とんぼセット、サラダつきの夕焼けセットなど、お得なセットメニューが豊富なのも人気の秘訣。自分の底抜けの空腹と、娘のおやつのリクエストの両方をうまく満たすセットを探した結果、スパゲティにドリンク、デザート、スープ付きのセットでスパゲティを大盛りにしてもらうことにした。セットのデザートをおやつがわりに娘にあげればこれだけですむので、財布の中身がさびしい身としては大変助かる。

 セットのスパゲティはすべてのメニューから選ぶことができ、迷った結果和風メニューでなく、赤とんぼ風のカルボナーラにした。しばらくして運ばれてきたのは、ベーコンにクリームソースのシンプルなスパゲティで、中央に落としてある玉子の黄身が鮮やかだ。皿は朱塗りの盆の上に置かれ、フォークでなく箸で頂く仕組み。はやりの和風ダイニングの雰囲気である。そばのように細麺を箸でたぐると、クリームソースのからみがよく、とろけるようなソースがなかなか。ベーコンの塩味とコショウがよく効いていて、なめらかな味わいにいいアクセントになっている。麺はやや固めにゆであがっていて、シコシコと腰がありしっかりとしたいい味。スパゲティといえばどちらかというとソースが味の決め手だが、ここのはそばやうどんのように、麺の味がしっかり味わえるのが日本風なのだろうか。

 デザートは練乳アイスと黒蜜ゼリーのデザートで、お目当てのアイスがあったので娘は満足そうだ。パッと平らげてしまい、まだ何か欲しそうな様子である。ドリンクのリンゴジュースもあげるけど、ママとお兄ちゃんが聞いたらうらやましがるから内緒だよ、と言い聞かせてみるが、楽しかったことはすぐしゃべっちゃうから困りもの。娘が父親と差しで食事に付き合ってくれるなんで、一体いくつぐらいまでだろう… なんてことに思いをめぐらすには全然早いか?(2006年3月食記)

魚どころの特上ごはん25…鹿児島・鹿児島駅前朝市の定食屋と、『月乃家』の薩摩揚げ

2006年03月25日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 九州旅行の最終日の朝、帰京する前に鹿児島中央駅近くの『鹿児島駅前朝市』へと立ち寄った。特産の桜島大根やサツマイモ、キビナゴなど、露店の店先を眺めながら散歩しているうちに、空港へと向かうリムジンバスの出発時間まであと30分ほどとなった。まだ朝飯も食べていなければ、ここで買うつもりだった家族へのみやげも決めていない。のんびり気ままな旅気分はそろそろ切り替えて、あれこれと帰る準備にとりかからなければ。

 市場の中心にある、農産品を売る露店が集まる大きなテントの下に食堂があったのを思い出し、まずは朝食、と足を向けてみた。露店の並ぶ中に大きなテーブルがひとつと、調理場に隣接したカウンターだけの開放的かつ簡素な店で、品書きを見て定食を注文する。すると「すみません、混んでて20分ほどかかるんですが」。地元ではテレビや雑誌にも紹介されている「鶏飯」で有名な店で、大テーブルには観光客らしきグループが数組、料理が出てくるのを待っている。ごはんの上に鶏のささみほか錦糸玉子、紅ショウガ、のりなどをのせて地鶏のダシをかけた奄美大島の郷土料理で、ひかれるが待っていては買い物をする時間がなくなってしまう。またの機会に、とあきらめて退散。

 かわりの店を探そうにも、こぢんまりした市場に飲食店を見かけた記憶がほとんどなく、あきらめて空港の喫茶店で済ますかな、とテントを後にすると、すぐ隣に「うどん」の文字が書かれた暖簾がひるがえっているのを発見。古びたとても小さな店で、店頭にはのれん以外に看板や品書きなどはなく、朝から何度も前を通っているのに全然気が付かなかった。独特な雰囲気にちょっと迷ったが選択肢も時間もないので、思い切って戸をくぐる。中はまるで田舎の家の台所のような雑然とした雰囲気で、狭い店内に据えられた古びたテーブルには、客らしいおばちゃんがひとり座っているだけ。料理を注文しようにも店の人の姿がないので困っていたら、「ここで座って待ってな、ほらお茶と漬け物」と、なぜか客であるおばちゃんに勧められて席に着く。テーブルの上に置かれた漬け物をつまみながら茶をすすり、テレビを見ているうち、ややしてからようやく店のおばちゃんが、何か包みを持って戻ってきた。

 「寒いねえ、何か食べたいものは?」と聞かれたが、テーブルの上にも店内にも品書きが見あたらず、時間もないので魚料理を適当に、とお願い。するとおばちゃんは再び店から出ていってしまった。ガラス戸の外を目で追うと、何とさっき覗いていた鮮魚の露店で何か買っている様子。戻ってきて手にした物を見ると、さっきうまそうだな、と思いながら眺めていた高知の本サバと、トロ箱で売っていたキビナゴだ。丸々したサバを見せながら「市場から直送だからイキがいいよ」との言葉に、納得するほかない。どうやら客から注文を受けるたびに食材の買い出しをしているようで、これは市場食堂ならではだ。

 朝市の中程にあり、のれんが掛かっているだけというこの店、おばちゃんに店の名前を聞くと「お客さんはみんな『朝市のうどん屋さん』って呼んでるけどね、と笑っている。定食は700円で、ごはんと味噌汁にさっきのサバの味噌煮とキビナゴ刺し、さらにこれはサービス、と野菜の煮物までつけてくれた。キビナゴ刺は昨日、天文館の郷土料理の店「熊襲亭」でも食べたことを話すと、「キビナゴは夜に食べるのと朝に食べるのじゃ、味が全然違うよ」。酢味噌に漬けて頂くと身が確かに甘く、まるで香草のような香りが爽やか。くせはまったくなく、見た目と同じく透明感あふれる味で、比べてしまうと確かに昨晩のよりもおいしいかも知れない。キビナゴ漁は夕方から夜にかけて行うため、朝のこの時間は水揚げ後間もない鮮度バツグンのが食べられるのよ、とおばちゃん。なるほど、キビナゴは朝食べるのがうまい訳で、これまた市場食堂ならではの贅沢である。

 お店とお客の両おばちゃんとの話も弾み、ついつい長居をしてしまいたくなるが、空港へのバスが出発するまで残された時間はわずか。 急いで食べ終えて店を後に、サツマイモの露店とキビナゴの店のおばちゃんが勧めてくれた『月乃屋』へと急いだ。朝市の入口にあり、通りを挟んだ向かいはバスターミナルだから、ギリギリまでみやげの薩摩揚げを選べるのがありがたい。地元では「つけ揚げ」とも呼ばれる薩摩揚げは、薩摩半島の西岸の東シナ海に面した漁業の町・串木野がルーツ。近海でとれたハモやトビウオなど、地元の港で水揚げされた鮮魚をすりつぶして油で揚げたものだ。使うのはとれたての生魚のみ、出来合いのすり身などは使わない。この店では白身にエソを使い、さらに豆腐を混ぜてあるのがポイントで、昔ながらのふっくらとした食感に加え、柔らかく甘味が出るという。

 店頭には各種詰め合わせされた箱入りセットのほか、ひと袋380円のが5~6種類が並んでいて、「枚数はちょっと少ないけど、お好みで買うならこっちがおすすめ」とおばちゃん。人気の品を勧めてもらうと、豆腐入りとイワシ、白身など、シンプルなのが人気という。お勧めに従ってイワシと白身と豆腐の3品に、自分でゴボウもプラスした。ターミナルへとバスが入ってきたのが見えたので、急いで支払いを済ませて無事乗車。30分ほどで空港に到着して、これにて広島に始まった九州縦断の旅は、全行程終了… と思ったら、鹿児島空港の売店は森辛子レンコン、博多まるきたの明太子「あごおとし」など、九州の名産品コーナーが充実していて気になる。家に帰るまでが遠足、空港を出るまでが旅行、ということで、チェックインまでもうちょっとだけ、旅の余韻に浸らせてもらうとしよう。(2006年2月13日食記)

旅で出会ったローカルごはん44…鹿児島 『鹿児島駅前朝市』の、ご当地名物サツマイモに桜島大根

2006年03月23日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 広島をスタートに、九州を縦断する食べ歩きの旅も、鹿児島でいよいよ最後となった。この日は月曜日、朝の飛行機で鹿児島空港から帰京する予定である。飛行機に乗る前に朝食を済まそうと、やや早めの7時半にホテルをチェックアウトして、駅前のバスターミナルと向かった。周辺に開いている喫茶店でもないか探していると、バスターミナルに隣接してずいぶん賑わっている一角があるのを見つけた。どうやら市場街のようで、ターミナルの向かいには店頭にうまそうな薩摩揚げを各種並べた店、その向こうには仕入れの最中といった感じの鮮魚店も見える。店はさらに先へと並んでいるようで、何か朝飯がわりになりそうなものがあるかも知れない。早起きのおかげでバスの出発時間まで余裕があるので、ちょっと足をのばしてみることにした。

 バスターミナルのやや先の細い路地を左に入ると、テントの大屋根の下に農産物を扱う露店がズラリと集まる一角に出くわした。どうやらここが、市場街の中心らしい。鹿児島中央駅のすぐ近くの一角に、およそ70店ほどの露店が軒を連ねるこの『鹿児島駅前朝市』、戦後に近郊の農家が農産品を持ち寄って商売をしたのが起源といわれるだけに、扱う品は野菜や果物、花が中心である。テントの下をぶらぶらと歩いていると、農産品の中でもご当地・鹿児島特産の品が結構目につく。サツマイモをたくさん並べた店では、金時、べにさつき、こがね、こがねむらさきなど、特産だけに種類が豊富だ。店の人に違いを聞いてみたら、こがねは中が白っぽく、こがねむらさきは皮は白っぽいが名の通り中は紫色とのこと。「見かけは様々だけど、味と値段はどれもだいたい同じだよ」と笑っている。サツマイモは主に、温泉で有名な鹿児島市の南寄りにある指宿で栽培しているという。南国の暖かい気候に恵まれているおかげで柑橘類の栽培も盛んで、別の店には店頭にミカンのほかキンカン、ハッサク、巨大なばんぺいゆなど、大小様々なミカンの仲間が。オレンジや黄色などどれも色鮮やかで、何だか明るい印象の市場である。

 そしてサツマイモに並ぶ鹿児島特産の野菜といえば、巨大な桜島大根。大根といっても形はカブに似た丸形で、店頭に人の頭より大きいのがゴロリと鎮座しているのが目をひく。店の親父さんに重さを聞いてみたら「これでひとつ10キロぐらい。小さい方で普通は15~20キロ、大きいものだと30キロ以上になる」。主に市街の対岸に浮かぶ火山の島・桜島で栽培しており、ほか鹿児島近郊と山の方でも作っているという。これだけ大きくなるのは、火山灰を含む桜島の土壌と温暖な気候のおかげだよ、とおじさん。調理方法も特別なのかと思ったら、切ってしまえば普通の大根とそれほど差なはなく、煮付けにするとうまいとか。普通の大根と水分量は変わらないのに煮くずれしにくく、煮込むと柔らかく甘味が増すので、おでんや煮物、また漬け物にも適しているそうである。「でも大き過ぎてなかなか食べきれないのか、最近は丸のままだとなかなか売れないね」とおじさんが話す隣には、数個に割ってやや割安で売っている大根もあった。

 テントの周辺にも数軒の店が並んでいて、テントの向かいには小規模なスーパー、その店頭にはトロ箱を並べた鮮魚の露店もある。市場には鮮魚や水産加工品の店もあるが、ざっと見たところ3軒ほどと少ないよう。鹿児島は錦江湾と近海を流れる黒潮など優れた漁場に恵まれ、春はカツオ、夏はキビナゴやマダコ、秋はサバやカツオ、冬はブリやマイワシなど、様々な種類の魚が水揚げされる魚どころだけに、ちょっと残念である。鮮魚の露店ではおばちゃんがアジを袋詰め中、札には大分産とあり、20センチぐらいのいい型だ。刺身にすると最高とのことで、ほか高知の本サバも丸々していてうまそうだ。そのとなりの木箱にいっぱい入った小魚は、昨晩天文館の郷土料理の店「熊襲亭」で刺身で食べたキビナゴ。「鹿児島でおいしい魚と言えばこれ。あとはつけあげ(薩摩揚げ)だね」と話すおばちゃんによると、キビナゴは料理屋だけでなく、一般の家庭の晩ごはんのおかずでも出るという。手開きにして刺身にして酢味噌で食べるほか、塩焼きなど総菜にももってこいなのだとか。

 店頭を冷やかしながらざっと市場を一巡して時計を見ると、空港へ向かうリムジンバスが出発するまであと30分ほどしかなくなった。そろそろ朝飯を頂く店を決めて、最後の最後のおみやげも仕入れて… と、何だか忙しくなってきたようだ。朝飯と買い物編は、次号にて。(2006年2月13日食記)

町で見つけたオモシロごはん30…横浜・新杉田 『杉田家』の、削り節に梅干が決め手の和風新杉田ラーメン

2006年03月21日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 朝から降り続く小雪の中、習い事へ通う娘を送って最寄り駅の新杉田近くまでやってきた。無事に送り届けてひと安心、引き返そうとすると降雪は大したことないものの、数センチの積雪が見られる歩道を歩くと、足元からしんしんと伝わってくる冷え込みが結構きつい。雪のせいか、いつもは買い物客などで賑わい始めている駅前も、人の出足がかなり鈍いよう。駅の近くにある人気のラーメン屋『杉田家』の前を通ったところ、珍しく店内にパラパラと空席がある。普段なら昼前になると10人程度の行列ができていて、なかなかぶらりと入れることはないのだが、これは積雪様々といった感じ。こんな冷え込んだ日に食べるラーメンはいつもの倍うまいだろう、などと喜びつつ、ちょっと暖をとっていくことにした。

 杉田家はかつて紹介したように、横浜「家系」ラーメンの総本山である横浜駅西口の「吉村家」直系6店舗のうちの1軒。トンコツベースの醤油味のスープに太めの麺、麺のゆで加減とスープの味を調整できる、といった家系ラーメンの特徴を継承している。前回初めて訪れたときは、ベーシックなラーメンを頂いたので、今回は少し注文に工夫をしてみたい。チャーシュー麺にするか、大盛りにチャレンジするか、はたまたトッピングをセレクトしてみるか… などと食券の券売機の前で思案していると、並ぶボタンの中に「新杉田ラーメン」なるものを発見。ほかの店にはない、ここだけのオリジナルメニューとあり、これは、とボタンを押してみた。カウンターに座ってお兄さんに券を出しながら、ついでに「味は濃い目、油少なめで」。2度目の来店で慣れたこともあり、家系ラーメンの流儀である、味の調整にも挑戦である。

 まだ自分が学生だった頃は、札幌の味噌ラーメンとか博多のトンコツラーメンが主流の時代で、濃厚な味噌味にバターがのったのとか、替え玉のお代わりにトッピングは角煮も玉子も全部のせとか、ヘビーなラーメンを向かうところ敵なし! といった具合に食べまくっていたものだ。あれから10数(?)年、ラーメンも様々なご当地ラーメンからオリジナリティーが売りの「ご当人ラーメン」と変遷し、ここ数年は醤油ラーメンや塩ラーメン、カツオや煮干など和風ダシのラーメンなど、あっさりとしたテイストが主流である。横浜屈指のラーメン激戦区である杉田界隈も、近頃はこうしたラーメンを出す店が増えている。新杉田ラーメンも「和風」とあるように、味の主役はカツオ。といってもスープの素材ではなく、出された丼の上に何と、たっぷりの削り節がふりかけられているのだ。

 最近見かけるさぬきうどんの専門店では、削り節をこんな風に使ったうどんがあったな、などと思い出しながら、まずは削り節がからんだ太目の麺をひとすすり。これはカツオのダシがたっぷり効いている、というか、ダシの元自体をそのまま食べているのだから、旨味がたっぷり含まれている訳だ。スープもひと口すすってみると、店独自の茶色くどろりとしたトンコツスープに加え、削り節から出たダシがかなりしっかりと効いているため、重層的な力強い厚みがある。まるで「カツオブシラーメン」といった感じで、結構後をひく味わいである。

 ざっとそのままで味をみたので、今度は卓上に10数種類並ぶ調味料の登場だ。様々な薬味や調味料を客の好みで加えて頂くのも、家系ラーメンの流儀のひとつで、店の壁に掲げられた「おいしい召し上がり方」によると、コショウ少々、ニンニクと辛子味噌とおろしショウガをそれぞれスプーン半分、仕上げに酢を少々とある。今日は寒いので、体が温まるショウガにニンニク、辛子味噌をやや多めに加え、さらに黒酢を少々。味濃い目にしてもらったこともあり、なかなか刺激的な味に仕上がった。

 それほど酢を加えたわけではないのに、食べ進めていくにつれ、酸味が強く感じられるようになってきた。しかも酢の酸味ではなく、もっと親しみがある懐かしい酸っぱさだ。その正体は何と、梅干。梅干をたたいてトッピングにしているのもまた、このラーメンの特徴で、カツオに梅とくれば見事な和風の味付けだ。梅はかつて杉田の名産品で、今では主に小田原で栽培されているが「杉田梅」という銘柄も残っている。その名物である梅を使っているだけに、まさに新杉田ラーメンというネーミングがふさわしいように思える。

 あっさりしている上に梅の酸味で食が進み、さっと平らげて丼をカウンター奥へ戻し、台拭きでさっとカウンターを拭いたら店を後にする。扉を開けると、外は何とボタン雪。せっかくのぬくもりが家まで持続しそうにないが、途中にはまだ2軒ラーメン屋があるから心配ない。どちらも魚介をベースにしたあっさり、旨味濃厚スープだから、10数年前の食欲はなくても楽々はしごできそうだ。(2006年1月21日食記)