京町から城下町筋を渡ったところ、寺町通り商店街のアーケード手前に、間口の狭い洋館風の店構えが周囲の和の風情に異彩を放つ。青いガラス扉から中に入ると一転、土間に面して広い畳座敷が広がり、奥には庭、さらに二階にも客席ありという、規模の大きな和カフェだ。上がり座敷に靴を脱いで入ると、正面には数名のカウンターがあり、畳の広間には丈の低い卓が、余裕を持って並んでいる。木板の天井には裸電球が灯り、温かい雰囲気を醸し出している。
「ムギカフェ」は昭和初期の古民家をリノベーションしたカフェだ。地元の生産者と連携して地産素材を重視、引き立てた料理が人気を博している。おもに地産の小麦「桑名もち小麦」を用いたうどんなど麺、ピザやパスタやパニーニなどの洋食が売り。選んだ日替わりのランチは、この日は玄米ご飯に主菜はサケの冷製ムニエル、副菜は切り干し大根にごま豆腐、汁物は冷製野菜スープの組み合わせだった。プチデザートとコーヒー付きで1500円は、ヘルシーかつお得なメニューである。
大きな木の盆にのって運ばれてきたランチは、和と洋のテイストがバランスよく、野菜の色合いが鮮やかで食欲をそそる。切り干し大根は控えめの味付けがよく染み、ごま豆腐はしっかり締まりゴマの香ばしさが主張する。主菜のサケは身離れがよく塩加減もほどほど、冷製なので身の味をはっきり楽しめる。これらを適度に歯ごたえがプツプツした玄米ご飯が、また控えめにおかずの味を支える。桑名産ミルキークイン玄米を使っているそうで、パサつきがなく香ばしく、いかにも体にいい食感である。
総じて食材本来のうまさと力を引き出した調理で、体にスッと入り毎日欠かさず食べたくなってしまう。幼い子連れのお母さん方が多いのは、料理への安心感と畳の間の居心地の、両方のおかげだろう。こちらもデザートのイチゴアイスとコーヒーをいただいていると、裸電球の薄明かりのおかげでつい畳に転がって眠ってしまいそうになる、桑名の和みのローカルカフェである。