ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん28…大阪・新世界 『づぼらや』の、フグ握りにフグうどんつきのフグ三昧

2006年05月30日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 大阪市民の台所である日本橋の黒門市場には、瀬戸内を始め西日本で水揚げされる様々な魚介が並んでいた。中でもハモとフグは、関西の食文化を語る上で欠かせない魚だ。ハモは関東ではほとんど口にする機会がないけれど、黒門市場のかまぼこ屋やフライの店などでは惣菜としても売っており、ハモの天ぷらとハモちくわを買い込んでホテルでビールのつまみにすることに。ついでにここでフグも味わおうと、市場の中にあるフグで名高い料亭「太政」や「浜藤」を覗いてみたが、こちらはてっちりのコースで1万円ぐらいからとさすがに高いようである。

 ミナミで大衆的な値段でフグを味わうならば、「かに道楽」の巨大なカニの看板、食いだおれの人形クンと並ぶ「ナニワ3大ド派手オブジェ」で有名なあの店だろう。黒門市場を後に、日本橋の電気街を歩くこと15分ほど。目指すは通天閣のたもと、新世界の原色あふれるきらびやかな看板が連なる小路の、大きなフグ提灯。大正9年創業の、大阪屈指のフグ料理の老舗の『づぼらや』である。通りを挟んで本店と別館が向かい合っており、本店はいかにも歴史ある割烹風。小さなフグ提灯もいっぱいぶら下がっていて、外観からしてまさにフグづくしである。店内はあいにく満席の様子で別館に足を向けると、こちらはフグの形をした建物が何ともユニークだ。外観同様、店内は近代的で明るく広々していて、フグ割烹、料亭というよりはレストランといった雰囲気である。

 この店の自慢は、とにかく値段の安さ。てっちりやてっさなど、フグ料理を通年手ごろな値段で味わえるため、地元大阪のフグ好きにも定評がある。店頭のショーケースには様々なフグ料理がずらりと並び、定食やコースでも3000円ぐらいからと、先ほどの黒門市場の料亭に比べると確かに安い。一品料理もてっさ1200円からと安く、唐揚げ、天ぷら、寿司、湯引きといった定番フグ料理のほか、変わったところではフグのカツ丼にフグ天丼、フグうどん、さらにはフグコロッケ、フグカツ、ドリアなんてのも。安さの秘訣は天然トラフグと活けのトラフグを使い分けていることにもあり、同じてっさでも天然と「活け」とで値段が異なる仕組みだ。料理には下関をはじめ、主に西日本各地で水揚げされたトラフグを使用しているという。

 フグ料理の店にやってきた以上、フグの薄造り「てっさ」はぜひ食べてみたい。値段も手ごろで魅力だが、かつて下関でフグ料理を頂いたとき、究極の淡白さを楽しむてっさより、旨味を引き出す加熱調理した料理のほうが気に入ったのを思い出す。品書きから唐揚げや天ぷらを探すと、それにうどんと握りがついた「フグ三昧」というセットを発見。ヒレ酒と一緒に注文することにした。まずは揚げたて、熱々の唐揚げを頂きながら、ヒレ酒で乾杯。ヒレ酒を運んできた店の人によると、唐揚げにはアラや中骨を使っているとのことで、揚げることでフグのほんのりした旨味が強調され、淡い味だがなかなかいける。ヒレ酒は熱燗のため、グラスを気をつけて持ってひと口。日本酒が琥珀色になるぐらい、ヒレからじっとりと味が出ていて、熱々なために香ばしさが際立っている。瑞々しく、ホクホク弾力がある唐揚げとの相性はバッチリ、グラスをあおり、唐揚げを小骨に気をつけながら上手に身をしゃぶる。

 唐揚げを肴に、あっという間にヒレ酒のグラスが空になったので、握りとうどんで締めくくるとする。握りのタネはもちろん、フグ。ぐいぐいと歯ごたえある白身、ホロリとした食感に旨みがしっとりした湯引き、そして大阪の寿司らしく、手が加わった豊かな味のバッテラと、3通りの味わいが楽しめるのが面白い。さらにうどんも驚くことに、フグがのった「フグうどん」だ。パンパンに煮えた尾の方の身がふたつ、麺の上にゴロリとのっているのを頂くと、身がプリプリとなかなかうまい。つゆに浸っているが味がぬけておらず、白身の味がしっかり。少々変わりメニューのようだが、お手軽なてっちりと考えれば意外にお得かも知れない。

 今日は15時過ぎに難波へとやってきて、名物カレーや市場のテイクアウト、串カツにフグ料理と、わずか数時間でかなり精力的に食べ歩いたものだ。さすがにお腹のほうはそろそろギブアップ、これにて難波のホテルへと引き返すことに。すると通天閣の真下を通り過ぎたところで、レトロな銭湯風のサウナを発見。ひと汗かいて酒が抜け、お腹の具合も落ち着いたら、さらに道頓堀や心斎橋界隈へと遠征する余裕ができるかも?(2006年5月20日食記)

旅で出会ったローカルごはん53…名古屋・大須 『御幸亭』の、老舗洋食屋の味噌カツ定食

2006年05月29日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 味噌煮込みうどんや味噌おでん、どて煮など、名古屋には味噌を使った名物料理が数多い。これらに使われているのが、ドロリと濃厚で赤黒い色をした味噌。大豆からつくられるため「豆味噌」と呼ばれるこの味噌は、名古屋を中心とした尾張・三河地方独特のもので、地元の人々の食生活に根付いている。味噌汁など汁物や煮物、和え物などの料理に使うのはもちろん、料理に直接かけてしまう「味付け味噌」というものも存在するほど。名古屋の人が全国で一、二を争う味噌好きと言われる由縁である。

 名古屋の都心にありながら下町情緒が漂う大須の町は、東京でいえば浅草のようなところだ。大須観音から続く仁王門通りの沿道には、飲食店や雑貨の店、名古屋名物ういろうの老舗やきしめん屋といった、レトロムードな店舗が軒を連ねる。一方、1本隣の通りである万松寺通りには、ストリート系というかパンクというか、かなり奇抜な格好をした連中がゾロゾロ歩いているのには驚き。沿道にもファッションやアクセサリーなどのショップが数多く並び、名古屋の若者達のメッカなのだろうか。こちらはひと昔前の浅草や渋谷を思い出させるような雰囲気である。

 そんな個性的な町並みを歩くこと数分、門前町通りへ向かってやや折れたところで、目指す『御幸亭』の看板を見つけた。大正12年創業の老舗の洋食屋で、お目当ては人気メニューのひとつ、味噌カツだ。名古屋ではトンカツにソースではなく、味噌をベースにしたタレをかけるのが当たり前。トンカツも立派な、名古屋郷土の味なのである。お昼時をやや過ぎているが、店内は家族連れやグループ客で満席とずいぶん賑わっている。ここは古くから家族経営の店で、現在のご主人である3代目と、息子さんの4代目が店をとり仕切っている。フロアではお姉さんが二人、忙しい中を元気よく接客しているのが気持ちいい。順番を待ちながら眺めていると、目の前をハヤシライスやフライ盛り合わせの皿が行ったり来たり。これまた名古屋名物の、大きなエビフライもうまそうだ。

 すぐにひとり用の席が空いたため大テーブル席の一角に通され、さっそく味噌カツ定食と中ジョッキを注文。ライスと味噌汁付きで、しばらくすると洋食屋らしく、おかずが楕円形の銀皿にのって運ばれてきた。大き目のカツにはツヤのある濃茶のタレがかかっていて、少々味が濃そうだな、と思いながらまずはひと切れ。するとまろやかな甘味が広がった後、ほのかな渋みが上品に効いていて、これはなかなか後を引く。とんかつソースのピリッとした辛さとは対照的な、ホッとする優しい味わいだ。カツはやや薄め、衣は少々厚めなため、サラサラのタレがかかっていてもカラリと香ばしいのがうれしい。

 「味噌カツは私の父である2代目が始めたもので、うちのメニューの中では新しい方なんです」と話す、ご主人の奥さんである安田さんによると、この店のタレはさっぱりした軽さが特徴という。豆味噌にザラメを加えて鳥ガラスープでのばしたタレは、豚の内モモ肉に生パン粉をまぶし、ラードだけでカラッと揚げたカツとの相性バツグン。店によってはカツがベショベショになるほど味噌ダレをかけるところもあるが、やはりトンカツはサックリした歯ごたえが身上だろう。店ならではの味の秘訣を尋ねたところ、2代目が自分の子供が好む味にしたい、と娘、つまり「私の好みに合わせたんですよ」と笑っている。

 ちなみに味噌カツのルーツは昭和40年代、大須周辺に多かった屋台で、客が「どて煮」の味噌に串カツを入れて温めて食べていたこととか。だから味噌カツのタレはこの店のように、本来はつけ汁のような感覚かも知れない。タレの深みのある甘さがくせになり、カツをつまみながらビールを飲み干した後は、付け合わせのキャベツやポテトサラダも残ったタレにつけて食べてしまうほど。愛知万博は終了して久しいけれど、エネルギッシュな大須の町を歩き、名古屋の味である豆味噌を味わえば、あの頃盛り上がっていた名古屋のパワーを再び感じることができた気がした。(2006年5月21日食記)

旅で出会ったローカルごはん52…大阪・ジャンジャン横丁 『八重勝』の、ソース2度漬けご法度の串カツ

2006年05月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 難波の老舗洋食屋「自由軒」の名物カレーで昼食にした後、大阪市民の台所である黒門市場を小1時間ほど散策した。かまぼこや天ぷらなど、市場ならではのテイクアウト入りの袋を提げて、宿に戻って軽く一杯… には、まだ少々日が高い。この分だと明日の午前中に訪れる予定だった、新世界やジャンジャン横丁へもいけるかも知れない。「大阪の秋葉原」との異名を持つ日本橋筋の電器街を、新今宮方面へ向けて歩くこと10分ほど。行く手にそびえる通天閣の姿が、次第に大きくなってきた。串カツ屋や立ち飲み屋、一膳めしにうどんなど、飲食店が密集するミナミ屈指の繁華街・新世界である。

 フグの大きなちょうちんの看板が目を引くづぼらやのあたりから、原色の看板が連なる小路と通天閣の写真を何枚か撮った後、「ジャンジャン横町」のアーケードに着いた頃には、あたりにはすっかり明かりがともっていた。ここは細い通りに沿って、立ち飲み屋や串揚げの店、小さな寿司屋などが軒を連ねていて、周囲には将棋倶楽部や弓道場もある、大阪を代表する庶民の町である。特に、間口の狭い一杯飲み屋の多いこと。流行りのオープンテラス、などという洒落たものではないが、どこも入口に扉がなかったり、あっても開けっ放しで、すでにほろ酔い気分で盛り上がっている様子が、通りから丸見えだ。

 そんなご機嫌な客達の誰もが、ビールや酎ハイ、コップ酒を片手に串揚げやどて焼きに喰らいついているのを見ると、こちらも気分が盛り上がってくる。横町の店の中でも特に串揚げが評判という『八重勝』を訪れてみると、なんとものすごい行列。列は店の前に2重に折り返しており、タイガースのユニフォームを羽織った若いグループ、ギンギンにメイクしたお姉ちゃん、さらに熟年カップルやこんな場所に父子連れなど、客層は実に様々だ。ほかにも串カツ屋はあり、この行列に向かって店の人が必死に叫んで客引きしているが、ここのほか通りの奥にある人気店「天狗」以外は閑古鳥が鳴いている始末。行列しているカップルの男性のほうが、込んでいるから別の店に行こう、と誘ったところ、女の子が「八重勝じゃないならいらんわ」。地元・大阪の客がこれだけこだわる串カツ屋とは、何だか期待が持てる。

 20分ほど並んだ後に店内へと通され、長いカウンターの片隅に腰を据えた。まだ夕方だというのに、店内は串揚げをかじっている客と酔客でかなりの賑わいだ。カウンターの向こうには、どっしりと貫禄がある親父さんを中心に若い衆がずらりと並び、ひっきりなしに飛び交う注文を受けては、黒い大鍋の中で音を立てている油の中へと串をポンポン放り、揚がった串は客の前に置かれたトレイにどんどん並べられていく。先に頼んだビールを傾けながら、壁に貼られた品書きを見ると、串カツをはじめ、ゲソやタコ、豚肉だんご、貝柱や、玉ねぎにナス、ししとうなど、実に色々な種類の串揚げがある。値段も100円からと手ごろで、3本で300円の串カツと一緒に「どて煮」を頼むとすぐに、目の前の鍋でことこと煮ているのをさっと抜いて出された。

 どて煮は牛スジを白味噌と砂糖で煮たもので、出されるのが早いのはうれしいがとにかく固い。七味がピリッと効いていて、よくかむと次第にスジの旨みが出てきて、味噌の強烈な甘みに負けずいい味だ。何度もガシガシとよくかみ、中継ぎにビールをあおり、と時間がかかるから、串揚げが揚がるまでちょうどいいつなぎになる。いい加減あごが疲れた頃、揚げたての串カツがジュクジュクと音を立てながら、目の前のトレイにころん、と転がされた。目の前の容器に入った、創業以来追い足されてきたという秘伝のソースに浸けてから自分の皿へと運び、ひと口かじった途端、衣がすっぽりぬけてしまった。

 これでは素揚げだな、とあわてて肉を再びソースへ浸そうとすると、「ソース2度つけお断り」の貼り紙が目に入る。このルールのおかげで衛生上の面はもちろん、客達が次々に浸す串揚げによってソースの旨みが増すのだから、なかなかうまくできている。いわば大阪の串揚屋の「鉄の掟」で、2本目の串カツをソースに浸して、今度はしっかりかじりついてから串を引く。山芋を混ぜてありサックリカリカリの衣の中は、薄く柔らかい肉を衣がとろりと包み、これはいける。カウンターの上の皿に山盛りになったキャベツが取り放題で、これが串揚げの脂っこさを押さえて消化を助けるから、串揚げとビールがどんどん進んでしまっていけない。

 串カツとどて煮をそれぞれ3本ずつ平らげ、追加は玉ねぎ揚げか、ゲソかと迷ったが、まだまだ時間は19時過ぎ。大阪のうまいもん食べ歩きは後が控えているので、軽くひっかけた程度で店を後にする。さすが食い倒れの町・大阪、地元客の行列の店は味に間違いなしだな、と感心しつつ、再び新世界界隈へ。するとさっきのづぼらやのフグ提灯にぼんやりと明かりが灯り、その向こうに通天閣のネオンがキラキラと輝いて見えた。(2006年5月20日食記)

旅で出会ったローカルごはん51…大阪・難波 『自由軒』の、ルーをご飯に混ぜ込んだ名物カレー

2006年05月22日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 抱えていたいくつかの仕事がひと段落して時間ができたので、週末を利用して大阪のミナミで一泊、さらに名古屋を経由して豊橋で一泊、と、ちょっとした食紀行に出かけてみた。ナニワでの食道楽、名古屋めしへのチャレンジ、さらに三河湾の海の幸、と、3日それぞれのテーマで食べ歩きを楽しむことにしよう。

 大阪随一の繁華街である道頓堀には、食事処や飲み屋の派手できらびやかな看板があふれ返っている。「食い倒れの町」だけあり、店同士の競争が激しいせいもあるだろう。しかし、赤や黄色やオレンジ色など原色を多用した派手な看板、そして巨大なカニやフグにタコに龍といったオブジェを見ていると、自己主張が激しい大阪人気質が、そのまま映し出されているようにも思えてしまう。新大阪から地下鉄御堂筋線で心斎橋へ、心斎橋筋をぶらぶら歩きながら戎橋を渡り、道頓堀通りで昼飯を頂く店を探してみるが、こうした押しの強い看板を見るだけで、入口をくぐる前に思わず引いてしまう。

 店を決められないまま難波まで歩いてきたところで、アーケードの難波本通りにある一軒の店の前で、ようやく足を止めた。店頭には懐かしいガラスのサンプルケースが置かれ、モスグリーンに染め抜かれた暖簾には「大衆洋食」の文字。賑やかな道頓堀を歩いてきたおかげで、ずいぶん地味な店に見えるが、昔ながらの大衆食堂といった感じで好感が持てる。この『自由軒』の暖簾をくぐり、中へ。店内は少々薄暗く、壁面にずらりと貼られたメニューに並んで掲げられた、「夫婦善哉」の作者である昭和初期の文人・織田作之助の写真がひときわ目立つ。「織田作文学発祥の店」とあるが、氏の作品の舞台になった店なのだろうか。

 古びたテーブル席についたら、注文する前に周囲の客がどんな料理を食べているか観察してみることにした。すると、サラリーマンがカレーにソースをかけて、「ここのカレーはビールに合うんだな」とひとりしゃべっていたり、茶髪のおばさんにパンチパーマの親父という二人連れが、「儂は別カレー」「うちは名物カレーと、串カツ」と頼んでいたりと、独特な客層に少々とまどってしまう。レジにはおばさんがひとり、まるで置物のように黙ったまま動かずに座っており、フロアでは玉ネギのような髪型をした背の高いおばさんと、小柄で小太りのおばさんという凸凹コンビが、洋食屋らしく黒のレースのエプロンをまとってお客をさばいている。こちらはどこかユニークで、食堂を舞台にした新喜劇のワンシーンのようだ。

 お客の多くがカレーを頼んでいるので、自分もカレーとビールを頼んでみた。すると「名物にします? 別にします?」と、注文をとりにきた玉ネギノッポのおばさんに聞き返される。名前にひかれて、「名物カレー」にしたら、出てきたのはドライカレー風。真ん中に生卵が落としてあるのが独特だ。卵をつぶしてぐちゃぐちゃ行儀悪くかき混ぜて、まずはひと口。鋭い辛さが舌にビリビリと伝わるが、卵のおかげでマイルドな味わいだ。ドライカレーというより、普通のカレーに近い味である。先ほどのサラリーマンの独り言通り、これはビールが進む。

 明治43年の創業以来80年の間、大衆洋食ひと筋というこの店の料理の中で、「名物カレー」はかの織田作之助も絶賛したという、店の看板メニューである。具は炒めた玉ネギと牛肉のみ、これに「うすくち」と呼ばれる秘伝のダシを加えた特製のルウが味の秘訣だが、特徴は何と言っても、ご飯にルウを混ぜ込んだ独特のスタイルだ。ちなみに「別カレー」とは、ルウをご飯にかけた、ごく普通のカレーライスとのこと。また、ソースをかけて食べるのも、創業以来のこの店流のスタイルとか。

 食べ進めていくと確かに、普通のカレーよりもご飯とルウががよくからんでいるからよりうまい気がする。ご飯とルウは結局一緒に食べる訳だし、ご飯が余らないようにうまくすくって、と余計な気遣いをしながら食べる必要もない。大阪ならではの合理性と「形より味重視」の精神が現れた一品である。値段も手ごろで、さらりと平らげてごちそうさま。晩飯を頂く予定の新世界・ジャンジャン横丁へ行くにはまだ日が高く、大阪の台所・黒門市場をぶらつくか、日本橋の電気街を歩いて通天閣へ向かうか。ナニワの町歩き、そして食い倒れ散歩は、まだ始まったばかりである。(2006年5月20日食記)

町で見つけたオモシロごはん43…金沢文庫・称名寺 『金沢庵』の、参道で頂くアナゴ天ぷらと牛スジ煮込み

2006年05月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 ゴールデンウィークも中盤に差し掛かると、遊びの資金が次第にさびしくなってくる。天気もいいし、娘と近くの八景島へでも行ってみるか、と思ったが、アトラクションに乗ったり飲み食いをしたりして、果たして手持ちの予算で足りるだろうか。交通費を節約すべく、バスのプリペイドカードがあるのでそれで金沢文庫駅へ、そこからは八景島がある海の方へ向かって歩いてみるか。途中に拝観料無料の称名寺があるから、そこで休憩しながらのんびり行くことにしよう。

 鎌倉時代に北条実時が開いた称名寺は、大きな苑池を中心とした広々した浄土庭園が見ものだ。池には深紅の反り橋が架かり、その向こうには金堂が建っている。池の周りを散歩しつつ周囲を眺めると、目に入るのは緑の木々ばかりで伽藍のほかは人工の建造物を見かけない。住宅街の中にあることを忘れさせてくれる、のどかな風景だ。ぐるりと庭園を一周したら、入口の赤門から続く石畳の参道へ。沿道には売店や飲食店が数軒並び、ちょっとした門前町の風情だ。雑貨の店、ラーメンの「赤門ラーメン」、カフェなど、意外に店の種類は豊富。赤門のすぐ脇には「ふみくら茶屋」という立派な料理屋があり、近隣の柴漁港で揚がる東京湾のシャコやアナゴを使った懐石を出している。

 八景島まで行くと、きっとおやつやランチは高くつくと思い、これらの店のどこかで娘にはおやつ、そして例によって自分は遅めの昼ご飯を頂くことにした。ふみくら茶屋のアナゴ丼にもひかれたが少々お高いので、「おでん」「甘酒」の幟に誘われて『金沢庵』という茶店でひと息入れることに。天気がいいので店頭のテーブル席に腰を下ろすと、中から品書きを片手に出てきたおばちゃんがニコニコと愛想が良い。「どうぞ、今日は暑いでしょ」と娘に麦茶を出してくれた。

 品書きにはそばやうどんなど軽食に加え、天ぷらがいくつか並んでおり、おばちゃんによると柴漁港で揚がった地物をタネにしているとのこと。アナゴの天ぷらと牛スジ煮込み、そして麦茶もいいが渇いたのどにはやっぱり麦酒。そして娘はあんみつやみつ豆などが並ぶ甘味の中から、やっぱりアイスを選んだ。すぐによく冷えたスーパードライの缶に、柴漬けの小鉢が添えて出されたのがありがたい。娘はアイスを待ちながら店のまわりを飛び回り、タンポポの綿毛飛ばしに夢中の様子。先に缶ビールをぐっとやっていると、五月晴れの陽気とそよぐ風が気持ちいい。

 それにしても、昼間から牛スジの煮込みでビールをあおるなんで、連休ならではのお楽しみだろう。じっくり煮込んでいるので肉はホロリ、ゼラチンの部分はトロトロによく煮えている。薄味に仕上がっているため、よくかんでいるとスジの部分の旨味がしっかりと楽しめる。居酒屋のとは違った茶屋風の味、沿道の桜が咲く4月の初め頃ならば、花見気分が盛り上がる一品だろう。そして登場したアナゴは何と、丸1本長いのが角皿にドン、とのってなかなかの迫力だ。かなり淡白な白身で、揚げたてだから熱々ホクホク、これはビールが進む。アイスを食べ終えていた娘にひと口あげると気に入ったようで、こちらが食べるペースよりも早くおかわりを連発。気がつけば自分は最初のひと口と最後のしっぽだけ食べ、あとはほとんどとられてしまった。まあいいか、と牛スジと柴漬けでビールをグッ。牛スジが少々冷めてきたので、七味をたっぷりと振りかけてみる。

 先にごちそうさまの娘は、参道にたむろしている猫と遊びに行ってしまった。自分はアナゴ天の皿に残った天かすをつまみつつ、残りのビールを飲み干す。五月晴れのおかげで緑鮮やかな称名寺で、昼間からほろ酔い。金はないけど、何だか天下泰平な気分のゴールデンウィーク中日である。(2006年5月5日食記)