ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカルミートでスタミナごはん13…ウミガメ料理/小笠原 『丸丈』・『居酒屋福ちゃん』

2010年02月27日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

 

 小笠原を訪れた際、父島のビーチや展望台を巡って島をバイクで一周した最後に、二見港に臨む小笠原海洋センターを訪問した。別名「カメセンター」と呼ばれるように、アオウミガメの生態研究を行う施設である。敷地内には大小の水槽や生簀がずらりと並んでいて、中に泳いでいるのはいずれも、アオウミガメ。
 成長した大型や中型のものは、大型の水槽で悠々と泳いでおり、まだ赤い紋が甲羅についた子ガメは泳ぎが不慣れなのか、小型のプールでロープの輪の中に収まっている。大型のカメが放たれている水槽を覗き込むと、餌をくれると思ってすうっと寄ってくる。よく慣れているな、と感心した途端、餌をくれないのが分かったらしくブゥッ、と鼻息を噴いてプイッと行ってしまった。

 

小笠原海洋センターで飼育されているアオウミガメ。左はまだかわいい子ガメ。
右の大きいのは、餌をあげなかったからかちょっと怒った(?)様子

 小笠原の周辺海域で見られる海洋動物といえば、ホエールウォッチングのクジラ、ドルフィンスイムのイルカが、絶大な人気を集めている。そのせいか、ウミガメが上陸する島であることは、意外に知られていない。アカウミガメとアオウミガメの2種類のうち、小笠原にやってくるのはアオウミガメ。脂肪の色が緑色をしており、水中で甲羅が青緑に見えるのでその名がついたという。
 北海道を除く日本の沿岸に広く生息しており、3~5月頃に交尾のために小笠原へ来島、5~8月にかけて各地の海岸に上陸して産卵するのが、島の風物詩となっている。季節になると、父島の二見集落にある大村海岸でも上陸する姿が見られ、前述の小笠原海洋センターで保護や観察も行われているという。

二見港近くに広がる大村海岸。サンゴの浜でウミガメも上陸する

 そのウミガメだが小笠原ではなんと、その肉が古くから食用にもされている。絶海の離島である小笠原諸島の島民にとって、ウミガメは貴重なたんぱく源。海洋センターを見学した晩、繁華街のボニン通りの中ほどにある居酒屋「丸丈」で、そのウミガメを味わうことになった。
 親父さんによると、店では亀を1匹まるごと購入しており、さまざまな部位を色々な料理にして出している。店で出すのに必要なのは年間で2匹ぐらいで、漁期に購入して解体、肉を冷凍して通年使っているという。もちろん、アオウミガメは保護対象でもあるため、年間の捕獲頭数は130頭まで、6~8月は産卵のため禁漁と、取り過ぎないようにするための決まりも設けられている。
 亀は捨てる部分がないといわれるほど、どの部位も食用にでき、この店で出している料理は、代表的な煮込みと刺身ほか、ホルモンの炒め物、内臓のポン酢和え、雑炊など実に幅広い。可食部以外にも甲羅や脂肪の脂など、クジラ同様に隅々まで利用していたという。

 

居酒屋風のつくりの丸丈。カメ料理はメニューが豊富

 店でおすすめの料理を聞いたところ、刺身と亀チャーシューの2品が挙げられた。刺身は見た目は鶏のささ身のようで、薄くそぎ切りにした肉が桜色のようなピンクで、ささ身と同じような食感と味。ほどよい弾力で、クックッと歯ごたえがあり、ほんのり爽やかな香りがする。
 刺身に使っているのは肩の部分で、100キロのカメ一頭を甲羅をはいで解体して、スジがなく刺身にできる部分は2割ほどしかない。なので刺身は昔から高級品で、家長が食べるものだったという。卵さらに貴重で、昔はウミガメの卵焼きもあったそうだ。ほか解体の時の目玉商品が生レバーで、解体した人が、役得で食べられるものだそうだ。
 亀は爬虫類なのでくせがあるかと思ったら、臭みはまったくなく瑞々しくて食べやすい。アオウミガメは海草を主食とするためで、アカウミガメは肉に独特の香りがあるため、あまり食用にしないらしい。いわゆる草食系の爽やかさが、うまさの秘訣なのかもしれない。

 

豚肉でつくるのと同じような味のチャーシュー(左)。刺身(右)は鳥のささ身のように淡白

 2品目のチャーシューは、肉を醤油と砂糖、ショウガで煮込んであり、ネギと八角を加えて仕上げたというから、普通のチャーシューと同じ調理法だ。肉質は豚肉に近く、蒸されて豚肉のようなうまみが立ち上がってくる。ほどよい弾力があり、ラーメンのではなく中華のチャーシューに近い。
 チャーシューもウミガメを1匹買いをした際に、様々な部位の食べ方を考案していて生まれたオリジナル。手の部分を使っているそうで、やや青黒いのはひれの部分のゼラチン質。口の中でクニクニと溶け、白身の卵の風味がある。

 そもそも、小笠原でなぜ亀が食べられるようになったのか。ルーツをたどると、1860年に小笠原に最初に上陸したセーボレーらについていた、環太平洋の島の人が持ち込んだ食文化といわれている。
 たんぱく源の供給なら、牛や豚など家畜を島で飼育することが考えられる。しかしながら小笠原は離島のため、飼料となる穀物が大変貴重。そのため島民のたんぱく源はもっぱら、ウミガメに依存していた。「牛や豚は、水をやるだけで育つというわけにいかない。ウミガメは季節になると、向こうからやってくるしね」と、親父さんが笑って話すのも、分かる気がする。

ボニン通りにある福ちゃん。店内を抜ける風が夏の夜風のよう

 ウミガメ料理の中でも、島を代表する郷土料理でもある煮込みは、翌日に同じボニン通りにある居酒屋「福ちゃん」でいただいた。カウンターに落ち着いて女性の板さんに、ここでも島ラムとウミガメの煮込みを注文。
 煮込みは刺身に使う柔らかい部分以外の、スジとか内臓とかを煮込んだもので、しっかりいい味がでるという。一般的には砂糖と醤油で甘辛い味付けにして、具には玉ネギを加えている。 肉の水分で煮るので、水は入れないのがコツ。また父島はあっさり塩味、母島はすき焼き風の醤油味といわれるように、地域ごとに味付けが異なるのが郷土の味ならでは。同じ父島でも店ごとに味が違うという。

 

スパイスが効いた福ちゃんの亀の煮込み。内臓など様々な部位がよく煮込まれている

 この店の煮込みは、亀肉を丸一昼夜以上煮込んでおり、各種スパイスをしっかり効かせているのが決め手だそう。小鉢の中にはいろいろな部位があり、面白いというか少々不気味というか。フワフワのスポンジ状のところ、ねっとりコラーゲン的なところ、脂がトロリと固まったところ、腸だか胃だかギザギザ、ペラペラ、ブツブツの部位など。店のお姉さんに聞いても、どの部位か分からないとのこと。
 肉はこちらもチャーシューと同様、豚肉のような旨みがあり、出来のいい角煮のような洗練された味がする。様々な部位もクニクニ、サクサク、ネットリ、ヌルリ、ホロリと食感が様々。スジや内臓から出た脂のおかげで、煮込むほどに味が良くなるらしい。島ラムソーダ割りが、パキッと後味を締めてくれる。

 世界的に見た場合、環太平洋の島々をはじめ、アオウミガメは各地域で広く食用とされているという。実際に食べてみるまでは、少々ゲテモノ的な印象もあったのだが、食べてみると味はなかなかよく、背景をいろいろ聞けば歴史的に根付いた食分化であることも理解できた。
でも、自宅に帰って家族に「ウミガメうまかったよ~」と話した時の、子供たちの視線といったら…。(2009年11月26日食記)


ローカルミートでスタミナごはん12…とやま和牛・とやまポーク/富山県富山市 『和風焼肉富山育ち』

2010年02月14日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

【とやま和牛】
■系統・掛け合わせ…黒毛和牛
■肉質・等級など…枝肉格付3以上
■年間出荷頭数…550頭
■生産出荷元…とやま肉牛振興協議会

【とやまポーク】
■系統・掛け合わせ…基本はランドレース×大ヨークシャー×デュロック
■年間出荷頭数…おがやポークは4300頭、むぎやポークは700頭。黒部名水ポークは市内で生産の9000頭のうち名乗れるのは2割程度(2007年)

 東洋経済新報社では毎年、全国の都市を対象とした「住みよさランキング」を発表している。2009年の結果によると、全国784都市のベスト3は、岐阜県本巣市、千葉県印西市、富山県砺波市。あまりなじみのない都市ばかり、と書くと失礼だろうが、東京都下の各市や横浜、川崎、千葉、さいたまといった、東京近郊の主要都市はベスト30にすら入っていない。これは安心度、利便度、快適度、富裕度、住居水準充実度からの総合評価とあり、都市の規模の大小や首都圏に位置する優位性と関係なく、都市の持つ様々なジャンルの実力を数値化して、客観的に評価した結果なのだ。
 注目したいのは、第3位に入っている砺波市をはじめとして、富山県の都市がベスト50の中に6都市も入っていること。富山県は、かつて経済企画庁が発表していた「住みよさ指数」でも、1位の常連だった実績がある。持ち家率の高さや家の面積の広さが、全都道府県でトップクラスという話を、耳にしたことがある人もいるのではないだろうか。

 富山県の住みよさの要因は、住宅事情だけではない。背後に連なる立山連峰の雪解けを源とする、豊富で質のいい水。富山平野で栽培される富山米をはじめとする農作物に、富山湾で水揚げされる「キトキト」の魚介といった良質な食材。特に食に関しては、富山県の食料自給率はカロリーベースで76%、都道府県別で第10位(平成18年)の高さで、県産の優良な食材が、県民の常食となっているのである。
 衣食住のうち「食」と「住」が満たされているのだから、富山県の住みよさ指数が高いのももっともだろう。が、当事者たちはこれらの評価を、意外に認識していないともいわれる。生まれたときから、豊かな環境が普通に備わっていたこともあり、水の美味さも「蛇口からミネラルウォーター」が当たり前。だから、県外からの高い評価がいまひとつピンとこないのかも知れない。
 食肉に関しても同様で、県産の牛肉はおよそ7割が県内消費向け、豚肉も県内消費の5割が県産という割に、県民が「富山県産の肉を食べている」との意識が低いらしい。そのため最近、県産の肉を認知してもらうために、色々な施策が講じられている。一般的に地場産品のPRは、全国各地への認知を高めることが目的だ。それを、普段使いしている県民に再認識してもらうために行うとは、かえって豊かさが普通であることの裏返しのようにも思える。

 この施策の一環として、県産の食肉のPRを目的としたレストランが、富山市街に設けられている。場所はJR富山駅のそば、ビジネス街のど真ん中で、富山県庁や市役所といった官庁街もすぐ近く。地元の人たちに富山の産品を知らしめるには、この上なくベストな立地だ。ここ『和風焼肉とやま育ち』はJA全農とやまの直営店で、富山県の銘柄肉である「とやま和牛」と「とやまポーク」の焼肉をメインとした、地産地消レストラン。入口の階段の壁からすでに、とやま牛のポスターやとやまポークの生産地マップが貼られ、地元食材に賭ける熱意が伝わってくる。
 店内はキッチンに面したカウンターほか座敷、テーブル席と広く、18時に訪れると地元の会社員などでほぼ満席状態。ご当地の銘柄肉を目当てに皆、来店しているとしたら、PR効果はバッチリといえる盛況だ。JA直営ということで、肉のみならず米や野菜も、地元富山産のものにこだわっているという。若いスタッフ中心で活気がある店の雰囲気は、焼肉店というよりは新進気鋭の創作料理レストランを思わせる。

 

富山駅前に近いビルの2階にある。入口は少々分かりづらい

 何はともあれ、まずは富山県民が常食している牛肉の、実力のほどを評価したい。オーダーをとりにきた店のお姉さんに、とやま和牛のいろいろな品を注文しようとしたら、「とやま和牛なら、おひとり様限定の盛り合わせもありますよ」とのこと。5種を少しずつ盛り合わせたお得メニューで、いろいろな部位をPRするにはもってこい。各種食べたいが個別に頼むと量が多くて困る、「ひとり焼肉」にもありがたい。
 銘柄肉といえば、枝肉格付で肉質等級が4や5といった高さなのが主流である中、とやま和牛は3以上。「富山県内で12ヶ月以上飼育され、最長の飼育地が富山県である黒毛和種の牛」との定めはあるけれど、各地の銘柄牛よりは許容範囲が広くなっている。そのため、JA全農とやまが取り扱う肉牛の中で、とやま和牛に認定されるのは7割ほどという。それでも、年間の生産量は500頭程度と多くなく、格付の基準と生産量のバランスが、ちょうど県内消費向けに適した規模なのかもしれない。

 盛り合わせの白い角皿には、それぞれの部位の肉がきれいに2切れずつ並んでおり、いずれも色や形、脂の入り具合が様々だ。「上の2つが脂が多めです」と、お姉さんが説明してくれる上ロース、上カルビはともに、脂肪のマーブル模様がかなり細かく入っている。脂の筋は太く、赤身より脂の方が多く見えるほど。普通のロースとカルビは赤身の色が、まるでマグロの赤身のように鮮やかだ。ハラミは濃い紅色で、丸い形をしている。店では牛を一頭買いしているため、これらのほかにもミスジ、ハネシタ、イチボ、カイノミといった、希少な部位も食べられるという。
 さっそく各種いっせいに網の上にひと切れずつのせ、脂が多いと指示されたカルビとロースを、焦げないように注意しながら焼き上げる。2回ぐらいひっくり返して、網の焼き目と薄いピンクがまだらになると食べごろだ。上カルビは口に入れた途端、舌の上で脂が溶けてスルスルと流れ出す。もったり、トロンとした厚みのある甘みに、思わず目を閉じて言葉に詰まるほどで、これはいきなりえらいものを食べてしまった。続く普通のカルビは口の中で脂と赤身がいっしょにほぐれ、脂の甘みが遅れて出てくる。上カルビと比べてしまうと物足りないが、先にこちらを食べていれば、充分満足のインパクト。

  

上左から順に上ロース、上カルビ、ハラミ。ロースとカルビは脂がたっぷりで、ハラミはバランスのいい旨さ

 さらに次々に焼きあがるので、畳み掛けるように各部位をどんどんといただいていく。上ロースには肉汁はほぼなく、赤身の味を純粋に楽しめる。普通のロースのほうが肉汁があり、脂の甘みより赤身の旨みが勝っているよう。そしてカルビとロースのいいとこ取りで、赤身と脂のバランスがベストなのが、ハラミ。ホロリと軽くかみ切れる素直な歯ごたえで、よく動く部位だけに、雑味のない健康的な旨みが感じられる。
 ひと通り味わってみたところ、脂の甘さが強く、赤身の味は淡くスッキリしているのが、とやま和牛の味の特徴といえる。富山県の自然環境に基づいて評するならば、立山山麓の澄んだ空気と清冽な雪解け水が育んだ、すっきりクリアな味わい、といったところか。それにしても、持ち家があって普段使いでこんな牛肉を食べて、とは、富山県民の「普通に豊か」さ、恐るべし。
 この肉の旨さを育んだのは、富山県の自然環境はもちろん、富山の産品にも由縁があるのが興味深い。その産品とは、富山米。JA全農とやまの直営農場では、出荷する2~3ヶ月前に、富山産コシヒカリの米ぬかや玄米を与えているのだ。これらには不飽和脂肪酸が多く含まれており、肉の旨み成分であるオレイン酸を増加させる効果がある。とやま和牛の強い甘みは、それによるところも大きい。富山県の食料自給率の高さは、人間のみならず牛にも影響を及ぼしているようで、地元ブランドの良質な米が、地元ブランドの肉牛の味の良さにひと役買っている。

 

ミックスホルモンは味噌ダレで味付け。脂の多いテッチャンは炎が上がる

 盛り合わせは様々な部位をちょっとずつ食べられるのいいが、各2切れでは少々食べ足りない。品書きによると、ホルモンも盛り合わせがあり、鉄分豊富なレバー、第3胃のセンマイ、品書きには「ハート」とある心臓、トロテッチャンは小腸、シロは大腸と各種揃っている。これも一頭買いのおかげか、とありがたく追加。じっくりと焼いていると、脂たっぷりのテッチャンから炎がボッと勢いよく上がってくる。
 そのトロテッシャンがまず焼きあがり、口に運ぶとたっぷりの脂がフルフルと口の中をくすぐるよう。これが激甘で、さっきの上カルビの甘さを凝縮した強烈さだ。ハツはしゃっきりとした歯ごたえで、穀類のような芳しい香ばしさ。レバーは鮮度がいいから臭みはなく、ねっとり濃厚。クリアな味わいの肉に対して、ホルモンはいずれもキャラが立っていて個性的だ。ビールの代わりに注文した「ファイバースノー」は、六条大麦から作った地元の銘柄の焼酎で、ホルモンのくせを雪解けのように流してくれる。

 肉と内臓それぞれ各種味わえたおかげで、とやま和牛はもう充分満喫。注文自体は2品だけだから、まだ量は食べられそうだ。続いては豚肉、と、とやまポークのメニューも物色。とやま和牛のホルモンを平らげた勢いに乗って、追加も強いものが欲しくなる。そこで、脂がしっかりのった豚トロと、ホルモンからシロの上をオーダー。豚トロはほんのり桜色の肉に、粉雪のような緻密な脂が入っていて、これまた地元の景観に例えるならば、まるで富山の遅い春を思わせるような。
 そんな可憐な見た目に対し、網にのせたらこれがワイルド。ジャーッと賑やかな音をたて、脂がジュンジュンとしみ出てくる。クルリと反ったら食べごろで、口に運ぶとグシュッ、ジュクッとほぼ脂の塊といった感じがする。とやま和牛よりくっきりした甘さなのに、精製した砂糖のような品の良さ。脂はべとつかず、サラサラと口溶けがいい。味噌ダレで和えてあるシロはしっかり焼いてからいただくと、こちらは内臓独特の香りがとやま和牛よりも倍増。かなりクセのある味で、後味を流す焼酎がないと少々きついぐらいだ。比べると肉とホルモンともに、豚肉のほうが牛肉よりも個性がよりくっきりしている。

 

味噌ダレで和えたシロと、脂たっぷりの豚トロ。とやまポークは肉、ホルモンともに個性が強い

 店の入口に貼ってあった生産地マップによると、とやまポークとは特定の種の銘柄ではなく、県内で生産される豚の総称とある。その中には「黒部名水ポーク」「メルヘンポーク」「むぎやポーク」「おがやポーク」など、生産者や地区による9つの銘柄豚も存在する。掛け合わせはいずれも三元交雑種で、母豚の系統には畜産試験場で開発された、生育の早い「タテヤマヨーク」が多く用いられるという。しかしながら生産量はとやま和牛と同様、どの銘柄もそれほど多くなく、こちらも県内消費分相当の規模なのだとか。富山県の食肉消費量は牛肉より豚肉のほうが多く、これら銘柄豚は地元の評価もまずまず。常食する食肉としてはとやま和牛よりも、やはり豚肉のニーズが高いのだろう。
 とやま和牛が飼料に富山米を与えられているように、とやまポークも飼料に地元の産品を取り入れているのが特徴である。といっても、とやまポークに与えているのは食品ではない。特産である竹炭を焼く際に生じる液体、竹酢を飼料に加えて与えているのだ。竹酢にはコレステロール値を抑える効果があり、肉に豚特有の臭みが少なく、調理するとアクが出にくくジューシーに仕上がるという。豚肉が苦手な人は、その独特な匂いが原因の場合も多く、この食べやすさは大きなアピールポイントになるのではないか。

 加えてとやまポークは、銘柄ごとに産地ならではの工夫もなされている。黒部名水ポークは名の通り、北アルプスから流れる黒部川の湧水を与え、保水力がある柔らかな肉質に仕上がる。むぎやポークは掛け合わせの雄豚にバークシャー系黒豚を用いており、大麦を与えることで肉の締りがよくなる。そういえばむぎやポークの産地である南砥市は、件のランキング3位である砺波市の南隣、黒部市も40位に入っており、人間の住みやすい都市は銘柄豚の飼育環境としても適しているのかも知れない。
 生産コスト増の問題や後継者不足などで、ここ10数年で廃業する生産農家が増加の一途をたどっているように、富山県の近年の畜産事情は芳しくない。県産の食肉のブランド化は、こうした状況を打破するためでもあり、付加価値をつけ、地元をはじめとする認知を広げ、消費の拡大と取引価格の上昇を狙っている。この店は、まさにその最前線で健闘しているのだ。県民にその味の良さが今以上に広がり、自信を持ってPRされることが増えれば、いずれは全国各地の銘柄肉と並び評されることも夢ではない。

 

店の入口の階段に掲げられた、とやま和牛のポスターと、とやまポークの生産分布銘柄マップ

 それにしても豊かさゆえなのか、富山県は県外へ人口が流出してしまうことが、非常に少ないらしい。持ち家率の高さもそのおかげで、転勤や進学で県外へ出て初めて、富山の良さを感じたという人の声も多い。銘柄肉もこのように、各地のものを食べ比べてみた結果、とやま和牛にとやまポークがやっぱり一番と言われるぐらいになれば、その評価も本物といえるだろう。(2009年6月12日食記)

【参照サイト・とやま和牛】
とやま和牛(産地銘柄牛肉検索システム) 
http://jbeef.jp/brand/view.cgi?id=60
とやま和牛(読売オンライン)http://hokuriku.yomiuri.co.jp/hoksub10/nazo/ho_s2_07031001.htm
和風焼肉富山育ち http://www.toyama-sodachi.jp/index.html

【参照サイト・とやまポーク】
とやまポーク(読売オンライン) 
http://hokuriku.yomiuri.co.jp/hoksub10/nazo/ho_s2_07031701.htm http://hokuriku.yomiuri.co.jp/hoksub10/nazo/ho_s2_07032401.htm
黒部名水ポーク http://www.kurobe-unazuki.jp/?p=1682
むぎやポーク(富山観光ホテル) http://www.tomikan.co.jp/special/gourmet.html