ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん60…修善寺 『ラフォーレ修善寺』の、ガーデンバーベキュー

2006年08月29日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 朝食後は森の中をウォークラリー、昼食を兼ねて修善寺の温泉街を散策した後は、宿泊しているリゾートホテル『ラフォーレ修善寺』へと戻ってレジャープールで子供たちと遊んで、と、夏の修善寺家族旅行は色々なイベントが目白押し。3日もあるからのんびりできると思っていたら、あっという間に2日目の夜となってしまったから早いものだ。この日は敷地内にあるバーベキュー広場で、みんなでガーデンバーベキューパーティーである。昨晩同様、ホテルの玄関から施設内循環バスに乗って、木々に囲まれた芝生広場へとやってきた。一角には夜店も出店していて、スーパーボールすくいや射的、ダーツなどなかなか面白そうだ。子供たちはさっそく挑戦しては、射的で消しゴムを落としたり、スーパーボールをたっぷりすくったりと楽しんでいる様子。ダーツの景品にミニーマウスのビニール人形があったので、試しにやってみたが残念ながら点数が及ばず。景品はクワガタムシ、といってもビニール人形で、明日子供たちと再びプールで遊ぶときのおもちゃにちょうどいいか。

 ひと通り遊んだところで、お楽しみのバーベキューの始まりである。昨晩のサマーバイキング同様、これもラフォーレ修善寺の夏季限定のメニューで、テーブルにはすでに各種肉や魚介、野菜がたっぷり用意されている。あとは焼くばかり、といった感じである。中ジョッキを頼んで乾杯したら、量がたくさんあるからどんどん焼き始める。肉だけでも牛リブアイにモモ肉、豚バラ肉とあり、ほか自家製ソーセージにつくね串と、かなりのボリュームである。焼きあがった肉がどんどん皿へと運ばれ、喰らってはビールをぐいっ。どの肉も1枚1枚かなり大きいけれど柔らかくジューシー、よそわれるごとにどんどんとなくなっていく。おかげでレジャープールでたっぷり遊んで少々くたびれ気味だったのが、すっかり元気が出てきたようだ。

 イカのスパイス焼き、ホタテとエビのホイル焼きなど魚介の中でも、ひとり1匹ずつ焼き鮎が目を引く。鮎は修善寺付近を流れる狩野川でとれるものが有名で、クルマで修善寺に来る途中にも腰まで川に浸かり、友釣りに興じる釣り人を数多く見かけた。軽く火を通してあるため、鉄板で熱が通るぐらいで食べられる。やや小振りなため頭から丸ごと食べられ、白身の味がほのかに甘い。川魚独特のくせはなく、肉をたらふく食べた後には優しい味だ。

 お腹がすいていたせいもあり、あっというまに大皿の肉や野菜もすっかり平らげ、ごちそうさま。セルフサービスのごはんに味噌汁を頂き、締めくくりのメロンを食べたら、広場ではまだまだゲームやビンゴ大会などイベント盛りだくさんだ。ゲームに参加した子供たちはあいにく準決勝敗退、ビンゴもあがれずだったが、朝やったウォークラリーが高得点で表彰されることに。賞品にもらったのは、今度は何と本物の生きたクワガタムシだ。子供たちにはいいおみやげ、そして夏休みのいい思い出となるだろうと思えば、1日中レジャー三昧での疲れもちょっと吹っ飛んだかも。もちろん明日の最終日に向け、バーベキューでのスタミナ充填も完了である。(2006年8月22日食記)

旅で出会ったローカルごはん59…修善寺 『禅風亭なな番』の、禅寺そばと天ざる

2006年08月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 修善寺温泉は伊豆長岡温泉と並び、中伊豆屈指の規模を誇る温泉街だ。清流・桂川を中心に老舗の和風旅館が立ち並び、温泉情緒あふれるゆったりとした風景が展開している。国道136号線を温泉街方面へ折れ、飲食店やみやげ物屋が立ち並ぶ町中の細い道をクルマで通過して、町の中心である修禅寺へ。源頼朝一族ゆかりの古刹で、ここの駐車場にクルマを停めて温泉街を散策することにした。桂川沿いの遊歩道へ入ってすぐのところに、川の中に立つ小さな東屋を見かけ、立ち寄ってみるとどうやら足湯の様子。「独鈷の湯」という名で、弘法大師が手にした独鈷で河原の岩を打ったら湧き出したという逸話がある温泉だ。昔は共同浴場だったが今は足湯として使われており、靴と靴下を脱いで足を浸してみる。すると「熱っ!」。何と60度もの源泉が流れ込んでおり、いく分冷めているとはいえ42、3度はありそうだ。ゆっくり浸し、徐々に熱さに慣らしていく。ビリビリしびれる熱さが、なじむとマッサージ効果があるようでなかなかいい。

 先に足湯に入ったおかげで、散策の用意は万全となり、桂川沿いの遊歩道をぶらりと歩いていく。川はところどころ早瀬で、岩をかむ白いせせらぎが見られ、釣り人の姿もちらほら。川に面した老舗旅館の部屋がこちらを向いており、宿泊すると景色がよさそうだ。こんな部屋に長期滞在して仕事をすれば、いい作品が書けるのかも? 赤い欄干の桂橋を渡ると、右手に見事な竹林に挟まれた小路が延びていて、橋の赤とのコントラストが鮮やかだ。入っていくと昼間なのに鬱蒼としていて静寂なたたずまい。中ほどにある縁台に腰掛けていると、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなるようで、どこか現実離れした空間のように思えてしまう。

 お腹がグーとなった瞬間、そんな世界から現実に引き戻された。お目当てであるそばの名店はすぐ近くだが、行ってみると順番待ちの客が店の前まであふれているようだ。人気の店だし仕方ないか、と並ぶつもりで店の入口に入ってみると、お屋敷のような立派な玄関周りには店の人の姿が見えず、何だか殺風景だ。順番を待つ名前と人数を記入する紙があるほかは「ひとりで作っていますので時間がかかります」「グループ客は、分かれて座ってもらうことがあります」「子供は静かにしてください」との貼紙が目立つ。待っている客はたくさんいるのに、みんな黙って座っていて、中には一角に置かれている、この店が紹介されたグルメ雑誌の記事を眺めている人も。

 売り切れ仕舞いという名物の十割そばは気になるけれど、5分ほど待っても列が進む様子はまったくない。しかもこちらは子連れで人数も多く、さっきの貼紙が少々気になっていたので店を変更することに。手持ちのガイドで見つけた『禅風亭なな番』に電話をかけてみると、「どうぞ、お待ちしてます」とおばちゃんの愛想のいい声が返って来た。クルマを停めた修禅寺まで戻り、今来た道と逆方向へ、温泉饅頭やシイタケ、エビせんべいなどみやげもの屋を眺めながら歩くこと5分ほど。合掌造りの立派な店構えをくぐると、店頭に並んでいる客がいるにもかかわらずすぐに掘りごたつ式の大テーブルへと通された。電話の際に予約まではしていなかったのに、ご親切に予約扱いで席を確保してくれていたようである。

 品書きによると、店の名物は「禅寺そば」とある。禅修業を行った僧が断食明けに山野で食材を集め、そばを打って食べたことにちなんだもので、修禅寺参詣のあとにそばを頂くとより功徳があるという。家内はこの禅寺そば、自分は天ざるを頼み、待つ間も店の方が記念写真を撮ってくれにきたり、「お待たせしてすみませんね、この後出ますから」と気を使ってくれたりと、実に気さくな店だ。大人数、しかも子供連れでやってきたけれど、ホッとひと安心である。

 ここのそばの面白いところは、食べる前の準備を自分であれこれとするところである。運ばれてきた盆にはせいろにのったそばに天ぷら、そして中央には大きな生ワサビが1本のっている。葉もついていて、なかなか立派なものだ。この中伊豆産のワサビを、添えてあるわさびおろしで自分でおろして食べる仕組みなのだ。家内の頼んだ禅寺そばは、せいろのそばととろろそばがセットになっていて、ワサビのほかゴマも小鉢で自分ですっている。自分もワサビをおろし、そばにちょんとのせ軽くつゆに浸してひとすすり。すりたてのワサビは緑色が鮮やかで、柔らか目でほのかに甘味があるそばの後から、パンチの効いた辛味が刺激的だ。付け合わせのわさび漬けもなかなかのもので、山菜など具がいっぱいなのが珍しい。お昼は軽めに、とそばが少な目のを選んだため、するするとたぐりすぐにごちそう様。そばの味以上に、ワサビの風味というか辛さが、妙に印象に残ったそばである。

 余った生ワサビは、何とそのままおみやげにいただけるとのことで、袋に入れてもらって持っていくことにした。さらに子供たちは食後に飴まで頂いたようで、ご機嫌の様子である。家族旅行だとやはり、子連れでも安心してくつろげるお店が一番。でも頑固一徹といった感じの十割そばも、ちょっと気になるところだ。次回修善寺を訪れたときの宿題として、宿へと戻ることに。この後もレジャープールに夜のゲーム大会、夜店など、家族旅行はやはり子供が主役のイベントが目白押しである。(2006年8月20日食記)

旅で出会ったローカルごはん58…修善寺 『ラフォーレ修善寺』の、地元の幸いっぱいのサマーバイキング

2006年08月26日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
拙書『旅で出会ったローカルごはん』が刊行されてほぼ1ヶ月。大きな書店では旅・グルメコーナーのいいところに積んで頂き、おかげさまでぼちぼち売れているようです。このところ、当ブログのアクセスも増えてきており、本を見てここへ遊びに来てくれた方もいるのかな。
 著書の刊行やら取材やらで忙殺され意識していなかったが、気がつけばブログ開設ちょうど1年たちました。あまり細々とカテゴリーを増やさないようにやる方針でしたが、記念?にそろそろ新カテを何かつくるかも知れません(築地とか本の紹介のカテは開店休業なのに…)。『旅ロー』の本のこぼれ話でもやろうかな。食べ物屋の取材をしていると、そりゃ本には書けないとんでもないネタがいろいろとあるんです、これがまた。
 で、今週は修善寺編プラス、町で見つけたネタをとりまぜてぼちぼちと。四国一周漁港めぐり編は取材資料が膨大で、ただいま整理中。まとまり次第、順不同で書き込んでいきます。




 毎年恒例の、家族旅行の時期がやってきた。家内の両親、家内の姉家族の3世帯合同旅行で、ことしは中伊豆の修善寺に2泊ほど泊まる事となった。横浜に住んでいるため、伊豆や箱根は結構近いせいか日帰りで遊びに行くことが多い。どちらも温泉が星の数ほどあるところだけにもったいないことで、いい機会だからじっくりと湯に浸り、駿河湾や相模湾のおいしい魚を頂き、と、日頃忙殺されている骨休みをじっくりさせてもらうことにしよう。

 お昼過ぎにクルマで出発して、修善寺の温泉街には16時ごろに到着。高速を使わずにこの時間に着けるのだから、伊豆はやはり近い。3日間お世話になる『ラフォーレ修善寺』は、温泉街からクルマで15分ほど離れたところにあり、広大な丘に広がる敷地にはホテル棟のほかにコテージが点在、さらに森の温泉館やバーベキューガーデンなど様々な施設が森の中に並ぶ、総合リゾートホテルである。ゴルフ場やテニスコートに体育館なども充実しているが、自分はアクティブにスポーツ派よりはのんびり温泉派だ。夕食前にさっそくひと風呂と大浴場へ直行、風呂から上がったらお楽しみの夕食だ。ロビーにみんな集合して、施設内の巡回バスで夕食会場であるサンバティックホールへと向かう。

 この日の夕食はバイキングで、会場に着くとだ会場の準備中の様子。扉の間から大広間をちょっと覗くと、入口に大きな船盛りが置かれているのがちらりと見え、期待させてくれる。しばらくして案内され、丸テーブルの席に着いたとたんに、子供たちが先頭を切って料理をとりにとびだしていく。自分もまずはコーナーを一巡してみたところ、さすがに魚介類を使った料理が豊富だ。入口近くには鯛や金目鯛の刺身がドンと置かれ、マグロやアナゴの握り寿司がずらり。洋食メニューも魚介を素材にしたものがいっぱい目に付く。さっき見かけた、入口の船盛りのところへ行ってみると、「沼津市場」と書かれた旗の下に魚介が見本のように、丸のまま置かれている。鯛や金目、シマアジにサザエ、アワビと、どれも鮮度がよさそうだ。

 夏の時期限定のこのバイキングは「エスティバルアロマティゼ~夏の香り」と称し、香りをテーマにして伊豆の食材を各国料理にアレンジしているというのが売りとある。洋食では、クリームソースたっぷりでほろりとした味わいのイトヨリ鯛のポワレ、サザエがいっぱい入った魚介のハーブマリネ、そして何とサクラエビのピザなんてのもある。サクラエビは駿河湾でしかとれない貴重なエビで、徹底した漁獲管理で資源保護をしながら漁獲していることで知られる。釜揚げやかき揚げで頂くと絶品で、ピザのトッピングにしてもなかなか良く合う。ひげの部分から特有の香ばしさが漂い、これはバイキングのテーマにたがわないテイストか。

 鮮魚の紙包み焼きやヒラメの蜂の巣揚げといった中華料理もとり分け、いよいよ和食コーナーへと足を向ける。おろした頭がドン、と置かれた前に、薄ピンクが上品な金目に鮮やかな白身の真鯛、そして清水や焼津が水揚げ港であるマグロと、色とりどりの刺身が実にうまそうである。とり分けながら、金目は東伊豆の稲取が有名ですね、と後ろに控えている板前さんに話しかけてみる。「今日の金目は、南伊豆の下田港で揚がったものなんです。この時期の金目は、脂ののりが控えめで全体的にあっさりしているんですが、たまたま今日はしっかり脂がのったのが入りまして」。お客さんは運がいいですね、と笑っている。金目鯛は東伊豆の相模湾側、南伊豆の太平洋側、そして西伊豆や沼津の駿河湾側とそれぞれで揚がり、棲息する海域によって味や脂ののり、身の締まりなどが違うとのこと。ほか真鯛などは、主に沼津港で揚がった、沼津魚市場直送のものを使っているそうである。握り寿司のほうにも行ってみると、普通の酢飯のほかに修善寺特産である古代米「黒米」を使った握りもあり、食べ比べると黒米のほうが粒がしっかりとして食べ応えがあるよう。マグロの握りを2、3頂いて、ついでに水揚げ地を聞いたところ、あいにく清水や焼津ではなく、日本海に面した鳥取県の境港で揚がった物とのこと。

 和・洋・中華の魚介料理を肴に、飲み放題の生ビールも進んでまずは一回戦の皿を軽く平らげた。再び料理をとりに刺身や寿司のコーナーをぶらぶらしていると、面白いものを発見。おでんの鍋に、牛スジやホルモン、ウズラに大根など、醤油色に良く染みたのがうまそうに煮えているではないか。先日書いた、横浜ワールドポーターズのバイキングではセルフサービスのラーメンがあったが、今度はおでんのバイキングだ。実は静岡では、おでんも郷土のひとつ。「静岡おでん」と称し、繁華街に「おでん横丁」なるおでん屋街があったり、駄菓子屋でおでんを出していたりと、地元の生活に密着したローカルごはんなのである。濃い口醤油に豚のモツや牛スジからとっただしが加わったつゆで、じっくり煮込んであるのが特徴で、見た目の色ほど味は濃くなく、立ったまま大根に味噌をつけて頂くとほんのりダシが効いてとまらなくなりそうだ。静岡産地養鶏、修善寺特産の肉厚なシイタケといった地元食材のタネの中でも、ポイントは焼津産の「黒はんぺん」。イワシをまるごとすりつぶして揚げてつくったはんぺんで、名のとおりほんのり黒っぽい色をしている。かむほどに染み出る味はもちろん、これがいいダシにもなっているのである。

 様々なスイーツやフルーツが揃ったデザートコーナーも惹かれるが、今日のところは地元産の伊豆テングサを使ったところてんで締めくくるか。四角いのをところてん突きに入れて自分で押し出す仕組みで、棒をぐっと押すと麺状になったところてんがスルリと押し出されてくるのが楽しい。黒蜜をかけてさらっと頂き、ごちそうさま。それにしても食事の前に温泉でゆっくりしたおかげか、みんなで旅行して気分が盛り上がっているせいか、ふだんバイキングで頂く時よりもずいぶんと食が進んでしまったようだ。もちろん、山海の地元食材を豊富に使っているせいもあるのだろう。(2006年8月21日食記)

旅で出会ったローカルごはん57…別所温泉 『丸窓喫茶 花りんご』の、信州リンゴのタルト

2006年08月25日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
8/21-23まで、修禅寺温泉に行っておりました。先週の極貧昼飯生活のおかげ? で、予算もある程度ありゆっくりしてきました。そんな訳で本日よりブログ再開、週末からスタートの修禅寺編の前に、鹿沢温泉編の最終回です。


 標高1500メートルほどの鹿沢温泉を後に、国道144号線をクルマで下ってきて、小1時間ほどで上田の市街へと入ってきた。新幹線をくぐってそのまま直進すると、山々に囲まれた盆地の塩田平へと出る。今までの山岳風景とは打って変わって、田園地帯が広がるのどかな盆地である。そんな箱庭的な風景の中、時折通過していく小さな電車。ステンレス製の2両編成の電車が、トコトコと走っているのが何とも愛らしい。上田の市街と、三重の塔がある安楽寺や北向観音といった古刹が点在して「信州の鎌倉」と称される別所温泉を結ぶ、上田交通の電車である。

 旅行業関連の会議で鹿沢温泉に1泊、この日は昼に解散したあとは帰郷するだけなのだが、せっかくだからもう1泊、このあたりでのんびりしていきたい。上田駅前のビジネスホテルに宿を取り、明日の朝一番の新幹線で東京へ戻れば仕事に支障はない。ちょうど上田交通の写真を撮るという、会議に参加していた鉄道カメラマンのクルマに便乗させてもらい、市街に送ってもらうついでに電車の撮影にもお付き合いすることに。ロケハンしながらクルマを走らせ、まずは路線の中間ぐらいの中塩田駅へ。洋館風のガラス窓が大きな駅舎が印象的で、ホームには色とりどりの花が咲き乱れる花壇が整備されている。やってきた列車は見覚えあると思ったら、昔東急電鉄を走っていた電車だ。新性能の電車に押されて都落ち、と書くと怒られるだろうが、かつて大学に通っていた頃にお世話になったヤツで、信州の片田舎で再開するとは懐かしい。

 さらに山麓の高台に登って、電車の遠景と別所温泉街の俯瞰を取り終えてから、終点である別所温泉駅へと向かう。線路が行き止まり式の終着駅で、駅舎も構内も広く独特の風情がある。構内には留置線があり、昔この路線を走っていたというクリーム色と紺のツートンカラーがレトロな車両が配置されていた。昭和61年まで運行していた車両で、「丸窓電車」という愛称の通り、ドアの戸袋に丸い窓がついているのがトレードマークだ。先ほどのステンレス車両でもこれを模したデザインのが走っており、同行のカメラマンが狙っていた被写体だったが、しばらく待ってもやってこずどうも今日は運休らしい。

 プロカメラマンの撮影に同行したついでに、自分も手持ちのカメラで終着駅の風景や丸窓電車を撮影して、駅前広場の駐車場でひと休み。すると駐車場の一角に、レトロな温泉街とは対照的な小じゃれた雰囲気の喫茶店を発見、撮影がひと段落したカメラマンに声をかけ、ここでお茶を飲んで休むことにした。その名も『窓喫茶 花りんご』というこの店、しゃれたウッディな内装はまるで軽井沢や清里あたりにあるカフェ、といった感じ。おっさん? ふたりでは入るのにちょっと気兼ねするけれど、ほかにお客がいないのでテーブルの一角に腰を下ろした。

 ひとりで店番していたお姉さんが運んできたメニューによると、アップルパイやオリジナルケーキなど、地元産の信州リンゴを使ったスイーツが自慢とある。信州リンゴは、寒暖の差が激しいこの地の気候のおかげで甘味があるのが特徴で、地元産素材を使ったスイーツならぜひ試してみたい。これまたおっさん?ふたりして、リンゴタルトとアイスコーヒーを注文した。すぐに運ばれてきたタルトには、生地の間にリンゴがぎっしり。サクサク、しっとりしたタルトの生地に、甘酸っぱくジューシーなリンゴがよく合い、まさに高原のフルーツタルトといった感じだ。お姉さんによると、店では県内三木村の契約農家直送のリンゴを使っているとのこと。上にはアイスクリームとキャラメルソースがのっていて、一見かなり濃そうだが甘さは控え目、撮影行の休憩にはちょうどいい。

 店内で売っている、上田交通の電車のハガキなど小物を眺めて、居心地がいいのでコーヒーをもう1杯おかわり。ふと窓の外を眺めると、すぐそばにさっき撮影したレトロな丸窓電車が停まっている。すると遠くで警笛が響いたので、レトロ丸窓電車とステンレス新型電車の2ショットを撮るべく、残りのコーヒーを飲み干して慌しく店を後にする。今日泊まる宿は、この路線の終点の上田だし、帰りは塩田平をトコトコローカル電車の旅も面白いかもしれない。(2006年6月12日食記)

旅で出会ったローカルごはん56…鹿沢温泉・湯の丸高原 ワラビなど山菜とりに挑戦

2006年08月21日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 長野県と群馬県の県境にある高原の湯『休暇村鹿沢高原』に泊まっての初日は、宿自慢の薬膳料理や、村の特産品であるキャベツなど、嬬恋高原の高原野菜を使った料理を存分に味わった。翌日はお昼まで宿で過ごす予定とたっぷり時間があり、体にいい料理を味わって、露天風呂にじっくりと浸かったから、周辺の自然の中をハイキング、と健康志向で過ごすとするか。宿の人に、あまりハードじゃない手ごろなコースを教えてもらおうとすると、「なら、近くの山を歩きながら山菜取りなんてどうでしょうか」。宿の近くに山菜の自生地があり、ちょっとした散策がてら採取が楽しめるという。

 ほかの宿泊客の中にも山菜取りの希望者がいたため、宿の方の知り合いの「山菜とり名人」の方に案内して頂くことになりいざ出発。宿からクルマで林道をやや登り、湯ノ丸・角間登山口のところで下車する。山菜の群落へはここから山道を、20分ほどの登りだ。斜面を巻きながらゆるやかな登りで、朝から好天に恵まれており歩いていると汗ばむほど。湯の丸高原はイワカガミやレンゲツツジの群落があることでも知られ、ちらほら咲いているのを眺めながら気持ちよく登っていく。すると通りすがりに、山菜がどっさり入った籠をしょったおばちゃんとすれ違った。鹿沢温泉の宿や道の駅に売るそうで、「山菜は見つけた人の早い物勝ちだからね」と案内人。このあたりの山菜は、保護区域でなければ基本的に採取は自由で、観光客も結構やってくるようだ。自分たちがとる分が残っているか心配だが、そこは現地を熟知した案内人。すでに今朝、山菜の様子を見てきているそうで、ワラビはいっぱい残っていて大丈夫とのこと。地元の人は、色々な山菜の自生地をよく知っているから有利という。「でも、目をつけていた場所が今日がとりごろと思って行ってみたら、よその人にとられちゃっていたこともあるし」と笑っている。ワラビは小さいのはとらない、タラの芽も3つついているひとつは残すなど、暗黙のルールもあるという。

 しばらく斜面を登りきったところであたりがパッと開け、その先で草むしたなだらかな斜面へと出た。ようやく山菜群生地に到着だ。ここはかつて、休暇村のスキー場ゲレンデだったところで、ワラビのほか葉の大きなウルリ、天ぷらにいいコシアブラなど、様々な山菜がとれるという。案内人に見つけるコツを教えてもらって、いざ山菜ハンティングに出発だ。酒の肴のおひたし分はとるぞ、と、自分は狙うはワラビ一筋でいくことに。はじめは見つけづらいが、1本見つけてそのまま周囲を見渡すと2つ、3つと見つかるから面白い。「ワラビの視線」で探すのがコツなのかも。案内人によると、まだ穂先が開いていないぐらいが柔らかく旨いそうで、なるべく小振りのを選びながら根元を折って袋へ入れて、ゆっくりゆっくりと登っていく。

 一生懸命に山菜取りながら登っていると、結構な斜面なのにいつしか結構な高さにいた。集中しながら歩いていると、疲れを忘れてしまうものだ。袋にワラビもいっぱいになったことでそろそれ撤収しようと、いま来た斜面をゆるゆると、ワラビもつみながら下っていく。下りだと景色を眺める余裕もあり、時折休んで体を伸ばすと、正面の谷間に桟敷山の嶺がぐっとそびえるのが望める。駐車場へ歩きながら、案内人の方にワラビの食べ方を聞いたところ、うまくあくをぬくのが味の秘訣、とのこと。鍋1杯の熱湯に重曹ひとさじ入れて、そこへ固いくきから順に入れてあくをぬいたら、おひたしにしてカツオを振りかけると、酒の肴にもってこいだそうである。駐車場に戻るとさらに、味噌汁に入れるといいというウルリ、駐車場周辺の湧水でとれたクレソン、水洗いして辛子酢味噌で食べるウドなど、いつの間にか案内人がとってきていたのも色々おみやげに頂いた。

 休暇村に戻って山菜取りの汗を温泉でさっと落とし、宿を出る前にお昼をレストランで頂くことにした。昨日頂いたキャベツうどんに続き、お昼も休暇村人気メニューのキャベツラーメンだ。トンコツラーメンの具に嬬恋のキャベツや山菜がたっぷりのったもので、具だくさんのトンコツラーメンといえば鹿児島の薩摩ラーメンを思い出す。キャベツの甘味がいい味を出していて、コクのあるスープとの相性も抜群。食後は鹿沢温泉を後に、別所温泉や塩田平を巡った後、今日は上田駅前のホテル泊まりである。ホテルに入ったら飲みに出る前に、葉を間引き泥を落としてぬれた新聞紙にくるんでと、山菜の処理はしっかりしなければ。とれたての山菜を肴に一杯、は、帰ってから明日の晩酌のお楽しみとしよう。(2006年6月12日食記)