ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん108…修善寺 『ラフォーレ修善寺』の、黒米もちと駿河湾の魚介

2009年01月24日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 我が家で毎年恒例となっている、お正月の修善寺旅行だが、今年は年明け早々に予定がいろいろ詰まっていることもあり、年末の3日間というスケジュールとなった。忙しい年末を旅先でゆったり過ごすというのも、それはそれで優雅で悪くない。
 だがそれは逆に、年末のもろもろを前倒しで済まさなければいけない、ということ。仕事納めの後のわずか2日間で、ざっくり掃除をして、年賀やおせちなど年始用の買出しも済ませ、さらにいつもは大晦日までかかっている年賀状を、ものすごい勢いで書き終えて。何とか旅行に出られる体制となった1229日のお昼過ぎに出発、帰省ラッシュの狭間で空いている東名高速をひた走り、沼津インターを経由して、修善寺郊外にある「ラフォーレ修善寺」へと、ほぼ1年ぶりにやってきた。

 広大なホテルの敷地には、スポーツ施設やクラフトコーナーなど、さまざまな施設が用意されていて、ここに来るときはいつも、ほとんどホテルから出ることなく過ごしている。翌日は朝から、フィールドアスレチックや、パークゴルフなど、子供たちのリクエストに合わせてこなしていく。自分たちもその合間に、テニスを楽しんだり、レザークラフトや木のアクセサリー製作にチャレンジしたりと、気ままに楽しめるのがいい。
 いつもはそれに加えて、ゲーム大会とか凧揚げ、こま回しといった遊び、ネイチャーゲーム的な催しなど、ホテル主催のイベントも豊富だが、この時期は年末のせいかちょっと少ないよう。そんな中でも年末らしく、お昼過ぎに餅つきが広場で催されるとあり、ちょっとお正月には早いけれど行ってみることにした。

 会場の広場は、夏に来たときにバーベキューをやったことがある場所で、ビンゴゲームでクワガタムシが当たった、子供たちには思い出の場所だ。ちょっと谷間に位置するためかなり冷え込んでおり、無料配布されるおしるこに行列ができている。寒いせいか、何度か並びなおす人も。
 そんな中、すでに子供たちが数人集まっている一角が、餅つき大会の会場らしい。おしるこを片手に行ってみると、奥には臼が据えられていて、ちょうど蒸しあがったもち米が運ばれてきた。臼に入れられたとたん、湯気がバッ。臼を覗くと薄乳白色のもち米の中に、黒い粒々がいっぱい混ざっているのが分かる。
 係の人によると「今日のお餅は、体にいい黒米入りです」とのこと。黒米は最近、修善寺の名物として注目されている、中国産の古代米である。名のとおり真っ黒な色をしており、滋養強壮、胃腸強化に効能があるため、周辺の宿や料理屋では薬膳料理の材料に使われている。地元栽培の黒米が産直売店などでも販売されており、修善寺のおみやげとして人気が高いとも。もち米の一種で甘みがあるため、このように餅に混ぜて使われることもある。見た感じが赤飯のようで、ハレの正月にはもってこいなのかも。

  

見た感じはぼたもちのよう? 黒米餅は、さっぱり生ワサビと食べるのがおすすめ

 係の人がもち米を杵でこねて粘りを出し、ある程度ついた後に子供たちに交代、かと思ったら、「もうちょっと大人の人にやっていただけますか?」。餅つきはこれまで、子供の幼稚園の行事で毎年やっていたので、ここは手を上げてやらせてもらうことに。
 杵の重さに任せて振り落とせば、意外と力は使わない、と慣れてるつもりでつきはじめたが、5、6回振っていると結構筋力を使うようで、終わってみたらそれなりに全身運動になっていた。この後はテニスをやる予定だったから、いい準備運動になったかも?
 ミニサイズの杵で子供たちもみんなでポン、ポンとついて、見事につきあがった餅は隣接の調理スペースへと運ばれ、どんどんと小分けに丸められていく。ついた後はお楽しみの試食、ということで、つきたての餅をひとり2つずついただくことになった。

 餅は見た感じはあずき色に染まっていて、黒米の黒い粒々入りなため、まるでおはぎのように見える。薬味は定番のきなこのほか、ワサビ醤油が用意されているのが伊豆ならでは。つきたての餅はかなりの粘りで、グイグイと強烈な腰がある。
 甘みの中には、黒米ならではの雑穀の香ばしさが漂い、これは確かに体によさそうだ。そしてワサビはもちろん、地元産の生ワサビを食べる直前におろしたもの。つきたての餅にワサビの鮮烈な辛味がプラスされ、大根おろし餅のような爽やかな味わいに食が進む。おしるこは行列に並び直しもありだったが、餅はあいにく人数分しかないのが残念。

 子供たちのリクエストに応えた目白押しのプログラムのため、ほとんど昼食抜きだったところに餅を食べられたおかげで、この後もエネルギーが切れることなく、テニスにパークゴルフに、と遊びまわることができた。予定を終えてホッとひと息、温泉につかって一休みしたら、夕食は毎年恒例の『日本料理四方山』に集合。伊豆の山々や駿河湾の素材を生かした料理を、楽しむことにしよう。
 つくりはマグロ、ウニ、サーモン、タラバガニといった、豪華定番ものに加え、エビはアカザエビという、定番の甘エビよりも大振りの地元のエビ。頭が大きく、透明な身がプリプリの歯ごたえの後、トロトロの甘みがたまらない。薬味はもちろん、地元産の生ワサビ。わさびおろしでまわしながらおろすと、ペパーミントグリーンのあわ立ちとともに、ツンと鼻につく刺激が漂ってくる。
 アカザエビが漁獲される駿河湾は、富山湾や相模湾と並んで日本屈指の水深がある湾で、最深部は深さ2500メートルを超えるという。アカザエビのほか、キンメダイ、タカアシガニなど、西伊豆で水揚げされる名物魚介はいずれも、この湾の深部で漁獲される「深海魚」なのである。ちなみに同県の最高所は、いわずと知れた富士山で、山頂の標高は3776メートル。県内の最高所と最深部の高低差が、6000メートル以上あるという訳だ。

 そして焼き物の伊勢エビも、駿河湾の名物魚介のひとつだ。修善寺の近くでは、西海岸の戸田で水揚げされ、主に刺し網で漁獲される。この日の料理は伊勢エビの「もと焼き」という、伊豆の名物伊勢海老料理のひとつである。ブチッとはじけるような伊勢海老の白身に、濃厚なソースがよくからみ、エビの力強い白身の甘みが倍増。これはなかなかうまい。
 店の方によると、「もと」とは、和風マヨネーズソースのようなもので、この店では卵と魚のすり身を混ぜたものを、伊勢海老の白身に塗って焼き上げているとのこと。洋風のグリルのような味わいが、日本料理の店で意表をつく一品である。

 

大きな頭のアカザエビのつくり。サクラエビごはんと、締めの味噌汁は豪快な伊勢汁

 仕上げのご飯に付く味噌汁も、伊勢エビの頭を使った「伊勢汁」。エビの味噌が味噌汁に溶け込んで、コクのある風味をかもしだしている。そしてご飯もエビ、しかも駿河湾の深海でとれる名物漁獲・サクラエビの炊き込みご飯だ。椀からは、香ばしい香りがプンプン漂い、ご飯をかっこんだとたんに、エビの芳しい旨みが口の中いっぱいにバッ、と広がってくる。ダシがしっかりしみていてとまらないうまさに、ついお替わりを2回。
 サクラエビは意外にも、駿河湾でのみ漁獲されるエビで、しかも由比・蒲原・大井川の3つの漁協のみ操業を許可されている、結構希少なエビである。水深300メートルほどの深海に生息しているが、夜になるとエサを求めて50メートルぐらいまで浮上してくるところと、2艘ひと組で網をひく「あぐり網」という漁法で漁獲する。今は秋口から行われる秋漁が、そろそろ終わりになる頃。名残のエビの炊き込みご飯で、ことし最後の旅とローカルごはんの宴の、締めくくりとなった。

 修善寺への旅は、いつもだと「本年もよろしくお願いします」の旅なのだが、今年は「一年お世話になりました」の旅。そういえば今年の正月は、この店で「よろしくお願いします」だった。いつもの雰囲気に、なんとなくもう正月気分になってしまった気もするが、明日帰ったらまだ大晦日が今年1日残っている。
 2009年もまた、各地で楽しいローカルごはんに出会えるような、いい年を迎えられますように。(20081230日食記)


魚どころの特上ごはん84…木更津 『富士屋季眺』の、アサリなど東京湾の魚貝

2009年01月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 首都高湾岸線の浮島ジャンクションから長いトンネルを抜けると、周囲は360度広がる東京湾。海ほたるを通り過ぎ、爽快な海上道路・アクアラインをひた走れば、対岸の木更津までは30分とかからない。陸地が近づくと、あたりには漁船がぽつぽつと浮かび、潮干狩りで知られる遠浅の海岸もはるかに見渡せた。湾岸線の沿道はずっと工業地帯だったのに対し、同じ東京湾の沿岸でも、ずいぶんと景観が異なるものだ。
 千葉県観光協会の招待で、木更津から南房総にかけて1泊で訪れることになった。地元の素材を生かした観光資源の視察が目的で、東京湾や房総沿岸で水揚げされる魚介も存分に味わえるのが楽しみだ。最初に訪れた木更津では、狸囃子で知られる証誠寺で住職の軽妙な説法を拝聴してから、町並みの散策へ。東京のベッドタウンとして開発が進む一方、路地を入れば木造の家屋の家並みもちらほら目に入ってくる。

 案内人によると木更津はかつて、花街として栄えた歴史があるのだという。大坂夏の陣の際に、木更津の漁師が大坂方について戦い、その功績を認められて、江戸期に房総の物資を江戸に運搬する役割を任された。この「木更津舟」により街は隆盛、彼らの娯楽として芸者衆で賑わっていたそうである。
 町中にある検番所、木更津会館は、昭和30年築という珍しい船底天井の建物で、2階の稽古場でベテランの組合長の姐さんにいろいろと話を伺った。木更津の芸者は最盛期は220人ほどおり、現在は10人ちょっとになってしまったが、30代の若手も所属していてがんばっているという。面白いことに、木更津では「花柳界観光」と称し、花街散策と芸者体験を観光資源にしているそう。昼食、お茶それぞれのプランではひとり数千円程度と、比較的手ごろな値段で芸者体験が楽しめるため、注目されているという。

 これぞまさに、地元の素材を生かした観光資源。ということで、木更津視察のメインは、料亭で芸者衆のお座敷芸や座興を楽しみながら昼食をいただく、という趣向である。会場である、検番所から歩いて5分ほどのところにある「富士屋季眺」は、木更津で屈指の歴史と格式を誇る料亭旅館で、座敷に落ちつくと窓から眺められる日本庭園が見事。上手にはちょっとした舞台が設けられていて、どうやら芸者衆の芸はそこで披露されるらしい。
 乾杯の後、まずは江戸前の魚介をふんだんに使った料理からいただくことに。ぬたはアオヤギの舌で、しっかり太くミョウガがさわやかに香る。味噌の甘さが控えめで、太いネギも瑞々しい。房総で定番の漁師料理、アジのなめろうも並んでおり、甘めの味噌で和えてあるため食が進む。
 そして木更津ならではの地元魚介といえば、なんと言ってもアサリだ。卓に並ぶ料理もアサリを使ったものが多く、本場江戸前アサリの味に期待がかかる。最初の一品、酒蒸しは、味付けは酒と塩のみとシンプルで、アサリのダシが味の決め手。貝の味は抜けず汁にエキスがたっぷり、滋味あふれる貝の味がストレートに味わえる。殻を外すのが結構忙しく、座一帯はまるで、カニを食べているように静かである。

純和風の造りの季眺。ぬた、なめろうなど、東京湾の地魚料理が自慢

 その沈黙を打ち破るかのように、いよいよ芸者衆が登場。一同アサリの殻向きの手を休めて、舞台に注目である。挨拶している4人の中には若い方もおり、先ほど検番所で説明していただいた組合長の姐さんもいらっしゃってくださった。
 
まずは、木更津舟の船頭が船を操りながら謡っていた「木更津甚句」から。歌詞には木更津舟や、「狸が木更津浜をスタコラホイ」と、証誠寺の狸囃子がらみのものもあり、三味線に合わせた「ヤッサイモッサイ」の掛け声がとてもリズミカルである。
 続いての踊り「猫じゃ猫じゃ」が始まる前に、「ちょっと準備をしますので…」と、姉さん二人がいったん退場。鳴り出したお囃子とともに現れると、三本ヒゲに耳つきと、これは猫のコスプレだ。招き猫を模したような、コミカルな動きが楽しい。
 
これは小座敷向けの芸だそうで、木更津の芸者遊びは本来、舞台で芸を見るのではなく、畳の上で客と楽しむスタイルが主流らしい。木更津舟で働くいわば「ブルーカラー向け」のため、かしこまったところがないのがいいようだ。くつろいで芸を楽しみ、料理をいただきながらビールを空けて、と、こちらもちょっとしたお大尽気分になってきた。

 

分厚いかき揚げには、アサリがごてごてといっぱい入っている。ご飯と味噌汁もアサリ尽くし

 座が盛り上がったところで、冷めないうちにアサリのかき揚げにも箸をのばす。アサリのほか、タネはネギとシイタケ、三つ葉で、ひとかじりで2、3粒はアサリが入っている豪華版。ネギと三つ葉といったしゃっきりした野菜と、もちもちのアサリがベストマッチだ。仲居さんに木更津のアサリの旬を尋ねると、4~5月との返事が返ってきた。いわゆる潮干狩りシーズンで、近くの中之島でとっているという。晩秋の今は産卵期のためちょっと身がやせており、旬のほうが身がプリプリしているのだとか。
 また江戸前といっても、生まれも育ちも東京湾の「完全天然ものの江戸前」アサリは、乱獲や湾の汚染の影響で、近頃はかなり希少になってしまった。東京湾のアサリは、現在は種苗を放流して育成したものがほとんどで、中国や韓国から輸入した種苗を、九州などで大きくしてから、春前の潮干狩りシーズン前に放流、それをその年に漁獲するのが一連の流れである。一般的には、これが「江戸前のアサリ」として流通しているのだ。
 それでもこのところ、東京湾がだんだん浄化されてきており、アサリをはじめ東京湾の天然ものの魚介は、ひところよりは少しずつ資源回復してきているらしい。また種苗放流は長い目で見れば資源の増加にもつながり、やれる方法で「江戸前のアサリ」を残していく考え方ともいえるだろう。まあ、細かいところを突っついて野暮は言いっこなし、が江戸前の粋、としておこうか?

 

見事な唄と踊りもいいが、一緒に座興を楽しむのもいい

 かき揚げを食べ進めていたら白飯がほしくなったので、お櫃を開けてみたらご飯もアサリご飯だ。一緒に炊き込んだショウガがアサリに合い、ショウガ煮風でもある。さらに、みそ汁の種もアサリで、こちらも味が抜けず身がプリプリ。アサリ尽くしとお座敷芸満載で、木更津花街のお昼の席を堪能した。
 と、まだまだお座敷芸は終わらず、お客も参加しての座興となり、ご指名を受けて舞台に上がり、扇子を投げて的を落とす「投扇興」にチャレンジだ。うまく当たれば豪華賞品とのことで、軽く投げるとくるりと回って見事、的に命中した。豪華賞品とは江戸前の浅草海苔か、それともアサリの佃煮か、と期待したところ、なんと芸者衆のキッスとのこと。それはそれでうれしいが、登壇してきたのは若い姉さんじゃなくて、組合長の姐さん…。(11月下旬食記)


町で見つけたオモシロごはん128…横浜・港南台 『金沢まいもん寿司』の、マグロ三昧にエビ三昧

2009年01月12日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 ベートーベンの「第九」が町のあちこちで聞こえる年の瀬、クラシックのコンサートに招待されて家族で出かけることになった。場所は神奈川県立青少年センターのホールで、神奈川県青少年交響楽団による演奏。息子の学校の先生が指揮者を務める演目があり、その縁で招待されたのである。
 本日の演目の中には、ベートーベン作曲のものが2曲入っていて、うち1曲は先生による指揮とのこと。「第九」をはじめ、ベートーベンといえば第五番「運命」、第六番「田園」といった、交響曲の印象が強い。時節柄「第九」が生で聞けるのを期待したところ、プログラムによるとこの日はあえて、交響曲でないものをチョイスしたとある。よく聞くベートーベンの有名な曲の印象とは異なるようで、ちょっと興味深い趣向である。

 会場はJR桜木町駅から歩いて10分ほどの、紅葉坂の中腹に位置し、正面にみなとみらい地区の高層ビル群を眺めるロケーションである。舞台正面の中ほどのいい席に落ち着くと、いよいよ開演。演目の背景が説明された後、1曲目は先生の指揮によるベートーベン「プロメテウスの創造物」という、序曲である。
 この曲は、ベートーベンが2曲しか作曲していない舞踊音楽のうちの1曲とある。交響曲の作曲が中心の氏の作品の中では、序曲はあまり人気がないらしいが、これは第1交響曲と同じ頃に作曲されたもので、短いながらも氏らしい若々しさが感じられる。面白いのは、曲の始まりがいきなりセブンスコードの不協和音なこと。その後は重厚なホルンと軽快なバイオリンによる旋律が、折り重なるように繰り返されていく。
 全体的な旋律の流れや押し引きが古典的な分、始まりの不協和音がより印象に残る作品で、パンフには「ヨーロッパ旧来の因習による思想から、自由な思想への時代の変化を表している」とあるように、当時にしては斬新かつ革新的な曲だったのかもしれない。15分ほどの短い作品なのが、インパクトをいっそう強く感じさせる。

団員は小中学生からと幅広く、演奏は本格的

 部と指揮者が代わってのもう1曲、「ヴァイオリン協奏曲」は、ベートーベンが作曲した唯一の協奏曲という、これも希少なものだ。変化に富んで奥行きのある第二楽章、ハイテンポでバイオリンとホルンの押し引きが絡み合う第三楽章と、聞き応えがある構造のベースとなるのは、第一楽章の単純な刻むようなリズム。これに単純な音階が絡み合っているだけなのだが、それだけとはいえ素人的耳には充分に完成度が高い曲に感じる。もっともパンフには、「これだけのことで40分の大作を作るのだからやはり天才」と記してあり、批評しているような、評価しているような。
 この日はこのあと、渋谷の人見記念講堂で催される合唱も聞きに行き、谷川俊太郎や池澤夏樹の詩に曲をつけたという、こちらも希少な演目を鑑賞。ここではジブリメドレーなんてのもあり、おかげで子供たちも楽しく聞くことができた。講堂を出ると、キャンパスの並木にあしらわれた電飾がきらめいており、そういえば今日は23日、最近でいう「クリスマスイブイブ」だったことを思い出す。

 珍しく渋谷まで出てきているのだから、道玄坂や表参道方面でオシャレにディナーといきたいところだが、イブイブの祝日の夜にアポなしでは席がありそうもなく、ましてや子連れだと入れる店も限られる。結局、地元まで戻ってきてしまい、こうなればイブイブらしい店もなにもなく、界隈で一家御用達の店の中から子供たちにリクエストを取ったところ、「お寿司!」
 ちょっとした趣向のクラシック鑑賞を後を締める店も、クリスマスディナーにしてはご趣向なジャンルとなったところで、最近の我が家御用達の回転寿司、『金沢まいもん寿司』へと向かった。JR根岸線の港南台駅からクルマで5分ほどのところにあり、名の通り、日本海や富山湾のネタを売りにしている北陸の本格派回転寿司だ。週末は30分は並ぶ人気店なのに、今日はすんなりカウンターへ。やはり一般的には、イブイブのディナーに回転寿司にはあまりこないのだろうか。でも回転コンベアの脇にはミニチュアのツリーが飾られ、ちゃんとクリスマスムードが演出されているのが面白い。

北陸の地元ネタが多い店。左からワサビ巻き(左)、ツブ貝、飛騨牛

 自分はいつもの順で、まずは北陸らしくホタルイカの沖漬けの軍艦巻きからスタートだ。濃厚なワタと漬け込んだ醤油の香りがなんとも言えず、こなれた味が実に後をひく。この後はしめ鯖、イワシと頼むのだが、考えてみればあっさりした光りものの前にこんな濃いネタを食べるのは、寿司の注文順にしてはちょっと作法はずれ、いわば不協和音的なのかも。
 この日はあまり握りの皿に手を伸ばさず、ツブ貝のワタ煮を肴に熱燗をのんびりやり、合間にいくつか皿に手を出すぐらい、といった感じ。3カンが盛られた「マグロ三昧」は、甘くトロリとした中トロに、あっさりと身の旨みが楽しめる赤身、そしてビントロ、つまりビンチョウマグロのトロは、「回転寿司の大トロ」とも呼ばれるほど脂がのっている。3カン続けて食べれば、こちらは濃厚さの対比が古典クラシックのごとき押し引きか?

 最後の一皿にも、3カンの盛り合わせを頂くことにした。今度は「エビ三昧」で、ガスエビ、白エビ、甘エビの、日本海三大エビが揃い踏みである。底引き網でとれる、大振りで野趣あふれる力強い甘みのガスエビ。日本海産の定番エビの、とろけるようなこってりした甘みの甘エビ。そして「富山湾の宝石」とも呼ばれ、小さいながらもプリプリと艶かしく、ほんのり渋みのある甘さの白エビ。あっさりと多様な甘さがからみあう3カンをそれぞれを堪能して、今宵は締めくくりとした。
 今日のところは音楽鑑賞の一日でひと息ついたが、休み明けの明日からは、師走ならではの忙しさが続く。冬休みに入るまであと1週間ほど、街に流れる「第九」の華やかな調べに乗って、がんばっていこうか。(20081223日食記)