ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん5食目・鈴木水産 ~刺身をつまめば、自分の時間がゆるゆると…~

2005年08月31日 | 極楽!築地で朝ごはん
 9時前後を狙って築地に通い始めてしばらくになるが、この時間帯の雰囲気は何とも独特だ。晴海通りでは遅い出勤途中のサラリーマン達と、遅出の買い付けを終えて店に戻る業者がすれ違い、場外市場では仕事を終えてくつろぐ労働者たちと、寿司や買い出しにやってきたばかりの観光客が混在する。これから始まる人にこれで終わりの人、それぞれ逆向きの時間の流れが交錯した、不思議な空間である。

 この日は昼過ぎまで用事がなく、いつもより時間には余裕がある。そこでいつもの新大橋通りの商店街ではなく、まだ訪れていない晴海通り方面へ足を向けてみることに。少し行ったところにあった、通りに面した「鈴木水産」で朝ご飯とした。店内は結構狭く、カウンター席はさらりと埋まっている様子。別に、店頭をよしずで仕切ったオープンエアの席が設けられており、天気もいいのでこちらに腰を下ろす。

 メニューを見ると焼き魚や煮魚、一夜干しなど、素材の味を生かした魚料理が各種揃っている。迷った上で定番の「刺身定食」を注文、するとたった1000円なのに豪華な9品盛りが登場したのには驚いた。水産物の卸問屋直営だけあり、豊富な魚種をまとめて仕入れているおかげという。さっそく、刺身の王者ともいえる2品から箸をのばす。マグロの赤身は鮮やかな飴色の光沢で、厚いのに食感が柔らか。鯛はシコシコと歯ごたえ良く、脂が少なく甘みがたっぷり。ともに量が多めなのがうれしい限りだ。ほかにもコリコリした食感のカンパチ、大きな吸盤が味が深いタコ、ホタテはワタ付きで、もっちりとした甘さ。ほかイカ、青柳、コハダ、カジキ…。どれも鮮度抜群、瑞々しく歯ごたえ、香りがいい。

 たっぷりの丼飯をかき込み、アサリのみそ汁を飲み干して、と食べ進める合間、仕切の向こうを足早に行き交うサラリーマンの姿が、時折ちらりと目に入る。平らげて時計を見ると、まだ10時過ぎ。こちらは時間を気にせず、隅田川の川風に涼みながらのんびりと食後のお茶を一杯。ここでも全く逆向きの時間が、よしず1枚を境にして流れている。(2004年5月28日食記)

追記・鈴木水産は04年7月に晴海通りを通りかかった際、店を閉めていた。現在の状況は不明。




旅で出会ったローカルごはん3…がんばれ仙台名物、がんばれ楽天? <牛タン>

2005年08月30日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 仙台の名物といえば、「巨人、大鵬、卵焼き」にならえば(例えが古い!)「楽天、牛タン、笹かまぼこ」といったところか。ところがこの3大名物、いずれも「牛」の情勢の影響でこのところ窮地に立たされている。牛タンはBSEによる消費者離れ、また米国産牛肉の輸入禁止措置による牛タンの値段の高騰により、経営が苦しくなった店が続出。店の数も最盛期の半分以下に減ってしまったという。笹かまぼこも、原材料であるスケソウダラなどのすり身の価格が高騰してしまい、値上げを検討している製造元もあるとか。これもBSEの影響で、欧米で牛肉の代わりに白身魚の需要が増えたのが一因なのだそうだ。楽天もまだ8月なのに、本日ではや最下位決定。これも岩隈や礒部ら元・「猛牛」戦士の低迷が原因…っとこれはこじつけか?

 仙台で牛タンを食べるなら「太助」と、仙台随一の繁華街である国分町通りにある店をお昼過ぎに訪れた。食糧難の時代、アメリカ軍が消費していた牛肉の不要な部位だった牛タンを厚切りにして、塩味だけで炭火焼で出すようになったのは昭和23年。この店がまさに仙台牛タンの元祖なのだが、人気店だけに食事時をずらしてもすごい行列だ。あきらめて通りを歩くと、さすがに牛タンの店は何軒もあり、かえって迷うほど。結局、通りの南端まで歩いたところで、黄色い暖簾にひかれて一仙という店に決定。遅い昼食とした。

 店内は照明が暗く、紅色と黒を基調とした内装。ジャズが流れる落ち着いた雰囲気で、一膳飯屋的な牛タンの店とはかなりイメージが異なるようだ。創業は平成13年と新しく、「シェフ」はなんとフレンチの経験者。牛タンの扱いもその手法を生かし、分厚いが臭みがなく柔らかなのが特徴という。それだけに、タン刺やゆでタン、タンシチューなど牛タンのメニューが豊富だが、やはり定番・牛タン定食を注文することに。

 まず先にテールスープと麦飯が登場。続いて牛タンの皿が運ばれてきた。麦飯は白米が貴重だった食糧難のころの名残で、今でも米と麦が7対3。それにかつてタンと同じく不要だったテールを煮込んだスープ、さらに牛タンの皿には山盛りの白菜とキュウリの漬物に、みそ漬けの青唐辛子「味噌南蛮」がつくのが基本形だ。この店のタンは、舌のつけ根に近い柔らかな「真とろたん」と、歯応えがある部分をミックスしてあり、ミディアムでジューシーに焼き上げている。塩コショウがしてあり、かむと肉汁がジュッ。真とろはサクサクと軽やかな味わい、歯応えがある部分はガシガシと食べ応えがあり、対照的な食感が楽しい。「真とろたんは、1本のタンからあまりとれない貴重品です」と店の人。付け合わせの漬け物がさっぱり、そして強烈に辛い味噌南蛮のおかげで肉に飽きず、合間に穀物独特の香りが強い麦飯をかきこむと、まさにパワーが湧いてくる感じだ。中継ぎのテールスープはネギがたっぷり、すっきりいいダシが出ていてさらに食が進む。

 すっかりスタミナがついたところで、鼻息も荒く店を後にする。そういえばこの国分町、牛タンの名所であるとともに東北屈指の「オトナの繁華街」だったことを思い出す。ひょっとして牛タンで元気つけたあとは…ってことか、と、考えてみたらかなりストレートな街?(2005年4月17日食記)
 

味本・旅本ライブラリー<3>『食の堕落と日本人』 小泉武夫著

2005年08月28日 | 味本・旅本ライブラリー
「食育」という言葉を、最近耳にする機会が多くなりました。ファーストフードやファミレス、ジャンクフードに押されていく中、失われつつある日本の食文化を見直したり、農産品の生産の現場や漁業の現場などを見に行くことは、食べ物の大切さを学ぶとても意義のあることでしょう。私もこの夏、家族で青森県の弘前郊外にある農家のお宅に泊めていただき、子供たちはリンゴ畑の草取りをやったり、畑からトマトを収穫してかじったりと、めったにない体験にたいそう喜んでいました。もっとも学校の宿題の作文に書いてあったのは、夜見に行った青森のねぶた祭りのことでしたが。

 閑話休題。著者の小泉武夫先生は東京農大の教授であり、発酵学の権威。本書では日本の食文化に並々ならぬ深い造詣と愛情をもっていらっしゃる先生が、その危機的状況に、さまざまな面から警鐘を鳴らしています。特に、食は人間の体だけでなく、心や精神の形成にも影響しているという話は実に興味深い。以前、先生の講義を聴きに言った際、「日本人は肉食をはじめてまだ百数十年しか経っていない。だから欧米の肉食文化に対応できる体質になっていない」という話がありました。農耕と漁撈で食をまかなう、温厚で我慢強い民族だった日本人がやたら「キレる」ようになったのは、この欧米の肉食中心の食文化の影響をはじめ、ファーストフードやジャンクフードの過剰摂取のおかげで不足する栄養素が生じたり、朝食ぬきの恒常化などが原因なのだとか。食生活の変化が人間の心と体に及ぼす影響は、私たちが考えている以上に多大なようです。

 そんなわけでこの本、自らの食生活を見直すきっかけになる一冊です。ややハードなテーマですが、ところどころ先生独特の軽妙なタッチで描かれているので、結構さらりと読めてしまうこと間違いなし。特に鰹節や梅干、日本酒など、代表的な食材の現状と再評価の記述の中でも、納豆とくさやに対する記述は情熱がほとばしる。くさいもの愛好家としても権威である先生の別称は「食の冒険家」。その愛称にたがわぬ、とんでもないものを食べ歩いた話が別の本にありますので、機会があればご紹介します…。

◎『食の堕落と日本人』小泉武夫著・小学館文庫刊 本体514円+税




味本・旅本ライブラリー<2>『俺たちのマグロ』 斉藤健次著

2005年08月28日 | 味本・旅本ライブラリー
 世界で一番、マグロを食べている国はどこか知っていますか?答えは日本。世界中で水揚げされるマグロのなんと3分の1を食べている、まさに「マグロ大国」なのです。
 ところが、日本をとりまくマグロ事情、最近は危機的な様相を呈しています。台湾籍の違法漁船による、資源管理条約を無視した乱獲操業。魚価の低下による、日本の遠洋マグロ漁業船主の相次ぐ廃業。実は鯨のように、アメリカの環境保護団体によって、絶滅危惧種に指定されてしまう寸前までいったという、シャレにならない話もあるんです。やれマグロの中でもホンマグロが一番とか、中トロの霜降りがたまらない、とか言っているうちに、気がつけばマグロを口にするのが難しくなる、といった時代がくるかも…。

 著者は、若いころライターをやっていたが行き詰まり、一念発起して遠洋マグロ延縄船に乗り込んでコック長として1年以上にわたる航海を経験、下船後に習志野市に「炊(かしき)屋」という居酒屋を経営しています。よってマグロ漁師と料理人という2つの視点を通してとらえた、全国のマグロ事情がなかなか興味深い一冊です。
 たとえば最近有名になった、津軽大間のホンマグロ一本釣り漁師の家に泊まりこんで漁に同行したり、築地のマグロ仲卸業者に商談しながら事情を尋ねたり。マグロの水揚げ地や流通現場からの生の声は、業者の切実な思いあり、知られていないマグロ事情ありと、日常食であるマグロについて、いろいろ考えさせられます。

 余談ですが、最近かなり出回ってる養殖のマグロは、なんと正真正銘のホンマグロ。養殖といっても孵化からでなく、子供のマグロを捕まえて人工的に育てるのですが、この方法だと赤身がない、全身がトロのマグロになってしまうとのこと。回転寿司のホンマグロ大トロサービス品はこれで、安くなるのはありがたいような、ありがたみがなくなるような…。

◎『俺たちのマグロ』斉藤健次著・小学館刊 本体1400円+税

極楽!築地で朝ご飯4食目・きつねや ~築地流・仕事帰りに煮込みで1杯?~

2005年08月21日 | 極楽!築地で朝ごはん
 前にも書いたが、築地の市場食は市場で働く人のための食事でもある。だから、早朝からの魚河岸での重労働に耐えられるためのエネルギーを蓄えられるような、スタミナのつく料理を出す店だって数多い。築地を訪れる観光客はみんな、寿司や海鮮丼の店へまっしぐらだが、一方でこういった築地の「地元メシ」を食べてみれば、よそ行きでない素顔の築地を感じられると思うのだが。
 ちょっと間が空き、10日ぶりの築地である。前回、朝からウナギを食べた日は、おかげで1日快調、快調。そこでこの日も朝からスタミナ食、と店はすでに決めている。新大橋通り商店街で何度か店の前を通った時、漂ってきた煮込みのいい匂い…。「きつねや」という屋号まで、すでにチェック済みだ。
 ここも先日の「井上」同様、カウンターに席3~4つの小さな店で、通路に例の「離れ」席があるのも同じスタイル。カウンターに腰を下ろすと目を引くのは、店の中央に据えられた大鍋だ。中ではグツグツとモツが煮込まれていて、店じゅうに漂う味噌の甘ったるい香りが食欲をそそる。
 それにしても今日も相変わらず暑いが、この店はさらに暑い。壁の温度計を見ると何と35度! 「今日なんてまだ序の口。真夏になれば、鍋からの熱でそれこそものすごい暑さ。もう大変よ」と、鍋の中にモツをドサッと追加しては、頻繁にかき混ぜながらおばちゃんが笑っている。「ここのモツ煮を朝飯に食べると、元気が出るから夜まで持つんだ」と、隣に座った市場の関係者らしい客が話す。それはすごい、と思ってよくよく考えてみたら、築地の人は朝が早い分夜も早い。いま朝ご飯(?)を食べれば、彼らの「夜」まで充分持つのも道理か。
 注文したホルモン丼は、牛の小腸をこんにゃくとじっくり煮込んだホルモンを、丼飯にたっぷりかけたものだった。卓の七味をパッと振ったら、丼を片手にザッとかき込む。数十年の間変わらずに店に伝わる秘伝の味噌ダレは、見かけはどす黒いが辛さ、くどさはなく、ほんのり甘辛い風味で実にまろやかだ。こんにゃくはしゃっきり、モツはとろりと柔らかく、ボリュームあるがぐいぐい入っていく。食べ進めても、タレが丼の底のご飯までたっぷり染みているのがうれしい限り。追加で生卵を落としてみたら、ちょっと味が薄まるから好みが分かれそうだ。
 ガツガツと丼を平らげながら周囲を観察していると、飯と煮込みを別盛りで注文しているのが多く、これが築地流なのかも。肉豆腐や煮込みを肴に、一杯飲み屋のようにビールをあおる人もいて、これから仕事に行く身としては何ともうらやましい。もっとも朝が早い彼らにとっては、仕事を終えてちょいと一杯、の感覚なのだろう。(2004年5月25日食記)