ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん72…塩原温泉 『カフェレストラン洋燈』の、ヘルシーな開湯御膳

2006年12月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 那須高原の視察会1日目は、休暇村那須での懇親会にて無事終了。翌日こそ晴天の中を高原の視察に、という願いは叶わず、朝からあいにくの雨模様である。この日は近隣の塩原温泉へと足を伸ばすことになり、紅葉谷大吊り橋や足湯「湯っ歩の里」などを精力的に巡った。紅葉谷大吊り橋は、かつて日本最長のつり橋だったが、大分県久住町にことしできた吊橋に抜かれてしまったとか。前述した毎年恒例の那須高原への家族旅行の際にも訪れたことがあり、確かそのときも小雨と天気の巡りあわせがどうもよくない。吊橋はその際に渡ったことがあるため、雨の中渡ることもないか、と皆が渡ってくる間レストハウスで待機することに。レストランには「ザ・塩原丼」なる豚丼があったり、売店には矢板産の大ドンコをはじめヒラタケやシメジといったキノコ、さらに柿やかりんなど農産品が露店で販売されていたりと、山里の食文化の品評会のようでなかなか楽しい。酒の肴にニンニク辛子味噌を購入、隣にはイナゴの佃煮が並んでいて、まんまの姿でたくさん入っているのに思わずぎょっとする。

 間欠泉が噴き出す温泉池を囲むように巡らされた、日本最大級の足湯が自慢の「湯っ歩の里」で、源泉掛け流しの湯に足を浸してひと休みした後、一行は温泉街の中ほどにある「塩原もの語り館」へと向かった。塩原温泉は古くから、文人や歌人にゆかりのある温泉地で、温泉街にはおよそ65基の文学碑があるのだとか。この施設も名の通り、彼らにまつわる様々な展示がなされている。温泉街には夏目漱石や野口雨情、竹下夢路の常宿があることや、斉藤茂吉に与謝野鉄幹・晶子夫妻が当地で歌を詠んだこと、さらに国木田独歩はここへ駆け落ちしてきた、谷崎潤一郎は妻の妹に惚れて社会的にバッシングを受けて温泉街の明恩寺に身を隠していたなど、スキャンダラスなネタも披露された。展示ホールの天井から下がる大きなタペストリーは、日本画家の巨匠・川合玉堂が塩の湯を散策している様子を撮った写真が描かれ、ほかにも塩原温泉の旅館や日塩もみじラインの風景のセピア色したレトロな写真、また手書き鳥瞰の案内絵図やモノクロ写真に着色した「カラー」絵葉書など、観光地ならではの懐かしい展示もあって面白い。

 ひとしきり館内を見学した後、昼食会場である『カフェレストラン洋燈』へと移動。施設の2階にあり、席に通されると店名にちなんで卓上に配置された、シックなランプが目を引く。近くを流れる箒川に向かって大きくとられた窓からは、清流の流れと沿岸の遊歩道に吊橋が一望できる。加えてここは塩原温泉の中でも1、2を争う紅葉の名所で、昭和40年に周辺の旅館や商店によって植えられた赤、黄、オレンジと、色鮮やかな紅葉が一望できる絶好のロケーション。全席展望席のこのレストランだけが独占する、何とも贅沢な絶景である。

 そんな景色を眺めつつ頂くのは、レストラン自慢の「開湯御膳」なるメニュー。塩原温泉の開湯1200年を記念した箱膳とのことで、運ばれてきた弁当箱には炊き込みご飯をはじめ、魚のムニエル、メンチカツ、ポテトサラダ、野菜の煮物に汁物と、派手さはないが素朴な料理が各種詰められている。まずは炊き込みご飯から。さっき紅葉谷大吊り橋の売店で見かけた、マイタケやシイタケ、シメジといったキノコ類がたっぷりで、どれも香りが鮮烈で、山の香気が存分に感じられる旨さだ。煮物の大根も塩原高原大根で、あっさりと炊いてあり大根の瑞々しさがそのまま残っている。脂がよくのったムニエルの魚は、目の前の箒川に釣り場があるからマスかと思ったらサケとのこと。三平汁にも大根、ニンジンに加えてサケもたっぷり。「もの語り館」はそもそも、農水省の補助で建てられた施設で、その影響があるかどうかは分からないがこのメニューには、地場の農産品をふんだんに使ってあるようだ。

 たっぷりの野菜に、デザートにはチーズケーキにみかん付きと、品数豊富なヘルシーメニューは女性に人気が出そうだ。それにしてもこのレストラン、景色がいいのは大変結構だけど、対岸にある露天風呂「もみじの湯」に入っている人まで、客席から丸見えだ。ヘルシーメニューを味わって、食後はヘルシーに温泉… という人は、絶景の一部? にならないよう、要注意である。(2006年11月20日食記)

旅で出会ったローカルごはん71…那須高原 『南ヶ丘牧場』の、ソーセージ手作り体験

2006年12月21日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 那須高原の合同取材会は、東北自動車道上河内インターにある「宇都宮餃子広場」で、名物の宇都宮餃子の試食から視察が始まった。五つの店の餃子を試食して、適度にお腹がいっぱいになったけれど、これはあくまで試食。昼食の予定はこの後訪れる那須高原です、とのことで、それまでに何とか餃子が消化されればいいな、と思いつつ、バスに揺られること小1時間ほど。那須インターで東北自動車道を降り、那須湯元温泉や那須岳へ向かうロープウェイ乗り場へと続く那須街道を登り、ちょうどお昼前に昼食予定の『南ヶ丘牧場』へと到着した。予定よりやや早めに着いたので、園内の動物ふれあいコーナーや牧場を歩き回ったところ、雨模様の天気のせいもあって観光客の数は少ないよう。足元からしみるような寒さに耐えかね、たまらずレストハウスへとかけこみ、牧場で製造しているソーセージやチーズなどを物色しながら時間をつぶす。

 昼食の会場である、レストラン「ザ・バイカル」へと足を運んだところ、食事の前に視察をひとつ行うという。その視察とは何と、ソーセージ作りの体験。南ヶ丘牧場の人気体験メニューのひとつで、どうやら昼食のおかずは自分で作るということらしい。6人ひと組のグループをつくって席につくと、テーブルの上にはすでに、道具と材料が用意されて並んでいる。大き目のボウルにミンチの山、ラップにくるまれた調味料らしきもの、さらに細長いゴムひものようなものが数本入った器に、ケーキ作りに使う絞り器の親分のようなのも。講師の方によると、材料のひき肉は背脂入りの豚肉で、1キロで8人前になるという。配られたゴム手袋をはめたら準備完了。6人のメンバーの中には、いままでソーセージ作りを体験したことがある人がふたり、ハンバーグづくりの経験者もいて、精肉加工に熟達した? メンバーが過半数と心強い。ちなみにソーセージ作りの経験者のうちひとりは、自分。以前に軽井沢でやったときのことを思い出して、しっかりがんばってみることにしよう。

 まずはボウルに挽肉を入れ、氷水200グラムを加える。軽く混ぜ合わせたら調味料である塩と香辛料、さらに肉の色がよくなるリン酸塩を加え、本格的に肉をこね始める。ゴム手袋をしているとはいえ氷水がかなり冷たく、最初はぐにゃぐにゃと柔らかいのが次第に粘りが出て、順番にこねていると後の人ほど握力と腕力が必要のよう。順番に4人やったところでこね終わり、最後の人はお疲れのご様子だ。この状態で白菜とニラを混ぜれば、さっき食べた餃子にもできるな、などと言ってみたら、丸めて焼けばハンバーグにもいけるよ、とハンバーグ体験者も笑っている。自分もこねるつもりでいたら直前の人で終了したので、続いて挽肉から空気を抜く作業を担当。くるりとまとめて片手で持ち、ボウルの壁面にベチャ。何度も繰り返しているとそのうちバチッといい音が響き、いい塩梅に仕上がってきた。調子に乗ってベチベチやっていると、「ここで日頃のストレス解消?」などどいう突っ込みも飛んできた。

 これで挽肉の下ごしらえが終わったので、いよいよソーセージのハイライトである腸に挽肉を詰める作業だ。ソーセージは日本語で「腸詰め」と称するように、豚や羊の腸に挽肉を詰めた精肉加工品のことである。ウインナーやフランクフルト、ボロニヤソーセージと、仕上がりの太さによって使う腸が違い、この日はウインナーからフランクフルトぐらいの太さのを作るという。材料の中にあった細長いゴムひものようなのが、羊の腸。これを絞り器の口金にはめ、袋部に詰めた挽肉を絞り出すのである。これは以前体験したときにやったな、と思い出し、自ら腸を口金にとりつけようとするが、なかなか腸の開いている部分が見つからずひと苦労。あえなくもうひとりの体験者にバトンタッチしたら、口金の部分にうまくかぶせ、腸を1本まるまる口金にたぐりあげていく。別の人が絞り器の袋の部分に、挽肉をいっぱい詰め終わったところで準備完了だ。いざ両手でギュッと絞ると、口金からスルスルスル… と簡単にはいかず、思いっきり押してもなかなか挽肉が出てこない。絞り出すのには意外と力が必要で、全体重を乗せてグッとやってください、と講師のフォローが入る。

 絞り器の袋を押す人、出てくる挽肉に合わせて口金の腸を送り出していく人、挽肉が詰まり終わった腸を支えて送っていく人と、3人がかりで1本の腸を仕上げては別の3人に交代、と繰り返す。挽肉の出が悪くなかなかうまくいかないこともあれば、呼吸がぴったり合うとあっという間にスルスルスルと1本仕上がっていくこともあり、その辺が何とも面白い。何とか無事に、全長50~60センチほどのが5~6本できあがり。並べてみると作ったメンバーによって太さがまちまちで、中には同じ1本の中でも部分的に太さが不ぞろいなのも。ここが手作りらしいところで、転がしながら太さを平均になるよう慣らしているチームもいる。

 もちろんこのままでは長すぎて食べにくいので、最後の仕上げはこれを普通のウインナーやフランクフルトの長さに分ける、「リンキング」という作業だ。講師の方の説明の通りに、まずはちょうど半分ぐらいの場所を指でキュッとつまみ、くるりとひとねじりして2分の1に分ける。そこで半分に折り曲げて、あとは2本をまとめて好みの長さで同様に指で押してからねじって、を繰り返していく。ねじった後、一方の端を輪にくるりとくぐらせれば、一回結んだ形になり元に戻らないという仕組み。各々が作業し終わったのを見ると、長さがウインナーだったりフランクフルトだったり、中にはもっと長いのだったりと、長さの好みは作った人によって様々のよう。皿の上に大盛りになったのを見ると、それなりにうまい具合に出来上がったようで、鮮やかな色が食欲をそそる。

 これにて無事視察、というかソーセージ製作体験は終了、場所を地下の鉄板焼きコーナーに移して、昼食兼視察結果の自己審査である。先にジンギスカンや野菜を焼いて頂いていると、ゆであがったソーセージが皿に大盛りで運ばれてきた。仕上げたばかりの時には肉の赤色が鮮やかだったのが、ゆでると白っぽく仕上がっている。このままでもいけるらしいが、鉄板で軽くあぶって焼き目がついたぐらいがおいしいとのことで、コロコロ転がしたぐらいあぶってひと口。すると皮はパリッとカリカリ、中は肉汁がたっぷりでスパイスがしっかり効いている。市販のソーセージやウインナーに比べ、混ぜ物のない挽肉の味そのままといった感じで、肉団子や小龍包のほうが味のイメージが近いかも。ソーセージも立派な肉料理なんだ、ということが実感できる味だ。

 自分たちの手作りだから愛着が湧くのか、ほかのメンバーも手が出るようで、皿に大盛りのソーセージはいつの間にかほとんど片付いてしまった。それにしても餃子の試食に、視察でソーセージ作り、加えて昼食はジンギスカンと、ここまで那須の食は肉づくしの様相を呈している。今夜泊まる休暇村那須は地元産の野菜を使った料理が自慢、何でも飲食部門担当の中には野菜の専門家「野菜ソムリエ」なる人もいるそうだから、せめて夕食は野菜を中心にしてバランスをとることにするか。さらに、ビールに合う料理がこれだけ続いているにもかかわらず、ここまでまだ一滴も飲んでいない。ついでにこちらのほうも、本日の夕食でバランスをとることにするか? (2006年11月19日食記)

旅で出会ったローカルごはん70…東北道上河内サービスエリア 『宇都宮餃子広場』の、本場宇都宮餃子

2006年12月20日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 先日、11月に取材会で那須高原にある休暇村を訪れた話を綴りました。休暇村の、那須高原の食材を用いた料理の数々はもちろん、道中で様々な興味深い味覚と出会ったので、忘れないうちにここ数回は那須高原編をまとめていきます。すっかり寒くなったのに未だ終わっていない、真夏の瀬戸内~宇和海~土佐湾の漁港めぐりの話は、少々お休み。まだその後取材した、鳥取や境港のベニズワイガニに松江の宍道湖七珍もある。手持ちのネタを綴りきるまで、年末年始は執筆に専念、です。 


 朝9時に有楽町駅前を出発したバスは首都高を経由、東北自動車道を経て一路那須インターへと向かった。天気はあいにくの曇り、那須方面は雨模様とのことだが、この取材会は現地で行われる会議が主目的だからあまり影響ないか。観光、ではなく視察が少ないうえ、この天候では少々物足りない旅ではあるが、その分宿の温泉や、行く先々での食事を楽しみに、進めていくことにしよう。

 行楽に不向きな天候のおかげか、東北自動車道はかなり空いていて、出発から1時間ちょっともすると宇都宮インターを通過。最初の休憩であり視察ポイントである、上河内サービスエリアが近づいてきた。ここで視察するのは「餃子」。今や全国的に有名になった、宇都宮餃子を販売するコーナーが、サービスエリアにある飲食・物販施設の一角に設けられているという。さすがは、ひとりあたりの餃子の消費量が全国一、といわれる、餃子の街だけあり、サービスエリアの餃子から、真剣勝負という感じである。パーキングにバスが止まると、その『宇都宮餃子広場』の方がバスに乗り込み、視察、というか試食の前に、施設の概要などを説明していただいた。

 宇都宮の市街には、餃子に関連する店や業者およそ70軒が加盟する、「宇都宮餃子会」が組織されていて、この宇都宮餃子広場ではその中の14軒の餃子を味わうことができるという。出される餃子はこの中から週替わりで5軒ずつのため、訪れるたびに違う店の餃子がいただけるのがうれしい限り。那須への行きと帰りに寄ると、うまくすれば10種を制覇できる、と思ったところ、コーナーがあるのは残念ながら下り線のサービスエリアのみとか。行きは目的地へ急ぎ、帰りに寄るつもりだと、食べ損ねてしまうから要注意だ。

 それではさっそく、コーナーへと場所を変えて試食、といきたいところだが、時間の関係ですでに焼きあがって紙箱に入った餃子が、バスの車内で配られることに。車内で試食というのも味気ないので、雨が一時的にやんだのをいいことに、みんなで外へ出てレストハウスに隣接するピクニックコーナーへと移動。紙箱にはそれぞれ、餃子の店名が記されているので、木のテーブルに箱を並べて、みんなで5種類全部をひと通り頂くことにした。自分がもらった紙箱には、「鵜の木」との店名が。宇都宮インター近くにある店で、皮へのこだわりと具材の味をシンプルに引き出す、オーソドックスな餃子が自慢という。厚めの皮がモッチリ、そして肉汁もたっぷりと、どちらも旨味に満ちた本格的な餃子で、つい二つ目に箸が伸びるがあと4種を制覇してからか。

 そもそも宇都宮に餃子が定着、広まったのには、いくつかの理由がある。そもそも宇都宮にあった陸軍師団が中国へ遠征した際、同行した民間人が現地から持ち帰った食文化とされ、餡の材料である豚肉やネギ、白菜、さらに皮の材料である小麦が特産だったことも、戦後に宇都宮に餃子が浸透する追い風となったという。だから鵜の木の餃子をはじめ、どの餃子も皮にしっかりと味わいがあるのが、大きな特徴のよう。ほか、皮から手作りの「華餃子」は野菜のサクサクした食感、調味料を使わず皮をしっかり寝かせて仕上げる「幸楽」のは大振りで肉汁がジュッ、弁当屋でもある「新三」は野菜たっぷりの薄皮餃子でニラの香りが鮮烈。そしてサービスエリアのフタバレストランが出している「豚喜喜餃子」は、皮は薄めで餡がねっとり濃厚と、見た感じはどれも同じ焼き餃子なのに、食べ比べるとかなり味に違いがある。効き酒ならぬ「効き餃子」なんてのが楽しめるのも、餃子の街ならではか。

 皆でワイワイと餃子を食べ比べた後は、サービスエリアの建物もちょっと覗いてみることに。パーキングの正面の階段の上に建つ、立派なガラス張りのレストハウスの中は、右半分が物販コーナー、左半分がフードコートになっている。そばやうどん、定食などのセルフサービス窓口の奥に、黄色い看板で「宇都宮餃子広場」の文字が見える。さらに左奥はレストランになっていて、さっき餃子をひと通り食べたばかりの同行の人がひとり、なんとそばをすすっている。このサービスエリアでは餃子に続いて、地元産のそばを使った「下野そば」を売り出すそうで、「下野名人そば」と銘打って手打ちそばを提供するのだという。職人が手打ちそばの実演をやっているブースも見かけ、自分も味見もしたい気分になってしまうが、旅のはじめから食の飛ばしすぎに注意、と、ここは足早にバスへと引き返す。あと小1時間で那須高原へ着いたら、牧場でソーセージ製作体験、さらにジンギスカンの昼食が待っている。(2006年11月19日食記) 

魚どころの特上ごはん53…中村 『季節料理たにぐち』の、カツオの塩タタキ

2006年12月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 忘年会シーズンたけなわですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか? 現在、「続・魚どころの…」は高知編、自分も先日、土佐料理の店でちょっとした忘年会に参加したのですが、故あってひどい悪酔い…。 カツオの内臓の塩辛「酒盗」と、土佐の銘酒「酔鯨」だけで延々飲み続けたのがいけなかったようで、現地でこの組み合わせで飲んだときには果てしなく気持ちよく酔えただけに、つい慢心してしまいました。そういえば、旅先ではどんな飲み方をしても、なぜか悪酔いや二日酔いの覚えはほとんどない。何かの折に「食べ物は、食材がとれる土地、その料理が伝わった土地で食べるからこそうまい」と書いたことがあるけれど、酒も飲み親しまれている土地で飲めば、体にしっくり合うように出来ているのかも知れませんね。
 酔って帰って、更新のためパソコンに向かい、打っているつもりが気がつくと熟睡。来週もこんな調子かも…。 


 四万十川河口の町・中村にある『季節料理たにぐち』での、四万十川の川魚料理の宴も、主役である天然アユの塩焼きに天然ウナギの蒲焼を頂いたところで、そろそろ終宴が近づいてきた。最後の清流・四万十川に敬意を表し、今宵は川魚三昧で海のお魚は一休み、のつもりだった。ところがこの中村、カツオで有名な土佐佐賀に、清水サバで知られる土佐清水と、高知有数の漁港の町も意外と近い。本日、晴れて高知入りしたこともあり、ちょっとばかり土佐の魚に表敬しておくのもいいかも。焼酎「大土佐」をもう一杯だけおかわり、そして本場のカツオのたたきも注文して、最後の肴と締めのご飯のおかずにするとしよう。

 とはいえ、これまで結構いっぱい料理を頂いたので、あまり多いと食べきれるだろうか。注文する前におばちゃんに聞くと「一人前で6切れほどです」とのことで、ちょうど手ごろかな、と頼むことにした。長方形の角皿にのった数切れのつくりがくると思ったら、運ばれてきた大き目の丸い皿には隙間がないほど並ぶつくり、その上にたっぷりのった野菜と結構なボリューム。数えてみると、確かにつくりは6切れだが、箸でとってみるとひとつひとつがかなり大きい。普通のたたきの2.5倍はあり、平造りというよりはぶつ切りのよう。あまりに厚いので、食べやすいようにかタレが染みやすいようにか、間に切れ目を入れているほどだ。見た感じはカツオのたたきとは全然別の、大盛り海鮮サラダのような料理である。

 カツオのタタキといえば一般的には、周囲を軽くあぶったカツオの刺身、という印象だろうか。そもそもは「焼き切り」という、土佐の漁師がとれた魚を皮付きのままあぶった料理がルーツとされ、生のまま食べるより皮と脂の旨味を引き出しているのが特徴である。高知では藁でいぶして香りをつけてから氷水で冷やして締め、酢醤油や二倍酢、柚酢など地域ごとに様々なタレをつけて頂く。薬味もタマネギやネギ、シソ、ワカメなど地域によって特徴がある中、ニンニクのかけらをかじりながら食べるのが本場流というか、豪快な漁師気質まる出しというか。そのカツオのたたきの、いわば原型とされているのが、この店で出している「塩タタキ」。店の品書きにも「昔ながらの」とあるように、古くからカツオ漁が盛んなこの地方の伝統的スタイルなのだ。

 追加の「大土佐」と締めのご飯も運ばれてきたところで、それ肴だおかずだとつくりに箸を伸ばす。タレにつけて、薬味を添えて… といきたいところだが、出されたのはこの丸皿だけで薬味皿やタレの皿はない。というのも塩タタキは、つくりの上にタマネギ、ネギ、シソといった薬味が載せてあり、タレもあらかじめかけ回してあるのだ。これが普通のタタキの違いのひとつで、薬味とつくりを一緒に箸でガバッとつかんで、豪快に頂く。身はねっとり、ふっくらと、赤身独特のくせがなく優しい味といった感じか。タタキ独特のあぶった香ばしさは控えめ、薬味をつけないのでおろしニンニクやショウガの刺激もない分、カツオ自体の旨さがしっかり楽しめるようだ。塩タタキのもうひとつの特徴は、さくを火であぶった後に氷水で締めず、温かいうちに薄切りにして頂くこと。水揚げ港に近く、新鮮なカツオが手に入るからこその料理法で、仕上げには名の通り塩を振りかけ、上から軽く軽く押してなじませることで、カツオの持つ旨味を素直に引き出している。先ほど頂いた天然物のウナギと同様、今まで食べたカツオのタタキとはまるで別の料理のようである。

 運ばれてきたときには量に少々驚いたけれど、柚子やシソの酸味が食欲をそそり、満腹に近いながらもすんなり箸が出て行く。ニンニクスライスもいっぱい添えてあり、ガリッとやると普通のタタキの味を思い出し、鼻息が荒くなりそうだ。3切れは「大土佐」の肴に、もう3切れをご飯のおかずに平らげれば、もうすっかり満腹。店を後に、中村駅に近い宿までの自転車が食後のいい腹ごなしになりそうだ。瀬戸内海、宇和海と漁港の町を食べ歩いてきたこの旅も、いよいよ土佐湾・カツオ一本釣り漁の基地である土佐久礼へ。その前に明日は早朝の涼しいうちに、四万十川を2時間ほどサイクリングする予定で、これまでの旅で食べ歩いて身についた分を燃焼してから? 乗り込むとしよう。(2006年8月6日食記)

魚どころの特上ごはん52…中村 『季節料理たにぐち』の、四万十川天然アユにウナギ

2006年12月16日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 最後の清流・四万十川が育んだ、天然物の川の味覚の数々を、河口の町・四万十市中村にある料亭『季節料理たにぐち』で満喫。ゴリの卵とじ、川エビの唐揚げ、青さのりの天ぷらと味わった後、四万十川の天然の川魚といえば欠かせない2品が、いよいよ登場することとなる。残ったビールをグラスに注ぎ、もう一本追加しようとしたところで、まずはアユの塩焼きが運ばれてきた。アユの塩焼きというと、山間の温泉旅館の夕食で出るような、アジぐらい大振りなのを思い浮かべるけれど、皿にのったアユは意外に小柄だ。よく見ると丸々と肥えた養殖物とは違い、キュッと引き締まったシャープな印象。面構えものんびりした感じの養殖物に比べ、どこか精悍そうに見える。

 四万十川の鮎は1年魚で、秋に河口域で産卵・孵化後、海へと下って稚魚の時期を過ごし、翌年の春に河口域へと遡上する。この水域で、アユは川底の丸石に付着するコケ類を捕食して成長、解禁となる6月の梅雨時から夏前にかけて、約20センチほどの大きさになる。「若アユ」と称されるこの時期がもっとも味がいいとされ、ほか産卵のため河口域に下った「落ちアユ」も人気が高い。漁法は流域により様々ある中、有名なのは「火振り漁」という伝統的川魚漁法。夜に舟を出し、船上で炊いたかがり火を水面で振り、その明かりで驚いたアユをあらかじめ川に仕掛けた網へと追い込む漁法である。7月頃に主に中流域で行われ、闇の中に赤々と燃え盛る火がくるくると振られる様は、四万十川流域の夏の風物詩でもある。

 「四万十川の天然アユは、頭からいけるよ」との親父さんに従い、手づかみでまずは頭からひと口。固いかと思ったらサクサクと歯ごたえよく、かみしめるたびに甘味が出てくる。ふた口目はワタにあたり、これが苦味とくせがなくこってりと濃厚な味わい。そして小柄ながら白身もびっしりとついていて、養殖の大振りで身が厚いがパサパサのに比べ、小振りな分味が凝縮した感じ。余分な脂は全くなく、いかにも天然物の質実剛健といった感じが、なかなかいい。アユを肴にここでビールが終わり、おかわりはそろそろ地酒といきたい。親父さんに、中村や周辺の蔵元の地酒がないか尋ねたところ、あいにく店では地酒は置いていないという。その代わりに進められたのが、「大土佐」という米焼酎。土佐の酒で「酔鯨」と並んで有名な、佐川町に蔵元がある「司牡丹」の酒蔵でつくっており、キリッと刺すような刺激が、川魚料理との相性がいいようだ。

 天然川魚の大関クラス・アユを平らげると、続いていよいよ横綱のお出まし、四万十川の天然ウナギの登場だ。コースの主役ということもあり、次の料理の合間に頂いていた川エビとゴリには悪いが後回しに、ウナギが焼き立てで温かいうちにひと口頂く。するとほっこりした食感の養殖ウナギと違い、身はネットリと粘りがありからみついてくるような強い味。土の香りは一片もせず、フルーティーで高貴な香りがあふれている。その後に、深みのある香りが楽しめる脂がたっぷりとしみ出てきて、これはウナギを超えた味わい、例えるならば上級の肉のサーロインステーキのような鮮烈さだ。とにかく今まで食べた天然物、養殖物を含めたあらゆるウナギの中で、ここまで旨さ云々を超えた凄みを感じるものはない。

 今や希少な天然ウナギの中でも、ここ四万十川産と同じ四国の吉野川産は、質の良さで知られている。天然物のウナギと聞くと、さぞかし味がいいのだろうと思われるかも知れないが、天然物のウナギは生育環境によって品質にばらつきがあり、天然物=味がいいとは必ずしも言えない。品質のばらつきに加え、水揚げが少ないため数も揃いづらく大きさもまちまちで、老舗の鰻屋でも仕入れに苦労しているほど。むしろ伝統の技術できちんと管理して飼育している養殖物の方が、品質も味も一定、安定して店に供給できるのだ。今では日本で消費されるウナギは、中国からの輸入物がほとんどの中、昔からの養鰻地である浜名湖や宮崎・鹿児島の「養殖物」が、近頃では国産ブランドウナギとして認知されているようだ。

 そんな中、四万十川は全国でも比較的天然物のウナギの水揚げ量が多い。エサとなるカニやエビが豊富なこと、川底が砂のため泥臭さがないこと、産卵前のウナギが河口域の汽水域で海に向かう準備をするため脂がのっているなど、味が良くなる条件も揃っている。とはいえ希少なのはよそと同様で、天然物のウナギは一般の市場にはほとんど出回らず、川漁師と取引がある料理屋などだけで出される、いわば「幻のウナギ」。値段も養殖ウナギの倍以上というから、これも料理屋が気軽にお客に出せない理由のひとつのようだ。漁法は、河口域では1本の釣り糸に何本もの枝針をつける「延縄」に、ゴリや川エビを狙う「柴漬け漁」、さらに石を積んでウナギの住処をつくり、それを崩しながらあわてて逃げるウナギを、ハサミのような漁具で挟んで捕らえる「石ぐろ漁」なんてユニークな漁法も。アユ同様、6月の梅雨時がもっとも味がいいとされるほか、産卵前の9月のウナギもうまいという。

 さっきの天然アユは天然物は引き締まって精悍な顔つきだったが、ウナギは天然物の見分け方があるのか親父さんに尋ねたところ、天然ものは胸の部分が黄色いのが特徴、と教えてくれた。胸が黄色いから「胸黄」、それがウナギに転じた、なんて話を思い出しながら、残る蒲焼も「大土佐」の杯を傾けつつ平らげた。普通の鰻丼や鰻重に比べ、小ぶりな蒲焼がふた切れだけとちょっと寂しいが、あまりに鮮烈なうまさと旨味たっぷりの脂ののりに、これだけで充分に満足。欲を言えば鰻重で食べたかったが、まだコースは途中でご飯はまだだったのが残念か。締めくくりのご飯の前に、「大土佐」をもう一杯、そして肴に料理がもう一品ほしくなる。そこで高知定番のあの料理を頼んでみたのだが、出てきた料理は…。 以下、土佐の「塩タタキ」は次回にて。(2006年8月6日食記)