ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん64…横浜・磯子 『ジャンボおしどり寿司』の、地魚満載の回転寿司

2006年09月28日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 かなり以前にここで焼肉屋を取り上げたときに、「焼肉屋ではここが我が家御用達の店」と書いたような気がする。子どもを抱えた家庭にとっては、ちょっとお高いジャンルの外食は子連れでも落ち着けること、加えて食べ盛りの子どもを連れていても予算的に安心できることが何より重要。さらに大人も納得の味ならば言うことなしだが、そんな条件にかなった店はなかなか見つからないものだ。勢い、焼肉とかステーキ、寿司など、ちょっとお高いジャンルの店ほど、一度条件に合う店が見つかれば、ついつい同じ店にいくことが多くなる。

 で、寿司屋となるとお手軽なのは回転寿司、となる。我が家の場合、全皿105円を売りにしている「無添くら寿司」がこのところ人気で、4人で行ってビールを飲んでも5000~6000円程度で納まってしまうのは、何にせよありがたい。先日キリンビールの工場を訪れた、横浜臨海部のスタンプラリーの続きを翌週に行った帰り、夏休み中に続いたバイキングから趣を変え、晩ご飯は「まわる寿司」という流れとなった。臨時収入があってちょっと懐が暖かく、この日は私のおごり、を高らかに宣言。いざ、ごひいきにしている新杉田駅近くの「くら寿司」へと向かった。人気店のため、夕方早めに行かないと待つことになるが、まだ17時半ぐらいだから大丈夫、と訪れたところ、店をぐるりと囲む駐車待ちのクルマの列! 今までこんなに混んでいるのは見たことがなく、今日は敬老の日だからキャンペーンでもやっているのだろうか。

 夕飯時直前でこれでは、クルマを停めるまでに1時間近くは掛かりそうなのでこの日は寿司は断念… といきたいところ、すでにすっかり気分は回転寿司モードになっている子ども達が納まりそうにない。そこで訪れたのは、自宅のすぐ近くにある『ジャンボおしどり寿司』。連休の最終日のためここも結構混んでいて、30分ほど待ってから掘り炬燵式の座敷へと落ち着いた。子ども達はさっそくコンベア側の席について、うれしそうに回ってくる皿を狙っている様子。でもここでは、いつもの「くら寿司」の調子で好きにとらせる訳にはいかない。確かにここも、我が家の御用達回転寿司の一軒だが、子どもが寝静まったのを見計らって家内と二人で食べに行く、といった感じ。つまり、ネタがいい分ちょっとばかり高く、皿も底値の100円皿にはじまり140円、180円、240円、280円、350円、400円、500円、550円、700円、そして1000円、と何も全部書き上げることもないか。とにかく、100円均一のくら寿司の勢いで、気ままにじゃんじゃん好きな皿をとられてはたまらない。私のおごり宣言は、あくまでくら寿司を想定した上での宣言である。

 てな訳で、スタート前に子ども達にルール設定(?)と、「赤いふちの皿(=100円)、青(=140円)、緑(=180円)は好きにとって食べていいけれど、それ以外の色や柄の皿を取る場合は事前に申告すべし」として、それではいただきます。マグロにアマエビ、玉子、巻物など、それなりに楽しんでとっている様子で、ここはサビ抜きがないため、一丁前に板前の兄さんに直接オーダーしている。「活け」「朝とれ」「直送」と但し書きがあるネタは流しつつ、自分も400円皿の生サバではなくしめ鯖、240円皿のアオリイカは見送ってスルメイカ、ボタンエビもスルーしてアマエビへ。安い皿といってネタがイマイチということはなく、特にしめ鯖は脂がよくのっていて、この日一番の掘り出し物といった感じか。

 回転寿司といえば、一昔前はいわゆる安かろう何とやらで、高価な寿司を手軽に食べられる分、味や食材の質には目をつぶって、といったイメージだった。よく言われるのが「代用魚」「加工」「化学調味料」の3つの問題。代用魚は文字通り、安い類似種の魚を使うことで、例えばアワビと名乗りつつ南米産のロコ貝、エンガワも正体はヒラメでなく巨大カレイのオヒョウ、クルマエビも東南アジアのブラックタイガーなど。加工については、さすがに近頃は人造イクラは見られなくなったものの、植物性脂を添加して脂ののりをよくしたり、白身をきれいに見せるため漂白したりといった手が加えられることも。そしてネタの旨みを補うため、何と醤油にあらかじめ化学調味料を加えるなんてのも。それがこのところのブームでは、様子が変わってきたよう。きちんとしたウニやイクラ、アワビ、中トロが手頃な値段で頂けたり、水揚げ直送を売りにするなど、従来のネタに加えてこうした目玉商品を揃え、ネタの質がかなり良くなっているようである。

 このおしどり寿司は横浜周辺を中心に20店舗を構えるチェーンで、地の利を生かして地元相模湾や東京湾で水揚げされた、地魚を積極的に使っているのが売りである。しかも仕入れは業者任せではなく、自社の担当者が直接セリに参加して食材を手配するというこだわりようだ。この日もボードには、先ほどの松輪港水揚げのスズキや朝とれのトビウオに並んで、長井港の生鯖、直送の黒ムツなど、専門の寿司店顔負けの品揃えがうれしい。中には予算内カラーの皿にのったのもあり、自分が頼んだスズキはシャッキリした白身が瑞々しく、シャコも旨みが程良く身がホロリ。息子もこれはどうだろう、といいながらトビウオを頼んでいて、なかなか通のネタ選びである。この店は板場をぐるりと囲むようにカウンターが配置されていて、中央にある大きな生け簀では、活けの鯛やカンパチが元気良く泳いでいる様子も見える。

 突然、店内にガランガランと鐘の音が響き、まな板に大きなマグロがドン、と置かれた。恒例のマグロ解体ショーの始まりである。マイクでの解説に従い、外された頭が運ばれ、私たちの目の前のカウンターへドン。子ども達は初めて見るマグロの大頭に驚いている様子だ。この店で使っているのは、生の本マグロかインドマグロ。この日解体されているのは中ぐらいのサイズで、さく取りされてすぐに握られ、お客の注文のたびにおろしたて、握りたてが運ばれていく。中でも限定品の頭肉、ほほ肉、カマトロは、できると同時に注文が殺到。安皿ばかりでなく、ちょっとは子ども達にいいところも味わってもらおう、とほほ肉の握りをひと皿確保した。頭肉、カマトロとともに、中トロや大トロに匹敵する柔らかさと脂ののりの、隠れたおいしい部位だ。軽くあぶってほんのり赤身が残るぐらいで、見たところレアのステーキのような感じ。見るとさっきのマグロの頭から、ほほの部分だけが欠けている。

 という訳で、みんなそれなりに好きに食べて、おかげさまでごちそうさま。肝心のお会計がちょっと心配だったが、「ルール設定」が功を奏してか、4人で1万円に全然届かずに収まった。安くお手軽のため、子ども達との食事はいつもファミレスやファーストフード、寿司も回転寿司になってしまうけれど、小さいうちからきちんとした味を覚えてもらうためにも、たまにはちゃんとした店に行かないといけない。だから回転寿司ながら100円寿司よりもネタがちゃんとした、こうした店はちょっとありがたいか。まあ、100円寿司での遠慮のない注文の様子を見ている分には、カウンターのみのお店はまだちょっと怖いかも。(2006年9月18日食記)

町で見つけたオモシロごはん63…文京区春日 『らーめん花の華』の、手打ち具だくさんの花の華ラーメン

2006年09月26日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 行ってきました鳥取~松江、食べてきました魚づくし。松葉ガニシーズンにはやや早かったけれど、底引き網漁の解禁直後で、カレイやらエビやら地魚らしい底魚がいっぱい味わえました。連日の市場巡り、つまり毎日6時前に起きて、夜は料理屋を巡るから午前様。帰りの寝台特急は個室なのをいいことに、ベッドに座り込んで流れる車窓風景を見ながら、シジミの佃煮で地酒を一杯やっているうちに爆睡してしまい、列車が東京到着直前に目覚めるというあわただしい旅の終わりではありました。そのまま朝から仕事、というのがつらいとこですが…。

1日おきのペースを守って更新しておりますが、このところ持ちネタが増えるペースが上回り、原稿にする前の整理に追われる日々。いずれもおいおいアップしていきます。今日のところはとりあえず、またラーメンネタということで(夜行列車明けで仕事のため、今日はもう眠いもんでご勘弁を)。 

 毎年一度の健康診断のために、東京ドームのすぐ近くにある指定のクリニックへとやってきた。日頃不規則な生活を強いられることが多い仕事の上、旅に出たときにはあれこれ食べ歩いて、をなりわいにしているから、普段の健康管理にはひと一倍気をつけているつもりではある。今年は年頭から、適度な運動と食生活に気をつけたおかげで体重も適度に減り、体調もこのところまずますだ。それでも一応、検査に備えて2、3日前からはアルコールを控えめに、さらに炭水化物をとりすぎないようにした結果、この日は朝から体調万全。問診も特に悪いところはなく、小1時間ほどで無事に検査は終了となった。

 とりあえずひと安心すると、減量に絶えて計量をパスした後のボクサーではないが、数日節制した分、お昼はしっかりと頂きたい。クリニックがある地下鉄の春日駅周辺はラーメン屋が多く、「文京区ラーメン激戦地」の様相を呈している。春日通りから枝に入る道までぶらぶらと歩いていると、それこそ様々なタイプのラーメン屋を見かけて興味深い。とんこつ江戸ダシラーメンとある「珍珍珍(さんちん と読む)」は、名の通り濃厚な白濁スープのラーメンの写真が店頭に並び、漂うもったりした香りにカウンターだけの店へと引きずり込まれそうになりそうだ。その向かいには黒板のシックな外観が目を引く、「信濃神麺 烈士洵名」と大仰な名の店が。名の通り長野の素材を生かしたラーメンとあり、店頭の張り紙によると白醤油ダシにトリプルスープ、エリンギなどの具材を生かしたシンプルなラーメンの写真があり、珍珍珍とは対称的だ。

 ほかにも生ニンニクを自分でクラッシュしてのせるパワーみなぎる「ニンニクげんこつラーメン花月」、キャベツや煮玉子、チャーシューなどトッピングが選べ、替え玉まである本場博多ラーメンの「丸金」など、個性派のラーメン屋が駅周辺にあるわあるわ。そんな中で選んだのは、駅の近くにある『らーめん花の華』という店。まだ仕事があるので、強烈なニンニクやトンコツラーメンはきつく、かといって醤油ラーメンや博多ラーメンではちょっと物足りない、と、「こだわりの自家製麺」の看板にひかれて暖簾をくぐることにした。カウンターに落ち着いて、選んだのは「花の華ラーメン」。餃子もプラスして、さらにあやうくライスまで頼みそうになるところを自重。ここ数日の炭水化物制限のリバウンドが来た、という感じである。

 待つ間に他の客の注文を見ていると、つけ麺やタンタンメンを頼む客が結構多いよう。手打ちとある麺が売りだからか、確かにつけ麺はメンマ、ワカメ、野菜、味噌などメニューの数が多い。一方、餃子も人気らしくほとんどの客が一緒に頼んでいる様子。張り紙には「朝仕込みの手作り」とあり、カウンターの中では手の空いたお姉さんが餃子の仕込みにかかり始めた。丼にてんこ盛りの餡を、丸い皮にたっぷりとはさみ、手際よく端からちまちまと畳んでトレイに行儀良く並べていく。冷凍の作り置きとは違い、目の前で仕込んでいるのを見るとよけいに食欲が湧いてくる。

 先に運ばれてきたラーメンは、麺が見えないほど様々な具材がのっていて、こんもりと盛り上げっているほどのボリュームである。目を引くのは上にのった赤っぽいあんで、ひと口頂くと肉味噌風でピリッと辛い。味は例えるとエビチリのソースのようで、いかにも中華といった味わいである。かなり唐辛子が効いているため、一気にいくと思わずむせてしまうほど。隣の客も、タンタンメンをすすりながら一緒にむせている。そしてあんの下にはキャベツ、モヤシ、ニンジンと野菜がたっぷり、さらにメンマにのりにチャーシューと、さすが店名を冠しただけあるスペシャル版だ。そのボリュームと対称的に、魚介のダシがかなり強く効いたスープはさっぱりした印象。おかげで飽きずにさらりと食べ進めることができるのがありがたい。

 ここまで食べ進めてやっとのことで、麺までたどりつくことができた。さすが自慢の手打ち、しっかり太くグッ、グッとした食感で、麺料理の醍醐味を味わえるしっかりした味わいだ。確かにこの麺のつけ麺なら、人気が出ること間違いなしではないだろうか。ズッとすすり、かみしめる充実感を楽しみながら、大量の具とともに食べ進める。いつのまにか餡と具が混ざり、スープはすっかり赤くなってしまい、五目タンタンメン風になってきた。具が多いのに気をとられていると麺がのびるのが少々早いようで、ピッチをあげてどんどん頂く。

 もうひとつの人気の品・餃子の方も、皮がプリプリ、グイグイと麺と同様になかなかいける。この餃子、普通のの1.2倍はあろうほど大きいのだが、肉は脂が少な目のために軽く、野菜の味わいが豊かで食べやすい。ほんのりエビの香りがするのは気のせいか、何か仕掛けがあるのだろうか。

 餃子を平らげて丼の残りにかかろうとしたが、スープがややぬるくなりほんの少し残った麺はのびのびに、さらに具も焦げた野菜がちらほらのこっているだけなので、腹八分目(?)ということでこれにてごちそうさまとした。店を出て駅へ向かう途中、あいにく今回は行けなかったラーメン店の前を数軒通り過ぎながら、次回はどこを訪れようかな、と早くも迷ってしまう。年に1度の健康診断後のお楽しみとすれば、来年からは検査前の節制に、少しは気合いが入るかも?(2006年9月21日食記)

町で見つけたオモシロごはん62…横浜・新杉田 『はなまるうどん』の、ぶっかけ温玉のせ中ひやひや

2006年09月21日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 明日(23日)から来週の火曜まで、山陰の漁港の市場めぐりに出掛けてきますので、週末の更新はお休みさせて頂きます。鳥取ではベニズワイガニ漁が始まったばかりの賀露漁港と、山陰屈指の底引き網漁の水揚げを誇る境港へ。松江では宍道湖名物の「宍道湖七珍」をいただき、運が良ければ湖のシジミ漁が見れれば… といった感じ。まだ夏休み中の四国行のアップもできていないので少々先になるかも知れませんが、情報が整理できたら順次紹介していきます。

 という訳で、今週は自宅そばの「はなまるうどん」のお話で締めくくり。チェーンながらも本場の「セルフ」形式を首都圏などに広めた功労者で、本場讃岐うどんとの違いなども交えて綴っていきます。 


 先日の1週間にわたる貧乏昼食生活の際、立ち食いスタンドのうどんは偉大な存在だと痛感した。1杯わずか200~300円ほどで1食分まかなえるのだから、いわばジャパニーズトラディショナルファーストフード。その日本うどん文化の大本山ともいえる香川の讃岐うどんが、このところ首都圏に猛烈な勢いで進出中、街中に「本場讃岐うどん」との看板を掲げたうどん店をよく見かけるようになった。さすが日本一のうどん処だけに、高松市民は1日1食はかならずうどんを食べているとか、喫茶店のメニューにうどんがあるとか、女の子をナンパするときに「お茶飲まない?」ではなく「うどん食べにいかへん?」 …それは大阪だったか? この手のローカル食にまつわる逸話はオーバーに語られていることが多いが(佐世保バーガーについての記事で、「佐世保駅に降り立った瞬間、町にはバーガーの匂いが漂っている」には笑った)、香川の讃岐うどんにまつわるそれは、どれも事実としてのネタばかり。讃岐うどんの起源をたどると、何と弘法大師にたどり着くというから、それだけ地元の生活に古くから、深く根付いた食文化ということなのだろう。

 とある日曜の夕方、自宅で原稿執筆を行っていたところ、煮詰って筆が完全に停止してしまった。こんな時は環境を変えるに限る、と、パソコンをカバンに放り込んで自転車で家を後に。行きつけのスタバにあるテラスで、風に当たりながらのんびり執筆するつもりで、いつもの最寄り駅・新杉田駅前の駅ビル「ラビスタ」へとやってきた。19時前ということもあり、軽く空腹を埋めてからにしようと思ったが、いつかブログで紹介したスタミナカレーの「バーグ」では食い過ぎになるし、横浜家系ラーメン総本家の「杉田家」のラーメンなんか食べた日には、この猛暑の中では汗が引かなくなってしまう。スタバでベーグルでもかじりながらやるか、と駅ビルをうろついていると、2階に『はなまるうどん』の店舗があったのを思い出した。うどんを軽く程度なら満腹で眠くならないし、2時間も執筆すれば消化されて、家に帰ってビールも飲めるか?

 普通の立ち食いスタンドでうどんを食べる際は、自販機で食券を買って窓口で出せばすぐに丼がサッ、という流れだろう。讃岐うどんは俗に言う「セルフ」というスタイルで、ベースとなるうどんとトッピングをそれぞれ、自分でセレクトして組み合わせるのである。といっても事はそう単純ではなく、うどんひとつとってオーダーのシステムがちょっと複雑だ。まずはうどんの形態からで、立ち食いスタンドだと「ざる」と「かけ」ぐらいなのに対し、讃岐うどんはぶっかけ、ざる、しょうゆ、かけ、釜揚げとバリエーションが豊かだ。特にぶっかけは「讃岐の定番」とあるように本場直伝のもので、麺を食べるたびにつゆにつけるのではなく、上からまさにぶっかけて頂くのが面白い。さらに麺の量、温麺か冷やしかを決めるのだが、量は麺ひと玉の小から3玉の大まで3段階、熱さ冷たさも温めた麺と熱いつゆの「あつあつ」、冷たい麺に熱いつゆの「ひやあつ」、ともに冷たい「ひやひや」と、実にきめ細かいこと。こうしたセミオーダーメイド感覚が、普通の立ち食いスタンドにない遊び心として受けているのかもしれない。

 うどんのスタイルを決めたところでようやく店内へと入り、トレイを片手に順序に従って進んでいく。最初はトッピングのコーナーで、好きなのをとって皿にのせていく仕組み。揚げ物類が種類豊富に並んでいて、なかなかうまそうだ。どれも店で揚げている手作りで、ちくわやげそ、エビ天、コロッケにかき揚げ、ささみや鳥唐揚げ、さらに野菜もかぼちゃ天、さつまいも天、ナス天と、つい手が出そうになってしまう。ほかおでん、寿司やおにぎりのコーナーもあり、しっかり食べたい時にはうれしい。今日のところは小腹の穴埋めなので、これらはパス。空のトレイのままで、最後のうどんのオーダーコーナーへと進んでいく。頼んだのはオーダー名でいうと「ぶっかけ温玉のせ中ひやひや」。これがどんなものになったかは、上段の説明を読み返してご理解を。

 はなまるうどんの発祥はもちろん、本場の高松だが、いわゆる現地の老舗や名店の東京進出ではない。創業者はうどんづくりの経験もうどん店経営の実績もない分、「素人の発想」を大事にしつつ、香川のうどん文化を広めることを目指したという。高松の店の成功を足がかりに、今では四国に20店あまり、北は旭川から南は沖縄まで、全国に広く展開している。いわば現在首都圏に進出している、讃岐うどんチェーンのパイオニア的存在といえるだろう。もっとも四国の知人に言わせれば、全国展開の讃岐うどんチェーンのはあくまで「本場風」。例えば現地のセルフはもっと客自身の作業領域が広く、中には丼を自分で手に取り、生麺を自分でゆでて入れ、ダシをやかんから注ぎ、薬味は自分で切ったりおろしたりしてのせるところもあるとか。薬味が切れたら裏の畑でネギを抜いてきたり、食べ終わった丼は流しで洗って、までやるというから、それに比べれば、はなまるのはセルフ「風」ぐらいか。もっとも本場の流儀に慣れない東京の客にそこまでやらせたら、店は渋滞必至だろう。
 
 トレイに出された丼には、やや多めの麺の上に温泉卵がポンとのっている。中で普通のかけうどんの1.2倍ぐらいの量はありそうだ。レジでお金を払うと400円弱ぐらいと、本場よりちょっと高いかも。ちなみに底値はかけの小で、わずか105円とこちらは本場と互角かも知れない。薬味のコーナーでたっぷりの削り節にワサビ、ゴマ、揚げ玉をたっぷりのせたらできあがり。まるでイキのいいイカ刺しのように、半分透き通った麺をまずひとすすり頂く。ここでは工場直送の生麺を、時間をよく考慮して茹で上げているから腰がしっかり、イコール少々固いようにも感じてしまう。歯ごたえがグッと抵抗があり芯が強く、のどごしもツルリというよりはグリン、といった感じか。前述の知人は加えて、「本場讃岐うどんでいうところの腰がある麺とは、かむと心地よい抵抗のあとに素直に切れるもの」というから、ここの麺もまた「本場風」ということなのだろうか。

 そんな風に麺の腰が強いから、味も強くしようと薬味もつい多めに追加してしまう。たっぷりのカツオブシの旨味、ゴマの香り、そしてワサビの切れ味のおかげで、強力な麺がするすると進む。コーナーには薬味の適量の説明に加え、「入れすぎるとダシの味を損ないます」との注意書きも目に入るけれど、煮干とサバ節と昆布をベースにとったつゆも味はしっかりしていて、薬味の個性に負けていない。そしてバッチリ合うのは、麺の中央にのった温泉卵。以前この店で、丼に落とした生卵の上に、釜でゆであがりたての熱々の麺を盛って手早くかき混ぜた「釜玉」、つまり釜揚げうどんプラス生卵を食べたことがある。その時は熱が加わった生卵が炒り卵状になり、麺にぶつぶつとまとわりついてあまりうまくなかったのだが、これは温泉卵がトロリと麺を包み込み、味わいをさらに増してくれてなかなか。麺はしっかりしているから時間がたっても伸びないけれど、温泉卵のまろやかさのおかげでつるりと食べられてしまう。

 厳しい目で見れば、チェーンの讃岐うどん店は結局のところ「本場風」なのかも知れないが、出来合いの麺を湯で温め直して出す立ち食いうどんに比べ、それはそれで差別化ができていていいのでは、という気もしてしまう。そういえば仕事で四国をよく訪れるものの、本場の讃岐うどんは未だ食べたことがない。いつも松山とか高知とか、海の幸が美味しいほうばかり行っていないで、今度機会があったらぜひ讃岐うどんのはしごにチャレンジしてみよう。でもそのまえに、レジにおいてあった映画「UDON」の割引券を使わせてもらい、とりあえずは予習しておくことにするか。(2006年9月10日食記)

町で見つけたオモシロごはん61…横浜・生麦 『キリン横浜ビアビレッジ』の、工場でできたてビール

2006年09月19日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 このところ、スタンプラリーに参加する機会がずいぶんと多い。関東近郊のJR駅を巡るポケモンスタンプラリーに始まり、横浜市内の博物館・美術館をめぐるもの、住宅展示場で景品がもらえる簡単なものなど、ここひと月でどれぐらい挑戦しただろう。そして今回は、横浜に事業所を置く企業の工場見学。主に横浜臨海部の4箇所の内部見学や展示資料室の見物をすれば、それぞれの社ゆかりのグッズがもらえるという。9月のとある土曜の午後に時間ができたので、まずは家からいちばん近場の『キリン横浜ビアビレッジ』を訪れた。すぐ近くに日産の展示館もあり、子供たちもいっしょだからそっちでもよかったが、景品のダットサンのフィギュアつきストラップより、ビール工場見学後のビールの試飲、と、今日のところはおとなの希望優先とさせていただくことに。

 横浜には文明開化期のいろいろな事始があり、ビールもそのひとつだ。キリンビールは横浜の山手に発祥の工場があり、関東大震災後に山がちで坂の多い山手から海沿いへと移転した。横浜駅から品川方向へ、第1京浜を10分ほど。その名も「生麦」というところに構えた工場は、規模では全国のキリンの工場の中で下から数えて2番目ぐらいだが、東京首都圏へ出荷する分をカバーしている重要な拠点でもある。緑が多く公園のような広大な敷地の一角にクルマを停め、30分おきに出発している案内人付きのガイドを申し込んだところ、最終回の16時30分出発のにうまく間に合った。今日はとても蒸し暑く、子供たちはのどが渇いたようで待つ間に外の自動販売機でジュースを買ってもらい飲んでいる。もちろん「キリン」で、自分は見学終了後の試飲を楽しみに、ちょっと我慢である。

 時間になって集合のアナウンスがかかり、10人ちょっとのグループでようやく見学に出発だ。案内のお姉さんとともに、製作工程の順に場内をめぐる仕組みで、麦の甘ったるい匂いが漂う中を進んでまずは原料のコーナーへ。ビールの主原料である麦芽とホップ、水についての解説が始まった。ビール醸造に用いる麦は穂が二つに分かれた二条大麦で、でんぷん質の含有量が豊富なのが特徴という。一角には麦芽が入ったケースが数種類並んでいて、実際に触れることができるのが面白い。中にはずい分黒っぽい麦もあり、聞くと「焙煎した麦芽で、これは黒ビールになります」とお姉さん。手のひらにのせて鼻に近づけてみると、確かに普通の麦よりも香ばしさが強い。ケースのひとつにはホップも入っていて、こちらも手に取ると緑色の小さな花のよう。ホップはビールの苦味のもとで、ドライフラワーのようなのをひとつ手にとって開いてみると、爽やかな香りの中、苦いというか渋いというか独特の残り香が漂ってくる。

 続いて案内された一角はガラス張りのコーナーで、ガラス越しには大きな窯やタンクがずらり。材料の次はいよいよ、ビールの醸造過程の解説である。タンクや窯にはそれぞれ番号と役割が書かれた札が下がっていて、番号順に行程が進んでいくとのこと。最初の窯では麦芽を粉にして湯を加え、でんぷんを糖化させる。これを「諸味」と呼び、次の窯でこれをろ過して麦汁を絞り出す。「最初に流れ出すのが一番搾り麦汁、絞った後の麦芽に湯をかけて洗い出したものを二番搾り麦汁です」。普通はこの両方を混ぜ合わせるのだが、キリンの主力商品である「一番搾り」は文字通り、この一番搾り麦汁だけでつくっているビール、またキリンラガーは味わい豊かでコクがあり苦味の強い二番搾り麦汁をベースに作っているそうである。そして搾り出された麦汁にホップを加えて煮沸して苦味と香りを出し、ビール酵母を加えて発酵タンクで発酵させると、1週間ほどでようやく「若ビール」というビールの原型の状態になる。この後貯蔵タンクで0度で貯蔵して味と香りを出し、役割を終えた酵母をろ過して取り除いたら、ようやくビールの出来上がりである。

 ところで、ビールの缶などの原料の欄を見ると、麦のほかに米やコーンスターチと書かれているのを見たことがある人も多いのでは。本来ビールの主原料は麦だが、日本の主力ビールメーカーのほとんどの銘柄で、このふたつが原料に使われている。ここでも原料の説明のところでお姉さんが、「麦のほか、味をまろやかにするために米、すっきりした味わいを出すためにコーンスターチも使います」と簡単に紹介していた。でも次の醸造過程の説明では、米とコーンスターチに関する話がなかったのが気になる。移動中にお姉さんに聞いてみたら、「米とトウモロコシは別の窯で煮沸され、糖化の段階で麦に加えます」。これをきちんと言っておかないと、見学者は麦100%のビールと誤解してしまうのではないのだろうか。

 そしていよいよお楽しみの試飲… と思ったら、試飲は試飲でもビールの基である麦汁だ。発泡酒の「淡麗」用で、まだビール酵母を添加して発酵させる前の状態だからアルコールも炭酸もない。「子供でも飲めますよ」の通りとろりとほんのり甘く、あとから苦味がスッと走る。この工場では前述の銘柄に加え、8月23日から販売している季節限定・麦が多めの「秋味」、麦はゼロで代わりに大豆を使った第3のビール「のどごし生」、秋からはホップの毬花をそのまま凍結使用した「一番搾り初摘みホップ」などが製造されているとのこと。扱っている7割が缶ビールで、その生産量は1分間に何と1500~2000本。実際に目の前でものすごいスピードで流れ、詰められていくたくさんの缶を見ていると、それだけの量が飲まれているんだな、と実感してしまう。8月の下旬から9月に入り、このところ特に蒸し暑いのも、消費量に拍車をかけているかもしれない。

 歴史のコーナーで美人画のビールのポスターや、まだ手作業でコルクで栓をしていたころの写真をながめたら、これで工場見学は終了。今度こそちゃんとアルコールと炭酸が入った、お楽しみのビールの試飲である。チケット1枚でグラスビール2杯に、何とおつまみがついている。この日の銘柄は、一番搾りとラガー、淡麗で、せっかくだから発泡酒よりビール、とまずは一番搾りからだ。工場できたてのビールを、専門の方がサーバーから見事にグラスに注いでくれ、泡もクリーミーで見事に3割ほどと、見事なバランスだ。グッといくと、雑味のないスッキリ、麦の広がりあるコク、締めに苦味が軽くビシッと、どの味の要素ひとつとっても無駄がない。ビールも生もので鮮度が命、作っている場所でできたてをすぐに頂くのが一番うまいということか。

 子供たちも小岩井オレンジジュースをおかわりしていいおやつとなり、自分も2杯目はラガーを追加。そういえば書き忘れたが、この見学ツアーはなんと無料! タダでできたてビールをグラス2杯も頂ける、何ともうれしい限りの工場見学なのだ。ほろ酔い気分ですっかりご機嫌となり、建物を出るともう日が傾いている。敷地内には赤レンガ造りのパブ「スプリングバレー」や、ビアレストランの「ビアポート」もあり、みんなでビールのつくりかたの復習をしながら、ワイワイと晩御飯にするか。もちろん自分は、ビールの「味」のほうの復習も念入りに。(2006年9月9日食記)

魚どころの特上ごはん37…北海道・旭川 『旬香』の、うちわのような巨大な根ボッケ

2006年09月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 「旅で出会ったローカルごはん」の旭川の項で、ひと頃ブレイクして全国区となった、旭川ラーメンについて紹介しました。本にお姿を掲載している「青葉」ご主人の村山さんと、先代の親父さんとともに、熱々のラーメンをすすりながら、ラーメン談義で盛り上がったことが思い出されます。
 これと別の機会に旭川へ泊まった時、旭川から日本北限の稚内へ日帰りで往復してきたのですが、当時、急行でも片道何と4時間! 現地の滞在はたった2~3時間、しかも豪雪なのに、よくやったもんだ。往復8時間列車に乗ったおかげで、旭川に戻ってから雪の中を繁華街で2軒ほど飲み屋をはしごしたら、酔いが回ったこと。季節は真冬で雪の中、旭川は道内屈指の冷え込みとなる土地柄、酔いつぶれて路傍で寝込んだりしたら、凍死しかねませんでした(笑)。その一軒をここで紹介しましょうか。1軒目でかなりできあがっていたため、料理の写真をとっていないのはご愛敬。冬の旭川の厳しい寒さを、写真から感じ取ってください(とごまかして…)。 


 稚内のノシャップ岬で寄った寒流水族館には、北海道の近海に生息する魚を飼育展示している大水槽があり、おなじみのカレイやエイ、タコをはじめ、北海道ならではの魚である、珍しいイトウやソイなどが泳ぐ姿を観察できる仕組みになっていた。それらに混じって、地味な縞模様で何だかネズミのような顔をした魚が、いっぱいいるのが目に付いた。これがなんと、東京の大衆居酒屋で飲む際によくお世話になっているホッケ。開きにされて焼かれた酒の「肴」としてならおなじみだが、実際に「魚」の姿で泳いでいるのは初めて見たのだった。

 サケやタラだけでなく、ホッケも立派な北海道を代表する魚だったなあ、と思いつつ、稚内から乗車した急行「礼文」で黄昏時の旭川駅へすべりこめば勢い、焼きたてのホッケの開きを肴にして一杯、といきたくなる。駅前のホテルに荷物を置いたら、いざ、目指すは旭川随一の繁華街・三条六丁目。通称「さんろく街」だ。冷え込みが厳しく、すでに凍り付いた足元に注意しながら、夜の明かりがともりだして賑わいを見せる町の中を、ホッケを求めて歩き回る。すると、まだ真新しくきれいな白木の扉が目を引く、居酒屋らしいたたずまいの店に出くわした。紺の暖簾に白字で『旬香』と描かれた屋号にひかれて、ここを今宵の一軒目に決めることにした。旬の香りと聞いただけで、店から脂ののったホッケが焼けた匂いがまさに漂ってくるようだ。

 暖簾をくぐると店内は意外に狭く、カウンターに腰掛けると目の前のガラスケースの中に、この日仕入れた魚介が並んでいる。もちろんホッケの開きもあり、まずはこれを焼いてもらうことにした。すると「焼き上がるまで時間がかかるから、造りでもいかがですか」。ご主人に勧められるままに刺身盛合わせを頼んで、ビールを飲みながら待つことにした。ツブ、ハマチ、シメサバ、アンキモ、ホタテで合わせて1000円ちょっと。中でも、自家製のシメサバが酢がきつくなく、脂ののり具合がいい塩梅。ホッケの登場を待たずして、ついビールが進んでしまう。酔いにまかせて、つれづれにご主人と話したところ、この店はご主人夫婦と息子さん夫婦の4人でやっているという。「それまでは白老で趣味の釣りを楽しみながら、のんびり暮らしてたんだけどね」と話すご主人が、旭川で店を開くという息子を手伝うことにしたそうで、まさに家族経営の居酒屋なのである。

 釣りが趣味というぐらいだから、ご主人は魚についてかなり詳しそうな様子だ。そこで北海道のホッケについて聞くと、日本海側と太平洋側で生態がかなり異なっているという。日本海側のホッケは回遊するため、水深30メートルほどの浅い所に生息しているが、太平洋側のホッケは「根ボッケ」と呼ばれ、回遊せずに水深200~300メートルの深場でじっととどまっている。中には、30センチを越える大型になるものもいて、日本海側のホッケよりも脂がよくのっていておいしいとのことである。一般的には背開きにして、一夜干しにしてから焼くといいらしい。

「これが、その根ボッケですよ」と運ばれてきた開きは、まるでうちわのようにでっかく、1匹で軽く2、3人前はありそうだ。こいつぐらいの大物のホッケが、ご主人の竿にもかかっていたのだろうか。箸で身をほぐすと、皮に近いほど火が通っていてパリッと香ばしく、中骨側は脂が程良くしみ出ていてしっとりとしている。ホッケは、漁師にとっては卸値が安いのであまり儲けにならず、ちくわの材料にしてしまうことが多いそうだが、居酒屋派にとっては安い上に大きいから、庶民的で強い味方だ。さらにビールを追加してから半身をいただいた頃には、醤油をかけた大根おろしをホッケに添えてご飯が食べたくなってきた。結局、途中からは焼き魚定食に献立を変更することになり、大きなホッケをきれいさっぱり平らげた。

 小一時間で席を立つと21時が近い。店を出てビルの電光掲示の温度計を見ると、マイナス7度と表示されている。旭川はさすが、北海道の内陸部だけに、札幌よりも冬の冷え込みが一段ときついようだ。こんな夜には飲んだ締めくくりに、ラーメンをすするに限る。となれば、締めのラーメンは「旅で出会ったローカルごはん」32ページへと続く? (2月上旬食記)