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小笠原は6月中にも、日本で4番目の世界自然遺産として登録される。他の陸地とつながったことのない海洋島で、小笠原諸島にしか存在しない固有種が豊富、かつひとつの種が環境に適応して進化、分化していく「適応放散」が多く見られることが、認定の理由として挙げられている。
この2月に小笠原を訪れた際は、世界遺産への認定を前にした頃で、アクティビティのガイドや宿の人や観光協会の職員など、行く先々でその話題が挙がっていた。ホエールウォッチングを楽しんだ晩に訪れた、父島・二見にある居酒屋「勘佐」でも、カウンターで隣席の地元の客と世界自然遺産の話題で盛り上がる。
世界自然遺産への認定理由が固有種にあるなら、酒の肴も固有種ならぬご当地料理や地魚を中心にオーダーしたい。この店は小笠原で創業40年近い老舗で、島魚をはじめ島寿司に亀料理、島野菜といった、島の食材を使った料理や島に根付いた郷土料理が豊富だ。
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訪れた時期はちょうどザトウクジラのウォッチングシーズン。
下左は小笠原を代表する景勝地の南島・扇池、下右は兄島瀬戸を見下ろす長崎展望台
まずはビールとともに、亀煮込みを注文する。カメ肉を塩と焼酎で煮たもので、島に各種あるカメ料理の中でもポピュラーかつ、古くから食べられていた料理である。カメ一匹のうち、柔らかく生で食べられる部位は3割ぐらいで、他の大体の部分は固かったりくせがあるため、煮込みなど熱を加えた料理に用いられる。
俗に小笠原の亀煮込みは父島では塩味、母島は醤油味といわれるが、家庭料理のため店や家ごとに味付けや使う部位は様々だ。ご主人によるとこの店は内臓のみ使うのが特徴で、ショウガと砂糖をしっかり効かせた、甘めの味付けに仕上げている。管状の腸やスポンジ風の肺、レバー風の肉片などがあり、トロトロの玉ネギが甘い。
食用にするのはアオウミガメで、離島である小笠原ではかつては貴重なたんぱく源だった。3月~5月頃に交尾のために島の周辺へやってきて、五月~八月にかけて各地の海岸に上陸して産卵する。現在では捕獲時期や年間の捕獲頭数が決まっていて、島の料理屋では冷凍して通年「島の味覚」として供している。
アオウミガメは海草を主食とするため淡泊でくせがなく、例えると鳥モツ煮のようにあっさり食べやすいが、地元の人が食べるものは独特の臭みを風味として、あえて残しているのだとか。
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前日に「丸丈」で頂いた島魚料理の数々。左上から時計回りに、オキサワラのヅケをタネに
握る島寿司、亀ポン酢、亀の空揚げ、亀雑炊
亀料理に続いて地魚料理を選ぶべく、品書きが書かれた黒板を眺めてみると、潮汁、あら煮、メアジ刺身、ダルマ刺身など、小笠原の地魚料理にマークがついているのが親切。マークを参考に、マグロの血合焼きとチギの天ぷらを頼み、締めに島魚の握りをお願いすることに。
マグロの血合焼きは見た目が真っ黒というか濃茶で、いかにも血の色っぽくインパクトがある。食べてみると普通の焼き魚に比べて身の味にコクがあり、色が濃い部分ほど濃厚。赤身の部分が加熱されて味が凝縮しているようで、血の部分がそれに加えて旨味を強調している。下処理がきちんとされているため臭みはまったくなし、アラの部位だが地魚としての扱いが熟達しているのを感じさせる逸品である。
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二見集落の中心部に位置する勘佐。右は勘佐の亀煮込み
小笠原周辺の海域は、回遊してくるメバチマグロやビンナガマグロ、キハダマグロ、メカジキが分布しており、これらを狙ったマグロ漁が盛んである。主要な漁法の「小笠原式深海縦縄漁」は、長さが1~2キロの縄に深さ600メートルほどの枝針をいくつもつけて、30~40キロに渡って点々と流すもの。メバチマグロやカジキマグロが主要な漁獲で、漁獲金額もカジキ類とマグロ類が上位を占めているのだが、最近は漁獲量が減少傾向という。
父島近海の主な漁獲はほか、一般的にオナガと呼ばれるハマダイにレンコダイ、ヒメダイ、ムロアジなど、やや沖合ではカンパチ、ヒラマサなども水揚げされる。小笠原の魚がうまい時期は冬で、カンパチや島寿司の材料にするオキサワラなどは、二月頃までは脂がのって身の味もいい。ちょうどザトウクジラのホエールウォッチングの時期とも重なっていて、クジラと遭遇して旨い島魚を食べて、と、小笠原の旅に最適なシーズンのようだ。
天ぷらのチギは聞きなれない魚だが、ハタの仲間でバラハタのことを指す。円い形の天ぷらが二切れほど出され、白身がしっとり、脂がトロトロのソフトな食感。ジューシーな割には脂っこくなく、身の締まりもムツとカジキの中間ぐらい。つゆよりも塩で味わう方が、その素性を楽しめる。
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左は身の味にコクがあるマグロ血合い焼き。右は脂がのった白身のチギの天ぷら
島魚の中でも味が良いのはハタ類で、島の魚として知られるのがアカバだ。内地で高級魚のアカハタのことで、水深100メートルぐらいまでの深さのところに生息しているのを、主に釣りで漁獲する。厚い白身に弾力がありしっかりした食べごたえで、島では味噌汁や煮物にするほか、旅行者には丸ごと一尾の唐揚げも人気がある。
天ぷらのバラハタもアカバと同様、外見は赤い色をしており、小笠原周辺で見られる「色つき」の魚の中でも、味がいい部類に入る。兄島海域公園でシュノーケリングで見られる魚も結構食べられるものが多いそうで、白い魚体に黒の縦じま模様が入ったロクセンスズメダイやオヤビンチャは、島の居酒屋では唐揚げなどで品書きに載っているとか。
締めに頼んだ島魚の握りは、三種のタネが赤、白、ピンク、銀と、色合いがそれぞれはっきりしていて美しい。蛇腹にされたマグロは紅色がやや明るく、口にすると普段食べているマグロよりやや味が淡めで、身の弾力がしっかりしている。弾力は水揚げ地ならではの鮮度のよさ、身の淡さは同様に熟成が軽めだからなのかも。
ほか身が厚くねっちょりと粘りあるソデイカは、体長80センチ以上、体重20キロに達する大型のイカである。赤く大柄な魚体から想像できないほど、タネが真っ白。メアジは脂ののりが相当強烈で、普通のマアジよりも大味で豪快な食味が島の地魚らしい。
同席した方は水産関係にも詳しいようで、アカバはアカハタの類似種だが微妙に違いがあるとか、オガサワラアカエビも伊勢エビに似ているがヒゲやトゲの数が若干違うとか、島魚のうんちくにも花が咲く。姿も味も内地のそれとはやや異なる独自性が、東京から1800キロ離れた離島の島魚ならではなのかも知れない。