ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん26食目…『東都グリル』の、メジマグロとカンパチのB定食

2007年06月10日 | 極楽!築地で朝ごはん
 一般的に「築地場外市場」と称されて賑わっているのは、築地4丁目交差点から新大橋通りの商店街あたりである。カウンターだけの小ぢんまりした丼や麺、定食の店が密集し、買い物客や観光客でいつもごったがえしている。このあたりからさらに東へ、築地6丁目あたりまで来ると、一般の客の姿はまばら。あたりも流通業者の事務所や食品会社の営業所などが目立ち、築地市場の取引のピークを過ぎてしまうと、業者が行き来する程度でちょっとひっそりした感じの一角である。

 場外の賑やかなエリアの飲食店はだいぶ食べ歩いたので、近頃はこのあたりまで店を探してやってくることも多くなったけれど、同じ築地市場周辺でも町の雰囲気は結構違う。飲食店はこのエリアにもいくらかあるけれど、路地裏で小ぢんまりと営業している穴場的な店か、業者御用達のいわゆる社員食堂的な店に分かれるよう。どちらにせよ、どこか玄人向けの感じがする店ばかりで、入り口に店の看板やメニューが出ていなかったり、ごく普通の大衆食堂や喫茶店風だったりと、入るのには少々思い切りがいる。

 この日選んだ店『東都グリル』は、穴場風ではなく業者向けのほうで、事務所が集まるビルの地下にある。築地の飲食店で、地下に店を構えているところは初めてで、雑居ビルの薄暗い会談を降りていくと、店内は意外に広い。雰囲気はひとことでいえば、コロラドとかマイアミなど大型喫茶店のチェーンに近く、4人がけのテーブルセットがフロアいっぱいに並んでいる。市場が動いている時間帯に近ければ、店内はひと仕事終えた仲買人や業者の人で賑わっているのだろうが、10時近いこの時間は、客の姿はまばら。中には帳簿をつけている人や、ひと仕事終えてチューハイをジョッキであおる人、作業着や割烹着の人などもおり、河岸で働く人の業務用食堂のようなムードも漂っている。

 そんな店の特徴に合わせてか、メニューは定食類が20種ほどと充実しており、フライ、コロッケ、カツなど、働く人向けのボリュームあるメニューが中心だ。もちろん魚河岸の食堂だから、魚メニューだってある。週変わりのB定食はこの日はメジマグロ、カンパチの刺身とある。こちらを注文、ややして運ばれてきた盆には、刺身の皿に多めに盛られたご飯、さらに味噌汁付き。820円という値段の割には、量も品数もまずまず、といったところだろうか。

 店内は地下だからか、それとも店の雰囲気もあってか、やや暗いため運ばれてきた刺身が今いち鮮度が良さそうに見えない。しかし親類の仲卸業者から仕入れるマグロが自慢なだけに、メジマグロの刺身はなかなかのもの。淡いピンク色をしており、本マグロよりは幾分水分が多めで柔らかい。脂は少なめな分、瑞々しく甘みがあり、上品な味わいだ。カンパチはやや薄くひいてあり、身がしっかり、しゃっきり。対照的な食感の刺身をつまみながら、思いのほかご飯が進む。ちょっと刺身が少なめで、あまったご飯は小鉢のひじきや漬物で平らげた。

 業者向けの食堂らしく、店の感じも料理の盛り付けも、飾りはなく見栄えは気にしないそっけないものだったけれど、それだけに質実剛健、味だけで勝負、といった感じもする。入るのにちょっと思い切りが必要だったが、一度入ってしまえばもう、築地でなじみの食堂の一軒。今度は「グリル」という店名に合わせて、ホタテのフライなどを頼んで、こちらの実力も見てみるとしよう。(6月食記)

極楽!築地で朝ごはん25食目…『鳥藤分店』の、塩焼きの焼き鳥が3串のった焼き鳥丼

2006年04月20日 | 極楽!築地で朝ごはん
 間口が狭くカウンターだけといった簡素な店構えに、中では仕事を終えた市場の人たちが朝からビールで一杯、といった雰囲気が特徴の市場食堂。築地場外市場に通い始めてからはそんな店が気に入って、新大橋通商店街に多いカウンターの丼物屋やラーメン、カレースタンドなどを中心にあれこれと食べ歩いてきた。そのせいか、主だった市場食堂風の店は一巡してしまったようで、このところ街の飲食店といった店や、チェーン系の店での朝食が増えている。築地の場外にあるのだから、こうした店も味は市場食堂と変わらないのだが、小綺麗な店内で食事をしていると、市場の喧噪の中にいるのを忘れてしまうことも。

 昨日に続いて、この日も寿司で朝ごはんにしようか考えていると、昨日の「つきじや」で握りの「並」を注文した際の無粋な反応を思い出して、少々面倒な気分になってしまう。市場の人御用達といった店も、あまりディープだと入りづらいし、と、この日は築地探訪のテンションが少々下がり気味だ。こんな日は無難に、入りやすい店に決めてサッと食べることにしよう。人通りが多く賑やかな築地西通りで、選んだのは『鳥藤分店』という店。名の通り鳥料理が専門なので、ついでに魚料理も今日はお休みとしてしまう。比較的新しい店らしく、ドアをくぐると築地らしからぬ? 小じゃれた落ち着いた感じの内装。店員も若く気さくで、ちらほら見かける女性の観光客グループに親切にメニューの説明をしている。一方ではカウンターで河岸の親父が、店の人と世間話をしながら和む姿も。市場食堂らしさと、築地の観光客の入りやすさが同居した、独特の雰囲気である。

 鳥藤といえば、築地西通りの中程にある鶏肉屋が思い浮かぶ。店の前を通ると店頭ではいつも、焼き鳥や総菜を売っていたりと活気があふれている。創業は明治40年と、築地では数少ない老舗の鳥肉専門店で、鳥藤分店はここの目と鼻の先。こだわりの塩と備長炭で焼き上げた焼鳥丼や鳥めしなど、専門店直営のメリットを生かした質のいい素材を使った鳥料理が自慢だ。注文した焼鳥丼は、塩焼きねぎま串が2本、塩焼きすき身串が1本のっている。ともに塩がよく効いていて、かじると肉汁と旨みがジュッ。先日頂いた「ととや」の焼き鳥丼は、淡泊な味わいだったのと対照的に、この店の鶏肉は柔らかいが味がしっかりと濃い。タレがテーブルに置いてあるけれど、そのまま頂いても充分に味がついている。

 串を片手に焼き鳥がどんどん進んでしまい、残ったご飯はテーブルのタレをかけて平らげた。丼についてきた黄金色のスープがまろやかで、朝の胃にはやさしくてありがたい。市場の飯らしいボリューム感には少々乏しいけれど、軽く食べられるのは朝食向きか。パワーにあふれ、ディープなムードの市場食堂に少々疲れたときは、こんな「ニューウェーブ市場食堂」で軽く気分転換するのもいいかも知れない。(6月下旬食記)

極楽!築地で朝ごはん24食目…『つきじや』の、並にぎりと穴子焼き

2006年04月18日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地の食べ歩きガイドブックをパラパラとめくっていると、大トロや中トロをはじめ、ウニにイクラ、クルマエビ、赤貝など、極上のネタを使った握りがどうだ、と言わんばかりに並んだ写真が、あちこちで目に入ってくる。「特上寿司」や「おまかせ」と書かれたこれらのメニュー、確かにうまそうだがどこも3000円以上する品ばかり。築地の寿司屋といえども、これぐらい予算をかけないと食べられないのか、と記事を隅々まで眺めていると、値段表に「並」とか「梅握り」があることはある。築地で朝ごはんにはこれぐらいの予算がベストで、写真がないので内容は分からないが、市場に隣接しているのだから何にせよネタはいいはず。別にウニやイクラがなくっても構わないし、赤身やアジとかサバなど、大衆魚の握りも好みだ。そこは築地、並寿司にも思わぬ掘り出し物があるかも知れない。

 日曜の築地場外でやっている店は、例によってチェーン系の店ばかりである。回転寿司屋を中心に、お客が少ない分普段より客の呼び込み合戦が盛んなようだ。選択肢のない中、奥へ奥へと迷い込み、足は築地西通りへ。するとチェーンの寿司屋ではないのに、店頭で店の人が声を上げてお客を呼び込んでいる寿司屋があった。足をちょっと留めて店頭の品書きを見ていると、店の人にまるで急き立てられるように店内へと導かれる。まだここで食べると決めた訳ではなかったが、日曜でほかに空いている店も少なさそうだったので、追い込まれるままにこの『つきじや』のカウンターへと座ることにした。

 入口の間口は狭めだが奥へ細長い、うなぎの寝床のような店内には、白木のカウンターが長々と伸びている。ここは築地場外の寿司屋の中では比較的新しい店で、市場食堂というよりは街の普通の寿司屋のような印象である。カウンターの向こうには板前氏が数名控え、つけ場が客席より高いので何だか威圧感がある。さらに店頭には呼び込みの人、さらに仲居さんも数名と、店の人がかなり多いのに対して、客は自分ひとりだけ。場外市場を歩いている観光客は割と多かったが、チェーンの寿司屋の呼び込みにひっかかり、このあたりまでは歩いてこないのだろうか。

 中途半端な時間の朝ごはんなので、ささっと食べてしまおうと、注文をしようとしたら「はい、特上ですね!」。まだ何も言っていないのに、向こうで決められてしまっている。この日はそこまでの持ち合わせはなく、あわてて「…いえ、並で」。すると店の人はえっ、並なんですか、といった感じで、びっくりしているやら、苦笑しているやら。あまりに大きな反応に、並を注文するのはそんなに失礼なことなんだろうか、と、客なのにこちらが気にしてしまう。
 
 その並にぎり、マグロ、鯛、カンパチ、イクラ、エビ、ホタテ、かっぱ巻きに玉子というあたりのネタが並んで出された。ここの握りは形がやや縦長で、きめの細かい赤身はしっとり柔らか、鯛は歯ごたえがしっとりと身が甘く、いずれも味のほうは文句なしだ。品書きにあるイワシ、アジ、コハダ、青柳、鳥貝などの握りも気になるが、安いネタを追加で頼むとまた騒がれそうなので自粛。板前や店員は、「並の注文なんて珍しい、久しぶりに握ったよ」「特上との違いはどのネタだったっけ、鉄火巻きとかっぱの差、カニもなかったか」と、食べている後ろや前でまだ声高に話している。

 財布の中身に若干? の余裕があったので、追加で店の名物である穴子焼きを注文すると、仕上げに目の前で皮をさっとバーナーであぶって出された。白身は熱を加えたためほっこり、ツメが甘くトロリ、焦げ目の香りも香ばしい。キュウリがさっぱりと合い、これは酒が欲しくなる一品だ。結局、食べ終わるまで客は自分ひとりだけで、寿司と穴子焼きには満足したがなんだか落ち着かなかったな、と思いつつ店を後にする。まあ、客の入りが今ひとつの中で、せっかく来た客が「並寿司」だったから、店の人も少々面食らったのかも。これからは開いている店も予算も少ない土・日曜は、おとなしくチェーンの回転寿司にしておこう。(6月下旬食記)

極楽!築地で朝ごはん23食目…『たねいち』の、ウニもマグロもイクラもタコもたっぷりのお得な海鮮丼

2006年04月12日 | 極楽!築地で朝ごはん
 このところ天気のいい日が続き、朝の築地散歩も気分爽快に楽しめたが、この日は朝からしとしと雨が降り続いている。地下鉄の東銀座駅を出て、傘を差して築地方面へと歩いているだけで、足元からぬれてくるほど雨脚が強い。アーケードが設けられている新大橋通りの商店街を歩いている分にはいいけれど、あまりあちこち歩き回るのは少々面倒だ。こんな日は早々に店を決めて、雨宿りを兼ねてゆっくりと朝ごはんといきたい。

 昨日鯵フライライスを頂いた「ひかり」と同様、新大橋通り商店街と築地西通りとの間を結ぶいくつかの路地にも、隠れた? 飲食店がいくつかある。店といってもこのあたりの路地にあるのは、通りに面してカウンターが設けられているだけの、オープンスタイルが中心。食べ歩きの際にしょっちゅう通り抜けるすぐ横で、ひと仕事終えた親父さんが丼をかきこんでいたり、朝からビールと刺身で一杯やっていたりと、これまでも気になっていた店の中で訪れたのは『食事処たねいち』。建物の中の狭く薄暗く細い通路に面したカウンターだけの店で、おかげで雨にぬれないのがありがたい、とカウンターのいちばん端に腰をかける。すぐ後ろは商店のため、買出しのお客が行き来したり品定めをしていてにぎやか。「市場食堂」らしい風情が満点の店である。

 市場食堂らしさは、メニューにも見られる。どんぶりと定食が中心で、メバチマグロをふんだんにつかったマグロ丼、魚は日替わりの焼き魚定食、たっぷり具だくさんのイクラ丼にウニ丼など、ネタやおかずの鮮度や量、さらに値段の安さは特筆モノ。そのおかげで、昼時には観光客や近くにオフィスのあるサラリーマンで、行列必至の人気店とか。そんな豊富なメニューの中から選んだのは、看板料理のひとつである海鮮丼。ウニ、イクラ、マグロ、白身魚、タコ、卵焼きと6種もの具がのるというのに、値段は1000円を切っている、大変お得なメニューである。

 雨にぬれて冷えた体を、セルフサービスのお茶を飲みつつ暖めながらしばし待っていると、どうぞ、と丼が目の前に置かれた。見るからに具の種類が豊富で、マグロは赤身のほかこの値段で中トロまでのっているのは驚きだ。脂ののりは程々で甘みがあり、筋もなく柔らか。さらに、ウニとイクラがたっぷりのっているのもうれしい。ウニはねっとりと甘く、じっくり味わいたいがご飯の熱で溶けてしまうので、急いで頂く。日替わりの白身はこの日はヒラメで、板前さんが目の前でおろしてさくを切っている。つるりとした舌触りが瑞々しく、後からほんのりした甘みが実に上品だ。肉厚なタコは、かみしめると甘みがじわり。

 それにしても様々な具、様々な旨味が楽しむことができ、おいしいやら忙しいやら。まさに魚の旨味を堪能できるどんぶりで、いずれのネタもご飯ととても合い、どんどん進む。味の面でも雰囲気の面でも、築地の海鮮丼ランキングでは、ここがナンバーワン。魚河岸・築地らしさを感じ、味わうにはもってこいの店である。丼を平らげ店を後にしたが、雨は激しくなる一方。今日は仕事もお休みにして、新大橋通り商店街の名物モツ煮込みの店「きつねや」あたりで、腰を据えて朝酒を楽しみたいところだが。(6月下旬食記)

極楽!築地で朝ごはん22食目…『ひかり』の、アジが4枚のった鰺フライライス

2006年04月10日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地場外市場には、新大橋通り側から順に築地西通り、中通り、東通りと3つの通りが南北に走っている。実際にはそれら同士を結ぶ細い路地もいっぱいあり、店と店の間の狭い小径を抜けると別の通りへ、なんて具合に縦横無尽に歩き回ることができる。中には店の裏口に面した通路みたいなものもあり、仕込みの様子がのぞけたり、仕入れた品が入った段ボールが山積みになっていたり、中にはイスに腰掛けて昼寝中の人がいたり… 。表通りと違い、市場ならではのちょっとした生活感が漂っているので、迷い込んでみるとけっこう面白い。

 そんな路地の奥にある飲食店に、この日は思い切って行ってみることにした。こうした店の何軒かに、これまでも店の前まで行ったことがあるものの、よそ者を受け付けないような独特の雰囲気に押され、結局入れずじまいだった。築地西通りと中通りを結ぶ、建物の間の薄暗い路地を入ったところにある『ひかり』も、通りに看板など出ておらず、なかなか気付かない店だ。例によって躊躇するが、意を決してガラスの戸を押して店内へ。路地も薄暗いが店内も薄暗く、中には古めかしいカウンターがドン、と据えられていている。一角に腰掛けて回りを見ると、客はすべて河岸関係の人のみ。社会情勢や世間話、河岸の話題など、飯を喰らいながら店の人を交えて様々な情報交換をしているよう。今まで築地で訪れた飲食店の中で、常連色が最も濃厚な店である。

 かといって、別によそ者に冷たいということもなく、お冷やを運んできた親父さんがごく普通に注文を尋ねてくる。昔の定食屋風情の雰囲気通りに、様々な定食が揃っており、壁に貼られた手書きのメニュー短冊によると各種定食やフライ物、カレーライス、ラーメン、スパゲティなどが見られる。一応、魚河岸の食堂だから魚介の料理を探してみると、鯵フライライスや鮭フライライス、刺身定食ぐらいと案外少ない。寿司や海鮮丼など生魚が続きがちなので、ここは鰺フライライスを頼んでみることにした。

 他のお客に混じって、テレビのニュース番組をぼんやり見ながら待っていると、運ばれてきた大皿にはタップリのおかずがのっている。大振りのアジフライは何と、4つ。さらに大盛りキャベツ、マヨネーズ和えのスパゲティとかなりのボリュームだ。この皿だけで全部と思ったら、後からライスとみそ汁も運ばれてきた。これはがんばって食べなければ、とさっそく頂きます。丸々と大きいアジの身はカラッと揚がっていて、パリッとした衣に旨みが包まれている。サクッとかじってはご飯をガツガツ、これが相性バッチリで、朝から大盛りの飯をどんどんかきこめる。「河岸のフライ」はさすが、ネタの鮮度がいいからひと味違う。ご飯のお代わりができそうなほど食欲が出てしまい、4匹サッと平らげられてしまった。

 路地を再び通り抜けて築地中通りに出ると、薄暗い中にずっといたせいで日差しがやけにまぶしい。夏の日差しはこの時間でも厳しく、今日も暑くなりそう。いつもの100円ウーロン茶を1本買って、「丸豊」のおにぎりを昼ご飯用に2つほど買って、築地パワーを充填したら今日もがんばって仕事、である。(6月下旬食記)