市場食堂を巡っていて、マグロを食べることがあまりない。地魚云々に関わりなく、観光客向けに供している印象のせいもあるが、一部の近海生ものを除き「地魚」と位置づけづらいのも、理由のひとつである。漁場ははるか太平洋やインド洋で、上物の取引は築地経由。極上の部位は都内の高級寿司屋の守備範囲となり、近海朝とれを市場食堂で味わうローカル魚とは、一線を画す魚種に思えてならない。
それゆえマグロ水揚げ港を標榜するところは、全国のマグロ船団による水揚げおよび集積・流通拠点となるため、取扱の専門性が高い。漁港でマグロを味わうならこういった場所がおすすめで、このたび訪れた清水も、冷凍マグロの水揚げが全国1位を誇るマグロ処。清水魚市場に隣接する「河岸の市」の飲食店街・まぐろ館を訪れると、店頭の品書に本マグロをはじめ、ビンチョウやメバチマグロなど種別が表示してあるのがさすがである。
まぐろトロ三昧丼の文字に惹かれ、2階の「ととすけ」の港を見下ろすテーブル席へ。オーダーするとまず、カマの一品料理が登場した。店の先代から続く漁師料理「ととすけ揚げ」で、ほじるたびに出てくる弾力のある身を、甘めのタレにからめていただく。パリパリの皮としっとりジューシーな身が対象的な味わい、最初にアラを食わすところが水揚げ地のマグロ料理屋らしい、余裕と自信を感じる。
そして主役のトロ三昧丼は、各種刺身がまるで大輪の椿のような鮮やかさとボリュームだ。本マグロの大トロにバチマグロの中トロ、さらにビントロと、マグロ3種のトロ共演というのが圧巻である。圧倒的に分厚い甘さの本マグロ大トロは、文句無しの横綱級。普段食べ慣れないのとあまりの生の強さに、バチマグロの程よい脂甘さ、ビントロの瑞々しさが、かえってちょうど良いような。丼ダネながら、地ビールの静岡ビールのつまみにどんどん進み、残ったすき身と炙りビントロがご飯のおかずにありがたい。
三種のトロ食べ比べ丼も、マグロを知る当地ならではの食べさせ方だろう。そう考えると、マグロは立派な清水のローカル魚。食うならやっぱり水揚げ地で、と結論づけるには、東京の高級寿司店のマグロもちゃんと味わった上で、比較してみなければ?(130629)