ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…小笠原 『丸丈』の、亀料理と島の地魚料理

2011年02月27日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

   思えば前回の小笠原訪問の際も、船が到着した日の午後はピーカンの青空だった。晩秋の内地からは想像の及ばないほど強い、初夏のような日差しを浴び続ければ、わずか半日といっても夕方にはかなりバテてしまい、夜は軽い一杯でコロリと酔いが回ってしまったものだ。

 今回も季節が冬で、島の景勝地を回るルートが前回と逆回りになったほかは、初日はまったく同じような過ごし方となった。その流れでという訳でもないが、初日の夜も前回同様、繁華街のボニン通りにある『丸丈』へと足を運ぶことにした。島魚割烹というだけに、小笠原の地魚料理には定評がある郷土料理店で、ご主人と魚談義を楽しみながら杯を重ねるのを、今回も楽しみにしていた。 

 暖簾をくぐったのは19時半を過ぎており、カウンターも座敷もほぼ満席。今日の船で着いた旅行者や会社の研修らしいグループなどで、結構な盛り上がりとなっている。こちらもさっそくビールのジョッキを注文して、初夏のたたずまいに気持ちを追いつけるべく、まずは乾杯。そして最初のアテはいきなり、小笠原の郷土の味である亀料理といきたい。

 この店は亀料理の評判も高く、刺身や煮込みに炒め物、オリジナルの亀チャーシューなど、品書きに「亀」の文字がズラリ。強い日差しの下の散策の後なので、体があっさりしたものを欲しがっているらしく、亀ポン酢を注文するとさらし玉ネギがどっさりとのった皿が運ばれてきた。

 玉ネギをめくると、亀の様々な部位がポン酢にさらされているのが目に入る。腸のような丸っこい部分、ピータンのようなゼラチン質の部位、鳥皮風の部分、ふわっとしたスポンジ状のところなど。ご主人によると脂や肺、手足などいろいろな部位を入れているとのことで、食べてみるとフワリ、シャッキリ、トロリと多彩な食感が楽しく、特にピータン風の部分がトロトロのゼリー状で濃厚。いわば亀の酢モツ風で、ややほてる体に酢のさっぱり感がうれしい。

   亀を食用とすることは環太平洋の島々では珍しくなく、小笠原の亀食文化のルーツをたどると19世紀初め、捕鯨船の補給のために小笠原に上陸・定住するようになったナサニエル・セーボレーに同行していたハワイ系の人たちが、持ち込んだという説がある。たんぱく源が貴重だった離島ゆえに亀は当時から重宝され、おが丸が内地から牛肉や豚肉を運んでくるようになった現在でも、島民や旅行者の人気は根強いらしい。

 ご主人によると食用にするのはアオウミガメで、海藻などを餌とする草食なので肉の味にくせがないという。保護のため年間の捕獲数が決められており、各店では冷凍保存して通年提供している。冷蔵庫から出して見せてくれたのは刺身用の肉で、肩の柔らかい部分とのこと。鮮やかな赤色で筋がなく、見た目は鳥のササミのようでもある。

 亀の刺身は前回訪れた際に味わったので、追加の亀料理は唐揚げをお願いしてみた。鳥の軟骨揚げのように小振りのをつまんでみるとグッと弾力があり、粗っぽい繊維質の肉の食感がしっかりと感じられる。例えれば鳥のモモ肉から肉汁をかなり控えめにした感じで、かみしめるとジャーキーのように凝縮した旨みがにじみ出てくる。

 ちなみに1匹の亀のうち、刺身に使えるような上質の部位は可食部の3割程度しかなく、ほとんどの部分は固くてくせがあったり臭みがあったりする。そのため郷土料理の亀煮込みなど、手間をかけて調理して供するのが地元では一般的。刺身や唐揚げといった料理は、比較的最近になってから出すようになったそうである。また亀は大変精がつくことでも定評があり、ご主人いわく「スッポンの何倍も効く」のだとか。

   二品の亀料理を肴にビールが程よく回り、サトウキビの産地だった島の地酒であるラム酒のロックをおかわりすると、糖度が高い材料だけに度数が高くガツンとくる酒で、ご主人との魚談義もさらに盛り上がる。2月終わりのこの時期は小笠原近海でとれる魚がうまい時期で、カンパチやサワラなどが脂ののりがよく身の味もいい。これが3月に入ると海が暖かくなるため、脂ののりも身の締まりも今ひとつになってしまうという。

 ご主人に島の魚をひとつ挙げてもらうと、アカバとのこと。二見港の青灯台の近くで人が泳いでいるあたりから、水深100メートルぐらいまでの深さに棲息。主に釣りで漁獲されるが、深いところにいるものの方が魚体が大きいという。厚い白身がしっかりした食べごたえで、島では味噌汁や煮物のほか、丸ごと1尾の唐揚げも人気がある。

 アカバは内地ではアカハタと呼ばれる高級魚で、研究者が調べたら小笠原近海のアカバは微妙に違いがあるという。ほかにも島名物のオガサワラアカエビも、ヒゲやトゲの数が普通の伊勢エビと若干違うらしい。固有種が豊富な海洋島近海の魚介らしく、食べられる魚も土着性が強いのだろうか。

 亀料理が小笠原のローカル食なら、島寿司は小笠原に根付いた郷土寿司といえるだろう。島で水揚げされるオキサワラやカマスザワラの身を、醤油とみりんのタレに漬けたタネはテラテラとあめ色に光り、見るからに食欲をそそる。タネがさっくりと柔らかく瑞々しい口当たりで、タレの甘く香ばしい風味に食が進む。マグロのヅケよりも味が軽く、身の淡泊な香りもほのかに感じられる、上品な握り寿司だ。

 太平洋の島々から伝わった亀食文化に対し、島寿司は伊豆諸島から伝播した食文化である。刺身をタレに漬ける「ヅケ」は江戸前寿司の技法で、江戸から配流された者から八丈島に伝わり、さらに八丈島からの移住者により小笠原に伝えられたとされている。江戸時代のヅケは、マグロの鮮度落ちを考慮して生食を避けるための技法で、気温が高く温暖な小笠原でも適した料理法だったのかもしれない。ワサビの代わりにマスタードを使うのも特徴で、欧米系移民の食文化もミックスされているのが面白い。

   最後の締めご飯は再び亀に戻ることにして、亀雑炊をオーダー。たっぷりよそられた大きな鉢を運んできたおかみさんの、「具はほとんど野菜なので、するする進みますよ」との言葉通り、白菜と玉ネギに加えて島野菜もいろいろ入っている。ブロッコリーを改良したというスティックセニョールの菜の花のような青臭さ、パプリカのトマトのような甘さがうれしい。

 島野菜は島の味覚や島みやげとしても人気が高いが、もとは島民のビタミンCの不足を補うために栽培を始めたもので、生産量はそれほど多くない。人気なのはサヤが角ばったシカクマメや、甘みが濃い島トマト。ほかにもやや大振りの島オクラ、細長いアマナガトウガラシ、葉に粘りがあるハルタマなど。パパイヤは熟す前の固いうちに料理に用いるため、島では果物というよりは野菜の扱いなのだとか。2月のこの時期は島野菜の端境期で、主なものがまだ出回っておらず、島トマトも「春先の、島で上着を一枚脱ぐぐらいの陽気になると甘くなってくる」そう。

   雑炊の野菜を平らげつつ、ご飯をレンゲですくっていると、さっき亀ポン酢で見覚えのある小片が出てきた。亀からのダシがしっかりとよく出ていて、すっぽんスープというかチキンコンソメのような深みのあるスープが、胃に優しく染みる。

 初日の夜を滋味あふれる御当地料理でまとめたところで、明日の予定は1日マリンアクティビティ。クジラやイルカと出会えればラッキーだけれど、シュノーケリング中に本日食したウミガメ君と遭遇したら、まともに顔を合わせられないかも?



二度目の小笠原

2011年02月25日 | てくてくさんぽ・取材紀行

   ほぼべた凪の中、25時間半の安定した航海を経て、おがさわら丸はほぼ定刻通りの11時半すぎに、父島の二見港へと入港した。タラップから上陸すると、日差しはもう春の暖かさ。この日は父島でも数日来の好天らしく、春というよりは初夏の眩しく強い日差しが、目にも肌にも痛いほどである。

 迎えに来ていただいた宿の方のクルマに乗り、チェックインを済ませたらこちらも初夏の服装にさっそくチェンジ。初日の半日は、まずはクルマを借りて島内観光に出かけることに。島を時計回りにぐるりと回ることにして、まずはちょうど北端の長崎展望台へと向かった。兄島瀬戸をはさんで向かいに兄島を望む高台で、右方向に延びる長崎の岬に面した湾の海の色が、内地のそれとは異なるエメラルドブルーなのは感動ものだ。前回訪れた時は夕方だったので、兄島の断崖が燃えるように赤かったけれど、この日は海と空の青、森の緑も数種類の組み合わせが鮮やかである。

    そのやや先の旭台展望台は、長崎をちょうど反対から眺める形になり、左にはさっきと逆側に延びる岬、右にはぽっかりと沖に浮かぶ東島がのどかな雰囲気を醸し出す。さらに行ったところの初寝浦展望台は、道路から遊歩道を3分ほど行ったところの展望台から、右下にコンパクトな入り江の初寝浦を見下ろせる。ウグイス砂と呼ばれる緑の砂が混じっているらしいが、ここから眺める分には見事な白砂の浜に見える。

 海を眺める展望台に続き、今度は父島最高峰の中央山へと登ってみる。といっても道路から10分ちょっと、遊歩道を登る程度なので、山登りというとオーバーかも。タコノキやマルハチといった、木生シダ類のうっそうとした樹林の中を行き、時折見られる傘のように巨大なヘゴはまさに、ジュラシックパークの世界。

 階段を上ると唐突に周囲が360度開け、山頂らしい開けた風景の中へと出た。東は宙に浮くように東島がポツンと見られ、北は傘山方面の樹林とその向こうに二見港方面の海が見通せる。園地のさらに先に、階段で登る展望台があり、中央にある円形の風景案内板によると、南は吹割山を右に二つの頂が並び、北西には二見港を右方に遠望。東は農業センター方向の深い森が連なり、振り返り東側は先ほどの園地の上に水平線がくっきりと描かれる。孤島の先端なのを実感する眺めで、数種の緑、青のみが連なる原自然の風景である。

 ところで、小笠原は太平洋戦争の際に、敵の上陸や空襲を想定して防衛のために様々な施設が設置された。砲台や発電所、トーチカなどで、今も島の各所にその遺構が残されている。この日回った中でも、長崎展望台のそばには直径150センチの探照塔を設置した台座が残り、初寝浦展望台までの歩道の沿道には体育館のような大きさの海軍の送信所の遺構が現存。展望台周辺にも監視壕や発電所跡の小屋が見られた。

 中央山の山頂園地にも、直径1メートル弱の鉄錆だらけの円盤のような台座が残っている。これは海軍が設置した電波探信儀の台座で、島で屈指の見晴らしだけに通信や監視の拠点だったのだろう。風光明美な中でいずれも朽ち果てようとしているけれど、太平洋戦争を語る重要な「証人」。絶景を堪能したり、マリンレジャーに嬌声をあげるだけでなく、せっかく来島したのだからこうしたものにもちゃんと目を向けていかないと。

 島の南端にある幅広の白砂の浜、小港海岸に着く頃には、昼食抜きでの観光がさすがにしんどくなってきた。日が暮れるまでに島を一周したかったので、時間がもったいないと空腹を抱えたままで飛び出したのだが、そろそろ限界の様子。やや日も傾きかけたこともあり、二見集落へと戻ったら今宵は小笠原のローカルごはんに舌鼓、といきたい。前夜がおがさわら丸で、居酒屋メニューの早じまい酒宴だっただけに

    集落裏手の三日月山にある、ホエールウォッチングの展望台「ウェザーステーション」で夕陽を眺め、ついでにザトウクジラのブローも2、3眺めて山を降りると、集落随一の繁華街(といっても7~8軒程度飲食店が集まる程度だが)はすでに明りが灯っている。この島ではクジラは食べるものではなく見るもので、味わうべくは「ローカル魚」である島魚料理と、小笠原を代表する郷土食・カメ料理だ。


旅で出会ったローカルごはん…おがさわら丸船内レストランの、フードいろいろ

2011年02月24日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

   小笠原諸島は、現在東京から最も行くのに時間を要する国内の旅行先ではないだろうか。東京竹芝桟橋と父島二見港を結ぶ「おがさわら丸」に揺られること25時間半。島へはこれ以外に渡航手段はなく、旅程の往路復路をそれぞれ丸1日、船の中で過ごすことになる。今はやりのクルーズの旅、船でゆったり過ごすのも旅の魅力のひとつ、としゃれてみたいところだが、おがさわら丸はまあ普通の旅客定期船で、飛鳥やにっぽん丸を豪華リゾートホテルとすると、ビジネスホテルとシティホテルの間ぐらいの居住性ぐらいだろうか。

 渡航がこれで2回目ともなれば、竹芝で乗船手続きを済ませて10時に出港し、レインボーブリッジをくぐって東京湾へ出るあたりまでは、もうそれほどハイテンションでキョロキョロそわそわすることもない。2等の座敷席で毛布を広げ、枕の周りの手の届くところに飲み物や菓子や雑誌類を並べて、1日過ごす「巣作り」を済ませてひと眠りした頃には、船は久里浜沖から東京湾外へ。甲板へ出てう~んとひと伸びしたらようやく、絶海の孤島への旅の実感がわいてきた気がする。にしても、竹芝に近い地下鉄大門駅から久里浜までは電車で1時間弱なのに、船は3時間近くかかっているのだから、時間の流れが次第に「島時間」のゆるやかな様相を呈してきている。

   リラックスしたと同時にお腹のほうも、グッと空いてきた気がして、時計を見るとちょうどお昼時。空腹のほうは島時間とは関係なく遠慮なしで、航海中に3~4回はお世話になりそうな船内レストランに、あいさつがわりに初回の利用といきたい。レストランは売店や案内所と同じデッキにあり、カフェテリア方式のため入口で食べたい物を決め、トレイを持参して種別の窓口でオーダーカードを出す仕組み。定食に麺類、単品料理、デザート、さらに船内で焼いている焼きたてパンなんてのも揃えており、意外と本格的である。

 せっかくなので船オリジナルや小笠原ゆかりの料理を探してみると、小笠原の島で製塩した塩を使った料理がある。島塩ラーメンは前回の往路のお昼に頂いたので、同じ島塩牛サーロインステーキというのに興味がひかれるが、肉は特に小笠原に所以がある牛ではないようなのでスルー。小笠原は牛や豚の飼育は行われておらず、もともと孤島のため耕作面積に限りがあり、貴重な穀類を家畜の飼料にする余裕がなかった、という話を聞いたことがある。

  そこで、船オリジナルメニューらしいネーミングの、おが丸風キーマカツカレーにしてみることに。野菜不足を補うため、小鉢でゴボウの煮つけもとり、さらに出発の一杯とばかり、ギネスビールの瓶もピックアップ。レジで会計を済ませたら、揺れによる転倒防止のためチェーンで固定された椅子席へとついて、ギネスをグイッ。ややピリッと辛めのルーのキーマカレーが、適度にビールのアテになり、出発の宴としてはまずまずの滑り出しだろう。「おが丸風」とあるからには、何かオリジナリティがあるのかと思ったが、味を見た限りではココイチやCCぐらいには匹敵するレベルだが、際立った特徴はないような気も。

 この日の航海は波高最大3メートル程度とほとんど揺れがなかったので、夕食もまたレストランを利用してみた。単品で肴になるものも豊富だったので、今度はポテトフライにキノコベーコン炒め、おでんにさつまあげを揃え、コロナビールが空になったら新潟は佐渡の地酒「北雪」の冷酒にも手を出して。にっぽん丸や飛鳥がバーやパブなのなら、こちらは和民か土間土間のノリで酌を重ねていく。ああ庶民派船旅バンザイな、まだ島に着く前の島旅の良さを満喫した、上陸前夜の宴のひとときである。

   と、島時間にのってゆるやかに飲んでいたら、船上居酒屋はオーダーストップの早いこと。ついうっかりご飯ものを頼むタイミングを逸し、締めご飯は座敷席にて念のため持ち込んだカップめんに


町で見つけたオモシロごはん…銀座三越地下食品売り場の、恵方巻いろいろ

2011年02月23日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 今年の恵方は南南東とのことで、東京からだと千葉の鴨川の方向らしい。シーワールドを拝みながら太巻きにかぶりつくのが御利益ありなのかどうかは分からないが、今日はコンビニの店先でも丸かぶり寿司を店頭売りするほど、1年でいちばん巻き寿司の消費量が多い日だろう。

 なんだか最近は、11月のハロウィンにはじまりクリスマス、正月、節分、バレンタイン、ホワイトデーと、絶え間なく「食べ物系」の商戦が続く。ハロウィンとか恵方巻きとかは自分の子供のころにはなく(ホワイトデーも微妙だったか)、食品メーカーの販売促進戦略と言ってしまえばそれまでだけど、せっかくのイベントなんだから深く考えず、踊ってしまったほうが楽しかったりする。

 なので仕事の帰りに恵方巻きを買ってみることにして、銀座三越の食品売り場を目指して界隈をぶらり。途中、寿司の名店であるすきやばし次郎とか久兵衛とかの前も通ったが、これら銀座の高級寿司店でも恵方巻きをやっているんだろうか(あとで調べたら、久兵衛は店で出していたり、エキュート品川でテイクアウト販売していたらしい)。

 銀座三越は地下2階が食品店街で、惣菜を扱うコーナーも奥の一角にある。界隈の有名店も出店しているため、ひょっとすると銀座ならではの恵方巻きが拝めるかもしれない。エスカレーターを降りていくと目の前にはさっそく、ディスプレイが迎えてくれた。周囲には行列ができているけれど、これはスイーツのジョトォのそばにあるためで、フロアはどちらかというと恵方巻きの客より、早めのバレンタイン用買い出しの女性でにぎわっているよう。フロア奥の惣菜店街まで足を延ばしても、意外に混雑がない様子だ。

 というのも、主な人気店や老舗の恵方巻きは予約制らしく、美濃吉とか銀座寿司岩の店頭には早くも「売り切れ御礼」の札が。料亭の恵方巻きというのも、ちょっと興味があるけれど。そのそばには天むすで有名な地雷也があり、店頭に1本だけ残っていたのだが、目の前で売り切れてしまった。よく見なかったけれど、まさかえび天巻きなんてことは?ほかフロアには練り物の佃権、とんかつの銀座梅林など、恵方巻きとは縁のない業種の店も並ぶけれど、割引したり売り声をあげたり頑張っているものの今日は少々分が悪そうだ。

 それでもコーナーの奥へ足を向けると、おにぎりの専門店が「まるかぶりおにぎり」なるものを売っていたり、五目ならぬ十目幸運巻きと名付けた豪華版があったりと、だんだんそれらしい雰囲気になってきた。ネーミングや中身は様々だけど、大体500円~700円というのは相場のようである。

  そんな中、古市庵という店の店頭に人だかりがしており、のぞくと恵方巻きを店頭に山積みにしてじゃんじゃん売っている。行列がエスカレータのあたりまで伸びて店の人が交通整理を行っているほどで、ここで買うことにして5分ほど列に並んだ。店頭までたどりつくとどうやら、デパート名を冠した「三越巻き」というのが人気商品のよう。1000円オーバーの豪華「うずしお巻き」というのもあり、これはとてもまるかぶり出来そうもない太さだ。

 結局、エビ、玉子、シイタケ、キュウリのシンプルな三越巻きを1本購入。ついでに向かいの各国食材の売り場で、韓国風ののりまき「キンパプ」も買ってみた。こちらもちゃっかり?恵方巻きラベルつきで売っていて、韓国にも風水の恵方の考え方があるのかどうなのか。これは全部ひとりで食べたら炭水化物過多になるので、早めに帰って家族でそれぞれ4等分していただくことにしよう。

  自宅に帰り、方位磁石で南南東を確認したら、ちょうど部屋のテレビの方向だったので、包丁で分けた三越巻きを普段通りテレビを見ながらバクリ。いわゆる太巻き、といった食べ応えで、でんぶの甘さが優しくホッとする。一方、キンパプはゴマ油が塗られた韓国のりで巻いてあるので、これは香ばしく食欲がそそられる。ちょっとずつ2種類食べればもう満腹で、2カ国による守護が得られたようだし、これで今年も無病息災間違いなしか。

 で、デザートは帰りに最寄り駅のコンビニで見つけた、恵方フルーツロールケーキ。これまたちゃんと恵方ラベルが貼って売っていた。まるかぶりしたい衝動に駆られてしまうけど、炭水化物過剰摂取の後にこれはちょっと危険かも


ローカル魚でとれたてごはん…国府津 『国府津館』の、相模湾の魚介あれこれ

2011年02月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

   地元神奈川の知人同士で、金~土曜の1泊で近場に出かけることになった。仕事を終えて夕方に東京を出て、遅くならない時間に宿に着けることを考慮、箱根やら熱海やら湯河原やらを検討した上、選んだ宿泊先は小田原のやや手前の国府津である。

 知らない人は「こうづ」という読み方も分からないかもしれないこの地、湘南西部の風光明美な海岸に面し、文人墨客が数多く訪れて明治から昭和初期には保養や静養で知られた場所だ。もっとも現在は東京駅からの通勤圏でもあり、夕方に東京駅に集合するとちょうど帰宅ラッシュの最中。そこで保養地への旅らしく、1時間ちょっとの電車の旅に東海道線の2階建てグリーン車をおごることに。

   この日お世話になる「国府津館」は、国府津駅から国道1号線を挟んで徒歩2分とすぐ。明治20年に新橋からの鉄道が開通した後、明治21年創業の老舗旅館である。国府津海岸に面した立地から多くの著名人が訪れ、幸田露伴、徳田秋声、柳田国男、太宰治らのほか、館内には渋沢栄一や西園寺公望の書が額に飾られている。通されたのは太宰治が泊まった部屋で、翌日庭に出てみると、本当にすぐ目の前が国府津海岸。庭越しに雄大な相模湾が広がり、漁船がぽつぽつと浮かんでいるのも見えた。

 相模湾は湘南海岸の穏やかさから、レジャーの海のイメージがあるけれど、実は漁業が盛んな海でもある。湾に棲息する魚介は 1600種以上、年間の水揚げ量が2万トンと豊かな漁獲の所以は、水深1000メートルの海底谷を有する日本有数の深さにある。特に平塚から小田原にかけては海岸から一気に深くなっていて、この湾に相模川や酒匂川、さらに黒潮の分支流が流れ込むことで、湾の海水が攪拌されて様々な水温の海域が生じ、深度や水温ごとに種類豊富な魚介が棲息する環境が形成されている。

 国府津館はそんな相模湾に面しているだけに、料理に使う魚はほぼ全部、小田原市公設水産地方卸売市場から仕入れた地魚だ。一番の入札権を持っており、早朝にご主人自ら市場入りして、入港した漁船から真っ先に仕入れているという。それだけに、夕食の卓に並ぶつくりの盛り合わせには、定置網に12本入ればいい方という希少なヤガラの刺身がありビックリ。超ウマヅラのユーモラスな見た目に対して、食味は極めて淡泊と品がよく、料亭では高値で取引されるローカル高級魚。澄んだ白身のはかない旨みが、サラサラと舌に心地よい。

 ほか、やや厚めに切ってあるワラサは、サクサクと軽快な歯ごたえが軽妙で、舌に転がした分だけ脂があふれ出てくる程良さがいい。ワラサは出世魚であるブリの成魚ひとつ前の呼称で、かつて相模湾は定置網でブリがよくとれたのだが、今はイナダやワラサクラスは網に入っても、ブリは滅多にお目にかからないそうである。

「その日仕入れた魚の中で、いちばんイキのいいのをメインの料理にする」との宿の方針通り、続いて出てきたのが本日の主役である、活け造りのカワハギだ。大きさ 30センチ弱のいい型で、透けるような透明感あふれる白身はモチモチ、ムチムチと魅惑的な口当たり。そしてカワハギで絶品の部位であるキモは、「海のチーズ」のような豊潤さに絶句。上品な白身とインパクトのある部位の、コントラストのある食べ比べが楽しい。

 続く焼き魚は「スミヤキ」という、ローカル魚らしい聞き慣れない魚。カマスの一種であるクロシビカマスの別称で、名の通り真っ黒な魚体とギラリとした大きな目が独特な風貌らしい。箸をかけるとこちらは名に反してきれいな白身で、脂がジュクジュクほとび、トロリ、ネットリと柔らか。特に皮の部分がジューシーで一段と旨い。小骨が非常に多くてやや食べづらいが、その手間も旨さなのがローカル魚らしさかも。

  これら相模湾の魚介の多くは、定置網漁で漁獲されたものである。相模湾の漁獲量の半分を占める主要な漁法で、サバ類、イワシ類、アジ、カマス類ほか、ソーダガツオ、カワハギなどが主な漁獲。網は岸から100メートルほどと比較的近い、湾が深くなる手前にかけられ、深部から浮いてくる魚を捕える。網揚げは夜中の2時に出漁して行われ、未明の4時半ごろから小田原漁港へ帰港して水揚げされ、6時半からの競りに備える。

   ここまでの料理でも、相模湾の豊饒さに充分満足なのだが、「今日は魚は少ない方」とご主人。今年は夏の猛暑で海水温が高めなのが一因で全体的に漁獲が少なく、網に魚が多くかかっても、商品価値のあるものが少ないこともあるらしい。

 つくり、活け造り、焼き物、揚げ物と相模湾の地魚料理が進み、地魚料理のトリの小鍋はキンメダイのしゃぶしゃぶだ。キンメダイは伊豆の稲取が名物で、伊豆半島沿岸の伊東~稲取付近でとれたものが大振りで身が太く、脂がのっている。この宿で使うのは釣りキンメで、網でとったものが押されたりこすれたりして身が傷むのに対し、一本ずつ釣り上げてていねいに扱うから質がいいのが特徴だ。

 ダシを張った小鍋に添えて、キンメの切り身が数切れと、野菜は白菜やエノキではなく薄切りのズッキーニとニンジンが添えてあるのがユニーク。しゃぶしゃぶ用に薄切りにした切り身は皮のところが鮮やかな紅色で、身の濃い桜色が食欲をそそる。

 仲居さんの指示に従い、先に野菜を入れて、続いてキンメをダシに2、3回軽く泳がせてひと切れ。するとまわりがホクホク、中は半生でシャッキリ。脂が加熱で活性化してトロトロの甘さなのに対して、身は意外にさっぱりしており、しゃぶしゃぶのおかげで食感も味も重層的に楽しめる。

  翌朝の朝食も、自家製のアジの干物や朝取れのメジナの煮付などがずらりと並び、お馴染みの魚、思わぬローカル高級魚、そして初対面のご当地魚と、相模湾のお魚を2食かけて食べ尽くした気分である。東京から国府津はグリーン車利用でも、普通電車でわずか2000円弱。伊豆や箱根に比べて交通費を料理代に使えたと思えば、近場のローカル魚「プチお大尽」紀行も、なかなか悪くないかも。