ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはんbyFb…大槌町 『復興食堂』の、おらが丼

2012年12月21日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 

 津波の被害が岩手県最大だった大槌町も、厳しいながら漁業復興が進んでいる。地盤沈下で半分水没した船着場からは、ワカメやホタテの養殖の小舟が出ていく。近くのプレハブには、水産加工業者が作業にいそしむ。船や漁業者が減った中でも、復興の息吹は着実に感じられるようだ。

 

 お昼をいただいた『復興食堂』の、プレハブの建物の壁には、「大槌魂」との文字に立派なサケが跳ねるポスターが目を引く。店のお客が記した寄せ書きの文字に、「鮭は戻った。大槌も頑張れ」とあり、店の方に聞いたところ、町の魚に制定されているサケも、沖合の定置網で少しずつ揚がり出しているという。

 

 注文した人気メニューの「おらが丼」も、大槌の地物のサケの親子丼。煮たサケのほぐし身をあんにからめ、上には醤油漬けのイクラがたっぷりのっていて、まさに大槌ブランド魚の贅沢な親子丼である。やや若い新もののイクラがプツプツと瑞々しく、和風ダシのサケの身のあんがトロリ。被災地を見学した後のインパクトに、優しくホッとできる丼である。

 

 ご主人によると、この食堂を始めてから、店にやってきて偶然再会できた、町の人もいるとか。生まれた川に帰って来始めた大槌の秋サケのように、被災した大槌の方々が帰ってくる店としても、頑張ってほしいものだ。


ローカル魚でとれたてごはんbyFb…釜石 『陸中海岸グランドホテル』の、釜石の地魚料理

2012年12月20日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 

 陸前高田で訪れた広田湾の米崎漁港は、カキの養殖が盛んだった。津波の被害でカキ筏や処理施設に被害が出たものの、ボランティアのおかげで筏が復旧。湾内のがれきの引き揚げも進み、この秋から出荷が再開された。大船渡は魚市場の新築中に津波に遭い、新築が中断したものの市場自体は早い時期に再開。スルメイカにサンマ、サケなどが水揚げされ、湾には養殖の筏も多数浮かんでいる。

 

 県南から三陸の漁業都市の復興具合を確認しながら進み、この日は釜石泊まり。11月に営業再開したばかりの、陸中海岸グランドホテルにお世話になった。釜石もリアスの入江に面した天然の良港だが、津波の被害により船の数が減ってしまったため、とれる魚種も量も以前に比べて減ってしまった。そんな中、この日は刺身にイナダ、小鍋ではサケとタラなど、地元釜石の魚市場で仕入れた魚が、膳を賑わした。この時期はほかワラサ、スルメイカ、タコ、ゴマサバが旬。冬になるとカレイやヒラメが美味しくなるそうで、今後の釜石の漁業復興に期待がかかる。

 

 ホテルは釜石港にすぐ面していて、それだけに津波で12階はほぼ壊れてしまうなど、甚大な被害を受けた。支配人の方は津波でご家族を失った中で、ホテルの復旧にひたすら尽力。この11月にようやくオープンとなった。「おかげ様で、生き延びさせていただきました」の挨拶に、胸が締めつけられる思いがする。

 

 翌朝入ったオーシャンビューの展望風呂からは、年に数度、真っ赤に燃えるような朝日が見られるという。かつて三陸屈指の水揚げを誇った豊かな海。そして湾口から押し寄せてきた、巨大な津波。湯船から見えるのどかな風景に、様々な思いを抱かずにはいられなかった。


ローカルミートでスタミナごはんbyFb…陸前高田 『やはぎ食堂』の、生姜焼き定食

2012年12月19日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

 先日訪れた那須でも聞いた話だが、東日本大震災の被災地における観光入込は、ほぼ震災の前年並に回復していると聞く。東北も観光博の効果があった一方、内陸と沿岸部では際立った地域差も。県全体の入込は回復傾向の岩手県は、平泉の世界遺産効果の分が、県北と沿岸部の落ち込みで相殺されていると聞いた。津波により、海岸部の観光資源が流されたのが大きな原因で、徐々に復興しているそうだが、まだまだ課題が山積みらしい。

 そんな岩手県の観光資源の復興の様子を見るべく、盛岡から陸前高田を目指し、まずはお昼をいただく「やはぎ食堂」へ。復興途上が伺える、コンテナのようなプレハブの店舗は、内陸の北上市にある夏油温泉の方が、支援のために立ち上げたものという。各種並ぶ定食や丼ものから、人気メニューの生姜焼き定食をオーダー。甘辛いタレのロースとたっぷりの野菜に、食がガンガン進む。

 食堂をやりくりしている3人は、いずれも被災を経験している。お話を伺ったおばちゃんもやっていたラーメン店が流され、仕事を失ったと話す。縁があってこの食堂で働くことになり、仕事があることの幸せを痛感したが、「自分は仕事を失い辛かったが、家族を失った人の辛さはこんなものではない」と、少し涙ぐみながら語る。

 なくなった街が見えないよう、あえて内陸に店をつくったため、あまり人が来ないけど、と笑うおばちゃん。美味しいものを作って元気付けるのが私の仕事、との言葉にさっきの表情から一転、前を向いて進む力強さが。いただいた定食は、いわば街の人の常食。作り手の元気を分けてもらえる、活力めしのように感じられた。


旅で出会ったローカルごはんbyFb…盛岡 『食道園』の、盛岡冷麺

2012年12月18日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 盛岡の三大麺料理はそれぞれに所以があるが、地元農家のもてなし料理が発祥のわんこそばに対し、冷麺とじゃじゃ麺は外国から入ってきた麺料理である。じゃじゃ麺は満州の炸醤麺がルーツ、冷麺も朝鮮・平壌から入ってきたことは一般的に知られている。

 このふたつ、面白いのは日本人の味覚に合わせ、アレンジがなされていること。じゃじゃ麺は中華麺から、日本人好みの小麦粉で打った平麺に。冷麺も本場ではそば粉の麺が主流なのに対し、こちらも小麦粉で打った腰の強い中太麺になっている。盛岡は古くから麺食文化が発達していたのに加え、新しいものを取り入れることに抵抗のない土地柄だったため、外からやってきた麺料理もオリジナルに改良して、定着する土壌があったといえる。

 ぴょんぴょん舎や大同苑など、これまで何軒か食べ歩いていたのに、意外にも盛岡冷麺のルーツの店「食道園」は訪れたことがなかった。この日の宿が数軒となりだったので、早めの夕食に訪れてみることに。看板には平壌冷麺とあるものの、「咸興冷麺」というルーツのそば粉麺の冷麺はやっておらず、出てきたのは一般的な盛岡冷麺。薄味スープに腰が強烈なそば粉入りの麺は、当時の盛岡では今ひとつで、現在ほど辛いものに耐性のない時代のため、キムチも受け入れられづらかったという。

 それを改良した盛岡冷麺は、濃厚な牛骨スープに小麦粉の麺、トッピングにキムチが基本的なスタイル。麺をすするとスベスベのツルツル、グイグイと腰が強力で、かみ切るのに顎がくたびれるほどの弾力がすごい。4種ほど選べる辛さより上から3番目のを選ぶと、はじめは辛さを感じないものの、次第にしびれて咳き込むほどきつい。具はきゅうり、ゆで卵、豚の角煮などで、店によってはさくらんぼなどフルーツがのるのも基本、との説も。ダシの味が淡目のスープ、大根キムチも入っているが控えめな酸味と、全般的にあっさり仕上がっている印象は、起源のシンプルな味の面影を残しているからだろうか。

 ちなみに冷麺とじゃじゃ麺が当地に定着した理由は、その辛さにあるという。じゃじゃ麺も辛めの肉味噌に、おろしショウガやニンニクやラー油をかけるのが地元流。冷え込みの厳しい土地柄、発汗性のある料理は体を温めてくれるからだろう。今日は10度を下回る小雪混じりの寒い日で、ローカル麺をご当地で食べる良さが、より実感できるような。


ローカルミートでスタミナごはんbyFb…秋田 『酒季亭比内や』の、比内地鶏料理

2012年12月17日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
 
 先日、銘柄肉の定義の複雑さについて綴った際、那須牛と那須和牛の違いについて触れた。ひと文字違いで全く違う所以になってしまうことが、肉の場合はよくあることだ。日本三大地鶏のひとつ、比内地鶏に至っては、ひと文字抜けた「比内鶏」は何と、希少な天然記念物に。食味はいいものの繁殖に向かない比内鶏を、掛け合わせて生産流通しやすく改良したものが、一般で食べられる比内地鶏を指している。

 本場の秋田ではもちろん、適正な表記がちゃんとされており、繁華街の川反周辺でも、比内地鶏を売りにする郷土料理屋が軒を連ねる。きりたんぽのダシや具に使われるのが代表的だが、肉自体の実力を堪能するなら、地鶏料理専門店がおすすめだ。すずらん通り中ほどにある専門店「酒季亭比内や」も、品書きの半分ほどが比内地鶏の料理を占めており、期待が高まる。

 最初の鶏モツ煮ももちろん、比内地鶏のモツを使っている。トロリとした牛モツ煮込みと違い、ハツもスナギモもザクザク、シャキシャキの歯ごたえ。キンカンは卵というよりジャガイモを食べているようにホコホコに淡泊。内臓系の香りが強いものの臭みはないところに、放し飼いの健康さが出ているように思える。煮汁を吸った豆腐やコンニャクがうまく、ダシの評価が高い比内地鶏の本領発揮だ。

 お次の竜田揚げはこんがりと揚がっていて、皮がバリバリ、身はギシギシ。加熱しても味が濃いのも比内地鶏の特徴で、串焼きのネギマ、皮も黙々とかみしめ、にじみ出る味を楽しむ。一方、レバーはフワッと歯が入るソフトさ。舌の上でねっとりと自然にほぐれ、健康なレバーらしい芳醇さがうれしい。さらに店の自慢の手作りつくねは卵もからめて味わうため、こってり濃厚さの相乗効果。比内地鶏のコンパクトな親子共演と思えば、実に贅沢なひと串である。

 この日は連休の中日で大変混んでいて、注文から料理が出るまで小一時間という状況。締めに比内地鶏のきりたんぽの小鍋を食べたいところを、地酒「高清水」が空になったを潮に、席を譲ることにした。締めの麺はご当地・稲庭うどんが定番だが、贅沢に比内地鶏ガラダシのラーメン、なんて存在しないのだろうか?