ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん19…倉敷 『郷土料理浜吉』の、ご飯がとまらなくなる地魚・ママカリの寿司

2006年01月31日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 白壁土蔵の美しい街並みで知られる、岡山県の倉敷を訪れることになった。倉敷川沿いの街並みを散策して、大原美術館で西洋画を鑑賞してとんぼ帰りと、旅程は少々せわしない。東京を早朝発の新幹線に乗り岡山で下車、山陽本線の普通列車に乗り継いで、倉敷には11時ごろに到着。駅に隣接するホテルに荷物を置くのもあわただしく、さっそく町歩きに出発である。

 白壁の建物が集中する「美観地区」は駅から歩いて15分ほど、ひと通り散歩しても2時間程度だから、先に昼食を頂くか、散策してから遅いお昼をゆっくり頂くか迷うところだ。結論が出ずに美観地区へ向かう倉敷中央通りを歩いていると、沿道に土蔵のような建物を発見。美観地区に着いたにしては少々早く、どうやら郷土料理の店のようである。白壁の街を見る前に、白壁の店で昼飯を食べていくか、とこの「郷土料理浜吉」の暖簾をくぐることにした。

 瀬戸内で揚がった天然物の地魚をつかった料理が自慢というこの店、立派なカウンターの向こうでは板前さんがオコゼをさばいていたり、タコをおろしていたりと奮闘中。空いていたのでこちらに腰掛け、タコの頭を落とし、足の皮をひいてと目の前の包丁さばきを楽しみながら、品書きを眺める。活きダコも瀬戸内の名産で、品書きには薄造りや唐揚げ、煮物など一品料理がいくつか並んでいる。仲居さんに、何か岡山ならではの珍しい地魚を使った料理はないか尋ねてみたら、「なら、ママカリはいかがでしょうか。造りや焼き物、寿司など色々ありますよ」。それらがセットになった「ままかり定食」というのがあり、どんな魚かよく分からないまま、おすすめに従って頼んでみることにした。

 ママカリの正体は「サッパ」という10センチほどの小魚で、見た目はイワシやコハダに似た「光りもの」の一種。ユニークなネーミングは、これをおかずにするとあまりに飯が進むためママ(この地方で「ご飯」の意)が足りなくなり、よそから借りてこなければならないほど、という俗説からついたといわれる。刺身、焼き物と続くママカリ料理の中でも、酢締めを食べてみるとその俗説がオーバーでないことを実感。引き締まった身がしゃっきり、かみしめるたびに旨みがしっかり出て、他の料理法で頂くよりも身の味が濃いようだ。「ママカリのうまさを引き出すには、酢で締めるのが一番です。小さいから、こうすれば小骨も柔らかくなって食べられるしね」と話す仲居さんによると、ママカリは主に県南の下津井や牛窓沖で水揚げされるとのこと。

 もしごはんがあれば、ママカリ1匹でどんぶり半分は軽く進んでしまうところだが、定食には残念ながらご飯はついておらず、代わりにママカリをタネにした握りが6カン並んで出された。「ままかり寿司」は岡山を代表する郷土の寿司のひとつで、地元では古くから慶事や祭などのときに振る舞った特別料理だったという。各種あるママカリを使った料理の中でも、握りには鮮度がとびきりいいものを使うそうで、背の銀色と黒の輝きが実に鮮やか。酢締めにしてあるけれど、醤油をちょっとつけるとおいしい、と教えられ、ひとつ口に放り込む。見たところはコハダや小イワシの握りのようだが、それよりも身の味と脂ののりがやや強いよう。むしろサバに近いほどしっかりした旨みに、「まま」ならぬ握りにどんどん手が伸びる。小骨がやや気になるけれど、歯ごたえがあるぐらいに仕上げるのが地元流なのだとか。

 締めの粕汁を頂き、お茶を飲みながら女将さんとしばし談笑。「ママカリは郷土の名物だけど、調理が大変。何と言っても小さいから、さばきづらくてね」と話す前では、板前さんが山のように盛られたママカリを一生懸命さばいている。小さいながら実力派のこの魚のおかげで、美観地区を散策した後の一杯でも飯、ならず酒も進みそうである。(2月下旬食記)

旅で出会ったローカルごはん34…秋田 『和風レストラン旭川』の、雪の山々を見ながら頂くキリタンポ鍋

2006年01月29日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 朝早くから秋田市民市場をぶらぶらして、キリタンポやハタハタなど地元の食材をあれこれと買い出しをしているうちに、そろそろお昼が近い。キリタンポを買った店で、市場の近くでうまいキリタンポ鍋が食べられる店を聞いてみたところ、数軒あるおすすめの店の中から、市場に比較的近い『和風レストラン旭川』がいい、と勧められた。鍋をつつき雪見をしながら昼酒、というのも雪国ならではか、などと思いつつ、キリタンポの袋を片手に秋田駅前へと引き返す足取りは、心なしか軽い。

 店はイトーヨーカ堂の7階のレストラン街にあり、窓際の席に腰を下ろして「キリタンポ鍋」1700円を注文した。キリタンポ鍋は、比内鶏のガラでとっただしに醤油を加えたスープを使い、キノコや野菜、比内地鶏など、山で捕った獲物とキリタンポを入れて煮込んだだけの素朴な料理だ。寒い地方らしく、まず運ばれてきた土鍋に張られた醤油味のスープは真っ茶色をしている。見るからに塩辛そうで、体が暖まりそう。ゴボウと鶏を入れて火をつけ、鍋が沸騰したらキノコと野菜を入れて、再び煮立ったところでキリタンポの登場だ。

 斜めに切ってある切り口は、市場で買った機械焼きのキリタンポよりひと回りは太い。穴の回りはご飯粒の形が分かるぐらい残っていて、素朴さが感じられる。「普通はご飯をもっとていねいに潰すんですけど、このように粗いままにするのもあります。米粒を半分潰すから、地元では『半殺し』と言っています」と、笑顔で物騒なことを言う仲居さん。最後に春菊を入れ、キリタンポが柔らかくなったぐらいが食べ頃です、と教えてくれた。さらに、秋田の地酒である仙北町の「刈穂」純米超辛をひと枡追加して、鍋を頂く準備は整ったようだ。

 さっそくキリタンポからかじると、一瞬漂う醤油を焦がしたような香ばしさが鮮烈な印象、粒がほろりと崩れる感じが心地よい。米は「あきたこまち」を100%使っていて、芯を残さず程良い固さで炊けている。鶏の旨みがじわりとしみたスープが粒の間に染み、ツンととがった辛さがキリタンポにとっては、かえって程良い位のいい味付けだ。キリタンポを2つ、3つとつまんでは「刈穂」の枡をぐっといき、山の香りが鮮烈なマイタケやシメジ、地鶏ならではの濃厚な風味の比内鶏、その引き立て役のゴボウと、どんどん鍋の具に箸をのばす。

 すっかり醤油色に染まったネギや白滝、キリタンポをつまみに、2升目は秋田の銘酒「高清水」をさらにおかわり。いつしか「米団子汁」から「鶏キノコ雑炊」へと、キリタンポがすっかりほぐれてしまっていた。まるで違う料理のように変わった鍋の中身をすっかり平らげて、窓の外を見ると雪をかぶった太平山がそびえているのが目に入る。4月が近いのに、秋田はまだまだ冬景色の模様。おかげで鍋のおいしい季節も、もうしばらくは続くようである。
(3月下旬食記)

旅で出会ったローカルごはん33…秋田 『秋田市民市場』の、手焼き&機械焼きキリタンポ

2006年01月28日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 最近、全国各地の名だたる名物市場が、建て直しや取り壊しされるという話題を耳にする。全国一のフグの集散地である下関の「唐戸市場」は、飲食店や物販店を併設した観光フィッシャーマンズワーフと化し、川にかかる橋がそのまま市場の建物になっていた釜石の「橋上市場」は、名前こそそのままだが駅前に移転してごく普通の建物になってしまった。建物の老朽化による改築や、観光的要素を加えて複合アミューズメント施設に再開発するなど、いくつかの理由や目的があるようだが、町のランドマーク的存在だった市場がリニューアルされると、町全体の表情もどこか変わってしまったように感じてしまう。

 秋田駅から徒歩5分ほどのところにある「秋田市民市場」も、数年前にリニューアル。アトリウムを備えた明るくしゃれた建物に変貌したが、古びた倉庫か体育館のような蒲鉾形の建物だったかつてのたたずまいが、今になると懐かしい。自分が訪れたのは建て直しが決まる直前ぐらいの頃で、夜行列車を乗り継いで秋田駅に着くと、秋田新幹線が開通した際にきれいに整備された駅前広場を抜け、大手門通りに面した市場へと直行。重たい鉄扉をガラガラと開け、薄暗い場内へと入ると、裸電球がともる中で時折「買ってげれ買ってげれ」と、訥々と語りかけるように呼び声がかかる程度。客の多くは地元の人で占められている生活市場らしく、無口な雪国気質ならではの雰囲気が、呼び声がガンガンかかってくる観光客御用達の市場と違い素朴でいいものである。

 入ったところは青果売り場で、通路を挟んでずらりと向かい合って並ぶ店の多くは、まだ開店準備の最中のようだ。ちょうど今は春先なので、店頭には県内各地でとれた旬の山菜やキノコ、タケノコが目立ち、本荘の小松菜、湯沢のナメコやタケノコなど、しっかり産地を表示して瑞々しい姿を見せている。そのあたりまでは、東京のスーパーでも聞き覚えがある名前だが、中にはヒロッコ、サワモタシ、ニョウサクにヒコヒコと、聞いたこともない不思議な名前もずらりと品札に書かれている。一見、普通の野草のようだが、どうしてこんな名前が付いたのだろう。

 市場の中央寄りへと足を運ぶと、店頭には囲炉裏で燻した漬け物「いぶりがっこ」や、ほうき草の実「とんぶり」など、秋田ならではの郷土の味があれこれと並んでいる。そんな一画にある間口の狭い店に、秋田名物のキリタンポが並んでいるのを見つけてちょっと立ち止まった。真空パックのキリタンポとラップにくるんだキリタンポがあり、ラップの方は見たところ手作り風で450円と500円と2通りの値段がつけられている。どう違うのか考え込んでいると「こっちは焼き立てだから、50円高いの」と、話しながら奥からおばさんが出てきた。触ると確かにほんのり温かく、ラップも湯気で曇っている。おばさんが手で焼いたのかと思ったら、残念ながらどちらも「機械焼き」との答。

 キリタンポは、固めに炊いたばかりの新米をつぶして杉などの串に巻いて焼いたもので、もとは猟師が狩りの際に山へ持ち込んで、弁当のかわりにした保存食だった。鍋のイメージが強いから冬の料理と思われがちだが、原料が米なだけに、旬は新米の収穫期の9月である。今はほとんど機械で焼いているが、この店では八郎潟そばの昭和町に住む、手焼き名人のキリタンポが人気で、「手焼きは今日も朝早くにまとめ買いがあって、もう売り切れた」とおばさん。機械焼きは数本のキリタンポをガスで同時に焼くので、形も焼き加減もすべて同様に仕上がってしまうのに対して、手焼きは串に刺して、炭火で1本ずつ火加減を見ながらていねいに焼くから、どのキリタンポもいい状態に仕上がるのだという。

 もちろん手焼きの方がおいしそうだが、売り切れならば仕方がない。機械焼きの2種類のうち、持ち帰りだから冷めた安い方を買うことにして、家でキリタンポ鍋を作る時に使おうと比内鶏のスープも一緒に買った。鍋にするときはキリタンポを一度せいろで蒸して、煮崩れないように鍋が煮立ってから最後に入れること、とおばさんに念を押される。お礼を述べて店を後に、水産物の売り場へ足を向けると、これまた旬のハタハタが店頭にずらり。キリタンポ鍋の材料を仕入れたあとは、もうひとつの秋田名物であるハタハタのしょっつる鍋の仕入れに奔走するとするか。(3月下旬食記)

旅で出会ったローカルごはん32…福井・越前大野 『福そば』の、名水をふんだんにつかった越前そば

2006年01月25日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 全国の数あるそば処の中でも、福井の越前地方は「おろしそば」が古くから名物として知られている。読んで字のごとく、そばの薬味に大根おろしをのせたもの、といえば簡単だが、素材へのこだわりや調理法の工夫など、土地土地でそのスタイルは微妙に異なるよう。そのうまさの秘訣は、水にまつわるところが大きい。福井の各地には伏流水が湧出しているところが数多く、環境庁の「名水百選」に選定された湧水もあるなど、そば打ちに欠かせない良質の水に恵まれている。加えて九頭竜川など県内を流れる大河が、流域に肥沃な土壌を形成、こちらも質のいいそばや大根の栽培に一役買っているという。

 福井から、その九頭竜川沿いに上流へさかのぼったところにある越前大野は、山里に広がる城下町だ。周囲を山に囲まれた大野盆地は、雪解け水と良質で豊富な量の地下水に恵まれていて、「名水の町」としても知られている。福井を早朝出発の列車に乗り、越前大野駅へ到着したのは8時過ぎ。まずは名物「大野の朝市」を見物しに、城下町の目抜き通りである七間通りまで早足で向かった。400年以上続いている伝統のある朝市で、山国らしく扱っているのは農産物が中心。露店の店先をのぞいてみると、美山キュウリや中野ナスなど、地物の野菜がござの上にきちんと整列して買い手を待っている。これら大野の野菜の質の良さもそばと同様に、良質な水のおかげである。

 ひととおり朝市を見物し終わったけれど、昼食にはやや早いので、散歩がてら湧水場である「お清水」へ行ってみることにした。ここも「名水100選」に選ばれており、見た感じは泉というよりは濠のようだ。ここの水は飲用のほかにも、生活用水にも使われているため、用途によって水を使う場所がきちんと決められている。水が涌き出しているところの周辺は飲用で、中流のエリアは野菜の洗い場、そして最も下流のエリアは洗濯場という具合。土地の人は、早朝は洗濯に、夕方になると炊事をしにここに集まってきて、それらの時間帯には文字通り、「井戸端会議」が開かれてにぎやかだという。

 通りを挟んで向かいの休憩所「お清水会館」には井戸があり、手押しポンプを押していると、ゴボッ、ゴボッと音がして、すぐにパイプから水がどっ、とあふれだした。地下水は夏は冷たく、冬は温かいため、手で受けてみるとキン、とよく冷えている。味の方も素直でくせがなく、確かにこれなら、そば打ちにももってこい。清冽な湧水のおかげですっきりしたところで、少々お腹も空いてきた。お清水の近くに小さなそば屋を見かけたので、この「福そば支店」で、大野の名水を使ったそばを頂くことにする。

 県内各地の越前そばの中でも、大野のそばは良質の水を素材に使うことから「名水そば」と呼ばれている。それに加えて、そば栽培に適した土壌である、大野盆地で収穫された玄そばの、品質の良さもまた見逃せない。この店のそばも、大野産の玄そばの実を数日分ずつ臼で挽いて粉にして、お清水の湧水を加えて生地を作った二八そば。もちろん手打ち、手切りしている。「満福そば」1000円を頼むと、皿に盛ったそばが3皿、盆の上に並んで運ばれてきた。つゆに付けていただく冷やしそばで、薬味はもちろん大根おろし、さらにカツオ節がどっさりと盛ってある。早速いただくと、水がいいせいかそばの歯ごたえがかなりしゃっきりしていて、舌触りも瑞々しい。水にくせがないから、そば本来の香りと甘味がグッと引き立っている。

 腰が強く、のど越しがいいから、あっという間に3皿平らげて、おかわりに「満腹そば」をさらにもう1人前追加。6皿目を平らげた頃にようやく、その名の通り満腹となり、食後にもう一度お清水会館で水を一杯いただいた。大野はそばの他にも、醤油や酒、和菓子などの老舗が多く、名水があらゆる味の土台をとなっていることが分かる。もちろん、いい水はそのままゴクゴクと飲むのが、何といっても一番おいしい味わい方である。(7月下旬食記)

旅で出会ったローカルごはん31…岡山 『三好野駅弁』の、瀬戸内の具だくさんの祭り寿司弁当

2006年01月22日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 握りずしや押し寿司、なれ寿司など、これまで全国各地の様々な寿司文化を紹介してきた。いずれも寿司が発祥してから進化していく過程で、それぞれの土地の文化や産業、風俗に密接に関わることで、独自のスタイルをつくり上げてきた。このたび訪れた岡山では、絢爛豪華で贅沢な「祭り寿司」が有名だ。酢飯の上に具をちりばめた、いわゆる「ばら寿司」文化圏にあるだけに、エビやアナゴなど各種瀬戸内の幸を始め、地の野菜や錦糸卵などバラエティに富んだ具材を種類豊富に盛り込んだこの寿司は、彩り鮮やかかつ見た目も華やか。祭りや祝い事があったときの「ハレ」の日にふさわしい料理である。

 倉敷で美観地区を見た次の日は、岡山で後楽園を散歩した後で豪勢に祭り寿司を、といくつもりだった。ところがあいにく旅程に余裕がなく、岡山の町歩きは断念。本場の祭り寿司もまたの機会かな、と思っていたところ、帰りの新幹線に乗る直前に弁当を買おうと立ち寄った店で、運よく駅弁の祭り寿司を見つけることができた。パッケージには赤や黄、オレンジの派手な色で、桃太郎のイラストが描かれ、品名も「桃太朗の祭すし」とある。岡山駅で古くから駅弁を扱う三好野駅弁の、昭和38年の発売以来40年の人気を誇るベストセラー駅弁である。

 東京へ向かう「のぞみ」号の車内に落ち着き、出発すると同時にさっそくパッケージを開く。すると中身は何と、桃。ネーミングに合わせ、桃の形をしたピンクの容器が実にユニークだ。駅弁といっても具の豊富さは文句なしで、ふたをあけるとたっぷりの錦糸卵の上に、色鮮やかなエビにはじまり、アナゴにシャコ、タコ、さらにママカリやサワラに藻貝など瀬戸内の豊富な魚介の数々。シイタケ、タケノコ、レンコンといった山の味覚もたっぷりと、何とも豪華である。

 ハレの日の料理である祭り寿司だが、その成り立ちを追ってみると、江戸期に岡山藩主の池田光政が出した質素倹約令に由縁があるというから面白い。贅沢に対する取締りが厳しい中、庶民は何とかしてうまいものを食べたい。そこで寿司飯の中に豊かな山海の幸を混ぜ込んでしまい、分からないようにして食べることを思いついたという。倹約令への反動が、具だくさんのばら寿司が生まれる原動力になったとは、食に対する欲求というか執着心は、いつの世も変わらないものである。

 これは最初からビールだな、と缶を開けて、お疲れ様の乾杯とともにたっぷりの具とともにまずはひと口。酢の締め具合がタネによって違い、エビはあっさり、ママカリはかなりしっかりと締めてあるなど、それぞれの持ち味をうまく出している。珍しいのはサワラ。味噌焼きやフライに使われることが多いこの魚、岡山では主に瀬戸内に面した日生などで水揚げされる高級魚として珍重されている。寿司ネタに使われるのもこの地ならではで、身の味が分かる程度に軽めに締めてありふっくら、ほろりとなかなかうまい。地元産の備前米を使った酢飯はやや甘めの味付けで、様々な具材の味をうまくまとめている。

 いろいろな具を食べているうちに、岡山特産のママカリにも箸を伸ばす。岡山ではママ、つまりご飯を借りにいかなければならなくなるほど進むおかずとして知られ、小魚ながら実にいい味が出ている。三好野駅弁では確か、このママカリをタネに握った「ままかり寿司」も扱っていたことを思い出し、次に車内販売のワゴンが通りかかったら追加で頼んでみるか。もちろんママ、ではなくビールを「借りる」ことも忘れずに。(2月下旬食記)