ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん111…春日 『ラーメン珍珍珍(さんちん)』の、とんこくラーメン

2007年12月15日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 毎年恒例の会社の健康診断で、1年ぶりに文京区春日へとやってきた。ここ数年、健康診断直前の1週間ほどは、酒を控え、油分や糖分の多い食事も控え、睡眠をよくとり、ついでにスポーツクラブにも毎日のように通って、と、しっかり「調整」をした上で臨んでいる。その甲斐あってか、再検査にひっかかることもなく、体重も肝機能の数値もこの日限定で奇跡の減少(笑)と、なんだか健康診断があるおかげで、一時的でも健康管理を意識できる、といった感じである。
 その精進落とし? に、春日駅周辺にあるラーメン屋を検査後に訪れるのが、節制の御褒美になっているのもまた、毎年の恒例。このあたりは知られざるラーメン屋の激戦区で、白山通り沿いやそこから入った通りに、「博多丸金ラーメン」「にんにくげんこつラーメン香月」など、何軒ものラーメン屋が軒を連ねている。ことしも昼ご飯前に検査を無事に終え、クリニックを後にいざ、春日のラーメンめぐりに出発だ。

 いったん春日駅まで戻り、昨年訪れた「らーめん花の家」の前を過ぎて本郷方面へと折れる。すぐ行ったところに道に面して、昨年気になった2軒の店が向かい合っており、訪れる店はこのどちらかにあらかじめ決めていた。
 実はことしの検査前は事前の調整をさぼってしまい、検査の週も毎日家でビールを飲むわ、夜中に平気で飲み食いするわ、と結果はきわめて怪しい状況。今更反省しても後の祭りだが、今日のところはせめてさっぱり系のラーメンに自粛とばかり、うち1軒の「烈士洵名」へと足を向ける。ご当地ラーメンとしては珍しい信州ラーメンの店で、トリプルスープに2種類の麺が特徴。民家風の落ち着いた店構えに、扉越しに見えるシックな内装が気に入っていたのだが、お昼時を過ぎているのに席がすっかり埋まってしまっている。
 ならば、ともうひとつの候補である反対側の店へ足を運ぶと、こちらは黄色地の看板に「ラーメン」と赤文字で書かれ、その下に並ぶ提灯、さらにガラス戸は大判のメニューの写真で埋め尽くされている。見るからに、ベタベタな外観の分かりやすいラーメン屋だ。そのど真ん中にはドン、と目立つ、赤地に白文字で『珍珍珍』の文字。「サンチン」と読み仮名が振られており、店名の洒落もまたベタベタである。


いかにもラーメン屋、といった感じのド派手な店頭


 カウンターのみの奥へ細長い店内には客は2、3名で、ほぼ同時に入店したおばちゃんの近くに席をとる。店内にも店頭と同様に、写真入りのメニューが貼られており、どれもなかなかうまそう。大判の丼の写真が、食欲をぐっとそそってくれる。
 壁に掲げられた能書きによると、スープはすっきり醤油の「江戸だし」と、豚骨醤油の「とんこく」の2種類。これらのラーメン単品以外にも、トッピング各種、さらにご飯ものやサイドメニューを組み合わせたセットもいろいろ揃っている。セットにして、ラーメンは初志貫徹のあっさり系でいこうとしたところ、「セットのラーメンは、とんこくのみです」と、「珍珍珍」の文字が入った麺箱の横で麺をゆでている親父さん。空腹感が増してきたこともあり、不摂生に対する自粛の念はあっさり吹っ飛び、コッテリ系のとんこくラーメン&半チャーハンという、ボリュームタッグでいくことにした。
 待っている間、卓上のメニューを眺めていると、チャーハンに「こだわり」の文字が添えられているのが面白い。この店の自慢は、自家製のラードを使っていること。豚の背脂から自家精製したもので、純度が高いため脂臭さが抑えられ風味が良く、旨みも深いという。ラーメンはもちろん、チャーハンやギョーザといった炒め物には抜群の相性だから、何だかサイドメニューである半チャーハンへの期待が高まる。

 先に出てきたラーメンは、珍しく浅く広めの丼に盛られており、濃茶のスープの上に薄く脂の膜が浮いているのが分かる。具はのりにチャーシュー、メンマ、煮玉子。見るからにこってり系のラーメンで、茶濁のスープに中太麺の組み合わせは、何となく横浜の家系ラーメンにも似ている。
 いただきます、とまずはスープをひとすすり。豚骨独特の香りは比較的控えめな分、醤油の香ばしさが際立っていて、見た目ほど重たくない。浮いた脂を一緒にすくって頂いてもくどさはなく、中太の麺とのからみも文句なし。自慢のラードのおかげで、さらさらと軽い味わいである。この脂、寒い地方に良くある、スープにふたをして冷めないような仕組みになっており、食べ進めてもスープが熱々なのもうれしい。
 スープが軽めの分、具の味はしっかりしており、とくに厚手のチャーシューは箸をかけるとホロリとくずれるほど柔らか。国産フレッシュポークの肩ロースを使用しており、やわらかくジューシーなのが身上、と能書きにある。メンマはシャキシャキと対照的な食感で、ともにしっかりと味が染みている。



パラパラの食感に、ラードの香りが食欲をそそる


 厨房は親父さんがひとりで切り盛りしているようで、麺をゆで、ギョーザを炒め、鍋に向かい、と忙しそうだ。チャーハンはラーメンが出されてから取り掛かりはじめ、炊飯器から飯を出し、卵を割り、ボウルに大盛りのネギと刻みチャーシューをとって準備完了。中華鍋を温め、例のラードをさっと敷いたら、あとは材料を入れてズコッ、ズコッと手早く炒めていく。隣の席のおばちゃんが頼んだ「ネギチャーシュー炒め」も、一緒に調理されているようで、こちらもズコッ、ズコッとうまそうだ。
 ちょうどラーメンを半分ほど食べ終えたところで、平皿に軽く盛ったチャーハンがカウンター越しに差し出された。ひと口頂くと、飯がカリカリ、パラパラと香ばしいことといったら。ラードにくるまれたご飯が、手早い鍋振りによってしっかりと熱が加わり、まるで揚げられたような仕上がりになっているのだ。炒めた飯の仕上がりがパラリとしているか、しっとりしているかがチャーハンとピラフの違い、と聞いたことがあるけれど、この仕上がりなら正真正銘、正統派のチャーハンだ。
 さらに卵の柔らかい甘さ、刻みチャーシューのしょっぱさが加わり、どんどんかき込めるのもご飯ものの醍醐味。ラーメンの麺やスープと一緒に頂くと、豪華なラーメンライスといった具合でまたいい。

 昔読んだグルメマンガに、チャーハンの名人が鍋を振った際に、宙に浮いた飯がレンジの火に直接あぶられてパラリと仕上がるシーンがあった。実際にはそんな調理は不可能で、本当にやったらレンジ回りに飯が飛び散って大変らしいけど、前述のズコッ、ズコッという効果音とともに、読んでいてえらくチャーハンを食べたくなった場面だった。
 あれから10数年、ようやくあのチャーハンにめぐり会えた気分で、来年の検査後は単品、1人前で頼んでみようか、と気がはやる。そういえば来年からは年齢の関係で、検査の項目が増えるんだった。健康診断前の健康管理(というのも何だか変だけど)を、これまで以上にきちんとした上で臨まなければ、検査後の食べ歩きどころじゃない数値がいっぱい出てきたら大変、大変。(20071011日食記)