ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカルミートでスタミナごはん…佐賀駅 『ROUGH CAFE DINING BAR』の、三田川ホルモンの盛り合わせアヒージョ

2020年03月18日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
仕事でホテルに缶詰になりそうな今宵、せめて晩ご飯はご当地感覚を楽しもうと、駅北口のホテルを出たが、繁華街の南口まで行くのはちと億劫だ。心が折れかかった矢先、落とし所向けな謎業態の店に差し掛かった。コーヒー、ビール、ランチアンドディナーに加え、異彩を放つ「MEN'S HAIR」の文字。理髪店も兼ねたダイナーとは、定番ローカルグルメよりもそそるものがある。

洒落たカフェか、デザイナーズヘアサロンかといった入り口をくぐると、カウンター席の左にあの多機能チェアを並べた理髪店然としたフロアがあり、ヘアサロンとダイナーが違和感なく共存しているのに恐れ入る。奥のテーブル席に落ち着いて、まずはプレモルにポテサラに唐揚げの、定番組み合わせからスタート。品書きにはアーバンリゾートとして注目されている、福岡県糸島所以の素材を使ったフードや酒が見られるが、あまりご当地らしさを押し出すようでもない感じである。

ひとしきり飲んだ締めに、ローカルグルメのシシリアンライスでもあればバッチリだったが、焼きカレードリアに2種のパスタしか麺飯ものは見当たらない。拘らず流そうと決める直前に、「三田川ホルモン」と地名を冠した品が目に入る。バケットつきのアヒージョが選べるので、締め炭水化物に決めつつホルモンだから、と芋焼酎「大隈」ロックも合わせてみたりして。

ダイナーにヘアサロンが併設されている感じのこの店、むしろその逆が正しい。佐賀市内に展開する男性専用ヘアサロン「Mens Hair SPICE」の店舗の一つで、福岡で増えているヘアサロン&カフェの発展形として、ランチやディナーも対応しているのだそうだ。人気のアヒージョの中でも、三田川ホルモンは隣の吉野ヶ里町に店を構える、地元で評判の高い食肉店。毎日食肉市場で仕入れているため鮮度は文句なし、黒毛和牛から豚モツまで品揃えは幅広く、アヒージョの盛り合わせにも様々な部位がゴロゴロ入っている。

牛の上ホルモンは、内臓についた脂をとろりと舐りながらいただく。牛丸ホルモンは硬く、よくかんで味を出して。締まりのある牛レバーはくせがなくホコホコ、対照的にハチノスはザクザク噛み切れないほど硬く、内臓のくせが強い。それを「大隈」で流しては、ガーリックが香り高いオリーブオイルにバケットを浸していただく。モツとガーリックと芋焼酎の相乗で、溜まった疲れが幾分吹き飛んだ気がしないでもないか。

出かける前に佐賀市のローカルグルメを調べてみたら、「シシリアンライス」なるものが見つかった。ごはんに焼肉をのせさらにたっぷりの生野菜をのっけて、マヨネーズをたっぷりかけまわす高カロリー案件らしく、ホテル飯とか喫茶店とか洋食屋で出しているという。今宵の一仕事を終えてまだ元気が残っていたら、明日午前に佐賀さんぽに繰り出した後の朝ごはんとして、攻めてみるのも良さそうだ。

ローカルミートでスタミナごはん…大津駅前 『肉食堂 最後にカツ!』の、名物の肉カレー黒

2020年02月10日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
昨日の大津の街あるきは、旧東海道ゆかりの町屋を巡り元公会堂を使ったレストランで締めくくった。町の歴史や成り立ちに所以する、いわば定番の散策コースな一方で、なかまち商店街のアーケードやそれと東海道を結ぶ路地には、庶民性や路地の生活感が窺えた。街の面白さは路地や裏通りにもありで、入り込むほどに素顔の大津が見えてくるのも面白いものだ。

個性的な商店街の印象が強かったこともあり、翌日大津を後にする前の昼飯にも、駅前の商店街へと分け入った。すると早々に覗いたビルの中、薄暗い路地の奥に「肉」の文字の看板が目に入る。いかにも怪しい佇まいの中を分け行ったところには、キャパ10人ちょっとの食事処があった。覗くとお客が一組だけと、開店の11時直後に来たのが奏功したらしい。これは行列必至の「肉食堂 最後にカツ!」のカウンターへ、すぐに落ち着けそうである。

こぢんまりした店内のカウンター越しには、兄さんがひとりで火を立たせ奮闘中。お姉さんの接客がていねいで、促されて奥から順に詰めると、先客が自然に寄ってスペースを開けてくれた。店とお客がつくるいい空間が心地よく、怪しげな店の印象は吹っ飛びひと安心。品書きから「俺のカレー黒」700円にしたら、「それは肉なしなので、初めての方はこちらがおススメ」と、「名物の肉カレー黒」を推してくれた。トンテキのせのカレーだそうで、昨日の近江牛の煮込みに続き、今日は豚というのも悪くない。

京阪島ノ関駅駅そばに本店があるこの店、界隈では肉をがっつり食べたい時の必須アイテムとして、知られた店という。トンテキとビフテキをメインにカレーや定食に仕立てたメニューが揃い、「最強」「伝説」「究極」「至高」などと冠してお客を誘っている。カウンター越しではフライパンでひっきりなしに料理が炒められ、炎がガンガン上がりまくり迫力がある。お客はほとんどが定食を頼んでおり、厨房からそのまま運ばれる大盛りのフライパンと対峙。狭い店内は調理場の熱と食べる人の熱が充満しており、「肉食堂」とのパワーある屋号も伊達ではない。

自身の前に盆が置かれると、いよいよ「名物」の登場だ。丸長皿にはごはんと真っ黒なルウ、そして焼きたてのトンテキがどっさりフライパンから引っ越してきた。すさまじい肉の量に、カレーのみで良かったかなとやや後悔しながらひとさじ。激辛を思わせる見かけに反してルウは甘ったるく、砂糖かハチミツかナッツ系の甘味がしっかり伝わってくる。それが一呼吸置くと辛み要素が多重に立ち上がり、甘さとせめぎ合い味覚を膨らます。その複雑さにスプーンが止まらなくなり、300グラムと多めにしたご飯がザクザクと進む。

トンテキもボリュームがある見た目ながら、きめ細かい肉質が旨味をたっぷりとどめ、適度についた脂身がルウと異質の甘さで舌に溶ける。トンテキだけそのまま食べても旨く、ルウと絡めれば味わいがさらに引き出されるのがたまらない。昨日の近江牛すじ煮込みの繊細さに対し、パワフルでワイルドないかにも肉料理といった感じで、最初は量にたじろいだが意外にペロリと食べられてしまうのも嬉しい。ご飯をもうひとつ上の量にしてもいけたかな、と最後はやや強気になりつつ、きれいにごちそうさま。

店を出ると朝からの雪混じりがすっかり収まり、きれいな青空が広がっている。駅から見下ろした先の琵琶湖も青い湖面が望め、さんぽ日和になりそうだ。トンテキパワーのおかげでエネルギーチャージできたし、すでに歩き尽くした大津の街の路地をもう少し攻めてみるか、と再び散策意欲が湧く、湖国のパワフルローカルミートである。

ローカルミートでスタミナごはん…浜大津 『旧大津公会堂レストラン モダンミール』の、近江牛スジの煮込み

2020年02月09日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
国宝の城を有する彦根、格子戸の商家が集まる近江八幡、黒漆喰の洋館がランドマークな長浜。町並み散策のコンテンツが豊富な滋賀県内の各都市の中で、県庁所在地である大津は今ひとつ地味な印象を受ける。しかし実際に歩いてみると、バラエティ豊かな建築物や通りや史跡が、随所に点在しているのに驚かされる。旧東海道周辺に見られる、国指定重文の商家や民家。中町に延びる昭和の風情漂う商店街。国策で作られた琵琶湖疏水の重厚な産業遺産など。物流の拠点として賑わった町だけに、時代や由緒が多岐にわたるコンテンツが広く揃っているのが、大津の町並みの特徴といえるだろう。

そんな町並みの構成要素を巡った後、最後に訪れたのは洋館だ。浜大津駅の裏手にある旧大津公会堂は、昭和9年築の公共建築である。丸窓と直線的な窓を組み合わせたフォルム、淡い茶系のタイル張りの外観など、シンプルな造りながら公会堂らしい威風堂々とした風格も漂っている。人通りが少ない駅裏の線路端に寂しげにあるようだが、現在は4軒の飲食店が入った「旧大津公会堂レストラン」となり、人気を博しているそう。しかもローカル銘柄である近江牛のグリルとくれば、町並みさんぽの締めにこちらで軽くひと休みしていこう。

ちょうど開店の17時で、車寄せ付きの荘厳な玄関をくぐり、「モダンミール」の扉をくぐった。外観に反して店内はカジュアルな印象で、窓辺にかかるネオンサイン、壁面に描かれたマップのペイント、奥にはバーカウンターもあり、アメリカンダイナーのような賑わいが感じられる。手描きのイラスト付きメニューにはもちろん、近江牛の文字がずらり。ステーキは部位やサイズが各種、ほかハンバーグにカツレツ、一品料理まで、精肉店直営ならではの安さも売りだ。がっつり晩御飯のいくにはやや時間が早く、近江牛スジ煮込みとハイボールで軽い一献といきたい。

お通しの黒毛和牛生ハムを、紙からはがしてはつまんで一杯とやっていると、小鉢に盛った煮込みが運ばれてきた。トロトロに煮えたスジに青ネギがのった見た目は、店のテイストとは違い赤提灯的な感じだ。しかし口にするとさすがは日本三大和牛のスジ、フルフルととろける秀逸な甘さは、部位はスジながら品格すら感じさせる。醤油ベースなのに味噌のような丸い甘みがする汁は、どこか韓国の肉料理のよう。ハイボールよりも地酒が焼酎が合いそうで、軽くのつもりが誘い水になってしまいいけない。

旅先での野菜の補給にとった、大盛りのアンチョビキャベツも平らげて、コラーゲンとビタミンCとカルシウムは充分摂取できた。小一時間で店を後にしたらあたりはすっかり真っ暗になり、ライトアップされた公会堂が昼間とまた違った存在感を見せている。町歩きの締めで立ち寄った伝統と格式ある公会堂建築でいただくのは、日本指折りの高級銘柄牛。でもどちらもちょっと庶民的なたてつけになったのに親近感が湧いた、大津のローカルミートである。

ローカルミートでスタミナごはん…飯塚 『とんちゃん処 有門亭』の、モツ煮ほかホルモン料理の数々

2019年11月08日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
筑豊炭田の中心都市である飯塚は、かつて炭鉱で働く労働者たちが多く暮らしていた。そのおかげで現在も様々な鉱山遺産だけでなく、生活や文化にも当時の面影が色濃く残っている。三菱飯塚炭坑の巻上機台座、炭鉱王の屋敷である旧伊藤伝右衛門邸などの大規模な史跡からは、当時の炭鉱の隆盛が垣間見られる一方、芝居小屋の嘉穂劇場や銘菓ひよ子といった娯楽や嗜好からもまた、彼らの暮らしが伺えて親しみが湧く。そんな硬軟取り混ぜた飯塚炭鉱さんぽの締めは、労働者の活力源となった食文化に触れておきたいものだ。

新飯塚駅前から延びる「しんいいづか商店街」には、昔の商家や町屋が多数残り、小ぢんまりした飲食店も軒を連ねている。労働者の仕事上がりに一杯、といった雰囲気の店ばかりで、こちらも散策の締めにその一軒「とんちゃん処有門亭」の暖簾をくぐった。屋号からして和風の居酒屋かと思ったら、店内はモノトーンベースのモダンなインテリアが意表をつく。品書きには串物煮物炒め物とも「とんちゃん」メニューが揃っており一安心、最初の一杯は地酒「寒北斗」冷やを頼んで、さんぽあがりの宴のスタートである。

飯塚をはじめとした筑豊地区ではとんちゃん、つまり豚のホルモンを使った料理が古くから常食されてきた。安価で味が良くしかもスタミナ源になるためで、現在も市街を歩けばホルモンや焼肉の店が多数目につく。この店ではホルモン鍋やもつ鍋など、50年前の炭鉱長屋で食べられていた料理を伝える一方、欧風やエスニックテイストの新進な料理も提供。地元客の評判も高く、飯塚に続く炭鉱の食文化がどのように扱われているか、品書きを見るほどに期待が高まってくる。

自分も昭和のホルモン鍋といきたいが、鍋は2人前からとのことで、定番からモツ煮と串ものをチョイス。「寒北斗」をちびちびやっていたら、最初にマルチョウ串焼きが運ばれてきた。小腸でシロコロより小ぶりながら、皿に脂がヒタヒタあふれ出すほどのり、串にかぶりつくと脂がブシュッと噴き出す勢い。内側にトロトロの脂とコラーゲンが分厚くついていて、舌でねぶればたちどころにスッと消失する。甘さで疲れを癒し脂でエナジーチャージと、炭鉱労働者のはじめの一杯にぴったりのアテである。

気を良くして炭坑上がりのノリでホルモン三昧を期待したら、続くモツ煮が意外なたたずまいで登場した。スープ皿に盛られバケットが添えてあり、どこかイタリアンなテイストがする。様々な部位がゴロゴロ入っており、スパイスがうまく使われなかなか上品だ。トロトロ、シャッキリ、グイグイと部位ごとに煮加減が違い、それぞれの特性を活かしているのがさすが、歴史あるモツ処の煮込みだ。匙でバケットにのせていただくのもいいが、やはり箸でつまんではコップ酒をグッとやるのが似合わしいような。

バケットをモツ煮の汁に浸して締めご飯にしてもよいが、もうひとつ力のある料理を食べたく品書きを眺めたところ、凄いモツ料理を見つけて即、オーダー。キムモツライス、すなわちキムチとホルモンの焼き飯だ。真っ赤に染まった見た目に違わず、ひとさじいけばとろ甘いホルモンとご飯がからみ、後からシャキシャキのキムチの辛みが味を包括して、内臓料理好きにはこたえられない一体感に痺れんばかりである。これはモツとご飯の食べ方の究極、スタミナ補給も抜群の締めご飯だろう。

会計書きに直筆で「また来てくださいね!」としたためられているのが心地よく、おかみさんに見送られて店を後に。遠賀川を渡れば大衆劇場で夜の部をやっており、さらに炭鉱の文化に浸るのも楽しそうだ。ホルモン尽くしでパワーチャージのおかげで、体力回復どころか今宵もまだまだいけそうな、飯塚炭鉱のローカルごはんである。

ローカルミートでスタミナごはん…川崎・セメント通り 『東天閣』の、ひとり焼肉

2019年06月11日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
テレビ版の松重五郎のファンは、焼肉の回といえば八丁畷のひとり焼肉を挙げる。「俺の肉が、泣いている」は、「孤独のグルメ」名台詞ランキングに間違いなく入る、秀逸な焼肉食レポだ。一方、谷口ジロー先生のコミック版では、焼肉の回といえば川崎セメント通りの焼肉にて異論は受け付けない。かのキャッチーな食マトペは後述として、「うんうまい肉だ、いかにも肉って肉だ」なるニヒル五郎さんの繰り出す謎食コメ、これまたマンガならではの世界観の真骨頂といえる。

SPA!の兄弟誌・月刊PANJAに連載の初回から本作は知ってるぜ、と意味のない自負のある自分からすれば、川崎セメント通り最奥の「東天閣」は、コミック版の聖地中の聖地。これまでも何度も訪れているが、おひとり様、仕事の狭間、中途半端な時間、改めて思い出した空腹と、今日は作品のシチュエーションと奇しくも似通っている。ここはひとつ五郎さんばりで、「一発焼肉でもいれていくか」と、扉をくぐってみようか。

テーブルにつきコンロに単身対峙したら、作品のノリでハラミ、豚トロと一皿をまるごと、独り占めで焼き始める。仲間や家族と焼肉店に来ると、全体の流れや同席者への気配りに翻弄されるが、今日はとことんマイペースだ。一種一枚ずつとスペースを贅沢に使い、好みの加減に時間を費やし、好みのチューニングで焼いて好きなタイミングで味わう。製鉄所の溶鉱炉のごとくかっ込んでいた五郎さんと対照的に、ゆったり優雅な焼肉タイムもまた、ひとり焼肉の利点だろう。飲めない五郎さんが「きたきた来ましたよ」と待ち受けていたご飯、飲んでる自分にしても焼肉の相方として勝るものなしだ。

怒涛のオーダーを重ねていた五郎さんのチョイスの中で、チャプチェはストーリーをたどる上で外せない。エイヤで頼んでおきながら「昨日のすき焼きを温めたような」との微妙な評、かつ量の多さに難渋していたが、春雨とニラなど野菜を濃いめの味付けで煮てあり、なかなか食が進む。キムチは白菜でなく、桜本商店街の店で見かけたラッキョウのキムチに。コチュジャンの甘さとラッキョウの香味がコントラストあり、シャリシャリの歯ごたえがいかにもラッキョウって味…ってレポでは作品と大差ないか。

カルビ、ミノ、上ロースに上カルビをライス2杯とともに平らげた五郎さんには及ばないが、こちらも久々にリミッターを外して食欲のままに存分に肉を喰らった。こどグルナンバーワンの食マトペ「うおォン」、万感を込めて発したら、聖地巡礼の満足感もひとしおである。