ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん115…『チョンウォンスンドゥプ』と、『ハルモニグクス』の冷麺

2009年06月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 

 新沙の「プロカンジャンケジャン」で、ソウル一うまいというカンジャンケジャンを堪能して、店を出てもまだまだ宵の口。タクシーで東大門市場へと繰り出し、夜のファッションマーケット街をぶらり。さらに地下鉄で明洞に戻り、昨晩に続いてナイトマーケットをぶらりとしたところで、腹具合も時間も適度な夜食タイムとなった。
 今宵の深夜の韓国ローカルごはんは、「スンドゥプ」という、豆腐の小鍋チゲである。店は、ホテルのすぐ近くにある『チョンウォンスンドゥプ』。1968年に開業の老舗の支店だ。スンドゥプも、韓国庶民のファストフード的なものだが、この店は木造の内装にメタリックなテーブルまわりと、まるで創作フレンチレストランのように、なかなかおしゃれ。日本人の女性客が多く、スタッフも日本語で楽しく応対している。レジ横に貼ってある、会話の日本語訳例を覗き見ると「イケメンでしょう?」なんてのがあるのが面白い。

 パリッとした感じの兄さんに、席へと案内されると、隣のテーブルの女の子3人組は、豪勢に焼肉を頼んでいる。話からして日本人のようで、サムギョプサルや骨付きカルビを店の人にハサミで切ってもらいながら、何やら談笑している様子。焼肉の評判も高いらしいが、昼間に「ひとり焼肉」はこなしているので、シンプルな「豚肉スンドゥプ」を注文することに。
 すると例によって、前菜の皿がずらりと並んだ。えごまの葉の漬物、コンナムル(豆もやし)とニラのコチュジャン・胡麻油和え、ヨルキムチ(ダイコンの葉のキムチ)は店のお決まりで、ほかこの日はトッポッキと、寒天か煮こごり風の一品が出された。
 豆腐チゲが来るまで、これらをつまんでいると、ダイコンの葉のキムチは乳酸発酵していて、野沢菜漬けに似た風味。コンナムルとニラの和え物は韓国海苔も刻んでまぶしてあり、香ばしい香りが食欲をそそる。

 

店は明洞の繁華街からやや入ったところ。スンドゥプは単品でこんなにつく

 しばらくして、グツグツと煮立った小鍋が登場。唐辛子の真っ赤な汁の中には、豆腐と豚肉、ニラ、ネギのみとシンプルだ。テーブルの上のかごに入った、取り放題の生卵を煮立っているスープに落とし、大振りの豆腐からまずはひとつまみ。
 すると凝固する直前のような柔らかさでフルフル、トロリと味が濃い。スープは見かけほど辛味はないが、スープが激熱のために辛さが強調されているよう。具材からほど良くダシが出ていて、えらく辛いのにスプーンがとまらなくなる、くせになる辛味である。
 豚肉は薄いばら肉で、脂身が多くスープの辛味のおかげで重さを感じない。味はやや抜け気味で、スープに味を出している様子。脂身がたっぷり付いていて、これがトロリと心地よい。とにかく、辛味の強いスープのおかげで、豆腐、豚肉、ネギの具に一体感を感じる。

 一緒に、小さな石釜入りのご飯も添えられているが、このご飯はスンドゥプのスープに入れるのではない。このご飯と前菜を混ぜることで、自分で簡単ビビンバを作るのが面白い。前菜のコンナムルとニラの和えものが入った、使い込まれた金属製のぼこぼこの器に、添えられた小さな釜入りのご飯を3分の1ほどよそい、スンドゥプの豆腐とスープも3、4さじ足して、ぐるぐるかき混ぜるとできあがり。器が貧相(?)なこともあり、見た目は猫ごはんのようである。
 味は見た目によらず、なかなかうまい。くずれた豆腐がご飯をマイルドに包み込み、生ニラと豆もやしがバリバリ、ツンツン。器にはコチュジャンが元から入っており、ニラとの相乗効果もありスンドゥプよりもはるかに辛い。韓国のりと胡麻油が香ばしく、食欲をそそってくれる。スンドゥプよりもこちらのほうが、鮮烈で印象に残ったかも知れない。

 

熱々のスンドゥプは結構辛い。右はお得な簡単ビビンバ

 翌日はいよいよ、ソウル食い倒れの旅の最終日。朝ごはんの『ハルモニグクス』は、まさにソウルの人たちの朝飯どころ、といった感じである。明洞の繁華街から1本入った、裏路地にある店で、まるで勝手口のような入り口の近くには、野菜を切ったり下ごしらえをしているおばちゃんの姿も見られる。
 この日は週のはじめの月曜日、しかも9時前とくれば、店内は出勤前のサラリーマンで満卓状態。狭い通路を何とかかいくぐり、これまた小さめの卓につくと、客やおばちゃんが背中にどんどんぶつかりながら行き来している。

 店名の「グクス」は麺を指すだけに、壁のメニューを見ると、麺類が充実している。名物の冷麺のほか、ラーメン、ちゃんぽん、人気メニューの豆腐そうめんなど。さらにチャーハンにビビンバ、トッポッキ、豆腐料理まで、一品料理が日本円で1000円しない手ごろな値段だ。
 初日に豆乳冷麺をいただいたのを思い出し、ここでは定番の冷麺を注文。冷麺といえば、キムチ入りの真っ赤なスープに腰のある透明な太麺が思い浮かぶだろうが、ここの冷麺は透明のつゆに、そば粉を使い茶色がかかった麺。これが平壌式の伝統的なスタイルで、具はダイコンとゆで卵とシンプルだ。深夜まで食べ歩いた翌日の朝ごはんにはありがたい。

 

路地をはいったところの店。冷麺はキムチが別盛りなのでシンプル

 麺は極細でかなりちぢれており、すするとまるで糸こんにゃくのようにツルツル。日本の冷麺の麺がクキッ、と硬めなのに対し、これはやたらに弾力があり、細さもあってなかなかかみ切りづらい。そのまま飲み込み、ひんやりしたのど越しを楽しむ麺のようだ。  
 スープに浮いた氷はスープを凍らせてあり、溶けてもスープが薄くならない仕組み。そのまま飲むとさっぱりしているが、卓に添えたキムチとコチュジャンを入れると、赤みが付いて日本で食べる普通の冷麺風に。それほど辛味はなく、コチュジャンに青ネギがいっぱい入っていて、香味が結構強い。酢とからしが添えて出され、これらを入れると刺激で朝の胃袋が動き出し、最終日の食べ歩きのスタートにはいいかも知れない。

 昨晩のスンドゥプの店のように、自分で選ぶ店はガイドブックに頼っているせいか、日本語が通じて愛想がいい分、どこかよそ行き、旅行者向け的な感じがする。それに対し、この旅行の案内人が先達してくれる店は地元向けばかり。満席、雑然、言葉通じずだが、味のほうは文句なし。加えてこちらのほうが、ソウルの人たちの素のごはん、素の様子が伺えて面白い。
 海外旅行も3日目ともなると、慣れてきて度胸もついてきたから、こうした店へも臆せず入れるようになってくる。ただ、残念ながらこれが最終日。せめて今日のお昼と、飛行機に乗る前の早めの晩御飯ぐらい、ガイドブックを使わずに自分の勘頼りで、飛び込みの店選びにチャレンジしてみよう。(2009年5月11日食記)


魚どころの特上ごはん89…ソウル 『プロカンジャンケジャン』の、カンジャンケジャン

2009年06月13日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 ノリャンジンの市場食堂にて、同席した地元の親父さんたちと盛り上がり、気がつくと時計は9時を指している。昌徳宮(チャンドックン)の見学ツアーは、確か9時半からだ。
 あわてて親父さんにあいさつして店を後に、地下鉄ノリャンジン駅前でタクシーを捕まえ、片言の英語で「チャンドックン、930!」と運転手にお願い。間に合うかどうかも気になるが、親父さんたちと早朝からしこたま飲んだ真っ赤な顔で、宮廷ゆかりの施設へ入れてくれるかどうかも心配だ。
 日本語ツアーのスタート時間に何とか間に合い、入り口で赤い顔を特にとがめられることもなく、まずはほっとひと息。今日はじりじりと日差しがきつく、おかげで「チャミスル」も、宮殿内を歩いていれば抜けるだろう。

 昌徳宮は王の宮殿である、景福宮(キョンボックン)の離宮で、ここも昨日訪れたロケパークと同様、ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」ゆかりの地である。正殿の仁政殿は、王の即位式や結婚式、外国の大使を迎える場所で、前庭には「品階石」といわれる、位を示した碑が立っている。役人は、これにより立つ位置が決まっていて、その右は文官、左は武官が並んだとされる。
 チャングムは医女として、初めてこの位を授かった人物とされ、ドラマで王様から命を受けた「正三品」の碑もちゃんとある。これは大臣の次の位というから、まさに異例中の異例の抜擢だったとか。
 ほか、王の執務室や臣下の会議室、妃の神殿の大造殿(案内のお姉さんは「子作りをする場だからこの名前になりました」と、ストレートな解説をしてくれた)、王がくつろいだ楽善斎などを見学。案内のお姉さんに聞くと、チャングムは朝鮮王朝の初めの頃の話で、この離宮は王朝の終わりごろの建物なので、時代的にはずれているそうである。
 そして、この離宮で一番有名な「チャングム」ロケ地が、四角い池を中心とした庭園。ドラマの最後のほうで、チャングムと王様が散策するシーンが印象的だ。同行の日本人もドラマのシーンを思い浮かべてか、あちこちで記念写真のシャッターを押している。

 

昌徳宮の仁政殿(左)と、チャングムにも出てきた王宮の庭

 昌徳宮の見学が終わったら、ついでに隣接する古い韓国民家群が残る一角、北村(ブッチョン)へも足を伸ばすことに。ここは同じ韓国ドラマでも、「冬のソナタ」ゆかりのエリアとして、知る人ぞ知る存在。高校時代のシーンのロケを行ったソウル中央高校を、まずは目指す。
 校門に近づいたとたん、おばちゃんがやってきてパンフをくれるわ、写真を撮ってくれるわと、なかなか親切。それはいいが、そのまま校門に隣接するみやげもの屋へとエスコート。中はヨン様グッズを始め、韓流タレントのグッズがいっぱい。はやっているヨン様モチーフのテディベア(の、バッタもん)も売っている。何も買わずに出てきたが、おばちゃんは冷たいトウモロコシ茶を出してくれたり、商売中心でなく親切だったのが、日本のこの手の店とは違って気分がいい。

 近くには、ヒロインであるユジンの実家があった場所もある。おばちゃんは学校のそば、と教えてくれたが、そばどころか校門から歩いて15秒。こんなに近ければ、遅刻して塀を乗り越えるあの名シーンのようなことはなさそうだが。冬ソナ屈指の人気のこのシーン、ロケは残念ながらこの高校ではなく、高校時代編の舞台であるソウル郊外の春川でロケをしたそうだ。
 ユジンの家の建物は、ドラマのロケ後に壊されてしまい、今は空き地となっていた。ここからの、韓国民家の瓦屋根の家並みが美しく、それはそれで来る価値はある。
 韓国民家の家並みを眺めながら坂を下り、明洞へ戻る途中、マーケットのある仁寺洞(インサドン)の通りも歩いてみた。ワゴンセールでカラフルな表紙のノートが1冊50円で売ってたり、チョゴリを模したグリーティングカード、韓国布小物のポーチやきんちゃく、東大門を描いたブックマークなど、みやげに手ごろな雑貨がいろいろあり、義理みやげはここで概ねそろえることができたのがありがたい。

  

冬ソナのロケ地・ソウル中央高校(左)。韓国の伝統家屋が並ぶ北村(中)。骨董品街と露店が並ぶ仁寺洞(右)

 早朝から市場を訪ね、しっかり観光や町歩きもこなし、加えて昼は「ひとり焼肉」をしっかり楽しんで。早起きのおかげで一日が長く、ようやく夕食の時間となった。今夜は案内役のお勧めの店を訪れることになり、明洞から地下鉄を乗り継いで20分ほど、漢江を渡った新沙という駅へとやってきた。
 今宵のお目当ての料理は、韓国で有名な海鮮料理のカンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け)。そのソウル一おいしいと名高い店が、駅から徒歩3分ほどのところにある。店名は『プロカンジャンケジャン』、カンジャンケジャンのプロ、という名に期待が高まる。
 ブルー地の看板が目立つ店頭には、ハングルとカタカナの店名に続き、日本語で「同じ店はありません」の文句が目立つ。店のパンフにもやたら、当店オリジナルと記されており、この店の人気に便乗しようとする周辺の同業店を、牽制しているようである。

 地元でも評判の店らしく、1階のテーブル席は、カニを皿に山積みにした地元客でほぼ満席で、2階の座敷へと通された。おばちゃんはやや日本語が通じ、ご自慢のカンジャンケジャンを、上手な能書きの説明とともに勧めてくれる。大は大振りの1匹で7万5000ウォン、小は中型の2匹で5万ウォンと、評判だけに少々値が張るので、数が多い小を注文することにした。
 するとすぐに、皿の上に2つに断ち割ったカニが4片、甲羅の上に積まれて登場。オレンジ色の内子(卵)が鮮やかで、身は店オリジナルの発酵醤油・チャプチャンにつけたせいか、ほんのり茶色にくすんでいる。
 半透明の身が露出してる部分から、さっそく喰らいつくと、ボイルと違って身がツルリ、続いて醤油の風味がジワッ。チョプチャンのおかげで身離れが良くトロトロ、ひたひたのジューシーで、甲殻類のうまみとこなれた醤油のコンビネーションが、実に絶妙!

 
 

外子が鮮やかなカンジャンケジャン(左上)。味がぬけずうまい蒸しガニ(右上)。
カンジャンケジャンの仕上げは、甲羅にご飯を入れて(左下)。青い看板が目印(右下)

 そして身以上にうまいのが、濃茶色の味噌とオレンジ色の内子だ。これがホクホク、ねっとりとコクがあり、ともにウニのような味わい。それぞれ微妙に味が違うため、いわば豪華2種ウニ盛りといったお得感である。
 一緒に注文した、蒸し蟹の「コッケチム」も、素材の味が逃げずに素直に出ていて悪くない。だが、食べ比べるとカンジャンケジャンのほうが、役者が1枚上。チョプチャンがカニの身のうまみを倍化していて、これこそが究極のカニの味わい方かもしれない。
 あまりに印象が鮮烈なので、半身だけで充分に満足してしまった。日本語ができるおばちゃんが、「これは脂肪少なく、たんぱく質とアミノ酸が豊富。ヘルシーだから女性はもちろん、男性も生のカニはパワーがつくよ」と笑っている。

 この店は店のパンフによると、韓国のワタリガニの醤油漬け発祥の店、とある。創業以来およそ30年続いており、カンジャンケジャンは当時から変わらぬ味を売りにしているという。「プロ…」という店名は、韓国プロ野球ブームの頃にプロ野球の選手が多く来店し、カンジャンケジャンを高く評価してくれたことによるそう。選手のひとりが「プロ」と店名につけることを提案したから、とあるのが、なんだか奇妙なような。
 
 おばちゃんは食事中、ちょくちょく顔を出しては、「はいキムチ!」と記念写真のシャッターを押してくれたり、同行の年長者に「しゃっちょうさん」と呼びかけたり(何の店だ?)、サービス精神旺盛である。 ほどほど日本語が通じるのをいいことに、料理に使うワタリガニについて聞いてみたら、郊外西海岸の仁川(インチョン)で水揚げされるもの、とのことだった。ここの市場にはいいワタリガニが揚がるそうで、船が入ったら競売で船の漁獲分すべてを買い付けるという。
 温暖化で水温が上がり、最近はあまり取れなくなってしまったため、卵が入っているメスで1匹1万ウォンと、結構高価なカニらしい。ほかの店では中国産のワタリガニが多いけど、うちは国産の地ガニしか使わないよ、と言葉に力が入る。品書きには「カニ、米、キムチの原産地は韓国」ともある。
 
 さらにこの料理、身を食べ終えた後の仕上げもまた、贅沢極まりない。卵と味噌をちょっと甲羅に入れて、その上にご飯をのせて、皿にたまったチャプチョンをスプーンでご飯の上にかけまわし、ざっとかき混ぜて食べる。これで、カニ好きは気絶してしまいそうな、カニ出汁ごはんのできあがり。これはカニのうまいとこ、全部どりである。
 カンジャンケジャンを堪能した後は、サンナクチポックム(手長ダコの辛味炒め)を追加して、マッコリを壺で頼んでだらだら飲みに。マッコリはまるでヤクルトのような甘さと飲みやすさで、ひと壺の半分以上ひとりで飲んでしまった。
 早朝は市場で魚を肴に親父と痛飲、締めはカンジャンケジャンを肴にマッコリを鯨飲と、魚介で始まり魚介で終わった2日目の夜… と、まだこの時間で終わるわけにはいかない。以下、次回にて。(2009年5月10日食記)


旅で出会ったローカルごはん114…ソウル 明洞の屋台と『シンソンソルロンタン』のソルロンタン

2009年06月06日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 ソウル1日目の午後は、ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」のロケパークを見学して、夕方に再びソウルの中心部の鐘閣駅へと戻ってきた。参加者全員で、ソウルディナーの1回戦を付近の焼肉屋で済ませ、食後にはハイソウルフェスティバルのイベントが行われている、清渓川路の遊歩道をぶらぶら散歩。気がつくと、ホテルがある繁華街の明洞キル(通り)までやってきていた。
 あたりはナイトマーケットが展開していて、裸電球が煌々と照る露店が多数出店、店頭でいろいろなものを販売している。 ピアスやネックレス、髪留めといったアクセサリー、パンツやベルトにジーンズといったファッション、チョゴリを着た動物ミニぬいぐるみに唐辛子ストラップ、東大門の絵入りしおりなど、韓国雑貨を売る店などが軒を連ねている。雑貨の小物で、日本円で数百円程度だから、ばらまき土産にはもってこいだ。

 中にはどっかで見た何かのキャラに似ている微妙な柄のTシャツや、「ばったもの」「にせもの」とひらがな表記の貼紙を掲げて、シャネルやヴィトンを売ってたり、日本人観光客を結構意識しているよう。 そのせいか、店の看板に怪しげな日本語があちこちに見られる。
 たとえば「大長今(=チャングム)マッサージ」「やぎにく(山羊肉ではなく焼肉)」「世界いのビール(送りがなダブり。いのビールではない)」とか、音引きが半角ハイフンとか。ウォンビンが「うぉンビン」と、韓流トップスターの名がひらがなカタカナ交じりだと、なんだか間抜けに見えてしまう。

 沿道にはフードを扱っている屋台も目立ち、フルーツジュースの店、フライドポテトをどっさり盛る店、干しダコを売る店などがあり、テイクアウトには事欠かない。 店を眺めて、子供用の適当な土産を買って、小一時間ぶらついているとほどよく小腹がすいてきたので、通りの入り口にある屋台に落ち着くことに。
 店頭ではウインナーの串焼きとか、魚肉ソーセージのアメリカンドックとか、ジャンク系が地元客に人気の中、せっかくなので韓流ファーストフードを試してみたい。おでんにトッポッキ、スンデの3品を注文。頼んだ品数がちょっと少ないからか、店のお姉さんは少々機嫌が悪げな様子だ。

 

店頭の鍋や鉄板に並ぶ品がうまそう。おでんはカルビのようにハサミで切ってくれる

 ならば気を遣って、というか自分たちが飲みたいから? ビールをいっぱい頼もうとしたら、ビールは店頭横の冷蔵庫から缶ビールを持ってきて払う仕組みだ。銘柄はローカルブランドらしい、CASSとhiteの2種で、韓国で有名なOBビールは、意外に見かけない。
 トッポッキは韓国の有名なファーストフードで、韓国ドラマでもカップルがおやつに食べているシーンに覚えがある。ひとことでいえば、細長い餅を甘辛いスープで煮たものだ。 スープがどぎついオレンジ色の見た目通り、びりびり強く辛く、厚めのもちにしっかりからんでなかなかうまい。
 味付けには砂糖が入っており、甘い隠し味のおかげで、より辛味が際立っているよう。食べるたびに口中がしびれ、全身に汗がぶわっ。おかげで、ライト系の韓国ビールがよく進む。

左からトッポッキ、スンデ、おでん。おでんは牛スジのようだが魚のすり身

 スンデは春雨やもち米を、豚の血を加えて腸詰にした珍しい一品。見た目は真っ黒で、ソーセージというかサラミに近い。食べてみると薄い袋入りの春雨といった感じ。肉がないため軽く、春雨が麺風な食べ応えなので、見た目とのギャップに驚く。味は春雨ともち米がメインだから穀物系だが、豚の血は生臭さはなく、肉なしなのにコクが出ている。
 珍しいというか、面白いのがおでん。韓国語でも「おでん」で通じ、専用のたれをつけていただく。見た目からモツかスジかと思ったら、食べてみるといわしのつみれの味。細長いすり身揚げを串に刺し、だしで煮込んであり、唐辛子や味噌系の強い味付けが続く中で、和風のホッとする味だ。おでんのつゆがスープ代わりに出されるのも、韓国おでん流なんだろうか。

 
 

熱気あふれる明洞のナイトマーケット。フードを扱う屋台が意外に多い

 おでんをかじってCASSビールをあおると、木陰の下の屋台には気持ちいい夜風が吹いてくる。週末の通りは夜が更けるにつれ、いよいよ人通りが増え、ソウルの夜はより熱を帯びてきた。屋台を後にしてもまだ21時と早く、腹ごなしにマーケットをさらにぶらぶら往復してから、夜食にもう1軒はしごすることに。マーケットの屋台がなくなるあたりにある『シンソンソルロンタン』を訪れた。
 入り口をくぐると、兄さん姉さんが愛想よく迎えてくれた。ソルロンタンとは、牛肉や骨、内臓をじっくり煮込んだスープのことで、いわば牛まる1頭入りのスープ。サムゲタン(丸鳥のスープ)、コムタン(テールスープ)と並び、韓国料理を代表するスープの一種だ。

ソルロンタンはキムチ、ごはんつき。スープに入れずにいただく

 この店はチェーン店で、ソルロンタンの味には定評があり、24時間営業の店内には深夜になってもお客の姿が絶えない。チェーンといっても日本のファストフード風ではなく、大衆食堂のようなたたずまいで、ひとり客や女性でも安心してぶらりと入れるのがいい。
 壁に掲示された、料理の写真と若干の日本語入りのメニューによると、各種ソルロンタンのほかに餃子が店の名物らしい。惹かれたが、3軒目ともなればいささか食べ過ぎの感があるので、ここはオーソドックスなソルロンタンを注文することに。

 しばらくして、器に入った白濁のスープと、ごはんの器が添えて出された。具はネギとわかめに、薄めに牛肉がひときれ。さっそくスープをすくってみると、あっさりしているが牛肉のいろいろな部位を煮込んでいるだけに、重層的なコクのある風味がする。
 全体的に味が淡く、昼の冷麺と同様に好みで塩で味付けしたり、卓上に添えられたキムチ入れから、キムチを好みで小皿に盛ってつまみながらいただくしくみ。塩味をしっかりめにつけると、スープにこくが出てきてなかなかうまい。具の牛肉は薄いけれど、だしがらでなく味が凝縮、やわやわに煮えているがかみ締めるごとにうまい。

 

仙人のイラストが目印。牛肉は自然にほぐれるほどよく煮えている

 キムチはカクテキと白菜キムチの2種で、白菜は店の人がバチバチとハサミで切って、小皿にとってくれた。ニンニクがよく効いていて、この日食べたほかの店のキムチよりビリッとくるが、辛味というより酸味の感じがする。カクテキもきんきんにすっぱく、日本の古漬け風か。味が強めのため、ソルロンタンの味を楽しむなら、あまりつまみすぎないほうがいいかも。
 スープには、仕上げにご飯を入れるのが地元流。1/3ほど浸してしばらく置いてからゆっくりくずすと、スープが水分多めのごはんにしみていく。味はライトな雑炊というか、塩ラーメンのラーメンライスのようでもあり、ほどよい塩味で食欲が進み、深夜なのにごはんをすべて食べてしまった。

 店を出るとそろそろ日付が変わる頃で、地元コンビニのBY THE WAYで飲み物と、本場ロッテの菓子でも買って、ホテルに引き揚げよう。明日はソウル市民の台所・ノリャンジン水産市場を訪れる予定。早起きになるけれど、1日が長くなる分、ソウルのローカルごはんを数こなせる、と思えば、5時起きも何のその? (2009年5月9日食記)