毎年この時期に行われる、名古屋周辺の観光懇談会が、今年は日比谷の「素材屋」にて催された。毎年、地元でも名だたる名古屋グルメの東京店が会場とあり、ことしも手羽先や味噌カツをしっかりと堪能。駅前のミッドランドスクエアをはじめとする高層ビルの建築ラッシュに、サツキとメイの家を中心とした万博跡地の自然公園など、万博終了後も相変わらず名古屋は元気、加えて名古屋グルメも依然、強い魅力のある観光要素であることを再認識した会だった。
で、氏の携帯に電話して、会が終わる時間を見計らってこの素材屋へ呼び出すことに。地下街にはほかに飲み屋がいくつもあったから、場所替えのために外に出ないで済みそうだ。21時やや前になって氏が到着。激寒の中を地下鉄を乗り継いで素面でやってきたのに対し、自分は一席終わってすっかりでき上がりと、なんとも対照的な状態で久々の再開の挨拶を交わす。
とりあえず「素材屋」を後に、落ち着ける店を探して地下街を彷徨う。寿司屋、鶏料理、そば居酒屋と並ぶ中、奥まった一画に大きな木の扉が目を引く店を見つけた。まるで古民家の玄関のような重厚さで、中は窺い知ることができないが気になる。そして店頭の店名には「味噌汁家」なる文字。
大きな木の扉が目印。中も木調の民芸風
品書きを開いたところが焼鳥の欄だったので、焼鳥の串盛りと、締めの味噌汁の前にちょっと汁物が欲しくなったので、モツ煮も注文。先に運ばれてきたビールで再開の乾杯と、まずはひと息つく。
店名からして味噌汁の専門店のように聞こえるが、この店、肴もかなりバラエティに富んでいる。魚介類を使った前菜に焼き物や煮物、和牛の刺身や煮込みといった肉料理なども。中でも鶏料理は充実しており、使っている鶏はさっきの名古屋コーチンに対して、鳥取の大山地鶏。味噌に鶏といえば、さっきまでいた「素材屋」の名古屋グルメを思い出してしまう。
運ばれてきたモツ煮は味噌はドロリと赤黒く、見るからに濃厚な感じ。名古屋名物の豆味噌、八丁味噌かと思ったらそうではなく、特製の合わせ味噌を使っているとある。やや渋めでほんのり甘く、トロリとよく煮えたモツにいい味が染みている。湯葉が入っているのが珍しく、ゴボウ、ニンジン、ネギといった根野菜もたっぷり。ツルリ、ホクホクと対照的な食感がうれしい。
一方、大山地鶏の焼鳥串盛りはグイグイと歯ごたえが強く、身の味がしっかりと味わえる。能書きによると、軍鶏を原種に交配して肥育した地鶏で、その日に締めた鮮度抜群のものを使用。身に弾力があり脂肪分が少ないのが特徴で、オリジナルのタレで焼いた香ばしさもあり、ビールが進む味だ。串盛りでビールが空いたところで、モツ煮には焼酎といきたいが、自分は酒のほうはそろそろいっぱいいっぱい。あっさりメニューのゆばこんにゃくわさび煮を追加、酒は薄めのサワーにして、マイペースで進める。
ゆばこんにゃくわさび煮(左)と、野菜たっぷりで赤味噌のモツ煮
具は豆腐にわかめ、揚げ、なめこ、しじみといった定番から、里芋にベーコン、ブロッコリーにミニトマト、ジャガイモとアスパラにバターといった珍しいものも。味噌は信州赤味噌に白味噌、仙台味噌、麦味噌など全国から取り寄せており、味噌の合わせ方と具との組み合わせで、これだけの種類の味噌汁を用意している。まさに味噌汁の専門店、こちらは、名古屋の八丁味噌もちゃんとある。
これだけの数の味噌汁から、ベストのひとつを選ぶのはなかなか厳しい。店のお兄さんに相談したところ、「普通の椀よりやや小さめなので、数杯飲まれるお客さんもいますよ」とアドバイス。結局しじみとなめこ、ニラと卵の、定番の2杯をお願いすることにした。
酒を飲んだ締めに椀物が出されるとホッとするが、それが2杯並ぶとちょっとしたボリューム感だ。先にニラ玉のほうから味見。こちらは信州白味噌で、味噌のくっきりした甘さがニラの刺激を際立たせる感じ。フワフワの半熟卵が優しい味わいで、故郷、田舎の味噌汁といった素朴な感じである。
一方、シジミとなめこの味噌汁は信州赤味噌で、比較的なじみのあるスタイル。渋めの味噌にツルリ、シャクシャクとした歯ごたえのなめこがピッタリ合う。何といってもシジミは、酒の後にはにうれしい具。滋味あふれるエキスに加え、身も小さいながら底にいっぱい入っている。ともに熱々なのがこの寒さにはありがたく、ゆっくり交互に味わいながら宴も締めくくりに。
本当はもう1杯、変り種の味噌汁も飲みたかったが、無能力の大食らいを揶揄する「馬鹿の三杯汁」になってしまうので、2杯飲み干したところで店を後にする。23時前とまだ宵の口、はしご酒なら新橋まで戻り、烏森神社周辺の立ち飲み屋になだれ込むか。
今は熱々の味噌汁のおかげで今は体が汗ばむほどで、ビルを出て地上の極寒に触れるのに、少々躊躇してしまう。どこかでもう1軒飲んだとしても、締めには再び味噌汁で暖まりたくなるかも。それとも先日、太るからと自粛を志したはずの、「飲んだ締めにはラーメン」となってしまうのか?(2008年1月24日食記)