ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー番外編… 『旅で出会ったローカルごはん』が文庫になりました

2007年08月25日 | 味本・旅本ライブラリー
拙著「旅で出会ったローカルごはん」ですが、実は、フィッシングやバイク、カメラ、ライフスタイルなどのムックを出している出版社・えい出版(→えいとは、木へんに世と書きます)さんの「えい文庫」より、文庫化されることになりました。発売は9月10日です。

中身に関しては、文庫化に際して新しいローカルごはんをいくつか増補… する予定でしたが、スケジュールの都合で断念。1篇だけ、松江・出雲市の出雲そばについて、新たに加えてあります。ほか巻頭に口絵を設けたり、前書きでは例の「やる気MANMAN」出演のトークから抜粋したりと、ぼちぼちでありますが手を加えています。本体価格は880円とお得になりましたが、オールカラーは変わらずで元本のイメージは踏襲しています(えい出版さんありがとうございました)。

ちなみに、元本(今までトップ画像にあった、親子丼表紙のやつ)は、絶版・出荷停止。これまで「諸事情」としか書きませんでしたが、要は版元が倒産、社長が夜逃げしてしまったんです。印税は一切払われていない上、現在では在庫がバーゲンブック(よく駅の乗り換え通路などでやってる格安ワゴンセール)に流出してたたき売りされてる始末。思うところは多々ありますが、自身の原稿を本にしてもらった、という一点については感謝の念があるため、まあ恨み節は唱えまいとしよう。

それを救済していただいたえい出版さんには、ただただ感謝の念でいっぱいです。なわけで現在、刊行に際して死ぬほど無茶なスケジュールを強いられていますが、これまた恨み節は唱えまいとしよう(苦笑)。

という訳で、すでに元本をお買いの方もぜひ、ハンディな文庫版も(笑)よろしくお願いします。

町で見つけたオモシロごはん99…有明・東京ビッグサイト 『ら~めん大景』の、味噌らぁめんと餃子

2007年08月04日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 出版関連の様々な展示が一堂に会した、「東京国際ブックフェア」という本の見本市を視察することになり、有明の東京ビッグサイトへとやってきた。銀座の事務所から地下鉄で豊洲駅へ、そこから延伸されたゆりかもめを利用して、国際展示場正門駅へと到着。7月の初旬、梅雨明けはまだというのに、この日は気温が
30度オーバーで、駅から展示場へ向かう長い連絡橋を歩いているだけで、全身から汗が吹き出してくるほどの暑さだ。
 早々に、冷房が効いた展示場へと避難すべく、駅から長い連絡橋を渡り、例の4本足のテーブルを巨大にしたような建物へ。足の1本のたもとからエレベーターで昇り、デジタル出版にまつわる講演を2時間ほど拝聴してから、いざ、見本市の見学である。

 ビッグサイトの見本市は、これまでパソコンや旅行をテーマにしたものに来たことがあり、毎度のことながら会場の広さと人ごみには圧倒される。場内には大中小さまざまな規模の出版社のブースが並び、ぞれぞれの出版物を並べてアピールしている。
 普段、書店の店頭であまり見かけないような出版物までそろえているのが、ブックフェアならではの面白さ。全国各地の郷土料理や食材を、県別に紹介しているシリーズを出している版元では、ほかにも食をテーマにした本がいろいろ揃っている。自然科学系の出版社ではハンディサイズの魚や野菜の図鑑もあり、これは取材に便利そう。と、それぞれのブースについ、長居してしまっていけない。会場の中ほどに設けられた、洋書のバーゲンセールを物色、小じゃれた写真集をいくつか買い込むと、各ブースでもらった出版目録とあわせて、結構な荷物になってしまった。

 1時間ほど場内をうろうろしていると、結構な距離を荷物両手に歩き回った感じ。同時に開催している文具フェアも覗いてみる前に、ちょっとひと息入れていきたい。これだけの規模の展示場だけに、飲食店や休憩処も充実しているようで、手元の案内図によると何箇所かにまとまった飲食店街が形成されている。文具フェアの会場に行く途中には北レストラン街があり、オムライスで有名な日比谷・松本楼があるではないか。
 オムライスにグラスビールで、大人の3時の休憩にしよう、と、連絡通路からエスカレーターで1階に下って、件のレストラン街へ。中途半端な時間だからか、それともみなさん視察に熱心だからなのか、展示場はあんなに人が多かったのにもかかわらず、歩いている人の姿はまったく見かけない。飲食店もアイドルタイムではないためか、メニューを絞っているようで、お目当ての松本楼も喫茶のみ、オムライスは17時から、との看板が立っている。

 グラスビールが頂ける店は、より選択肢が限られてしまうが、大荷物を持って別のレストラン街へ今更移動するのも面倒なので、通りの中ほどにあった『らぁめん大景』で3時のラーメン、と相成ることに。この時間でもラーメンや餃子、ビールはもちろん、おつまみメニューも扱っており、焼きモツにわさびシュウマイ、大盛りおつまみチャーシューなど、どれもなかなかそそる。とりあえず味噌らぁめんとビール、それに餃子も1枚、食券を買い求めて席へと向かう。
 それにしても、展示場のスケールも大きい上に、飲食店もまたでかいこと。この店でもちょっとした見本市ができるぐらいに店内は広く、壁に沿って2~4人がけのテーブルが店の奥へ向かってずらり。さらに中央には20人ほどが座れる大きなテーブル席が2つあり、厨房寄りにはひとり客用のカウンター席も。ざっと数えて軽く100人は収容できそうで、フードコートではなく純粋なラーメン屋としてこれほど巨大な店は、これまで見たことがない。大イベント時のお昼時は、これでもまかないきれないぐらいの行列になってしまうのだろうか。

 客は10組程度入っているけれど、店が広いのでめちゃくちゃ空いている様に見えてしまう。2人がけの席に着き、荷物をおいてほっとひと息。広く人の少ない店内が見渡せて落ち着かず、旅館で空室がないため、12畳の部屋にひとりで泊まったときのことを思い出す。
 先に餃子が運ばれてきたがビールが一向に出てこないので、店の人を呼ぼうとしたがこれが一苦労。広い上、お客が少なくフロアに出ている人も少ないから、見つけてもらえないので大変だ。立ち上がって思い切り手を振り、ようやく待望の中ジョッキが運ばれ、やっとこさ3時の休憩の開宴である。

 味噌らぁめんは、きわめてオーソドックスなスタイルで、やや辛口の味噌味スープにやや太目の麺がよくからむ。和風味噌というよりは、豆板醤のようなしびれる辛さがあり、ちょっとタンタンメンに近いような食感。具ももやしとわかめだけとシンプルで、とりたてて際立った特徴はないけれど、展示場を歩き回ったあとにさっといただく、おやつがわりの軽食といった感じか。
 むしろ餃子のほうがなかなかうまく、やや厚めの皮の中は肉汁がもれずにたっぷり。ビールが遅れてきたため先行して3つほど食べてしまったが、これはつまみにぴったり。焼きもつとかわさびシュウマイなど点心数種とビール、というのもよかったかなと、なかなかそそられる。

餃子は丸っこい感じで、肉がたっぷり。ニンニクを添えていただく

 展示場のラーメン屋なのだから、腰をすえて長居して一杯やる客もあまりいないだろうけれど、追加のビールとおつまみをつい、頼んでしまいそう。もっともそのためには、また立ち上がって大きく手を振らないとお姉さんは来てくれないので、ビールが空いたところで席を立つ。
 広々したフロアを横断する足取りは、少々ふらり。展示会場の視察は結構な運動になるようで、普段より少々ビールが回ってしまったようだ。再び広々した展示会場をしっかり歩き回って酒を抜いたら、仕上げのビールは、デックス東京ビーチかアクアシティのオープンデッキで、レインボーブリッジを眺めつつ、本腰を入れてグッといくとしよう。(200776日食記)


町で見つけたオモシロごはん98…港南台高島屋の物産展で買った、京都 『花折』の鯖寿司

2007年08月02日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 以前、京王百貨店で毎年年始に催される、日本一の駅弁大会に行った話を綴ったことがある。年頭でバタバタしている中、大混雑の中で駅弁を物色しに新宿まで出向くように、自分は駅弁大会や、デパートの催事会場で行われる各地の物産展が大好き。何といっても現地へ行くことなく、催事場を一巡するだけで多種多彩なローカルごはんに出会えるのが、実にありがたい限りだ。加えて試食できる品が盛りだくさんで、招待のハガキを持参すると粗品がもらえるし、とちょっと俗な理由もなきにしもあらずだが。
 そうした会場を眺め歩いて気づくことだが、漬物でも和菓子でも珍味でも、あの味ならこの店、と真っ先に思い浮かぶ超有名店が、意外に出店していなかったりする。代わりに名前をあまり聞いたことがない店が出店していて、そこで買うとかつて食べたあの店の味とは微妙に違う、なんてことも。もっとも有名店の中には、味よりも商売に熱心なところもあるし、あまり知られていない店のほうが大量製造をしていない分、昔ながらの製法で地道にやっていてかえって味がよかったりもする。有名な地方の味の穴場的ウマイ店が、現地ではなくデパートの催事会場で見つかるというのも、何だか面白い。

 地元である横浜・港南台駅前にある、ショッピングモール「港南台バーズ」内の島屋でも、催事会場の一角で、定期的に各地の物産展を行っている。郊外型の店舗なので、横浜駅にある島屋の大催事会場のと比べて、かなりこぢんまりした規模だけれど、最寄り駅にあるため普段使いの買い物ついでに、しょっちゅう足を運んでいる。
 5月のとある日にぶらりと島屋に寄った際、催事会場に足を運んでみると、夏物の衣料セールを大々的に行っている一角に、ちょっとした物産展のコーナーが設けられていた。和菓子や漬物、海産物、お酒やお茶など、特定の地域を特集している訳ではなく、主に西日本の有名どころの品々を適当に揃えているよう。金沢の不室屋の麩に、長崎の有名な水産加工品店のかまぼこ、京都の村上重の漬物など、名の知られた老舗の名も、いくつか見られる。
 会場の中ほどで、押し寿司が入った大きな木桶を並べた店を見かけ、足を止めると京都名産の鯖寿司の店だ。品台には大振りな鯖の半身をそのまま、ご飯にのせて押した長い棒寿司が、竹の皮に包まれてズラリ。脇には木板の看板で『花折』との屋号、そして「鯖街道四百年の伝承」との文字が添えられている。

店頭の大桶にある各種鯖寿司。年季の入った看板も

 京都で鯖寿司の店といえば、祇園の「いづう」が名の知られた有名店だろう。この「花折」という店はあいにく、名前を聞いたことがないが、店頭にあった能書きによると下鴨と木屋町の2軒の店を構え、しかも工房は上記の鯖街道沿い、屋号の由縁になっている花折峠に構えているとあった。これはなかなか由緒ありげ、「穴場の店」発見の期待が、膨らんでくる店である。
 長い鯖寿司を丸々1本買っていきたいところだが、鯖寿司はどの店でも意外に値が張り、数千円と結構高価だ。だから、という訳ではないが、ハーフサイズの「小袖」というのがあり、予算の都合上こちらに決定。家で食べながら、さらに読んで由縁を勉強しよう、と店の能書きも紙袋に1枚入れてもらう。

 小袖にしたからやや少ないかな、という心配をよそに、家に戻って鯖寿司の竹の皮を開くと、長さは半分だが鯖の身の幅が結構ある。表面はかんぴょうのような薄い食材で包まれており、透けて見える鯖の皮の光沢のおかげで、黄金色に輝いて見えるほど。そして包丁を入れると、身の断面は厚みがあり、脂ののり具合はほどほど、しっとりと、これはうまそうだ。
 ひと切れで3口ぐらいはあり、6切れぐらいとれそうだからひと切れでいくら、なんて計算は無粋、と、まずはひと口。酢飯の酢がかなりきつめで、キリッとした酸味がかなり強く感じる。鯖の脂ののり具合から、身はかなり濃厚かと思ったら、こちらも見た目よりもかなりさっぱりした食感。関西寿司のバッテラに近い、あっさりした押し寿司、といった印象である。
 寿司を切り進めていくと、次第に脂の茶色い部分が厚みを帯びてきた。部分によって脂の入り具合が異なるようで、2切れ目のほうが味が濃厚になったようだ。一番脂がのっているところはかなりコッテリ、酢飯の酸味に負けないぐらいの強い旨みで、口の中で飯と身と脂が一体となり、かなりうれしい味だ。近頃は空弁の「某さんの焼き鯖寿司」の影響で、焼いた鯖を使った鯖寿司が人気のようだけれど、生で締めた鯖のなめらか、しなやかな食感は、焼き鯖寿司にはない味。これぞ伝統の、京都の鯖寿司ならではの味わいだろう。


鯖寿司の切り身。脂ののった肉厚の鯖がうまそう

 そもそも古の頃からの美食処である京都において、なぜ鯖寿司が名物になったのだろう。京都で鯖がとれる訳でもなく、わざわざ遠方の若狭から鯖を取り寄せてまで作ったのは、何か理由があったのだろうか。答えのヒントは、小浜と京都の間の距離にある。
 流通と冷蔵技術の発達のおかげで、現在の京都は瀬戸内や日本海に「近く」なり、両方の海域で水揚げされた魚介が集まるようになった。しかしかつては内陸という立地ゆえ、鮮魚のままで魚を味わうことは難しい土地だった。鮮度落ちの激しい鯖などなおのことで、若狭の鯖も脂ののりと肉厚な身質の良さで、味の評価は高かった一方、鮮魚のままでは京都へ持ち込むことは不可能だった。
 そのため、水揚げ後に鯖に塩をすることで傷むのを防ぐことが考え出され、そうした処理をした上で荷車に載せて、前述の鯖街道を経て京都へと持ち込まれるようになった。この鯖街道、正確には若狭街道と称し、福井県の小浜から県境の山間部を通り、京都の大原を経て出町柳へと至る十八里(80キロ)の道のり。朝に小浜を出発して、京都に着くのは翌日の未明と、運ぶのにちょうど一昼夜かかったという。その時間のおかげで鯖にちょうどいい塩梅に塩が回り、鮮魚で食べる以上に旨みが活性化され、「若狭の一塩ものの鯖」として好評価を得ることとなった。
 この鯖、塩がよく回っているため、そのままで食べるにはしょっぱ過ぎる。そこで寿司ダネにして押し寿司に仕立てたところ、酢飯の酸味と鯖の脂がベストマッチ。このようにして、若狭の一塩ものの鯖を用いた鯖寿司が、京都の名物となっていったのである。

 「花折」の鯖寿司は、3枚におろした一塩ものの鯖の小骨をきれいに抜き、秘伝の合わせ酢につけてから、昆布をのせて竹の皮にくるんで締めてできあがり。鯖寿司作りに欠かせない昆布は、いづうでは黒昆布を使っているのに対し、この店は利尻産の白板昆布を使っている。鯖をくるんでいるかんぴょう状のがそれで、普通の昆布に比べて表面が削られけばだっている分、味が良く染みるという。もちろん、材料の鯖はすべてが若狭産… といいたいところだが、近頃は鯖も高級魚の仲間入りをするぐらい水揚げが減っており、能書きには「日本海産の真鯖を使用」と記されていた。
 かつて、自分もいづうの鯖寿司を頂いたことがあり、持ち帰り用は売り切れ必至のため京都を訪れた初日に予約、最終日に店を訪れて、何とか買って帰ったものだ。その味は超老舗の伝統ある調理法ゆえ、大衆魚である鯖がまとまりのある上品な味に仕上がっていたのが印象的。それに比べて花折の鯖寿司は、鯖自体の実力にゆだねた味、鯖の実力を引き立てた力強い味、といった感じだ。
 いづうは江戸期の天明元年創業、花折は大正2年創業と、ともに京都を代表する鯖寿司の老舗であることは変わらない。一方、いづうは京都のど真ん中である祇園で店を構え、花折は大原からはるか北へ入った山間の峠に工房を置いている。味の違いはこうした立地、または食材である鯖に対する料理法の理念、主たる客層など、いくつかの要因があるのかもしれない。どうあれ、今まで自分が抱いていた鯖寿司の印象とは、幾分異なる鯖寿司の店であることは間違いなく、物産展ならではの発見がここにあり、といったところだろう。

 鯖寿司に舌鼓を打ちながら、ふと思いついてかつて自分が携わったことがある、京都のガイド本をパラパラとめくってみた。すると何のことはない、「花折」がしっかりと紹介されているではないか。しかも巻頭の味の店特集で丸1ページの扱いで、いづうよりもずっと本の前のほう、しかも大きいスペースである。
 考えてみれば、自分がいづうを訪れたのは、もう10年以上も前のことで、人気の店も年月を経れば、そりゃ推移していることなのだろう。物産展が花折を選んだことに感心するよりも、自分が花折を知らなかったことを反省せねば。ローカルごはんの物書きとしては、しっかりと日々の情報収集と、食への感性の自己研鑽を…。(2007年6月16日食記)