ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん8…名物名古屋グルメが東京へ進出・矢場とん東京銀座店の味噌カツ丼

2005年09月30日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 愛知万博のおかげもあって、「名古屋グルメ」が首都圏をはじめ全国で流行した。春先に万博の取材で名古屋市街に滞在した際には、自分もきしめん、天むす、ひつまぶしなど、栄や錦の繁華街で様々な名古屋の味を食べ歩いてみた。その時に印象に残ったのが、ドロリと濃厚で赤黒い色をした味噌。大豆からつくられるため「豆味噌」と呼ばれ、名古屋を中心とした尾張・三河地方の人々の食生活に強く根付いた、名古屋郷土の味だ。地元では味噌汁や煮物などに使うのはもちろん、料理に直接かける「味付け味噌」も存在するほど。名古屋の人が全国で1、2を争う味噌好きと言われる由縁である。

 味噌煮込みうどん、どて煮など味噌を使った名古屋グルメの中でも、知名度とインパクトでは味噌カツに軍配が上がる。栄の繁華街の南端、下町風情が漂う大須に近い矢場町にある「矢場とん」で初めて食べたのだが、一般的なとんかつの常識外のスタイルにただただ驚いた。揚げたてのカツの上に味噌ダレどっぷりとかけるため、カラッとした衣はべしゃべしゃ、肉の味わいも味噌一色に。何と味噌ダレのお代わりまであり、名古屋の豆みそ文化に、強烈なカルチャーショックを受けたものである。

 その「矢場とん」、名古屋ブームに乗って?東京銀座店をオープンした。あの独特のカツが忘れられず、9月中旬の日曜に、昼食を頂きに訪れてみることに。東銀座駅から晴海通りをひと筋入ったところにある、本店同様にこぢんまりとした店である。1階はカウンターのみで、昼時をやや外れているが結構込んでいる。端の席に腰を下ろすと、すぐ目の前が厨房だ。3つ並んだ大きなフライヤーから、草履のようなカツがじゃんじゃん揚がっている。「リニモに乗って行った?」「大地の塔は込んでいてみられなかったな」と、客の会話の中には万博の話題も。ちょっとした名古屋気分である。

 名古屋の店を訪れた時は、大きなカツで人気の「わらじとんかつ定食」を頂いたので、この日は「みそかつ丼」1155円を選ぶ。大き目のどんぶりにご飯が盛られ、その上に揚げたカツがのっただけとシンプルだ。どんぶりの形に合わせたのかカツは丸く、ご飯を覆いさらに数切れおまけがのってなかなかのボリュームである。注目はカツにかけられている味噌ダレ。ざぶざぶにかけられていた名古屋の店のに比べて、軽くさらりといった感じである。

 さっそくカツをひと切れかじると、衣がふわり、肉の味がなかなかしっかりしている。国産の柔らかなロース肉をつかってあるため脂身の甘味が濃厚で、肉のうまみがたっぷり楽しめるのがいい。味噌ダレは、八丁味噌を豚の筋からとったスープでのばし、数種の調味料にダシと砂糖を加えたオリジナル。甘味がほど良く、肉はもちろん衣やご飯のいい味付けになっている。脇役になって味をひき立てているようで、味噌の味が強く主張する名古屋のとはかなり違う味わいだ。

 テーブルにはからしとすりゴマ、トウガラシの薬味が置かれていて、「まずはそのまま」「甘いと思う方はからしを」「味覚をかえるならすりゴマ」「好みでトウガラシを」と名古屋の店と同様の説明がある。名古屋では味噌の甘味に押されてしまったので3つすべて試したが、今日はそのままでさっぱり頂けた。ひょっとすると、東京の味覚に合わせて味噌ダレの味をいく分手加減しているからだろうか? あさってで終わる愛知万博と名古屋のことを思い出すと、本場の強烈な味噌ダレの味が少々懐かしい気もしてきた。(2005年9月23日食記)

町で見つけたオモシロごはん7…特大かき揚げから出たサバ?相鉄・二俣川駅の漁師料理「仕立屋」

2005年09月29日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 横浜駅から相模鉄道の急行で10分ほど、二俣川駅近くで所用を済ませたとたんにどしゃぶりの雨が降り始めた。天気予報ではこれから夕方にかけて台風が通過するとのことで、この後に東京へ仕事に向かうのが少々億劫になってしまう。雨宿りもかねて、早めの夕食をいただきながら天気の様子を見ることにして、とりあえず駅周辺で店捜しである。かつてこの沿線に住んでいたことがあるが、しばらくこない間に駅は改築され、駅ビル「グリーングリーン」の中にも見慣れない店がずいぶん増えたようだ。

 中途半端な時間でやっている店が少ない中、1階に、「茅ヶ崎仕立屋食堂」と書かれた暖簾が下がる店を見つけた。店名からして、湘南でとれた魚を食べさせてくれるのだろうか、と期待しながら暖簾をくぐり店内へ入ると、女の子が席へと案内してくれる。横浜Fマリノスのユニホームを着ているのが、浜小屋風のウッディーな内装と少々不釣合いだ。メニューを開くと魚料理の店だけあり、刺身を始め一品料理が豊富で、これらを数品頼んで中ジョッキ…といきたいところだがまだ東京で仕事が残っているため自粛。食事メニューから「漁師さんかきあげ定食」を頼むことにする。

 レジのそばに置かれていたちらしによると、この店は本社が二俣川の近くにあり、横浜市を中心に川崎、八王子、お台場などに10数店舗を展開している。ここ二俣川店は「フィッシャーマンズダイニング」とあるように、相模湾から毎日とりよせた鮮魚をベースに、店独自の創作料理が豊富にそろっているよう。メニューによるとたたみいわしや釜揚げシラスなどのほか、素材の味を生かした「漁師料理」もいくつか見られる。

 運ばれてきたかき揚げは、メニューに「ボリューム満点」と添え書きがしてあるように、中ぐらいの皿いっぱいの大きさでなかなかの迫力である。仕事柄、全国いろいろな漁港を巡り、様々な魚料理を頂いたが、漁師料理の特徴といえばとにかく豪快な料理法。そして食べる方もガンガンいくのが漁師料理の流儀、とばかり大きなかき揚げを真っ二つに割り、その一片にバリッとかじりつく。中にはイカのゲソ、正体不明の貝や小魚の身など、こまごましたタネがいろいろと入っていて、ひと口ごとになかなか楽しい。

 半分ほどかじったところで、中からどこかで食べた覚えがある魚が出てきた。何と、サバである。焼きサバでそのまま食べてもいいほど味が濃厚だが、かき揚げのタネに使ってしまうとは恐れ入った。漁でたくさんとれた獲物や雑魚を使うのもまた、漁師料理のスタイルだったなあ、と思い出す。

 もう一片はご飯にのせて、天つゆと熱々のお茶をかけて「天茶」にして締めくくりに頂くことにする。窓の外はいよいよ荒れ模様で、豪雨に加えて風も強まってきた様子だ。今日は仕事はあきらめて、まだ半分ほど残るかき揚げとの格闘を続けるべく、遅まきながらここらで中ジョッキの登場といくか。(2005年7月25日食記)

極楽!築地で朝ごはん7食目・さかえや ~お魚天国・築地は牛丼も本場~

2005年09月28日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地場内市場には、すし屋や魚介の店などに混じり、ちょっと意外な店がある。牛丼の吉野屋だ。こんなところにまでチェーン展開しているのかと思う人がいるかも知れないが、実はこの築地場内市場の店が発祥なのである。モツ煮込み丼の「きつねや」の項でも書いたが、築地市場に隣接する食事処は、市場で働く人たちの食もまかなっており、「早い、うまい、安い」でスタミナがつく牛丼はまさにもってこい。吉野屋のほかにも、市場の周辺には牛丼や焼肉、カレーを出す店がいくつもあり、いずれも味はもとよりボリュームはかなりのもの。魚中心の築地にあって、パワーの源・肉料理はどの店もレベルが高いようである。

 新大橋通り商店街にある「さかえや」も、カレーと牛丼が看板料理だ。ここもカウンター数席のみで、空いている隅っこの席に着くと、河岸の労働者たちが談笑しているのが聞こえてくる。「引退しても朝早く起きちまうから、夜は7時前には眠くなって」「まだまだ若旦那にゃ任しておけない、俺の店だからな。でも代表権はもうないけどなあ(笑)」など、現役の頃から常連だったらしい御隠居が頼んでいるのは焼肉カレー。河岸で働く人の希望でできた人気メニューで、ポークカレーの上に牛カルビ焼肉がどっさりのって見るからにボリューム満点である。

 河岸で働く人は引退しても元気、食欲旺盛だなあと感心しながら、こちらは焼肉丼を注文する。するとご飯大盛りのどんぶりに、具がはみだすほどたっぷりのって出されてきた。具は肉とタマネギのみとシンプルだが、甘辛いタレがよく染みていて、新潟産の本場コシヒカリを炊いたご飯がどんどん進んでしまう。特に肉の厚いこと。チェーンの牛丼屋の肉に比べてずっと厚く、スパイスがよく効いていて食欲がいっそう沸いてくるようだ。

 どんぶりいっぱいをガツガツと、あっという間に食べ終わってしまうとさすがにお腹が苦しい。朝ごはんにしては少々ヘビーで、元気が出る上にお昼ごはん抜きでももつほどかも?(2004年5月31日食記)

魚どころの特上ごはん7…カツオにマグロ、ウツボ 白浜で頂く南紀の地魚あれこれ

2005年09月27日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 熊野古道・大門坂の苔むした杉並木の石段を延々と登り、熊野那智大社を参拝してからふたたび那智の滝へと下る。那智山を登り下りハイキングして、心地良い疲れのおかげかクルマの中で子ども達は熟睡状態。今日の宿泊地である白浜へ向かって国道42号線を走っていると、串本を過ぎすさみの漁港あたりで、秋の短い日はとっぷりと大平洋の彼方へ沈んでしまった。勝浦の宿を出て新宮の熊野速玉大社を参拝して、那智山を巡って白浜へ。考えてみれば、今日もなかなかの強行軍である。

 ホテルに着いたらさっと温泉に入り、時間が遅いこともあり急いで夕食だ。といっても昨日の勝浦温泉「ホテル浦島」同様、格安プランのため食事が付いていない。フロントに、宿の近くで適当な店を紹介してもらうと、地元でとれた魚をつかった料理で評判の店があるとのこと。子連れでも平気ですかと聞いたところ、地元客が中心で、店の人も親切で気さくで落ち着けるよ、との返事にひと安心。クルマでほんの数分、白浜の繁華街・御幸通りの中程にある「きらく」の暖簾をくぐった。

 テーブル席について品書きを開くと、造り、焼き物、煮物などがずらりと盛りだくさんである。中でも地魚料理はかなり豊富で、カツオやマグロ、クジラやサンマのほか、クエやクツエビ、ウツボといったこの地ならではの魚が何とも興味深い。子ども達は定食や丼ものを注文、妻は地魚の刺身がたっぷり載った「熊野路どんぶり」に決めたようで、自分は地魚料理の中から「ウツボの唐揚げ」を頼んでビールを1杯。ウツボは紀伊半島から四国の土佐湾沿岸など、黒潮に面した大平洋岸で食べられており、以前高知の足摺岬にある宿で、土佐名物の皿鉢料理の中の1品で出されたことがある。紅葉おろしが添えてあり、つゆに浸してからかじりつくと、バリッとした皮の後にねっとりした食感が独特だ。白身があっさり、さっぱりと軽く、獰猛そうな見かけからは想像がつかない上品な味わいである。

 そしてモチガツオの造り、カツオのハラミなど、南紀・熊野を代表する漁獲だけありカツオ料理の豊富なこと。昨日頂いたカツオ茶漬けも品書きにある。店の人によると、この時期はちょうど戻りガツオの旬なのだそう。熊野灘沿岸の主なカツオの漁期は、カツオが北上回遊する4~6月ごろと、南下回遊する9~11月ごろ。先程クルマで近くを通ったすさみが盛んで、近海に回遊してきた魚群を狙って、日帰りや沖泊まりで漁を行っている。漁法はこの地方独特の「ケンケン釣り」。餌が豊富でカツオが集まる潮目を狙って、疑似餌を曳いて釣り上げるのだという。

 ウツボでひとしきりビールを飲んだら、この日も締めにカツオ茶漬けを頂くことにする。ここでは醤油ベースのタレに刺身が漬け込んであり、昨日の食べ方を思い出しながら1杯目は丼飯に刺身を載せカツオ丼に、2杯目は上からお茶をかけてさらりと平らげた。家でもできるかな、とタレの材料を聞いてみたら、ここでも「秘伝よ」との返事。南紀・熊野の代表的漁師料理の味の秘訣は、昨日同様、結局分からずじまい?(2004年11月1日食記)

町で見つけたオモシロごはん6…ラーメン激戦区・目黒権之助坂、藤平のラーメンはヘルシー?

2005年09月24日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 目黒区民センターで用を済ませた帰り、駅まで歩いて行こうと目黒川沿いを歩き、目黒通りに出たところでかなりな急な坂が待っていた。忙しくて昼食をまだ済ませておらず、目黒駅まで延々続くこの権之助坂をかかえて登っていくのは、なかなかしんどいものだ。
 
 駅前通りでもあるため、沿道には飲食店がいくつも軒を連ねており、駅へ着くまでにどこか店を決めて遅いお昼を済ませたい。店を物色しながら歩いていると、特にラーメン屋が多いよう。目黒駅周辺は都内有数のラーメン激戦区だけあり、東京ラーメンや熊本ラーメン、本格的な中華料理店、さらにチェーンや有名店の支店など、様々なタイプが立ち並んでいる。選択肢はたっぷりある分、メニューを見ては次の店も期待してしまい、なかなか店が決まらない。

 底抜けの空腹のおかげで、「ラーメンと小チャーハンのセット」の文字に誘われて「藤平」という店で足が止まった。ランチは15時までとあり、時計を見ると3分前で急いで駆け込み、カウンター席へ落ち着いた。店の人によるとセットのラーメンはベーシックな「藤平ラーメン」で、ほかのものも選べるということで見た目が食欲をそそる「ピリカラ藤平」に変更。カウンターには「ラーメン藤平物語」なるマンガの小冊子があり、待つ間に開いてみると店主の立志伝が綴られているのが面白い。

 冊子によるとこの店、本店は大阪の新御堂筋沿いにあり、心斎橋ほか天六や上新庄、伊丹、東大阪など大阪周辺に広く店舗展開をしている。その数現在20軒。うち東京には2軒出店しており、目黒店はまさに激戦区へ殴り込みといったところか。見よう見まねで作ることから始まったというスープは、「味に深みがある浪速風味仕込みのまったりとんこつ」とある。メニューの写真を見る限りでは、熊本ラーメンに見た目が似ているが、浪速風のとんこつラーメンとは果たしてどんな特徴があるのだろうか。

 先に運ばれてきたラーメンは黄土色に濁ったスープで、具はチャーシューにネギ、きくらげ、辛みをつけたもやしなどがのったシンプルなトンコツラーメンである。まずはスープをひとくちすすると、とんこつの割には随分さらりとしたあっさり味。結構軽い味だな、と思いつつふた口、三口と味わっているうちに次第に味に深みが感じられ、後をひくようになるから不思議だ。ピリカラのポイントである、トウガラシ風味のミンチをスープにまぜるとスープの味わいが一変。丸みのある辛みが口の中に広がり、これがさらに食欲をそそる。卵の味がしっかりする細麺との相性も良く、スープがたっぷりからんでどんどん進んでしまう。

 麺とスープをひとしきり頂き、ややお腹が落ち着いたところで具やチャーハンにも箸をのばしてみる。出されてすぐにスープに浸しておいたチャーシューは、脂身の部分が熱でほどよくとろけ、思わず顔がほころぶ絶妙の味わいだ。黒豚のバラ肉をじっくり煮込んであり、近江米のコシヒカリを使ったというチャーハンもこのチャーシューの脂が隠し味。行儀が悪いが、空腹にはありがたくガツガツどんどんかき込める。

 ラーメンはスープまで飲み干し、チャーハンもすっかり平らげると空腹もすっかり吹っ飛んだ。食後に再び冊子を眺めると、後書きにはラーメンのスープはトンコツのカルシウムや野菜のビタミンが溶け込み、チャーシューはコラーゲンなどがたっぷりで体にいいとか。確かにおかげで、延々と歩いてきた疲れもとれたかも。店を出て再び坂を目黒駅に向けて登っていくと、「野方ホープ」など気になる名店をいくつも見かける。改めて食べに来るときは、今度はのんびり坂を下りながら店選びをしたいものだ。(2005年9月21日食記)