ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん14…底曳き網船の水揚げで賑わう久慈漁港で、活きのボタンエビ、ツブ貝を喰らう

2005年11月30日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 全国的に見て、茨城県はどのぐらい漁業が盛んなのだろうか。実は漁業生産量は北海道と長崎に次いで、何と全国第3位。漁業県と胸を張って言えるほどの立派な実績だ。そのひとつの要因は、優れた漁場が近くに形成されていることにある。茨城県沖には暖流の黒潮と寒流の親潮が交わる「混合水域」が広がっており、寒海・暖海両方の魚が棲息している。おかげで沖合ではマイワシ、サバ、サンマ、カツオなどの回遊魚、沿岸部ではカレイやヒラメ、スズキといった底魚、磯魚など、魚種はバラエティ豊富。その茨城県の北部に位置する日立市は、太平洋に面して32キロの海岸線が延びており、沿岸に5つある漁協はいずれも漁法や漁獲する魚種が異なる。中でも「日立おさかなセンター」で扱う魚介が水揚げされる久慈浜漁協は、日立市の漁協の中でダントツの水揚げ量を誇っているのだ。ここの漁法は「底曳き網漁」。案内人の方によると、15時ごろからちょうど水揚げが始まるとのことで、おさかなセンターを見学した後に一行で見学しにいくこととなった。

 久慈漁港はおさかなセンターからクルマで5分ほどのところにあり、今回の案内人のひとり、小泉さんの底曳き網船「大昭丸」が着岸して、まさに水揚げを始めようとしているところだった。船倉から水色のバケツをつり上げ、岸壁に下ろしては台車にのせてダーッと運び、と忙しそうに往復している。隣接した魚市場へと運ばれた魚介は、市場のコンクリートのたたきにドサッと山積みにされたり、バッとぶちまけたりと、少々荒っぽい様子。パンパンにふくらんだ太いドンコやスミだらけのイカは山盛りに、ツブ貝は大きな樽にこぼれんばかりに入れられ、たたきに広げられた15キロもの巨大ミズダコは、ペットボトルほどの太さの足と500円玉ぐらいの吸盤にびっくり。マダラやアンコウほか、毛ガニやズワイガニも小柄だがちらほら見かける。

 底曳き網漁とは名の通り、袋状の網を船の船尾についた「開口板」という装置で口を広げてから海中に流して、海底近くを曳き回して獲物を漁獲する漁法を指す。主な狙いは地先の底魚で、「常磐もの」として評価の高いヒラメやカレイ、アンコウやミズダコなど。ただし特定の魚を狙うのではなく、網を曳くうちに様々な魚がかかる「混獲」で、とれる魚種は季節ではなく、網を曳く深さによって変わってくる。この久慈漁港は県内で平潟と2箇所だけという、深さ250~300メートルを曳く沖合の底曳き網漁を行っている。同じ底曳き網でも、近隣の久慈浜丸小では「5トン船」と呼ばれる小型船で、近海の深さ100メートルぐらいの浅い海をひいている。比べると深海の海底近くを曳く久慈漁港の方が魚種も量も多く、県内の水揚げの3割を占めるアンコウをはじめ、網の深さの関係でここだけで水揚げされるボタンエビやキンキ、ほかヤナギガレイ、ツブ貝、ミズダコ、さらにズワイガニや毛ガニも。水揚げするとさっきの市場のように、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようにごちゃごちゃしているのがおもしろい。

 忙しい水揚げの合間で手を休めていた漁師によると、「これからが帰港のピークで、相次いで7~8隻が水揚げにとりかかる」とのこと。久慈漁港の水揚げはまず、14時から地元で「白魚」と呼ぶシラスから始まる。その後底曳き網の船が16時ごろから帰港をはじめ、着いた順に漁獲を水揚げして目方を量り、競りにかけられていく。帰港が早くても遅くても、競り値は変わらないのだとか。競りは18時頃には終わり、20時頃からは水戸や築地へ向けて出荷される。常磐自動車道を使えば東京までトラックで2時間弱だから、水揚げされたその日の0時頃には築地に入るため鮮度の良さは折り紙付き、ヒラメなど「常磐もの」が珍重される由縁である。水揚げされた魚介はそれぞれ、魚種別に青い箱に仕分けされる最中。中にはキロ数を書いた紙が入れられ競りを待っている。箱ごとにボタンエビやイカがどっさり入っていたり、カレイが数枚だったり、タコや毛ガニが1~2匹だったりと量はまちまち。大ダコは箱に入りきらないからかたたきに広げられたまま、ツブ貝は樽単位で1万円ほどで競られるという。

 茨城県の漁獲量を漁法別に見てみると、「船曳き網漁」が県の沿岸漁業生産量の8割、日立市の水揚げ量の半分近くを占め、底曳き網漁はそれに次ぐ。船曳き網漁の漁獲量が多いのは、狙いがシラスやコウナゴなど群れをなす回遊魚のためだが、ここ1~2年シラスの水揚げが減るなど、安定性に欠ける部分が難点。一方、底曳き網で狙う「底魚」は、漁獲量が比較的安定しているのが強みだ。ヤナギダコが200~300トン以外は各数10トン程度と、魚種別の漁獲量は少ないものの、漁獲される魚種が豊富なので合わせればかなりの量になる点も見逃せない。底曳き網漁の漁獲量の変遷を追っていくと、昭和30年代は好調期で、アンコウも700トン以上水揚げされる年もあった。70~80年代が苦境の時期でアンコウとヤナギガレイが減少、特に80年代にはアンコウは「幻の魚」と言われるほど減った。それが90年代半ば~2000年にかけてアンコウとヤナギガレイにボタンエビ、さらに激減していたキチジが回復。近年はアンコウの年間水揚げが数十トン~100トン程度と徐々に増加しているなど、全体的に明るい兆しが見えているようである。水産資源の減少はかつて、底曳き網による乱獲が原因のひとつとされたことがあったが、その後特に漁獲制限などをしないのに回復したため、原因は海水温や潮流の変化など、漁法以外にあるとも考えられている。現在はマイワシが激減しているが、一説によると昭和30年代のように魚種が豊富となる前兆という予測もあるという。

 …と、案内人の解説を伺っているうちにも船はどんどん接岸、水揚げはじゃんじゃん進んでいく。魚市場の奥の方で、中にたっぷりのボタンエビが入った箱を見つけた。周辺ではここでしか水揚げされない、久慈漁港の代表的な漁獲だ。「かつては1~2トンもどんどんとれたけど、このところちょっと減ってるな」と通りかかった漁師が話す。今日揚がった魚の中でいちばん値がつくそうだが、「年中とっているけどそんなに高くならない。販路がないからなあ」とぼやいている。箱を覗いているとほら食ってみな、と、何とまだビクビク動いているのを1匹よこしてくれた。ボタンエビは、俗に「アマエビ」と呼ばれるナンバンエビやホッコクアカエビに比べて大柄、色も鮮やかなのが特徴。漁場に那珂川や久慈川の栄養分を含んだ水が流れ込むため、甘みが違い生食向きという。大振りで紅色鮮やか、身がまるくパンパンなのを教えられたとおりに頭をひねり、まずミソをすすると激甘! たっぷりの卵をすすり、殻をむいて身を口に放り込んでシャクシャク、トロリと頂く。ついでとばかり大樽にたっぷり入ったツブ貝も、ひとつとって床で殻をたたき割り、身をちぎって渡された。脂が多すぎるワタを外し、ふたを持って身をガブリ、グイッ。身がシコシコ、かむほどに潮の香りがパッと広がり、ジュッと味が出てくる。どちらも醤油は不要、海水の塩味が何よりの味付けだ。

 水揚げが佳境を迎え、魚市場も関係者でかなり賑わいを見せてきた。日も傾いてきたようでそろそろ見学は終了、海に臨むはぎ屋旅館の海藻風呂「かじめ湯」でひとっ風呂浴びたら、いよいよ待望の夕食だ。本日の主役、「口福アンコウ」の出番待ちである。(2005年11月26日食記) 

魚どころの特上ごはん13…名物アンコウにタコ、カレイ 「地産地消」日立の実力派魚介を求めて

2005年11月29日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 上野から特急「スーパーひたち」でわずか2時間、大甕駅は茨城県日立市の南の玄関口にあたる。駅からクルマに乗って国道245号線に出ると、すぐ右手には日立製作所大甕工場の巨大な建物、そして左手には穏やかな太平洋が広がっているのが見えた。日立のこれまでを支え、今後の日立を担う風景が左右にそれぞれ見られるのが、実に象徴的に思えてしまう。

 日立市と聞いて多くの人が、町の各所に建つ日立や関連会社の事業所群を思い浮かべるだろう。古くから日立製作所の企業城下町として賑わっていただけに「工業の町」のイメージが強いが、茨城県北の太平洋に面し、アンコウをはじめヒラメやタコなど漁業の盛んな町であることは意外に知られていない。近年、日立製作所の事業所が相次いで海外へ移転したため、現在では工業中心から地場産品の活性化に取り組んでいるという。中でも特に力を入れているのが、日立市で水揚げされた魚介を中心とした「地産地消」。今回は地元の方の案内で、地元で評判の直売所や漁港での水揚げ風景、朝市などを訪れ、日立の魚の良さと地元への普及の取り組みについて学ぶこととなった。「学ぶ」というと堅苦しいが、ホントのところのお楽しみはおいしい地魚の食べまくりだ。アンコウをはじめ、この季節の常陸の魚介をしっかり舌で学んで? いくことにしよう。
 
 クルマは大甕駅から10分ほど国道294号線を走り、まずは直売所「日立おさかなセンター」へと立ち寄った。日立で水揚げされた魚介の直売はそもそも、かつて大漁で魚価が落ちたカツオやメジマグロを地元へ安く提供したことがルーツで、その流れをくんで朝市が数年開催された後、直売施設が設置されることになった。土曜の昼前というのに駐車場は結構埋まっており、多くが地元・水戸ナンバーである。ここで扱う魚介は直近の久慈港から直送しているため、那珂湊や大洗など県内のほかの直販所よりも地物の比率が高く、おかげで現在は訪れる人の3割が県内からの客。いわば地元の人が地物を選んで買うことができる「おらが町の魚屋さん」で、この施設ができてから地元で水揚げされた魚が、地元でそれまでの3倍も流通するようになったという。またメヒカリやドンコなど、それまで下魚だった魚種に値がつくことになり、結果として漁業者にとっても消費者にとってもメリットがあったということなのだろう。

 館内には10軒ほどの店が並び、鮮魚店に卸売業者などのほか、地元の漁師が経営する店も2軒ある。そのうちの1軒、組合長が経営する「住吉丸」を訪れてみると、電灯に照らされてツヤツヤ、ピカピカと、見るからに新鮮な魚が店頭からあふれんばかり。この直販所で扱う魚介が揚がる久慈漁港は、県内屈指の沖合底曳き網漁の拠点である。深さ250~300メートルを曳くため深海の海底近くの魚が漁獲され、県内の水揚げの3割を占めるアンコウをはじめ、周辺ではここでしか水揚げされないボタンエビやキンキ、ほかヤナギガレイ、ミズダコ、ツブ貝など、とれる魚種が豊富なのが特徴。この店も自船の底曳き網漁でとった魚が並び、ほとんどに「地物」と品札に書かれているのはすごい。地元で「赤次」と呼ばれる真っ赤で小型のキチジは5匹で1300円、ツブ貝やボタンエビはザルひと盛りで500円と、値段にも驚いてしまう。さらに驚くことにズワイガニや毛ガニも、北海道などからの取り寄せではなくれっきとした地物だ。ともにこの時期からの主要な漁獲で、ズワイガニは北陸のよりやや身の詰まりが悪いが1枚で2000~3000円と、北陸で買うよりゼロがひとつ少ない安さ。しかもメスガニは茨城で水揚げされた物が、シーズンで品不足の北陸へも出荷されるほど漁獲量があるそうである。

 店頭をざっとみてみると、季節柄かヒラメやカレイが並ぶのが目につく。ヒラメは茨城県の魚で「本ヒラメ」と表示され、ひと皿3匹で1000円。カレイは高級魚であるヤナギガレイのほか「沖ヤナギ」というのがあり、品札には地元の呼称「ヒレグロ」と書かれている。店のお姉さんによると久慈のほか、県北の平潟でも漁獲され「普通のヤナギガレイより沖でとれるの。値段もヤナギより安いからお得だよ」。中ぐらいのが5匹で300円は確かにお買い得だ。そしてその並びには、大柄のタコと小柄のがダラリと広がって休憩している。お姉さんによると大きいのは水ダコ、小さくて白っぽい方がヤナギダコとのこと。ミズダコは過去30年の間、日立市が県内で水揚げトップで、通年で水揚げが比較的安定している上に漁獲量が増加傾向と、まさに日立を代表する地魚である。そのため「日立市の魚」に制定され、地元では「サクラダコ」の愛称がつけられているとか。料理レシピ集や販売店料理店マップが作成されたり、「日立さくらまつり」で試食販売が行われるなど、日立の地産地消運動のひとつのシンボルになっているようである。

 これだけのいい魚を見せつけられたら、食べて買っていかない訳にはいかない。まずは2階の食事処「浜膳」で、刺身定食で昼ご飯とする。刺身は水揚げしてすぐなので身がしっとり、うまみがどれも個性的。歯ごたえコリコリで磯の香り鮮烈なツブ、脂がすっきりと雑味のないうまみのブリ、究極に淡泊で歯ごたえを楽しむタコほか、珍しいのは秋のサワラ。皮をあぶってあり、フカフカで柔らかな白身とカツオのたたきのような香ばしさが対照的だ。そして翌日改めて訪れた際に、住吉丸で宅配をお願いすることに。ボタンエビとホタテは生食で、ツブは水からゆでて沸騰してから10分と、食べ方を教わりつつ発送を頼んだら、次に目指すは名物のアンコウだ。店頭に3キロぐらいのが腹を上にして箱に入っているが、さばけっこないので迷わずパックの「アンコウ鍋セット」へ。いくつか並ぶ中から肝が大きく白身の多いのを選び、これもお姉さんに料理のポイントを聞くと「だしかミソを煮立てて沸騰してから、先に身を入れて野菜を入れるの。アンコウからだしが出るので、つゆの味は濃いめにしない方がいいわよ」などとご教授頂いた。「地産地消」の自慢の魚介を、せっかくだからおいしく頂ける料理法と合わせて持ち帰らせて頂くこととしよう。(2005年11月26日食記)

極楽!築地で朝ごはん13食目・どんぶりの丼…種類豊富、激安の海鮮丼は新進気鋭の実力派

2005年11月25日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地で朝ごはんを食べ歩いている割には、あまり魚料理を食べてないことに気づき、これからは海鮮丼や寿司をもっと攻めようと一念発起。ところが昨日はあいにく休市日にあたってしまい、いきなり出鼻をくじかれた。仕切り直しの今日はいつもの新大橋通り商店街から奥へ、波除通り方面へと足を向けてみる。海幸橋門の方へ近づくと場外市場の中心から外れていくため、人通りが次第に少なくなってきた。そんな中、場外市場の店にしてはやや新しい店構えの店を発見。「どんぶりの丼」との店名が気になって近づいてみると、名の通り海鮮丼の店のようである。マグロ丼をはじめ、店頭にさまざまな丼もののメニューが掲げられ、どれもほかの店に比べかなりリーズナブルだ。

 お目当ての魚料理にありつけそうなので店内へと入ってみると、中はカウンターのみでほかに客の姿はなく、店員もひとりだけ。どことなく丼やうどん屋のチェーン店っぽい雰囲気で、築地では珍しく食券式なのもその印象を強くする。それもそのはずで、この店は場外にも数軒店を出している寿司のチェーン店「すし鮮」系列の、海鮮丼の専門店。仕入先は築地のみならず、全国の魚どころからも直送した食材を使っているため、様々な魚介を組み合わせた10種類以上の丼メニューが揃っている。魚介だけでなく米にもこだわり、低農薬有機栽培のコシヒカリを使用。海鮮丼なのに500円程度からという値段の安さだけでなく、ボリュームもかなりのもので、どの丼も刺身でごはんが見えないほどだ。チェーンの特性を生かし、たくさんの店舗の分の食材をまとめて仕入れるから、メニューの種類が豊富かつ値段が安いのかもしれない。

 ネタの中でもマグロが店の自慢だけあり、看板メニューの鉄火丼にひかれたが、今日はシンプルさよりも豊富なバラエティをとり、北海丼を注文することにした。スモークサーモンをメインに、筋子、ホタテ、ミズダコ、カニがのり、厚焼きとキュウリ付き。色々な味が楽しめるお得感がうれしく、ミズダコはゆでてあるのにしゃっきりと澄んだ味わい、ホタテはトロリと甘みが強い。刺身がたっぷりのっているので、ごはんをそっちのけでついつい刺身ばかりつまんでしまう。やや多めに残ったご飯のおかずには、筋子がありがたい。塩辛めのためどんどんご飯がすすむのはいいが、最後にはみそ汁がほしくなってしまう。そういえばなぜか、場外の食堂の丼にはみそ汁など汁物はつかないことが多いようだ。

 勘定を済ませて通りをさらにぶらぶら歩くと、海幸橋の前を通りかかった。ここを渡れば、その先は築地場内市場。築地で朝ごはんを食べ歩きはじめてそろそろひと月。未知なる味どころ満載のこのエリアに、そろそろチャレンジしてみてもいいかもしれない。(2004年6月10日食記)


旅で出会ったローカルごはん16<北海道編>…激辛なのに体にいい 札幌新名物スープカレーを汗だくで頂く

2005年11月24日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 二条市場でウニやイクラを買ってしまうと、昼食をとる予定の店が開店するまで特にすることがない。狸小路にあるコーヒーショップで小一時間ほど時間を潰して、さっきホテルから歩いてきたアーケードを再び引き返す。最終日の昼食、この旅最後に頂くローカルフードはスープカレーだ。目指す「カレー&ごはんカフェOuchi」は通りの西外れにある小さな店で、控えめに掲げられているだけの店の看板にあやうく見過ごすところだった。開店直後で、木の扉を開けて店に一歩入ると仕込み中なのか、香辛料の香りがすっきりと漂っている。暗めに落とした照明に、凝ったデザインのテーブルセットなどインテリアは個性的、カレーショップというよりカフェのようなしゃれた雰囲気である。

 小さなブックレットのようなメニューをめくると、スープカレーはベジタブルときのこ、鶏、角煮の4種の具に、濃さが違う「さらさら」と「とろとろ」の2種のルーが用意されているとある。チキンカレーのさらさらを選んでから、次に辛さの選択。マイルドから始まりレギュラー、ホット1~4の6段階の辛さが設定されていて、辛めをオーダーしたいと店の人に話したところ、「さらさらはとろとろより1.5倍辛いです」とのアドバイス。熟考の上、3番目にあたる「ホット1」に決定。待ちながら改めて店内を見回すと、なぜか「E.T」のオブジェが目立ち、例の表情でこっちを見ている大きな人形と目が合ってしまった。

 スープカレーはこのところ、札幌の新しい地元の味として知られるようになり、今や札幌ラーメンに匹敵するほど旅行者の関心が高まっている。そもそも北海道は古くからカレーが食生活に根付いており、開拓時代に米食文化の普及の一端を担っていたとか、札幌農学校のクラーク博士が生徒への栄養補給のために推奨したとか、その起源には諸説唱えられている。スープカレーが話題になってきたのはここ数年だが、誕生したのは30年ほど前と意外に古く、薬膳を意識した独特のスタイルが定着して次第に広まっていったという。サラサラのルーにスパイスを強めに効かせ、具は野菜や肉など道産の食材を主に使用。素材の味を引き出す調理法で、種類豊富かつ豪快に使うのが特徴だ。店によって、ベースはインドをはじめスリランカ、タイ、インドネシア、欧風など様々で、ラーメン同様に食べ比べをする愛好家も増えてきているとか。ラーメンの食べ過ぎは油分や塩分、炭水化物の取り過ぎにつながり体によくないが、薬膳カレーなら代謝が良くなったり、薬効があったりして健康にいいのだろうか。

 しばらくして運ばれてきたカレーはラーメン丼のような鉢に入っていて、ご飯だけ別皿になっている。丼から覗く大振りの鶏もも肉が迫力ものだ。チキンカレーでは珍しく、煮込むのではなく揚げてあり、骨を持ってひと口かぶりつくと皮がバリッ、肉はしっとりほろりとジューシー。半分ほどかじって、残りはばらしてスープに浸して後のお楽しみにする。肉の迫力に加えて野菜もたっぷり種類豊富で、キャベツに玉ネギ、インゲンにピーマン、どっさりのカイワレと数えながら食べ、さらに底には沈んだニンジンがゴロゴロ。カレーにつきもののジャガイモのかわりに、山芋なのが面白い。野菜は持ち味や彩りを考慮して、素材ごとに煮たり揚げたり下ごしらえを変えており、インゲンや赤ピーマンは油通ししているおかげで色鮮やかで味が濃い。これは「野菜スープカレー」といってもおかしくないほどだ。

 あまりに具がたっぷりなので、先にいくらか食べないとスープが見えてこない。地元客にならってナイフとフォークで鶏と野菜を食べ進めながら、合間にスープをスプーンでひと口。最初にビシッと熱く感じたのは、数口食べると実は熱さでなく激しい辛さなのに気付く。舌に叩き付けられるように厚みがあり、頭を覚醒させてくれる。この店のスープは豚骨と鶏ガラをベースにしており、およそ20種に及ぶ様々な香辛料を合わせて2日間煮込んだ手間をかけたもの。複雑な立体感のある辛味に加え、賽の目に切ったトマトの酸味が、辛いのに後をひく味わいとなっている。甘味があるキャベツと玉ネギは、スープがこれだけ辛い方が持ち味が出るよう。具をほぼ食べ追えて残りのスープでライスを食べているうちに、ようやく辛さに慣れてきた。

 すっかり汗だくになって食べ終えて、気がつくとまわりは女性客ばかり。ランチタイムが佳境を迎えるころで、しゃれた店内とこの客層にこれは場違いとばかり、店を後にする。北海道を横断して魚どころやローカルごはんを食べ歩く旅は、これにて予定した分は無事終了。帰りの夜行列車「北斗星」が出発するまであと半日あり、小樽へ足を延ばして寿司屋通りを攻めるか、石狩へ遠征して本場のサケ料理をいってみるか。体力と胃袋、あと財布の? 余力は、もう少しばかりありそうだ。(2005年10月30日食記)

町で見つけたオモシロごはん18…洗練されたニューウェーブトンコツ 博多の名店・一風堂が横浜を席巻

2005年11月23日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 横浜という町は、ラーメン好きにとって実にありがたいところである。ラーメン大本山の新横浜ラーメン博物館を有し、話題の「家系」ご当地ラーメンがしっかり根付いている上、真っ黒なトンコツの「なんつっ亭」や若き天才が仕切る「中村屋」といった「御当人ラーメン」も豊富。最近は全国各地から地元の有名店の進出も見られ、まさに百花繚乱の様相だ。いろいろ選べるありがたみはあるが、人気店は行列がつきものでつい敬遠がち。気軽に行ける「いつもの店」の方が重宝するため、地元なのにかえって他所より新しい店の開拓が進まないものである。

 横浜駅東口の地下街「ポルタ」に、いつ通りかかっても店頭で順番を待つ客の姿を見かけるラーメン店がある。新横浜ラーメン博物館にも出店していることで知られる博多トンコツラーメンの雄「一風堂」だ。横浜駅近くで所用を済ましたついでに近くを通った際、平日の16時過ぎという中途半端な時間だったため店頭に人の姿がない。これは願ってもないチャンス、とありがたく待たずに店内へ入ると、「いらっしゃいませぇ~っ!」と、若いスタッフの元気な声が降りかかってきた。

 八分ほどの入りの客を何となく眺めているうち、女性がほとんどを占めるのに気づく。デパートの紙袋を傍らにいくつか置いた買い物客、ビジネスの合間らしいОLなど、ひとり客が目立つのも興味深い。この店は博多での創業時から「若い女性が気軽に入れる店」を意識しているだけあり、暗めの照明に大きくゆったりしたテーブルとシックな内装で、スタッフのユニフォームもしゃれている。ラーメン屋なのにずい分小ざっぱりした雰囲気なのが奏功しているのだろう。

 メニューによると2種類のスープのラーメンがベースになっており、それに「のせもの」と記された6種のトッピングを組み合わせる仕組みだ。トッピングがどれも魅力的で迷った結果、何と全部が入った「一風堂スペシャル」をドンと豪華にオーダー。テーブルに置かれた食べ放題の、もやしの胡麻油和えをつまんでいると大きな丼が運ばれてきた。チャーシューにネギ、半熟煮玉子、さらにのりに肉味噌と、たっぷりのトッピングは丼から盛り上がるほどである。

 こいつは食べ応えがあるな、と気合を入れてスープからすすると、サラリ、スッキリとした味にやや拍子抜け。トンコツ特有の濃厚な飲み応えと独特の香りが、ほとんどないのである。このスープは「赤丸新味」といい、原点回帰と新しい味への挑戦を意識して、創業10周年の時に開発された。各種野菜をベースにした香油とオリジナルの辛子味噌が味の秘訣とされ、さっぱりした中にコクと深みを出している。ちなみに創業時以来のスープは「白丸元味」と称され、トンコツを強力な火力で一昼夜かけてガンガン煮込んだ、あっさりと舌触りが柔らかな味わい。ともに豚のガラを部位によってふたつの鍋に分けて煮込み、それぞれのスープをお客に出す直前にブレンドして、味に複雑な旨味を引き出しているという。トンコツラーメンといえば、独特のくせと重たい食感が気になるものだが、ここのスープはかなり上品で洗練された仕上がりで、女性客が多い理由は店の雰囲気だけではないようだ。

 スープはあっさりしているものの、トッピングをつまんでいるとさすがに腹にたまってきた。特にどっさり入ったチャーシュー。刻んだのが麺の上のほか、すすると下にもいっぱい埋まっている。バラ肉をじっくり煮込み味が良くしみており、口のなかでほろり、じわっ。やや重い味わいを、九条ネギがさっぱりと打ち消してくれる。レンゲにたっぷりの辛肉味噌はスープに全部溶いてしまったが、さほど辛くなくかえってスープの味が引き立つ感じがする。そして博多ラーメンの麺は、固めの細麺なのが特徴。食事の時間も惜しいほど忙しい博多・長浜魚河岸で働く人向けに、ゆであがるのが早いよう考案されたのがルーツといわれ、ここの麺も極細でパキパキと固い。

 食べ進めてみると結構ボリュームがあったけれど、さっぱり目のスープと食べやすい細麺のおかげで何とか平らげられそうだ。ちなみに細麺はのびるのも早いため、1回の盛りを少なくして後から麺だけをお替りする、「替え玉」という独自のスタイルがある。ここのメニューにも「替え玉」があるが、今日のところはその必要はなさそう。お冷やがわりのルイボスティーを飲み干して店を出ると、店頭には2、3人ほど、早めに夕食をとる客の行列がすでにでき始めていた。(2005年10月13日食記)