ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅本・味本ライブラリー番外編 『旅で出会ったローカルごはん』上村一真著

2006年07月22日 | 味本・旅本ライブラリー
えー、宣伝です(笑)。

ことしの初めから執筆・編集を進めておりました、拙書『旅で出会ったローカルごはん』が、この7月20日にようやく配本になりました。このブログがスタートした昨年の夏から掲載された話に加え、書き下ろしも含め北海道から沖縄まで全47話、77のローカルごはんを紹介した1冊です。カラーの写真もふんだんに使い、パラパラめくるだけでも食欲も旅心も湧くことうけあい。

書店の旅もの、グルメもののコーナーに置かれていますので、ぜひよろしくお願いします。売れ行きよかったら、続編も出るかな…。

『旅で出会ったローカルごはん』生活情報センター刊。本体1500円+税

魚どころの特上ごはん33…三谷漁港の朝市 『魚がし食堂』の、おかずが選べる定食とアサリの味噌汁

2006年07月19日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 三河湾に面した三谷漁港で行われている朝市には、春先が旬のサヨリ、小柄なメイタガレイ、近くの大島や渥美半島の江比間でとれるアサリなど、近海でとれた魚介がずらりと並んでいる。早朝の列車で豊橋からやってきて、場内をぐるりと一巡し終わったところで時計を見るとまだ6時過ぎ。地元の常連客が中心の小ぢんまりした市場なので、ひととおり散策するのに思ったほど時間が掛からなかった。豊橋から東京へ帰る新幹線の時間までは、まだ充分すぎるほど余裕がある。おみやげを適当に買って、市場周辺の食堂で魚料理の朝食を頂いて、と、もう少しのんびりしていくことにしよう。

 とりあえず、三河湾の魚について色々教えてくれた親父さんの店に引き返し、丸々と身が詰まったアサリを購入。三河湾は日本有数のアサリの水揚げ地だけに、店頭の箱に入ったアサリは勢いよく水を吹いて元気がいい。アサリの袋をぶら下げて市場内を歩いていると、干物やみりん干しの店を発見。太刀魚や小鯛、メヒカリにアジなど、こちらも材料は三河湾で水揚げされた魚のようである。中でも目を引くのは、束になって売られている細長い魚。見た感じ、まるでウナギかアナゴの干物のようでもある。

 正体が分からないので、店番をしていたおばちゃんに聞いたところ「細長いのは太刀魚やアナゴ、あとアナゴの仲間のダルマメジ。おすすめは柔らかい太刀魚だけど、ダルマメジは安くてお得だよ」。ついでに他の小魚も何か教えてもらうと、エソやメヒカリとのことで、どれも軽くあぶれば酒の肴に持ってこい。旅のみやげにかさばらないので、おばちゃんに適当に見繕ってもらうことにした。オススメの太刀魚に加え、小鯛とメヒカリ、さらに「高級魚」というホーカイも入れてもらい、締めて500円ちょっとは確かに手頃だ。

 買い物が済んだところで、早起きして歩き回っているのでお腹が空いてきた。駅からここまで歩いてくる途中まだやっている店はなく、市場や漁港の労働者向けの食堂があればいいが。みりん干しのおばちゃんに、漁港の周辺で朝ご飯が食べられる店がないか聞いてみると、「その先の魚市場に、市場で働く人向けの食堂があるよ。もうやっているんじゃないかな」。その名も『魚がし食堂』は、三谷魚市場の競り場の一角にある小さな食堂で、この時間は水揚げ終了後の漁師達で賑わっている… と思ったら、覗いてみると人気がないので拍子抜け。卓では店のおばちゃんは居眠り中で、入口をくぐると「今日は暇だからね」と、笑いながら台所へと向かっていった。

 カウンターに腰掛けると、マグロ揚げ、ブリカマ、イカ生姜焼き、里芋など目の前にはおかずが色々並び、好みでとる仕組み。今日はあいにく、この漁港で水揚げされた魚を使ったおかずがないとのことで、マグロ揚げとモズクにごはん、味噌汁を組み合わせることに。すると「味噌汁の実はアサリだけどいい?」とおばちゃん。いいも何も、さっき市場で見たあのアサリなら大歓迎だ。味噌汁は頼んでから温め、ネギをちらして出された。昨日の大アサリほどではないが、普通のアサリといっても大振りで、汁は貝の旨みが濃厚、身はふくれていて滋味あふれる味わい。これは早起きの胃袋にうれしい味だ。地物の魚のおかずはあいにくないが、このアサリ味噌汁があれば充分満足。太いモズクにたっぷりのフライも、働く人の食事といった感じでボリュームがある。

 お客が自分ひとり、しかもよそからの珍しい客ということで、おばちゃんはなにかと愛想がいい。ワサビ海苔を出してくれたり、とれたての里芋をゆでたのをつけてくれたりと、なかなかサービス旺盛だ。朝のニュースを見ながらのんびりお茶を飲んでいると、なじみらしい客が2、3組やってきた。常連とおばちゃんとの会話が盛り上がるにつれ、店の空気もいつもの雰囲気になってきたよう。ここらでよそ者は引き上げよう、と時計を見てもまだ7時過ぎ。11時の新幹線の時間まで、駅からすぐのホテルに戻ってひと眠りするとするか。(2006年5月22日食記)

魚どころの特上ごはん32…三河三谷 『三谷の朝市』の、サヨリやアサリなど三河湾の魚介

2006年07月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 豊橋駅南口から徒歩1分のビジネスホテルに泊まったおかげで、昨晩豊橋の地魚料理店『げん屋』でのんびり飲んだにもかかわらず、朝5時ごろの始発電車が出発するギリギリまで眠れた。連日連夜の食べ歩きに夜の飲み歩きで少々くたびれ気味だが、これから行く『三谷の朝市』を覗いたらあとは帰京するのみ。身支度も慌しく駅へ向かい、3駅先の三河三谷駅で下車して海の方へ向かって坂を下る。突き当たりにあったこぢんまりした漁港に隣接した荷さばき場へと入ったところ、それまでの早朝の静けさとは一変。場内は並ぶ露店と買出しのお客で、そこそこの賑わいを見せている。

 蒲郡市内に3ヶ所ある魚市場のひとつ、三谷魚市場では、第2荷さばき場の中で朝市が毎朝行われている。場内には三河湾や渥美半島沿岸でとれる鮮魚、貝類を売る露店をはじめ、干物やみりん干しなど加工品も豊富に並んでいる。三谷漁港は底引き網漁が盛んで、店頭にも小柄のメイタガレイが箱単位で売られていたり、メヒカリがひと山いくらで並んでいたり。丸々した渥美のアサリやミル貝を並べて売っているおじさんに聞いたところ、メヒカリは西浦の漁船が、底引き網でとっているという。高級魚はあまり見られないが、近海でとれる手ごろな値段の魚介が中心の様子。お客も近隣の町からのおなじみの客がほとんどのようで、店の人とのんびりと談笑しながら商談をするなど、どことなくのどかな空気が漂っている。

 そんな具合なので、一見の客は少々居場所に困ってしまうが、鮮魚を売る店の店頭をのぞきながら、客が切れたのを見計らっておばちゃんに今の時期の旬の魚を聞いてみた。「春先はメバル、シラス、イカナゴ。ほかイシガレイ、クルマエビ、カサゴ、シャコ、マダコとか、割と近くでいろいろとれるよ」。中でも今はサヨリが中心で、店頭にも長い下あごに透けるような銀色がキラキラ美しいのが、数尾ずつ皿に盛って並んでいる。サヨリは産卵期である3月から5月が旬で、この時期は沖の底部から沿岸の浅瀬に戻ってきて、海面近くを群れをなして回遊している。特に今はすぐ近海でとれるため、三谷漁港ではほとんどの船がサヨリ漁を中心にやっていて、水揚げの多くを占めているという。本来は結構高い魚で、出始めの頃はキロ当たり1000円以上することもあるそうだが、「このごろ暖かくなってよくとれるから安くなったよ。どう?」。刺身のほか塩焼きにするとうまいよ、と、おばちゃんが熱心に勧めてくれる。

 店頭をあれこれ眺めているうちに、昨日『げん屋』で食べた、ハマグリほどの大きさはある大アサリのことを思い出し、貝を売っていたさっきのおじさんの店へ引き返してみることにした。大アサリは置いていますか、と聞いてみたら「アサリといっても、あれは『ウチムラサキ』という種類。このあたりの名物だけど、水揚げ港や漁業者から業者が直接買い占めるため、あまり市場には出回らない」。とのこと。大アサリもいいけれど、このへんでとれるアサリは身が肥えていて柔らかくうまいよ、と親父さんが勧めるように、三河湾では「普通の」アサリも代表的な漁獲なのだ。

 三河湾は東京湾、瀬戸内海、有明海と並び、日本屈指のアサリの水揚げ地である。湾は最深でも20メートルほどと浅く、干潟や浅瀬も数多い。そのため主に、「マンガ」と呼ばれる爪がついたカゴを使って人手で海底を掻く「腰マンガ」という方法や、小型船による底曳き網で漁獲される。豊富な漁獲量はもちろん、質の良さでも定評がある。湾を囲む渥美半島の南には黒潮が流れていて、その影響で太平洋から湾内へプランクトンが運ばれてくる。加えて湾内へ流れ込む川によって、降雨量が豊富な山間部からもプランクトンが運ばれてくる。このように栄養分が豊富な海域で生育するため、三河湾のアサリは大粒で身が詰まっているという訳だ。質、量ともに優れた三河湾のアサリは、親父さんによると旬は12月からちょうど今頃とのことで、「殻からはみ出すほど身がパンパン、もう少しすると堅くなるから今がお買い得」。渥美半島の沿岸で広くとれる中でも、江比間ほか、すぐ沖の大島近海でとれるのがうまいそうで、店頭で元気に潮を吹いている。

 今日は帰るだけなので、おみやげにアサリをひと袋ほど買い込んで、今夜の肴はあさりバターといくか。それに加えて市場内には加工品の店も多く、干物やみりん干しの店も魅力的。という訳で、お土産&市場食堂でお買い物は次回にて。(2006年5月22日食記)

魚どころの特上ごはん31…豊橋 『魚介三昧げん屋』の、三河湾の地魚に大アサリの酒蒸し

2006年07月16日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 名古屋の大須で味噌カツの店でお昼を済ませると、今回の旅の目的はとりあえず果たしたも同然。新幹線に乗れば夕方には家へ帰れるが、まだ体力も財布の中身も、お腹の具合も幾分余裕がある。さてどこへ立ち寄ろうか、と迷いながら、とりあえず名鉄の特急に乗って終点の豊橋駅へ。渥美半島の付け根に当たり、すぐ目の前には三河湾を臨む町だけに、おいしい魚料理にめぐり合えそうな予感だ。駅の裏手のビジネスホテルに落ち着き、ここで1泊して食べ歩きを楽しむことにした。

 見ず知らずの町なので、地元の人を頼りにしていい店情報の収集だ。ホテルのフロントの女の子に「ちょっと予算は高いけれど、料理の評判はいいですよ」と勧めてもらった、『魚介三昧げん屋』を目指して、飲み屋や料理屋が建ち並ぶ松葉小路へ。繁華街の一角に、江戸時代の長屋を模したレトロな外装が目を引く。戸をくぐると、板前さんから仲居さんまで店のスタッフ全員がいっせいに「いらっしゃいませえっつ!」と、元気良くお出迎え。商家風で木調を生かした店内の、旧家の広い座敷のような席へと通された。長いカウンターのケースには、三河湾で揚がった魚介を中心に鮮魚がズラリ。料理長が自ら市場で厳選した、産地や旬、漁法にまでこだわった、すべて天然、生の素材が揃っている。メニューや黒板には、その日にとれた魚介を使った本日のおすすめや、一品料理の数々が大きく書かれ、豊富な地酒とともにオーダーに迷ってしまうほどだ。

 品書きによると、刺身は形原のメヒカリ、三河の白ミルに舞阪のハモ。ほか舞阪夢カサゴ唐揚げ、西浦のノドグロ醤油焼きなど、三河湾や伊良湖、舞阪、御前崎といった地元で水揚げされた天然の魚介を使った料理が種類豊富である。ホテルの女の子の話どおりやや値が張るが、予算よりも食欲のほうが勝ってしまいそうだ。店のお姉さんによると、5月末のこの時期は三河湾でとれる魚はやや少なく、スズキ、イシガレイなど白身魚がよくとれるそうである。そのほかシラスやちりめんじゃこにイカナゴといった小魚、江比間や大島のアサリや、海が暖かいため5月なのに岩ガキもとれるとか。手書きの三河湾周辺の地図を手渡してくれ、地名とともにとれる魚介を教えてくれるので分かりやすい。

 そこで地物を中心に造りを1人前お願いすると、この日の地物であるノドグロ、青柳、ニシ貝、サバ、白魚に、富山の白エビ、鹿児島のキビナゴも一緒に盛られて運ばれてきた。氷を敷き詰めた器に盛られ、涼しげで彩りも鮮やか。脂ののったものはたまり醤油と自家製柚子コショウで、白身はカツオ風味の自家製土佐醤油とワサビで頂く。まずは地物のノドグロから。脂がトロリ、身が舌の上でサラリととろけ、上品な味わいである。サバは締めサバでなく、刺身のまま食べられます、と店の人自慢の一品とか。脂の濃厚なコクと、柚子コショウの香りが渾然一体となり、これはうまい。地魚のつくりに合うのはやはり、地酒と、地元・愛知の関谷醸造自慢の「蓬莱泉 可」をここらで1杯。甘めだがスッキリしていて、脂ののった魚をぴしゃりとすっきり締めてくれる。ほか、貝もなかなかで、ニシ貝は粘りがあり甘味が後からグッ、青柳は歯ごたえがクキッと瑞々しい。

 造りでひとしきり酒を飲んだ後は、温かい料理が食べたくなった。締めくくりにアサリの酒蒸しを注文したところ、普通のアサリが本日はなく、代わりに「伊良湖の大アサリでもよろしいでしょうか?」と店の人。大アサリは名の通り大振りのアサリで、正確には「ウチムラサキ」と呼ばれるように殻の内側が紫色をしている。渥美半島先端部の渥美町のものがおいしいとされ、旬は5月頃。この時期に渥美半島をドライブしていると、沿道のみやげ物屋の店頭で網焼きにしていたり、旅館や民宿での定番料理となっていたりと、伊良湖周辺で知られた名物である。

 そして運ばれてきた器には何と、大きな貝がひとつだけゴロン、と入っていた。まるで大柄なハマグリほどでっかく、さらに大きいのだと器から殻がはみ出すほどですよ、とお姉さん。身は切り分けてあるけれど、アサリ数個分は充分あるほどたっぷりだ。貝柱はグイグイとかむと味が出て、ヒモはシャッキリ、水管も太くシコシコ、身はホクホク。貝1枚で、余裕で徳利がひとつ空いてしまう。中でも身は口に入れると絶句、の旨さで、まさに三河湾の豊かさがグッと凝縮したような味わいだ。

 締めに貝のエキスたっぷりのスープを飲み干しで、ほっとひと息。さらに料理も地酒も注文して、本腰を入れて飲みたいところだが、少々高めの予算を心配して、そして2日間にわたって毎食事時にがっちり食べて、飲んで、と繰り返しているため、少々時間が早いが今日はこのあたりでおあいそ、とした。ほど良く回った地酒のおかげで早寝すれば、明日はスッキリ早起きして、旅の締めくくりに三河湾の魚介がずらり揃った朝市探訪、といこう。(2006年5月21日食記)

魚どころの特上ごはん30…大阪 『黒門市場』の、ハモのちくわに大アナゴの天ぷらなど

2006年07月13日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 大阪の胃袋・黒門市場をぶらぶらしていると、フグやハモ、鯛、スッポンなど、大阪の食文化を語る上で欠かせない魚があちこちで並んでいるのが見られる。店頭にビシッと氷を敷き詰め、様々な鮮魚を並べた店には、大振りのハモが丸1本横たわっていてなかなか見事だ。おろしても売っているんですか、と店の親父に聞くと、「そりゃ、素人は骨切りできないからな」と、ひとこと。さらに産地を聞いてみたところ、買いそうもないと思われたのか全く相手にされない。さすがは大阪の市場、商売にならないことには構わない、といったところか。

 種類豊富な魚が並んでいるから色々聞いてみたいものの、夕方の買い物どきということもあって忙しそうな店が多く、買わないのに話しかけるとまた怒られそうだ。そこでやや脇の通りへ入って見かけた、やや人通りの少なさそうなところにある鮮魚店へ。こちらにも氷が敷かれた台に、ピンク色の鯛や銀色鮮やかな輝きの太刀魚など、ずらり並んだ鮮魚がピカピカに光っている。奥では親父さんが黙って魚を下ろしており、遠巻きに眺めていると気付いたようでお姉さんが出てきた。また買わないのにうろうろしていると迷惑かな、との心配をよそに、「どうぞ、ゆっくり見てってくださいね」と愛想良く迎えてくれたのにはホッとする。

 この『魚平』のお姉さんに、並んでいる魚についてあれこれ聞いてみると、キビキビと元気に応対してくれた。市場のあちこちで見かけたハモは淡路産が中心で、主に砂地で水温が低いところに棲息しており、「梅雨を飲んで味が良くなる」といわれるように梅雨時を境に抱卵して、脂がのりおいしくなるといわれる。同じ淡路産でも棲息する海域によって味や肉質が違い、島の南寄りの福良に近い、沼島沖で水揚げされるのが上物とのこと。「昔は淡路島の周辺でよくとれたけど、今は餌が減ったからあまりとれなくなってね」。最近は中国産や韓国産のハモも出回っており、国内でとれないから仕方なく外国のを入れているのかと思ったら、「品はむしろ、そっちのほうがいいのよ」とお姉さん。中国や韓国産のハモはやっかいな小骨が柔らかい上、脂が甘く味がいいから、むしろ珍重されているのだとか。

 この店のご主人は長崎の五島列島の出身で、扱う魚を選ぶ目は確かなものがある。特に鯛は瀬戸内ほか紀淡海峡に面した加太、九州の大分など、その時々で品のいい地方から仕入れるというこだわりよう。「鯛の品の良さには、通年自信あり」と、お姉さんは胸を張る。刺身といえば関東ではマグロ、関西では鯛といわれるほど、鯛も大阪の食にゆかりの深い魚だ。この市場でも尾頭つきで丸1匹売っているのはもちろん、「捨てるところがない魚」だけにカブトやカマといったアラ、さらに白子や真子まで、様々な部位が無駄なく並んでいる。お姉さんによると市場で扱っているのは主に、瀬戸内ほか九州など西日本各地で水揚げされたもので、天然物のほか近頃は質のいい養殖ものも出回っているという。中でも皿に数枚のった鯛の頭が、値段が手ごろなお得品とか。「丸1匹じゃ多いという客におろした残り。天然もののアラも安くておいしいわよ」。アラ炊きや骨蒸し、吸い物にもってこいで、ゴボウと豆腐と一緒に煮込むとうまいと教えてくれた。

 フグもハモも鯛も大変魅力的なのはもちろんだが、あいにく旅先で鮮魚は買えないので、何かテイクアウトできるものを探して市場を再び行ったり来たり。カマボコ屋や惣菜の店もいくつか見かけ、市場の北側入口近くにある『萬彩』の店頭には、ごぼう天、いか天、しょうが天、ひら天、きくらげ天など天ぷらやかまぼこ、ちくわなどが並び、つい足を留める。その日につくったすり身を使った揚げたてのカマボコが自慢で、店の短髪のお兄さんに勧められたのは、贅沢にもハモを使ったちくわだ。但し書きには「菊乃井絶賛」とあり、京都東山の老舗料亭のお墨付きを頂いたちくわをかじりながら、市場を再び歩き回る。グッと腰があり皮はバリッ、中はプリプリと弾力があり、魚の旨味がたっぷり。いかにも「魚の練り物」といった感じである。

 ちょうどちくわを1本食べ終えたところで、店頭に大エビ、イワシ、イカなど魚介のほか各種野菜の天ぷらなど、目移りするほど様々なフライが並んだ店を発見。旬の素材を使った天ぷらが、常時20種類ほど揃う中でも、この『日進堂』の名物は丸1匹を使った大アナゴの天ぷらだ。秘伝の衣につけ、質の良い油でカラリと揚げているから冷めてもおいしいよ、とのおばちゃんの勧めもあり、ホテルでビールのつまみにしよう、といくつか買い込むことにした。「アナゴはうちの自慢の品。今日はハモもやっているよ」と、これまた贅沢にもハモの天ぷらも合わせてお買い上げ。すると、「もう1つ買ってくれたらキリのいい400円にしてあげるよ」。不足額よりも高くなる、1枚100円のクジラのフライでもオーケーとのことで、何とも気前がいい。さすがは大阪の市場、損して得取れと商売上手、といったところか。(2006年5月20日食記)