ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん106…大井町 『烏骨鶏ラーメン龍』の、烏骨鶏ラーメンと餃子

2007年10月20日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 とあるラーメンマンガで、ラーメンブームの現実を鋭く突く、こんなストーリーがあった。理想のラーメンを追求する店主が、スープのダシに鮎の煮干を使ったラーメンを考案する。煮干はこのラーメン専用の特注のため製造コストがかかり、ラーメンは商売としては成り立たない原価率に。でも「本当にいい味ならお客は分かってくれる」という信念の元、店主はこの繊細で高貴な風味が売りの鮎の煮干ラーメンで打って出た。
 結果、店にお客は全く入らず、瞬く間に経営難に。近所にある、何の工夫もない脂ギトギトのラーメンには行列しているのに、自分のラーメンはなぜ理解してもらえないのか、店主は悩む。
 そんなある日、久々の客に喜ぶのもつかの間、本当は脂ギトギトラーメンが食べたかったが、行列が長いので「仕方なく」この店にやってきたことが判明。キレた店主は鮎の煮干スープに、ラードをドカッとぶちこんだラーメンを出す。お前らの舌で俺のラーメンなどわかるまい、これで充分だろう、とやけっぱちで。
 ひとすすりした客は、「濃厚なパンチの中に、繊細な鮎の風味が漂い、ウマイ!」と、脂のおかげで鮎の風味が消し飛んだラーメンを大絶賛。この、鮎の味がしない「濃口鮎の煮干ラーメン」が口コミで大ヒットして、店は一躍大繁盛となった。
 そしてこれを契機に、店主はラーメンの理想の味を求める求道者から、儲け主義一辺倒の経営の鬼へと
180度変わる。単に味と脂が濃いだけのラーメンを満足げにすする客に向け、「お前らは料理を食っているんじゃない、情報を食っているだけだ」と冷たくつぶやきながら。

 テレビや雑誌で店や料理の情報を入手して、興味を持って食べに行く。食材にまつわるうんちくを聞き、うまそうだから、体によさそうだからと関心を持つ。食べ歩きをしてもあれこれ書く上で、自分も結構、情報を食っているかもしれない。もちろん料理を食べる際にはそれに集中するけれど、味の感想が情報による先入観にとらわることも、ちょっとはあるかも。
 で、このたび烏骨鶏のラーメンを食べに行くこととなった。烏骨鶏といえば、滋養強壮に効果がある、という知識はあるから、聞くからに体にはよさそうなラーメンだ。加えて味のほうも中国の高級食材だけに、いいダシがでそう… と、未知なる食材のラーメンだからどうしても料理を食べる前に、情報を食ってしまっている。鮎の煮干スープの話ではないが、貴重な食材・烏骨鶏ならではの味が、果たして自分に判別できるだろうか。
 店は環八から大井町方面へやや入ったところにあり、自宅から第2京浜をクルマでとばして1時間ほど。外観は普通の商店街にある、普通の今風のラーメン屋で、扉をくぐると、やや高めのカウンター席にテーブルが数客と小ぢんまりしている。遅い時間のせいか、クルマにせよ徒歩にせよアクセスが不便な立地のせいか、それとも高級食材で敷居が高いせいか、店内にはお客の姿はおろか、なぜか店の人の姿もない。

 カウンター席につくと奥の厨房から店の人がようやく現れ、先に食券を買うように指示される。烏骨鶏関連のメニューはラーメンのほか雑炊と餃子があり、トッピングも普通の味玉に加えて、たまに1個数百円の値がついているのを見かける烏骨鶏の卵を使った、ちょっと高級な味玉も。
 メニューを見たところ、一番惹かれたのは実は雑炊。ご飯を烏骨鶏のスープで煮込んだらうまそうだが、来店の趣旨はラーメンなのでまたの機会とする。そしてラーメンは「醤油・味噌・塩バター」の3種が用意されていた。さらに壁の貼紙には、醤油味スープに焦がしネギをのせた「香味醤油ラーメン」なんて特別メニューも掲げられている。烏骨鶏、つまり鶏のダシのラーメンだから、素材の味を生かすためにあっさり醤油味のスープだろう、と思い込んでいたが、味噌スープやバターや揚げネギのトッピングでも、烏骨鶏の味は味わえるのだろうか。
 結局、自分はシンプルに烏骨鶏醤油ラーメンを、同行した家内は烏骨鶏味噌ラーメンを頼み、サイドオーダーに烏骨鶏餃子も注文。味玉も烏骨鶏のにしたかったが、予算の都合で我慢して普通の味玉にした。


メニューにも龍の絵が。品数は意外に豊富

 繰り返しになるが、烏骨鶏は高価な食材だ。だから店ではこれを売りにする以上、食べる人にもその良さや効能を理解して欲しい、という姿勢が現れているのだろう。卓上のメニュー立てや壁の看板に貼紙など、店内には烏骨鶏や食材にまつわる講釈書きがいくつもあり、読んでいると料理が出てくるまで飽きずに過ごすことが出来る。
 曰く、烏骨鶏は台湾の特約ファームで放し飼いのものを使用、カルシウム、ミネラル、ビタミンなどの栄養素がバランスよく含まれ、コラーゲンが良質な一方で皮下脂肪が少ないから美容にいい。
 
曰く、スープは烏骨鶏を3羽使って12時間煮込み、エキスをしっかり出したスープを使用、滋養強壮効果がある究極のラーメンスープ。
 曰く、様々な食材を漬け込み、烏骨鶏の繊細な味わいを引き出す厳選した醤油に、北海道産の赤味噌としろ味噌を調合して17種の野菜を混ぜ込んで3ヶ月熟成させた味噌に、モンゴルの岩塩と風味豊なバターを混ぜ込んだ塩ダレ。
 曰く、水は九州祖母山系の天勝石でろ過したミネラル豊富な水。云々。
 優れた厳選食材の能書きを読んで味を堪能し、烏骨鶏の解説を理解して健康になった… 気分になったところで、やや大きめの白い丼がカウンター越しに差し出された。青ネギと味玉がのった、見た目は普通の醤油ラーメンで、チャーシューの代わりに鶏のささ身がのっているのが変わった点か。

 まずは麺から、といつもはいくところを、やはり自慢の烏骨鶏のスープから味わいたい。ほんのり脂が浮いているスープを、脂もちょっと一緒にすくって、ひとすすり。すると醤油のとがった味と香りが強い中、後から鶏ダシの旨みがしっかりと立ち上がってきた。浮いた脂もくどくなく鶏の味が凝縮、いい地鶏を使った鶏鍋の汁を思い出す、がっちりと力強い味だ。
 麺をたぐってみると、やや細めでパキパキした食感の、オーソドックスな醤油ラーメンのスタイル。ストレート系の麺なのに、烏骨鶏スープとのからみが実にいい。チャーシュー代わりのささ身は脂分がない分、よくかみしめるごとに味が出てくる。スープをすすり、麺をたぐり、トッピングをつまんで、と、上品な鶏の旨みがあふれるラーメンである。
 試しに、家内の頼んだ烏骨鶏味噌ラーメンを味見させてもらったら、普通の味噌ラーメンとそれほど変わらない印象。ごってり脂入り鮎の煮干ラーメンと同様に、味噌の強い個性のおかげで烏骨鶏の風味が消されたかな、と思ったが、改めて味わってみると鶏の風味が、スープの味の土台になっているのが分かる。醤油味のほうが鶏の風味をそのまま味わえ、味噌味(おそらく塩バターも)は全体の味の下支えの役割をしているのだろうか。


烏骨鶏餃子。味は普通の餃子に近い

 いずれも丼に残ったスープに、ご飯を追加して入れてみたくなるが、腹八分目も健康のうちと、ラーメンと餃子を平らげたところでごちそうさま。それにしてもさすが薬膳ラーメン、大き目の丼のラーメンと、烏骨鶏餃子もあわせて平らげたのに、帰りのクルマの中でラーメン食後のお腹にもたれる感じは全くなく、すっきりした食後感がうれしい。このところ多忙で、しかも暑さが続いて寝不足気味なので、このラーメンのおかげで栄養補給できたような気がする。
 肝心の烏骨鶏の味は、スープで充分堪能したのに加え、店内に掲示されたいろいろな情報を食べまくった効能もあるかも。でも何だか、「合わせ技」で味が分かったつもりでいるようで、こんなことだと件のマンガに出てくる店主に冷笑されそう?(2007年8月19日食記)


町で見つけたオモシロごはん105…白金台 『聚寶園』の、ふかひれそば

2007年10月12日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 仕事で、著名な料理評論家の先生が選ぶ、現在の東京でおすすめの店百軒を集めた味の店ガイドを編集した。もともと、週刊誌の巻末カラーページに連載されていたもので、これまた著名な写真家の方による撮影の、垂涎ものの写真を掲載。パラパラとめくるだけでも、おなかが空いてしまうほどの魅力がある一冊に仕上がった。
 選ばれた店は先生のお墨付きだけに、銀座や六本木、麻布のフレンチやイタリアン、老舗の寿司や天ぷら、ウナギなど、自分にしてみれば財布も胃袋もびっくりしてしまうようなところが確かに多い。でも一方で、トンカツとかそばとかうどん、さらに焼きそばやカレーの店だって載っており、有名店珍重の権威主義や、高価な店を重視した高級志向にとらわれず、純粋に味のみ重視で店を選んでいるのが、この本の面白いところだ。
 担当者として、掲載している店はもちろんすべて試食済み… な訳がなく、実は1軒も食べたことがある店がないのだから困ったもの。でも改めてページをめくってみると、さすがに百軒全軒制覇したら破産ものだけれど、3040軒ぐらいは頑張れば食べ歩けそうだ。無事刊行された本を片手に、掲載内容の確認をして店を訪れるのも、担当者としての責務だろう。

 でき上がった本を持参して先生にご挨拶をした帰り、さっそく掲載店のうちの1軒に寄る機会ができた。先生の事務所があるあたりにも、本で取り上げられている店はいくつかあるのだが、諸般の事情(笑)で上記30軒には入れられないところばかり。よってその近辺で予算的に守備範囲内の店を探した結果、足を伸ばして同じ地下鉄の沿線の白金台にある、『聚宝園』という中華料理の店をまずは訪れることとなった。
 本によると、店は駅から地上へ出て、目黒通り沿いにやや左に行ったところとある。立派なたたずまいの中華飯店を想像していたら、指示された場所にはいかにも町の中華料理屋、といった外観の、こぢんまりした店があった。店名が書かれている入り口の上の赤い幕はややすすぼけており、白金台という小じゃれた立地にあるせいか、ちょっと古びて見えてしまう。


白金台という立地にありながら、町の中華料理屋風の店構え

 店内は奥へ向かって細長く、中華料理店ならではの円卓もいくつか並び、外観の印象の割には本格的な雰囲気だ。まだ昼の営業が始まったばかりらしく、客は円卓に数人いる程度とガラガラなのに、薄暗い照明の店内に通されると、その円卓に座るように勧められた。ひとり客はほかに席が空いていても、ここに座るシステムらしく、カウンター席のような感覚なんだろうか。
 注文はもちろん、本に紹介されていたメニューに決めていたけれど、円卓の回転部分にのった、ビニールファイル入りの品書きを一応、眺めてみる。麺類がかなり充実しており、温麺だけでも五目そば、豚肉そば、かに玉そば、高菜そばなど10種類以上。さらに焼きそば、ごはんものも数種用意され、あまり熟読していると目移りしてしまいそうだ。
 初志が変わらないうちに、注文をとりに来たお姉さんに「フカひれそば」を注文。同じ円卓に座る客は、サラリーマンや作業員といった感じの風情で、大盛りのチャーハンにレバニラ炒めとか、チャーシュー麺とかを、黙々とかき込んだりすすったりしている。店頭にも掲げられていたランチメニューは、数種類揃っていずれも1000円以内と人気の様子。一方で本で推薦のフカひれそばを食べている客は、ざっと店内を見たところいないよう。2000円という値段は、ビニールファイルのメニューの中ではダントツに高く、近場の人が普段使いのお昼ご飯に頼むには、ちょっと高価すぎるのだろう。

 ややして運ばれてきたふかひれそばは、見た感じは中華風卵スープのようで、上からは麺の存在が全く確認できないほど。箸でかき回すと、その下に細めの麺が複雑にからまって沈んでいる。まずはひとすすり、とたぐると、からまる麺と濃い目のあんのおかげで、引き上げる箸がどっしり重くなりなかなか食べにくい。
 何とかひと口分をたぐってみたら、あんの卵にカニの赤い身、そして透明で細い春雨のようなふかひれが、かなりたっぷり入っている。スープの味はあっさりしていて、ほとんど塩気を感じさせない。それに卵のフワリとした食感に、カニのほのかな香ばしさ、細麺の甘みと、ほんのりと優しい味わいである。中華料理といえば、調味料をふんだんに使って味が複雑かつ濃い目という印象があるから、逆に鮮烈に感じてしまう。


見た目は卵スープ風だが、中にはフカひれがたっぷり

 「聚宝園のふかひれそばを食べずして、うまいのなんのと言うなかれ」とまで、料理評論家の先生がイチ押しのこの料理、中華料理の基本スープである上湯に、ふかひれとカニ肉と全卵を加えた、比較的シンプルな麺料理である。あっさり風味の上湯と、それ自体には味がないフカひれが主役のため、食感はかなり上品に仕上がっている。最初はちょっと薄味で物足りない、という印象だったが、食べ進めていくと自然な味わいがかえって良く、とろみのあるあんのため、食べ終わるまで熱々なのもうれしい。

 熱さと麺の食べにくさと格闘しながら、汗だくになって黙々と食べすすめ、すっかり平らげる頃には店内はほぼ満席になっていた。レジの近くには、順番待ちをしている客までいる。円卓のひとり客といえども、なるべく早く席を譲ったほうがよさそうだ、と、汗を拭きつつ席を立つ。
 大きめの丼を見て結構量があると思っていたけれど、店を出て地下鉄の駅へと歩いていても、食後にお腹にに重さを感じない。上品な仕上がりのおかげか、体にいいフカひれのおかげか、いずれにせよさすが評論家ご推薦の味、といった感じだろう。
 でも、タレがコッテリかかったレバニラ炒めに、お玉大盛りのチャーハンなど、円卓で同席の客が食べていたランチメニューも結構気になった。ローカルごはん愛好家の私の舌は、先生と比べてちと嗜好が俗というか、庶民的なのかも?(2007年9月20日食記)


町で見つけたオモシロごはん104…銀座 『カレーのからなべ屋』の、野菜カレーオニオンリングのせ

2007年10月06日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 銀座の事務所で仕事をする際には、最寄り駅である東銀座駅で下車、晴海通りの直下を通っている地下通路を延々と歩いて、銀座インズあたりで地上に出るのが、定番の通勤経路となっている。その途中、晴海通り直下から外堀通り直下に入ったあたりで、いつもいい香りが漂ってくる一角がある。
 香りの元はカレースタンドで、真っ赤な地色に黄色い丼のイラスト、そこに『カレーのからなべ屋』の店名が記された、鮮やかな看板が目を引く。長めのカウンターが1本のみの簡素な店だが、地下通路のちょうど中央寄りを囲うようにして店舗が設けられているため、いつも香りをかがされつつ(笑)店の脇を回りこんで通勤する、といった感じなのだ。
 お昼前に仕事に向かう際など、何度この魅惑的な香りに後ろ髪をひかれたか知れないが、不思議とこれまで入ったことがない。場所は地下鉄銀座駅のすぐ前と、おそらく日本中のカレースタンド随一の、恵まれた立地。そばを通る際はいつも満席状態で、込んでいる店、という先入観があったせいかもしれない。

 で、初めて「からなべ屋」を訪れたのは、通勤途中ではなく、遅い昼飯をどこで食べようか、と思案していた時だ。銀座界隈は、ランチタイムを外すと食事ができる店が意外に少なく、カレースタンドなら中途半端な時間でもやっているし、かえって空いているかも、とやってきた。
 思ったとおり、15時過ぎという時間もあり、カウンターにはお客の姿はひとりだけ。カウンターの向こうにも、担当のお兄さん一人だけで、食器を並べ直したり、棚の整理をしたりと、所在無げな感じだ。ちょうど背中合わせになっている後ろ側は、回転寿司の店になっていて、そっちのほうがお客の数が多いようである。
 食券の自販機でオーダーを決めようと見たところ、一番安いカレーは何と、370円。「野菜カレー」とあるから、肉は入っていないようだ。ほかのボタンにはメンチカツ、チキン唐揚げ、ビーフ角煮、卵などのトッピングが種類豊富なので、好みに応じてこれらを追加していく仕組みなのだろう。面白いのが、ぶつぎりナスやゴロゴロポテト、野菜ミックス、オニオンリングなど、野菜のトッピングのバラエティが豊かなこと。うまく組み合わせれば、なかなかヘルシーなカレーになりそうだ。


カウンターだけのシンプルな店内。奥が食券売り場

 財布の中身が心許なく、今日のところはベーシックな野菜カレーと、トッピングは1品だけ、と熟考。ほかにない野菜もののなかから、オニオンリングを選択した。お冷やグラスや付け合せの瓶がごちゃっと並んで、狭いカウンターについて食券を出すと、「辛さはいかがしましょうか」とお兄さん。中辛と辛口の2種類があるそうで、2段階ならなぜ甘口と辛口じゃないのかな、と不思議に思いつつ、辛口をお願いした。
 すると、奥のフライヤーでジュクジュクと、食欲をそそる音が響く。トッピングのタマネギを揚げているようで、作りおきではなく注文ごとに調理するとは、なかなか期待できそうだ。運ばれてきたカレーの皿には、この揚げたてタマネギの輪切りがドカドカと乗っかっていて、見るからに食欲をそそる。

 まずはカレーからひと口。辛口だからかかなりホットなインパクトがあり、ビリッとしびれるというより、ボッと火がつくといった辛さ。食べ進めると胃の中でも沸々と燃えているようで、活力源になるような味わいである。野菜カレーの具は、細かくさいの目に切ったジャガイモ、ニンジンに枝豆が珍しく、黄、赤、緑の色合いも鮮やかだ。
 さらにオニオンリングの、香ばしく甘みがあること。揚げてあるおかげでサクサクと食べやすく、後からじわりと甘みが染み出してくるよう。輪っかをスプーンに引っ掛けて食べるのは少々難儀するけれど、カレーと一緒に頂くと独特の味わいで、これまた食が進む。
 野菜が中心になっていることからも分かるように、「ヘルシーなカレー」が店のコンセプト。カレーソースや揚げ物に使う油は植物性のものを使用、またトッピングの野菜は鮮度抜群のものをさっと上げて、素材の味を生かして提供しているという。さらにウスターソースなど調味料や、福神漬けなど付け合せも、無添加のものを使用するこだわりよう。仕事の合間にさっと頂く、スタンドのカレーとしては、ありがたい心配りだろう。


揚げたて、シャキシャキの玉ねぎがゴロゴロ

 次第にカウンターにお客が集まり始め、食券を渡しながらオーダーをしている様子が耳に入ってくる。ほとんどの客が、カレーは「中辛」で頼んでいるようで、確かに野菜ベースのカレーには、あまり辛さがきつくないほうが合うような気がする。
 とはいえ、ホットなカレーに熱々タマネギ揚げのおかげで、おなかは満腹、パワーも補給できたような気分。野菜カレーだけだったら、値段もボリュームも手ごろだし、これからは通勤途中に、朝飯代わりにカレーを一皿、なんてのもいいかもしれない。(2007年8月14日食記)


町で見つけたオモシロごはん103…銀座 『銀座梅林』の、ロースカツにカツ丼、カツサンドなど

2007年10月02日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 銀座の老舗トンカツ屋が支店を出したので、取材に来て欲しい、という知らせを受けた。銀座7丁目にある本店で、食事をしながら支店の説明をして頂くことになり、ありがたく昼ごはんを抜いて(笑)準備万端。約束の14時に、銀座松坂屋の近くにあるお店を訪れた。
 ご招待いただいた『銀座梅林』は昭和2年に創業で、何と銀座で初めてトンカツ屋を開業したことで知られている。ガラスのサンプルケースが鎮座した、昔の大衆食堂風の店頭で待っていると、中から店の方とPR担当の方が出てきて迎えられた。店内には白木の長いカウンターがどっしりと構えていて、老舗トンカツ屋の威厳を伝えているようにも感じられる。

 昼の混雑する時間帯は過ぎているため、店内には銀ブラの合間風の、百貨店の紙袋を下げたおばちゃんグループが2、3組いる程度と空いている。テーブル席のほうについたら名刺交換もあわただしく、さっそくプレスリリースを元に「支店」の説明を受けることになった。
 その支店なのだが、出店先は何と、常夏の島ハワイ。ワイキキにオープンする店を、ハワイのガイドブックなどで紹介してもらいたい、というのが今回の趣旨なのだ。確かにハワイは、日本人観光客数が圧倒的に多く、現地には和食の店がそれなりにあるとは聞いていた。しかし、トンカツの専門店はこれまでになかったというから、意外といえば意外である。
 現地で出されているトンカツは、金網敷きで油が落ちるように工夫された皿の上にカツをのせ、千切りのキャベツが山盛り。さらに薬味のゴマは自分でするなど、極力、日本のトンカツと同じスタイルで供しているという。ちなみにハワイでは、キャベツを生食する習慣がなく、千切りキャベツという概念がないそう。このキャベツとご飯はもちろん、本店同様にハワイの店でもおかわり自由で、「うちの店は銀座の食事どころの中でも、かなりボリュームがあるほうですから、食欲旺盛のハワイのローカルの方でも、充分満腹になります」とご主人が話す。

 その一方、食材は必ずしも日本と同様ではないので、調理には難点が少なくない。ソースと油とパン粉は、極力日本のものを使っているのだが、前述の黒豚は日本産のものはアメリカに持ち込めないため、カナダ産の肉を使用。油も軽く仕上がる綿実油を使っているのが店の売りなのだが、現地では油の精製法が違うために傷みが早いのだという。砂糖も三温糖がハワイでは入手できず、ブラウンシュガーを使うため、甘みがやや濃厚になるのだが、ハワイの人は味覚の嗜好が甘いほうに寄っているので、それはそれでいいのだとか。このように、日本とは勝手が違う食材を扱う現地の料理人の苦労は、並大抵ではなさそうだ。
 それでも、「大ボリュームで濃い口の料理が中心の土地柄ですが、トンカツ専門店ならではのこだわりをしっかり出していけば、ちゃんと受け入れられるのではないでしょうか」と話すご主人。ハワイの人は繊細な味が分かる人も多く、高くてもいいものならば評価されるはず、と力説する。そのせいか、一番よく出るメニューが、4000円以上もする黒豚ロースなのだとか。一方で、おろしトンカツや鳥の唐揚げ定食など、本店にはないメニューも地元の趣向に合わせて、どんどん取り入れていく意向もあるというから、老舗にしては柔軟な姿勢である。

 ひと通りワイキキ店のコンセプトをうかがったところで、あとは料理を食べてながらお話しましょう、と、待ってましたの展開に。約束が14時だったから、おなかが空いてしまいすみませんね、とご主人が笑っている。
 頂くことになったのは、黒豚ロースかつとひと口カツ、メンチカツ、カツ丼の4種で、それぞれを取り分けて試食する形だ。まずは銀座店、ワイキキ店ともに、看板メニューである黒豚ロースカツをひときれ、口に。するとさっくりと軽やかな衣の食感に続き、厚めの脂がジュッ、トロリと、こってり濃厚な味わいが広がる。肉は繊維の一本一本にうまみがしっかりついているようで、バランスのいい絶妙なうまさだ。銀座店では鹿児島の黒豚を使っており、肉の柔らかさと脂のうまみが身上。加えて揚げ油には前述の綿実油を使っているから、さっくり、さっぱりともたれないのがうれしい。


ひと口カツ(左)とカツ丼。どちらも梅林の人気の品

 ひと口カツは今は様々なトンカツ屋で見られるけれど、発祥の店はこの梅林。1枚に開いて揚げていたヒレカツを、食べやすいサイズにしたのが始まりである。ワイキキ店でもカツ丼と並ぶ人気メニューで、小振りな分柔らかく、肉が軽くほぐれるような食感が、ロースカツとはまた違った味わいでいい。
 豚肉を100%使用、手こねでつくっているから、ジューシーで肉のうまみがあふれるメンチカツもひとつ頂いてから、カツ丼も小鉢によそって頂く。カツ丼はそもそもそば屋のメニューで、当時はつゆはかつおダシが主流だったのが、店の初代つまり現ご主人の祖父が、豚肉には豚肉からのダシが合うはず、と変更したいわれがある。その甘めのダシが特徴で、半熟でトロトロの卵との相性が絶妙。カツに卵がトロリ、つゆがしっとりと絡み、肉のうまみが倍増。確かに、そば屋のカツ丼に比べて、まとまった味に感じられる。

 梅林のトンカツは、トンカツ屋にしては少々お値段が高めだけれど、こうして頂いてみると素材へのこだわり、揚げの熟練の技が感じられ、値段相応に思えてくる。たまに張り込んだときのお昼にはいいかな、と思っていたら、最後に皿にいっぱい盛られたカツサンドが運ばれてきた。
 4種の料理を頂いてお腹いっぱいだけれども、2つ3つつまんでみたらこれもなかなか。濃い目のソースがカツの衣とパンに染み、しっとりしたパンと肉の相性もバッチリで、うれしいことに値段が手ごろ。梅林のトンカツが、気軽に味わえる一品だ。ちなみに梅林では、カツサンドを古くから提供しており、さらにそれまでのゆるいウスターソースではなく、トンカツに合う中濃ソース、いわゆるトンカツソースも梅林がルーツという。いわばトンカツ料理の基盤を築いたといえる老舗が、海外へトンカツ食文化を広める役割を担うのだから、ワイキキ店の成功に期待したいものである。


カツサンドは量も値段も手ごろな一品

 トンカツ尽くしの遅いお昼を頂き、ご主人にお礼を伝えて店を後に。夏の昼間で暑さがいちばん厳しい時間帯の並木通りを、汗を流して歩きながら、常夏のワイキキでトンカツを賞味する様子を、ちょっと思い浮かべてみる。一度にこれだけの種類のカツを頂いたおかげで、午後はバリバリと仕事がはかどりそう。でもさすがにこの腹具合だと、今日は晩御飯は食べなくても充分持ちそうな感じである。(2007年8月2日食記)