ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん110…丸の内 『ラ・メゾン・ド・ショコラ』の、季節限定フレーバートリュフ

2007年11月21日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 
 著名な料理評論家の方が勧める、東京の店百軒の本で紹介している店から、予算的に行ける30軒巡りを、その後も続けている。30軒に絞っても、予算的には普段自分が飲食する店よりは高いところばかり。食べ歩きのペースも遅く、財布にもなかなかきついけど、本にかかわった責務(?)としてがんばらねばなるまい。

 で、先日有楽町駅から日比谷方面へと歩いていく途中、たまたま本で紹介された店の前を通りかかったので、ちょっと立ち寄ることに。今回は飲食店ではなく洋菓子の店で、丸の内の新国際ビルに入っている『ラ・メゾン・デュ・ショコラ丸の内店』である。本によると、パリの有名なチョコレートブティックの日本初出店とある。
 紹介されていたのはガトーショコラのような600円ほどのケーキで、それならお茶受け用のお菓子の感覚で買っていけそうだ。ここを2軒目の掲載店訪問に決めて扉をくぐると、チョコレート「ブティック」の名の通り、店内はまるでバッグやアクセサリーの高級ブティックのような雰囲気が漂う。左右に伸びるショーケースには、形や装飾が様々の小粒のチョコレートが数々並んでいて、これまたジュエリーショップのようでもある。



まるで高級ブティックのような店頭


 そして値段のほうも、店内の雰囲気同様で思わず絶句。小さな板チョコが数片入り、トリュフが数粒入りの小袋でも、数千円の値段が付いている。中には「きのこの山」ぐらいの大きさの箱に入った詰め合わせで、5000円近くするものも。数百円程度の菓子を適当に買おうと思っていたが、値段が3桁の商品はほとんど見あたらない。
 一番安い板チョコのあたりをうろうろしていると、「どうぞ、よろしければ味を見てみてください」と、銀のトレイにのったトリュフが差し出された。店の女性も、パティスリーの店員というよりはブティックのマヌカンといった感じである。

 これひと粒でも数百円するんだろうな、などと思いながらひと口つまむと、表面にカカオらしいパウダーがかかったトリュフで、外側はカリッ、中はしっとりと生チョコらしい食感。最近カカオの量が多いチョコが流行している影響で、これもあまり甘くないのかと思ったら、しっかりと甘みが強く、優しいホッとする甘さである。
 女性によると、表面はカカオパウダーではなくキャラメルで、中のチョコよりも鋭く強い甘みに、香ばしい香りがする。「キャラメルトリュフです。この冬限定の3種のフレーバートリュフのひとつです」とのこと。



季節限定のフレーバートリュフのひとつ・キャラメルトリュフ。甘みが爽やか


 トリュフの試食でちょっとひと息ついて落ち着いたこともあり、勧められた品物を見てみようと、案内されて隣のショーケースへと足を運んでみる。こちらに、先ほど紹介された3種のフレーバートリュフが並んでいる。試食したキャラメルのほか、モカフレーバーにアプリコットフレーバーで、いずれも7粒、50グラム入りで値段は1700円とある。
 当初思い描いていた予算からは、はるかにオーバーしてしまうけれど、お勧めもあり、手が出ない値段でもないか、と、思い切ってこれに決めることに。支払いの間、さらにもうひとつチョコレートを勧められ、高価な店だけど気前がいいのはうれしい限り。こちらはバレンシアのボンボンショコラ、とのことで、名前の通りオレンジの爽やかな酸味とチョコの濃厚な甘みがマッチして、なかなかおいしい。背面奥側のショーケースには、このボンボンショコラがずらりと並んでいて、まるで宝石のようだ。

 
支払いを済ませると、レジカウンターからこちらへ回って、洒落た紙袋に入れられたトリュフを手渡される。さらに出口へと案内され、ドアを開けて見送っくれた。これまた、宝石やブティックで買い物したような高級感が感じられる。袋に入れられた商品カタログによると、「自由な発想による創作チョコレート」と記されており、様々な味のショコラやトリュフ、ガナッシュの詰め合わせが紹介されている。
 それにしても、カタログにあるギフトで、一番安いものでも税込み5000円以下から。このフレーバートリュフは、190グラム入りで何と、6950円とある。さっき試食したトリュフはひと粒あたり250円弱だから、これ一粒で「きのこの山」が一箱買えてしまう… などと考えていては、気軽に今夜のお茶受けに使えなくなってしまうか? (200710月4日食記)


町で見つけたオモシロごはん109…渋谷・道玄坂 『ダイニングバー卯門』の、岡山名物サワラ料理

2007年11月18日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

彩り鮮やかな祭り寿司。この日の具の主役はやはり、サワラ


 渋谷・道玄坂の「ダイニングバー卯門」で催された、岡山のサワラ料理を食べる会も宴半ば。珍しいサワラの刺身に舌鼓を打ち、サワラのPRマン「ミスターサワラ」の赤木氏との話も盛り上がる。料理も佳境を迎え、さらに「ご趣向」もこの後用意されているとのことで、サワラ一色の宴席はどんどんと進んでいく。

 刺身にたたきと、生食のサワラ料理が続いた後で出てきたのは、何やら茶色い葉でくるまれた一品。開いたとたんもわっと立ちのぼる湯気と味噌の香りに、思わずホッとする。サワラの切り身とシメジを味噌と一緒に朴葉でくるんで焼いた、サワラの朴葉焼きで、高山の郷土料理である朴葉味噌を応用した料理だ。朴葉の青臭い香りに甘ったるい味噌といった山の趣の食材が、瀬戸内のサワラと出会うと、身の旨みが粗野に引き立っていて意外なインパクトがある。
 朴葉焼きに使っている味噌はどこのものだろう、と思っていたら、和服の女性が通りかかったので、店の人かと思って声をかけると「サワラ小町」なる襷をかけていらっしゃる。この方もサワラのPRご担当なのだが、その手段が「サワラ踊り」とのこと。本職はダンスの講師や振付師である一方、サワラ踊りの創始者でもあり、踊りを披露する「岡山さわら連」の総代もなさっているという。
 同席頂き、岡山の観光PRをつれづれにお話頂いたが、何につけてもサワラがからんでいるところが、さすがというか面白い。桃太郎伝説に関わる古文書に「さわらさしみ」なる文字が残っているとか、岡山は「津」の字がつく土地が多いのは、入り江が豊富な名残でサワラがよく水揚げされたとか、吉備路で盛んだった製鉄では、サワラを刺身におろす包丁もつくっていたとか。事実かどうか? はともかく、聞くにつれやっぱり岡山は古くからサワラなんだな、と妙に納得させられてしまう。



飛騨名物料理をアレンジした、サワラの朴葉焼き


 サワラ踊りの披露の前にもう1品、卓にコンロが据えられてだしを張った鍋がのせられ、サワラの切り身と野菜を盛った皿が運ばれてきた。店の人によると、だしは醤油と砂糖、酒で、先にタマネギ、ニラなどの野菜を入れ、煮えたところでサワラをさっとだしにくぐらせて食べるという。いわばサワラのしゃぶしゃぶで、地元では「炒り焼き」と呼ばれる郷土料理。もとは漁師が船上で食べた漁師料理で、水を使わずに調理できるのがミソである。
 刺身よりやや厚めのサワラを、鍋をぐるっと1周だしにくぐらせて半煮えで頂くと、身はしっとり、熱が適度に加わりしゃっきりとした食感に。脂ののりが程よい分、ブリのしゃぶしゃぶよりも軽く食べやすい。野菜の中でも、岡山特産の黄ニラが珍しく、プンとスタミナがつく香り。味付けは酒の肴になるように薄味とのことだが、醤油が効いていて濃い目の味に、かえって酒が進んでしまい地酒「瀬戸の魚島」をもう一本。サワラ小町直々のお酌もあり、酔いもいっそう深まること。



総代直々のさわら踊り。手の動きがダイナミック


 しばらくしてサワラ連の召集がかかり、「よっ! 出世魚っ!」の掛け声が響くと、連の一同がフロアに練り出しいよいよ「さわら踊り」の始まりだ。傘被りに和服の女衆が、ややスウィングののったテンポで、メリハリの利いた踊りを繰り広げる。ダンス教室をやっている小町はさすが、動きのキレが見事で、つい見入ってしまうほど。手の流れるような揺れと身のこなしは、さながら瀬戸の水中に舞うサワラの群れのようか。晴れの国岡山らしい、明るく元気が出る踊りで、「晴れ晴れ大空吉備の国、おもてなしはサワラじゃ~」のリフレインが耳に心地よい。
 その踊りの最中に片手に頂いたのは、本日の品書きにないサワラ料理。何とサワラまん、つまりサワラの肉まんだ。マグロの水揚港である三崎でも、マグロを使った「とろまん」なる肉まんがあり、これと同じタイプのもの。中身はサワラのフレークにたっぷりの野菜、濃厚な味付けが結構普通の中華の肉まんに近い。しかし料亭の味のみならず、庶民的なテイクアウトにまで進出しているとは、岡山のサワラ恐るべし。



鰆まんは肉まん風。濃い目の味わいで食べ応えあり


 と、踊りが披露されたところで、サワラの宴もいよいよ終わりに近づいた。最後は岡山の郷土寿司である「ばらずし」を、締めのごはんとして頂く。白飯の上に数々の魚介や山の幸をびっしり並べたこの寿司、岡山で祭りや祝い事などハレの料理として知られるが、その成り立ちは面白いことに、派手さと正反対の「倹約令」に由縁がある。
 江戸期の岡山は、藩主だった池田光政が出した質素倹約令の影響で、派手なことに対しての取締りが厳しかった。とはいえ庶民は、うまいものが食べたい。そこで考えたのが、白飯の下に様々な具を敷いて、見た目は白いご飯だけ、という風にして誤魔化すこと。食べる際にはひっくり返せば、豪華な祭り寿司の登場、という訳だ。近頃は具を酢飯の上にのせたり、中に混ぜ込んだりするのが主流のスタイルだが、本来はこのようにひっくり返して食べるのが正統派・祭り寿司なのだとか。

 この日の祭り寿司の主役はやはり、サワラだ。具にサワラの酢締めがのっているだけでなく、ご飯はサワラを締めた酢で酢飯をつくり、さらに具の野菜もサワラのアラからとっただしで煮込んである、まさにサワラづくしの祭り寿司である。
 運ばれてきた小丼には、飯の上に錦糸卵を敷いた上に、サワラほかエビ、アナゴ、野菜はサヤエンドウにレンコン、シイタケと、確かに具だくさん。錦糸卵の黄、エビの赤、サヤエンドウの緑と、鮮やかな色合いが食欲をそそる。
 強めに酢締めしてあるサワラは身がしゃっきり、皮の部分がコリコリとした歯ごたえ。アナゴは焼き目がついていて、香ばしく身がホッコリ。野菜もどれもしっかり下味がついていて、締めにはうれしい優しい味わいだ。本格的な祭り寿司では、具に使う食材は何と、30種類以上。それをご飯に混ぜ込み、さらに上にも並べるという豪華版だ。加えてどの具材も酢の加減、味付け、煮加減など下ごしらえはそれぞれ異なるから、家庭で作る際は朝から丸一日かかる大仕事だとか。何とも手間もかかる「倹約料理」で、池田藩政下での岡山庶民の、うまいものを食べたいという執念が伝わってくる。

 さわら踊りによる盛り上がりのおかげで、いつのまにかすっかり座がくだけ、中締めの挨拶後も宴は終わる気配がない。締めの祭り寿司ですっかり満腹、酒も結構回ったこともあり、ここらで失礼することに。
 これまで岡山方面への旅行といえば、美観地区のある倉敷へはじっくり時間をとっていたけれど、岡山の市街はほとんど訪れたことがない。日本3名園のひとつ・後楽園に、黒漆喰の板塀で「烏城」と称される岡山城と合わせて、こんどの旅ではサワラ料理も頂いて市街で1泊するのもいいかな、と、すでにサワラによるPR効果が出始めているかも。片手には岡山の観光パンフレットがいっぱい入った袋、そしてもう片方は店の人にお願いして、こっそり? 祭り寿司を1人前テイクアウトした折を手に、道玄坂を下る足取りは、銘酒「瀬戸の魚島」のおかげで少々千鳥足かも。(200711月4日食記)


町で見つけたオモシロごはん108…渋谷 『ダイニングバー卯門』の、岡山名物サワラ料理づくし

2007年11月10日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


先付けのサワラの燻製、松茸挟み焼きなど

 「ブランド魚」が、全国的に話題になって久しい。知っているところを挙げていくと、関アジ関サバに始まり、大間の本マグロ、大分の城下ガレイ、三国の越前ガニ、茨城の常磐アンコウ、富山の氷見ブリなどなど。どれも知名度全国区な魚介たちだけに、東京や大阪などの料理屋で、結構いい値段で賞味することができるけれど、魚はとれたその土地で頂くのがやはり、一番。鮮度は段違いだし料理法も熟達しているから、その土地に赴いて水揚げ港の料理屋で食べてみたい気分にさせてくれる。
 近頃は「ブランド魚」をはじめ、その土地で水揚げされる、ローカル魚のPRが盛んだ。おらが町の地魚で観光客誘致に取り組んでいるところも増えてきており、旅の目的はおいしい地魚、なんてのが広まるのもいいかも知れない。
 そんな中、岡山の地魚での観光PRを目的とした食事会に招待され、とある週末に渋谷へと赴くことになった。で、その地魚とはサワラとのこと。サワラの料理で思いつくのは、焼き魚や西京焼きなど、ご飯のおかずや惣菜といった大衆魚のイメージがあるが、地元では料亭でも扱われている高級魚とか。ご自慢の地魚料理の数々にもちろん期待がかかるが、「ミスターサワラ」なる名物PRマンも同席するとのことで、うんちくを伺うのもまた、楽しみである。


しゃれた看板を目印階段を下ると、このサワラの看板が

 という訳でこの日の会場は、道玄坂にある「ダイニングバー卯門」という店。渋谷のダイニングバーでサワラ、とは少々意外だが、地下の店内へと向かう階段のところには、「サワラあります」の木札が掲げられていた。これは岡山商工会議所が地元・岡山でサワラを扱う店に配布されているもので、いわばおすすめのサワラの店であるお墨付きか。
 開宴に先立っての女将さんの挨拶によると、父親が岡山の方で、何か岡山ならではの味を出したい、と始めたのがサワラ料理なのだという。これを通して岡山の味覚を広め、さらに観光客の誘致にもつなげていきたい、と力強く意気込みを語る。
 そんな女将さんに、岡山商工会議所観光委員長の赤木啓治氏から、岡山特命全権大使の任の依嘱状が、恭しく渡された。商工会議所直属の要職と思いきや、要はサワラを通して首都圏で岡山をPRしてもらいたい、というのが主たる任務らしい。いずれは岡山へサワラツアーを催行したいという女将さんにとって、まさに適任だろう。

 そしてプレゼンターの赤木氏こそが、「ミスターサワラ」だ。岡山ではちょっとした有名人で、その知名度は岡山のみならず、築地魚河岸を舞台にした人気マンガの中でもご本人役で登場しており、岡山のサワラの伝道師として知る人ぞ知る方である。
 そもそも氏がサワラに注目するきっかけとなったのは、観光委員長に就任し、九州で新聞記者と会見をした際のこと。岡山が誇る日本3名園のひとつ・後楽園は倉敷にあると言われたことに驚き、岡山のPRを全国にもっとしていかなければ、と奮起したという。
 そこで目をつけたのが、岡山の魚食文化に欠かせないローカル魚である、サワラ。岡山のサワラの旨さを広めていくことで、岡山への関心も高めてもらい、さらにサワラ料理を食べに岡山へと足を運んでもらおうと、宮崎の県知事風に言えば「岡山のサワラの営業マン」といったところか。「『何とかせないかん』と言い出したのは、私のほうが東国原知事より先ですよ」と、ご自身も話しながら笑っている。

 本日の料理は、いわばサワラのフルコースで、ミスターによると「いずれも岡山では一般的によく食べられている料理」とのこと。乾杯の音頭とともに、まずは先付けからサワラの味見といこう。
 5品のなかでサワラを使ったものは、燻製にマツタケのはさみ焼きの2品である。燻製はいぶした風味が香ばしく、まるでハムのような芳香。皮の部分が対照的にトロリと甘く、これはビールが進む珍味だ。2枚のマツタケに挟まれた焼き物も、瑞々しいマツタケの香りとほっくり焼けたサワラの身の、2種の味わいがなかなか楽しい。広島産のマツタケに、緑が鮮やかな翡翠銀杏と栗の渋皮煮と、のっけから深まる秋を感じさせる一皿だ。

 続く皿は何と、サワラの刺身にたたき。関東ではサワラといえば加熱調理をして頂くと相場が決まっているが、岡山では県南を中心に、生食が当たり前なのだ。
 女将さんによると、刺身は背側と腹側それぞれの身が盛ってあり、食べ比べると違う魚では、と思うほど、味に違いがあるという。まずはピンク色の腹側から頂くとサクサクした食感で、瑞々しくしっとり。ブリなどに似た脂のコッテリ感もあり、白身と赤身、さらに青魚それぞれのいいとこ取りといった味わいだ。一方、やや白っぽい背側はホロリと身が柔らかく、あっさり、身の旨みをストレートに楽しめる。確かに、何も知らずに食べたら、同じ魚とは思えない個性の違いを感じる。
 たたきはタマネギ、ミョウガ、ニンニクスライスと一緒にポン酢につけて、カツオのたたきと同じように頂く。サワラは皮が薄いためにたたきに向いていて、皮目を軽くあぶってあり甘みがジワッ。そして薄ピンクの身は刺身よりもくせがなく、カツオよりもあっさりしている分食べやすい。身がホクホク、フカフカで、この柔らかい食感がサワラの特徴です、と女将さん。歯ごたえがシャッキリした刺身が好きな人には、ちょっと好みが分かれるかもしれないか。


左が刺身、右がたたき。刺身は奥が腹側、手前が背側

 次第に盛り上がる宴席には、映画「釣りバカ日誌」に出演? したという、サワラのフィギュアの「サワ吉君」が巡回しており、映画では頭をなでると出世すると紹介されたおかげで、招待客一同になでまわされている。
 この日の料理に使っているサワラも、ちょうどこのフィギュアと同じ大きさで、5歳ぐらいの体長1メートルちょっと、重さは4キロほど。このサイズが最も脂がのり、味がいいという。旬は11月~夏ごろまでで、瀬戸内では漁期が4~7月、旬は2~3月頃とされる。よって今は旬にも漁期にもちょっと早いようで、「今日は岡山のサワラ、ではなく、岡山のサワラ『料理』を味わう会ですから」と、ミスターが笑いながら念を押す。
 岡山ではかつて、旬の2~3月以降はあまりサワラを扱っていなかったが、赤木氏のPRが奏功し、さらにマンガで紹介された影響もあり、「岡山ではサワラを刺身で食べられる」ことが全国で知られ、はるばる食べにくる旅行者も増えてきたとか。そこで近頃は通年サワラ料理が出せるように、様々な努力が重ねられているという。
 そこは何といっても、全国のサワラの漁獲量の6割が消費される「サワラ処・岡山」。瀬戸内のほか、長崎の五島や鳥羽、和歌山などで一本釣りにされた上物も、岡山へと回ってくる。中でも五島へは、岡山のサワラ漁業関係者が赴いて、釣り方や漁獲後の処理、「岡山方式」と呼ばれる運送方法など、いい状態で岡山へ入れられるように技術指導をしているそう。とにかくサワラは柔らかく身割れしやすいため、ていねいに優しく扱うのが肝心で、「女性の扱いと同じぐらい、ね」とミスター。ここまで聞くと、岡山の人のサワラへのこだわり、というか思い入れに、並々ならぬものを感じずにはいられない。

 刺身に合わせて運ばれてきた「瀬戸の魚島」は、まさにサワラ料理に合わせるべく醸造された日本酒で、岡山特産の酒米である雄町米を使った、すっきり辛口の味わい。杯を重ねているとミスターが自分たちの卓に登場、酒がいい感じにまわってきたこともあり、サワラ談義に花が咲く。サワラの種類はいったいどのぐらい… と言い終わらないうちに、サワラの種類がつらつらと挙がり、台湾には2メートルを超える大型のタイワンサワラがいる、広島のウシサワラはうまくない、と、うんちくが次々に続くのはさすが、ミスターの面目躍如だ。
 岡山で食べるのはホンサワラという種類だが、実は瀬戸内産のサワラは、このところ水揚が減少傾向にある。岡山では瀬戸内産のほか、前述の五島や和歌山、さらに東シナ海や日本海で水揚されたサワラの扱い量も増えているという。「岡山のサワラ」でなく「岡山のサワラ『料理』」と強調するのは、旬の兼ね合いのほか漁業事情も関係あるようだ。最近は瀬戸内海にサワラの稚魚の放流も行っており、戻ってきていることも確認されているから、ままかりに並ぶ岡山の「ローカル魚」として、今後の推移を見守りたい。
 ちなみにサワラもブリなどと同様、大きさによって呼称が変わる「出世魚」で、大きさによって6種の呼称がある。サワラを名乗るのは体長1メートル以上、重さ2キロ以上。その下の4050センチ、600800グラムぐらいのサゴシぐらいは、自分も聞いたことがある。他所で聞いた話だと、サゴシは関東地方では「サワラ」として出回っていることもあり、これが関東でサワラの評価を下げた一因ともされているとか。

 この後はサワラの朴葉焼き、岡山の伝統の鍋料理の炒り焼きなど、どんどん続くサワラ料理。さらに迫力満点の「サワラ踊り」の披露と、サワラの宴はますます盛り上がりを見せていく。以下、次回にて。(2007年11月4日食記)


町で見つけたオモシロごはん107…市ヶ谷・アルカディア市ヶ谷 『レストランフォッセ』の、オムライス

2007年11月03日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


ランチメニューのイメージ。
※食べた料理の画像はミスで消してしまったため、
いずれも「アルカディア市ヶ谷」の公式HPより借用

 とある洋食の料理人のエッセイで読んだことがあるのだが、自身が手がける料理の中で一番難易度が高いものをひとつ挙げるとすれば、オムレツという。何だ、ただ卵を割って、溶いて、フライパンで焼き上げるだけなのに、と思うかもしれないが、シンプルな食材・料理ほど、料理人の腕前が鮮明に分かるというもの。
 本によると、数ある食材の中で、卵は熱の加減が難しく、焼き上がりをベストの状態にするのは熟練の技を要する。加えて卵は香りや味が移りやすいため、一緒に調理する食材や調味料の影響を受けやすいそう。だからこれをきっちり仕上げられる料理人はかなりの腕前で、中には卵料理の専用フライパンを用意している人もいるのだとか。

 先日は、神谷町のダイニングバーのランチでオムライスを食べた話を綴ったが、その以前には築地にある洋食兼喫茶店で、市場流のオムハヤシライスを頂いた。このところ立て続けにオムライスを食べる機会があるようで、先日は市ヶ谷にある「アルカディア市ヶ谷」のレストラン『フォッセ』でも、オムライスがメインのランチだった。
 この日は仕事で大きな会議があり、事前の打ち合わせの会場であるこのレストランに、昼食もかねて早めに入った。会議場や宴会場が併設された、コンベンション施設のレストランで、レストランもホテル並みの本格派。打ち合わせ前に軽くスパゲティかカレーでも、と思ったら、入り口の大きなテーブルには、ランチメニューのサンプルがずらりと揃い、なかなか食欲をそそる。
 メインに肉や魚料理が選べるミニコース、ハンバーグやエビフライといった本格的な洋食、さらにサーロインなどステーキと、かなりしっかり食べられるメニューが多い中、大事な打ち合わせの前で食べ過ぎ、眠くなるのもまずい。「オムライスランチ」に決めて店内へ、黒服のボーイさんに迎えられ、白いテーブルクロスがきりっとかかった窓際の席へと通された。窓の外はすぐ、お堀が眺められ、桜の時期は窓から広がる桜並木が見事なことだろう。


フォッセの店内。窓からは豊かな緑が眺められる

 オムライスランチはスープとサラダつきで、先に運ばれてきたスープはかぼちゃのスープ。ハロウィンの季節らしい演出なのだろうか。コーンポタージュよりも濃い目の黄色が鮮やかで、ひと口頂くとほんのりと甘さの中に、塩味がしっかりと効いている。胃の中を包み込むような柔らかな味わいで、食前向けのリラックスする味だ。
 スープで食欲がわいてきたところで、運ばれてきたオムライスは、ハヤシライスのルーがかかったオムハヤシのスタイル。卵の黄とルーのオレンジ、パセリの緑の3色が色鮮やかで、見るからに食欲をそそる。さくっとひと匙とってみると、中は白飯でなくチキンライスになっている。築地で頂いたオムハヤシは、卵の味をシンプルに味わって欲しい、と中は白飯だった。一方、先日神谷町のダイニングバーで頂いたのは酸味がしっかり効いたケチャップライスと、店によって流儀は分かれるようだ。

 そしてオムライスの味の決め手となる、卵の仕上がりも同様。黄身が流れ出るほどトロトロだったり、スポンジのようにフワフワだったり、卵焼きらしくしっかりしていたりと、これまた店によって様々だ。ここのは卵が柔らか過ぎず、スプーンですくっても崩れない程度の締まり具合。おかげで卵の甘い香りがしっかりと強く、食感以上に卵の味わいを楽しめる。
 さらに特筆なのはチキンライス。色からしてケチャップの風味が強いのかと思いきや、鶏から出たダシがしっかりと効いていて、味に深みがある。チキンライスの名に違わず、鶏肉もゴロゴロとたっぷり。玉ねぎとマッシュルームだけとシンプルなハヤシソースも、洋食屋ならではのコクがあり、卵ともチキンライスとも相性がばっちりだ。それぞれを適宜組み合わせで、オムレツ、ハヤシ、ハヤシチキンライスなど、いろいろな味が楽しめるのが面白い。チキンライスを卵とともに頂くと、何だか洋風親子丼のような味わいでもある。


デザートメニューは充実。レストラン正面にはテイクアウトのショーケースも

 このレストランはパティスリーも併設していて、食後のコーヒーを頂いていると、店の正面にはテイクアウト用のデザートのショーケースがあったのを思い出す。本日のデザートメニューの中から、ピスタチオのモンブランを追加。洋酒のつまみのイメージが強いピスタチオから、どのようなクリームが仕上がるのだろうと思ったら、栗を使ったモンブランと比べて、緑色を帯びたクリームのモンブランが登場。味を見ると甘さがかなり抑えられた、大人の味である。トッピングには砂糖をまぶしたピスタチオがのっていて、これが甘いアクセントになっている。

 ダイニングバーのオムライス、市場の喫茶店のオムライス、そしてホテルメイドのオムライス。卵の仕上げも、ライスの仕掛けも三者三様で、確かに料理人の個性が出る料理なのだろう。ちなみに頂いたのはいずれもランチで、お手ごろな値段もうれしい。オムライスめぐりの仕上げには、仕事先の銀座にある老舗の洋食店のオムライスも試してみようか。でも、何だかんだでこういう店が、一番値段が高いような気もするが?(2007年9月27日食記)