ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん41…長崎・佐世保 『らりるれろ』の、アメリカンスタイルのハンバーガー

2006年02月26日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 長崎県、そして九州のほぼ西端に位置する佐世保は、古くからの軍港都市である。戦前には海軍の基地を擁し、終戦後の1950年(昭和25年)にはアメリカ海軍の基地が配置された。そのため、基地に出入りするアメリカ兵により、アメリカ文化の多大なる影響を受けたといわれる。そのひとつが、町のあちこちに見られるハンバーガーショップ。最近では「佐世保バーガー」と称され、テレビや雑誌で取り上げられることにより一躍、佐世保の名物料理として全国的に注目され始めた。ハンバーガーといえばファーストフードのチェーンが思い浮かぶが、佐世保のハンバーガーはいわば本場の「アメリカンスタイル」。いろいろな違いに注目しながら、食べ歩いてみることにしよう。

 市街を貫く幹線道路である国道35号線をひた走り、JR佐世保駅手前の戸尾付近でクルマを停める。最初に訪れた『らりるれろ』は、商店が密集するエリアの一角にある小ぢんまりした店である。「手作りハンバーガー」と書かれた赤い看板に出迎えられ、狭い店内へと入ると、中は販売するカウンターを中心にスロットマシーンやテレビゲームなどがあり、何だかごちゃごちゃした印象。どこか街のスナックショップといった感じである。

 そんなローカルなムードからも分かるように、ここは佐世保のハンバーガーショップの中でも、古くから地元の客に知られている店である。自家製のパンを使った手作りハンバーガーが特徴で、創業以来30年の間続く味を守り続けている。ハンバーガーのほかにポテト、アップルパイ、コーラなど品数が豊富なメニューの中から、人気のベーコンエッグバーガーを注文。「ご一緒にポテトはいかがですかぁ?」などと、ファーストフードのように勧められないのがちょっと新鮮だ。

 カウンターのお姉さんに「店で食べていきますか?」と聞かれたが、店内にひとつしかないテーブルセットには先客がいる様子。麻雀のビデオゲーム台が空いていたので、そこで食べていくことにして出来上がるのを待つ。オーダーを済ますとすぐ、奥で鉄板に向かっている親父さんに伝えられ、これから調理にかかる様子だ。佐世保バーガーのひとつの特徴は、すべて「手作り」である点。パテをはじめ野菜など食材を厳選、作り置きせず注文ごとにひとつひとつていねいに作っている。中にはこの店のように、自家製のパンを売りにしているところも。そのためすぐ出てくることはまれで、注文してから最低10分ほど待つのが普通だ。この「待ち時間」もいわば、佐世保バーガーの特徴であり、スマイルとともにすぐに出てくるファーストフードとこれまた違う点といえる。

 店内のテレビを見ながら待っていると、10分ちょっとで「どうぞ」とカウンター越しに籠に入れられて手渡された。紙に包まれているのを開くと、パテにベーコンに卵焼きが分厚く重なっており、ひと口かじるとかなりどっしりした食べ応え。見た感じの通り、かなりのボリュームだ。一方でキャベツがシャッキリ瑞々しく、トマトも酸味があふれ爽やかと、野菜がしっかりしているので意外に重くなく食べやすい。マスタードがかなり効いているのが、大人の味か。

 早めの昼食代わりに、軽く平らげてごちそうさま。店を出ると店頭に数台のクルマが駐車していて、テイクアウトして車内で食べている。すぐ近くにも「佐世保バーガー」の看板をいくつか見かけたので、昼食目当ての客の行列が出来る前に、さっそく食べ歩きといくことにしよう。(2006年2月11日食記)

旅で出会ったローカルごはん40…鹿児島・天文館 『熊襲亭』の、キビナゴに豚骨、薩摩料理の数々

2006年02月24日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 熊本で1泊して、友人と天草の魚を肴に旧交を温めた翌日は、九州の南端の鹿児島まで一気に移動する。新八代駅へ出て、そこから九州新幹線に乗り換えると、鹿児島中央駅までは30分ちょっととあっという間。中心街である天文館に到着したのは17時過ぎで、ちょうど酒が恋しくなる時間である。天文館は学生の頃に数人の仲間と訪れたことがあり、名物のキビナゴの刺身を肴に薩摩焼酎を空けまくったものだ。いわば、青春思い出の地である界隈を、その時に入った店はどこだっただろう、などと記憶をたどりながら歩いていると、格式ありげな立派なたたずまいの料亭に出くわした。堂々たる店構えに躊躇していると、「もうやってますよ、どうぞ」と中からお姉さんに迎えられ、そのまま店内へ。太い木の梁がむき出しの店内は、まるで薩摩の旧家のよう。鹿児島の繁華街にいるとは思えない雰囲気である。

 そんな外観や内装から分かるように、この熊襲亭は、鹿児島屈指の歴史を誇る薩摩料理の老舗だ。豚骨、キビナゴの刺身、酒ずしなど、定番の薩摩料理が各種揃っており、代表的な一品料理のセットを頼んで薩摩焼酎を傾けることにした。せっかくだから地元でしか飲めない銘柄を頼もうと、お兄さんに聞くと「お湯割りなら、『燃ゆる想ひ』はいかがでしょう」。市内の相良酒造が醸造元で、有機栽培のサツマイモを下田七窪の名水で仕込んだ希少な品だ。まずは薩摩揚げとキビナゴの刺身、そして「黒じょか」という平たい急須のような酒器に入った焼酎も運ばれてきた。さっそく黒じょかを傾けて一杯。あらかじめ6対4に割ってあり、まろやかなのどごしの後、胃の中でチリチリと熱い。

 おかげでどんどん進むから、くっと空けては揚げたての薩摩揚げをガブリ。ワサビ醤油で頂くのが鹿児島流で、皮がサクッ、中はほっこり熱々で、魚の香りがとてもいい。材料の魚介は白身がおいしいエソのほか、近海でとれるアジやイワシ、トビウオ、サバなど、旬の新鮮な魚なら何でもいいとか。中にゴボウやニンジンといった具を入れることもあり、「うちの薩摩揚げの具は5種類で、何が当たるかはお楽しみです」とお兄さん。ちなみに自分の薩摩揚げには、大きめのニンジンがひと切れ入っていた。

 そして、焼酎にさらによく合う学生時代思い出の肴はやはり、キビナゴだ。キビナゴとは、錦江湾など鹿児島の近海でとれる、体長10センチほどの小魚のこと。とれたてを刺身で食べるのが一番で、素手で頭とワタ、骨をとって腹開きにする「手開き」にして酢味噌につけて食べるのが地元流。半透明の身に銀の鱗がキラキラ、黒のラインもくっきりと、見るからに鮮度がよさそうだ。小魚なのに身が厚く、口に運ぶとトロリと甘い。自家製の辛子酢味噌とも相性もバツグン。勢い、焼酎が進んでしまうが、調子に乗って学生の頃のペースで飲んでしまうと、後で大変なことになってしまう。このあたりからはお湯を自分でもう少しプラスして、6対4をさらに2倍ぐらいに割って頂く。

 薩摩料理の数々と学生時代の思い出を肴に、気持ちよく酔いが回ってきたところで、最後の料理である豚骨が運ばれてきた。豚の骨付きあばら肉を味噌と酒、黒砂糖、ショウガなどを加えて煮込んだこの料理、中華料理の角煮と混同する人も多い。しかし豚骨には脂の少ないあばら肉を使い、さらに調理の際には脂を極力そぎおとし、長時間煮込んで余分な脂を落とすなど、角煮に比べてかなりあっさりしている。この店の豚骨は鹿児島特産の薩摩の黒豚を、地場産などの味噌と砂糖で3時間以上かけて煮込んである。見た感じは味が濃くくどそうだが、箸をかけるとほろりと崩れ、辛さも甘さもほんのり。脂身もほとんどなく、豚肉の旨みが純粋に味わえる。「うちでは隠し味に、焼酎をちょっと加えています。また味付けに醤油を使わないのも、角煮との違いなんです」とお兄さん。ゼラチン質のトロトロのところが体にいいそうで、おかげで安心して焼酎も進む。

 学生の頃なら黒じょかを軽く追加していたが、残りを薄めに割って飲み干すと相当顔が赤い。博多、熊本と連日、昔の友人とのはしご酒で少々くたびれ気味なようなので、ひとり酒のこの日は少々自粛して? このあたりで店を後に。そういえば旅行中に、トリノオリンピックが始まっていたのを思い出し、ホテルで休みつつちょっと見てみるか。酔いが醒めての締めくくりは名物の薩摩ラーメン、といくことにしよう。(2006年2月12日食記)

旅で出会ったローカルごはん39…博多・中州 屋台『やまちゃん』の、昔ながらのトンコツラーメン

2006年02月23日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 博多駅に近いモツ鍋屋で、珍しい白味噌仕立てのモツ鍋をつつきながら焼酎をかなり飲んだ。まだ宵の口、ホテルで休むにはちょっと早いようだ。店を出たらキャナルシティ博多の前を通り過ぎ、目指すは九州一の繁華街、中洲だ。福岡の味探訪の締めくくりはやはり、屋台である。博多の屋台は中州のほか天神、長浜を中心に、ラーメンやおでん、焼き鳥などおよそ200軒が営業しているという。那珂川にかかる春吉橋を渡ろうとしたところで、川沿いに15軒ほどの屋台が並んでいるのを見つけた。金曜の晩のためどこも結構な賑わいで、人気の屋台では行列をして待つ客の姿も見られるほどである。

 店を決めかねてぶらぶら歩いていると、「ちょうど席が空いたよ」とお兄さんに呼び止められ、『やまちゃん』という屋台に落ち着くことに。屋台の前に設置された、川に面したテーブル席についたら、締めのラーメンの前にもうちょっと1杯、とおでんの盛り合わせを注文した。丸い薩摩揚げが魚の旨みとダシがたっぷり、かなりかたい牛スジをしっかりかんで焼酎をグイッとやれば、気分はすっかり博多っ子である。

 そして仕上げは長浜トンコツラーメンだ。ここもラーメンの人気店で、長浜トンコツラーメンを頼むとキクラゲとのり、青のりがのったシンプルなラーメンが出された。さっそくスープをひと口。塩味が強く、荒っぽいこくは豚骨ならではの味わいで、スープにあまり手を加えず豚骨の風味で勝負といった、これぞ博多ラーメンの原点の味である。少々しょっぱいが、酒のあとにはいいかも知れない。

 お洒落なモツ鍋屋のように、流行や時代の流れに合わせたものと、屋台のように昔のまま変わらないもの。同じ福岡の味をとっても、ずいぶん表情が異なるようだ。ホテルへ向けて歩いていると、右から左からどんどんかかってくる、呼び込みのお兄さんの声。ちょっとばっかり気になってしまうのは、さっそくモツ鍋の効果てきめん、といったところか。(2月中旬食記)

旅で出会ったローカルごはん38…広島・本通り 『若貴』の、生エビ生イカたっぷりのお好み焼きスペシャル

2006年02月20日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 広島のお好み焼きの殿堂的存在の「お好み村」でお昼を頂いた後、食後に原爆ドームと平和記念公園をぶらりと散歩。小1時間歩き回ったせいか、おやつ代わりにもう一枚、お好み焼きが食べたくなった。そこで「お好み村」に向けて引き返す途中、本通りのアーケードで「広島名物、お好み焼き『村』」との垂れ幕を見かけ、思わず足を止めた。ランドマークビルの4階にある店、『若貴』の宣伝のようで、すぐそばのお好み村に対抗してか、何とも思い切った表現だ。広島の市街にはおよそ2000軒ものお好み焼き屋があり、店同士でも激しくしのぎを削っているという。2枚目はせっかくだから、「殿堂」のお好み村以外の店で頂いてみるのもいいかも知れない。

 エレベーターで4階へ上がって扉が開くと、屋台風のコーナーの前にテーブル席がいくつも並んでいる。何とフロアひとつがすべて、1軒のお好み焼き屋なのだ。「うちは観光客のほか地元の客、特に広島の郊外からやってくる人も多いんです」と話す店のお兄さんによると、この店は市街で屈指の規模を誇るお好み焼き屋だという。テーブル席のひとつに腰を下ろし、壁にいくつか貼られた品書きの中から、おすすめの「お好み焼きスペシャル」を頼んでようやく一息つく。

 広島のお好み焼きのルーツは、戦前から庶民に人気があった「一銭洋食」である。ルーツと言ってもこの一銭洋食は、水で溶いた小麦粉を鉄板で焼いた後、ネギや粉カツオを上にのせただけの、かなりシンプルな食べものだったという。この一銭洋食が元になって、キャベツやモヤシなどたっぷりの野菜に、うどん、そば、中華麺など麺類と、卵や肉、魚介類といった具を重ねていく、現在の広島風お好み焼きのスタイルができあがったのは、戦後から昭和30年代にかけて。ちょうど、新天地がお好み焼きの屋台で賑わった頃である。この店でも、鉄板にまずクレープのように薄くのばした生地と卵が焼かれ、さらにキャベツに豚肉、焼きそばが順番に積み重ねられていく。店の人はこてを器用にカチャカチャと使いながら、手早く炒めたりひっくり返したりと忙しい。別に炒めたエビとイカが仕上げにたっぷりのせられたら、いよいよできあがりだ。

 こんもりと盛り上がったボリューム満点のお好み焼きを、こてで十字、さらに8等分に切って、一片を割り箸でつかんで口いっぱいに頬張る。こってりと濃厚で甘いソースがからんだ生地とそばに加えて、市内の観音町特産の千切りネギなどシャッキリと瑞々しさが残る野菜、さらにエビとイカの甘味が、それぞれ相性バッチリだ。エビとイカは生の物を使っているから、外は香ばしく、中はしっとりと柔らかい。下に敷かれた豚肉が、味の下地の旨みを出している。もちろんキャベツたっぷり、カリカリのそばもいっぱいと食べ応え充分で、わき目もふらず、ソースをからめてひと口、そしてもうひと口。

 全国からお客がやってくる観光名所のお好み村、そして地元客に評判のこの店と客層にやや違いはあるが、どちらも安くてうまくボリューム満点の、広島庶民の味の真髄を伝えていることに変わりはない。今日2枚目のお好み焼きをすっかり平らげ、店を出るともう日が傾いている。灯りはじめた流川のネオンの誘いに足を止めないのは、軽い財布のせいか、それとも満腹の腹のおかげか? (2006年2月10日食記)

旅で出会ったローカルごはん37…博多 『越後屋』の、白味噌京風仕立てのモツ鍋

2006年02月18日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 モツ鍋がかつて東京でもブームとなったのは、バブルの末期ぐらいだろうか。そもそも博多の代表的な郷土料理のひとつで、牛の内臓をキャベツやニラなどの野菜と一緒に煮込んだ、栄養満点のスタミナ料理。気取らない庶民派のこの料理が当時、トレンドのひとつになっていたとは、今思えば何だか不思議なものだ。渋谷や六本木の小じゃれた雰囲気のモツ鍋屋に、イタリアブランドのスーツに身を包んだバブル成金が、きれいどころの取り巻きをひきつれて出入りしていた… なんて話を思い出すと、上り調子の時流ならではの勢いというか節操のなさ?が、こんな時代においては懐かしく、ちょっとうらやましい気がする。

 先週末に博多を訪れた際、知人にモツ鍋屋での宴席をセッティングしてもらった。九州一の繁華街である天神や中洲へいざ、繰り出して、と気分は盛り上がるが、案内された店は博多駅から徒歩15分ほどのところ。周囲には飲食店の少ない、物静かな一画である。『越後屋』との店名が記された木板の看板に緑の大きな暖簾をくぐると、店内も木を生かした落ち着いた内装。一杯飲み屋風のモツ鍋屋の印象とはずいぶん趣が異なる、しゃれた雰囲気の店である。そして満席の店内のほとんどが、若い女性のグループ客。これまた場末の飲み屋で鍋をつつきながら一杯、といった感じの男ふたりの我々の方が、かえって浮いてしまっているほどである。

 掘り炬燵式の客席に落ち着いて品書きを開くと、モツ鍋1人前900円のほか、レバーやセンマイ刺し、酢もつなど単品のメニューも豊富だ。2000円のコースにはモツ鍋に加え、牛タン塩焼き、サラダ、キムチがつくのでそれに決定。芋焼酎「霧島」のお湯割りを傾けているとすぐに、銀色の大鍋が運ばれてきた。表面に浮かぶたっぷりのニラの緑、どっさりかかった唐辛子の赤が鮮やかである。コンロにかけて軽く煮えた頃が食べ頃で、おたまでよそうと底からモツがたっぷり。この店では小腸のみを使っているとのことで、トロリとしたゼラチン質の部分が甘く、くせのない味わいだ。

 モツ鍋は一般的に、醤油味ベースなのが中心なのに対して、この越後屋のモツ鍋は「京風白味噌仕立て」。京都直送の西京味噌を中心とした上品な味付けが、女性客に好評を博しているようだ。具は厳選した鮮度バツグンのモツをはじめ、歯ごたえのいいキャベツやゴボウ、地元福岡産のニラといった、素材の持ち味を生かしているのが身上。食べ進めるとニラの鮮烈な香りがプンプン、唐辛子の強烈な辛さが合わさり、これはスタミナがつく。プリプリのモツにゴボウの土の香り、シャッキリのキャベツの甘さと、様々な食感も楽しい。ゆずの香りがするので店の人に聞くと、「揚げ豆腐の中に、九州特産の柚子胡椒が入っています」とのこと。爽やかな香りが、甘めの味付けに締まりを出しているようだ。

 鍋をつつき、焼酎を傾けながら昔話に花が咲き、気が付けば鍋の中は白味噌の汁だけになってしまった。鍋の最後の仕上げはご飯を入れて雑炊、といくところが、チャンポンの麺を残った汁へ入れるのが地元、博多流。煮詰まって濃厚な味噌のせいで、味噌あんかけ風のこってり味の麺をすすって締めくくりとした。それにしても、女性客御用達のモツ鍋屋が繁盛しているとは、さすが、本場の博多。今では東京ではほとんど見かけなくなったモツ鍋屋だが、こんな不景気の時代こそ、心と体にスタミナと元気をつける強い味方になるのでは。(2006年2月10日食記)