ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…岩手・宮古 『東和食品』の、花けずり昆布

2017年11月13日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
農業指導者だった宮沢賢治は、農業や畜産業を題材とした作品を、岩手の地に数多く残している。そんな中で『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』は、氏の作品としては珍しく、漁業がちらりと出てくる異色作だ。飢饉で家族が離散したネネムが糧を得るため、ばけもの世界で昆布漁にこき使われる。現実世界の昆布漁は、海中に自生する昆布を船上から刈り取るのだが、作品ではネネムが栗の木にハシゴで登り、なぜか空へと網を放って昆布をとるとある。不思議な漁法の設定も、イーハトーブの賢治ワールドとくれば、氏の童話らしい奥行きとファンタジーが感じられてならない。

昆布がとれるところだからここに工場を構えたのさ、とばけもの紳士がネネムに語っていたが、県別漁獲量で二位を占める岩手・三陸沿岸の宮古にも、古くから当地で操業する昆布工場がある。「東和食品」の看板商品「花けずり昆布」は、独自の技術で昆布を極めて薄く削ったもの。ふわふわと薄く軽い見た目は、ネネムが網を投げた空を漂っているのに似つかわしいイメージがある。その作品中の昆布ゆかりの逸品、といいたいところだが、素材の昆布は全国1位の生産量を誇る北海道・南かやべ産の真昆布を使用。肉厚で歯ごたえがよくそのまま食べるのに定評がある宮古産に比べ、うまみと香りがよく出るため、削り加工に向いているそうである。

その実力を測るには、多種多彩な食材と料理との相性を見てみるべく、メーカーの方と訪れたのは新橋「生マッコリ家」。削り昆布は何といっても豆腐の友、とばかり、まずは温豆腐に合わせてお手並み拝見だ。しっかりしたつくりの豆腐には柚子胡椒が添えてあり、さらに上から花けずり昆布をたっぷり振ってひと口。豆腐の大豆甘さに昆布のコクが展開し、旨味をひと味押し上げてくれる。自家製の柚子胡椒の鮮烈さにも負けておらず、薬味の役割的には豆腐の素地を引き上げる柚子胡椒、下支えする花けずり昆布、といった感じか。

意外なヒットの予感が冷たい中華麺とのマッチングで、酢と柑橘の酸味に昆布のだし味がキッチリと相乗。昆布特有の粘りが麺との相性もよく、味も食感もまとまりある一品に仕上がっている。夏には涼感を感じ食欲も増進する、いい感じの味のコントラストだ。そして混ぜご飯は、燻製にしたサケのほぐし身の味と昆布の旨味が、大きくスイング。昆布の主たる旨味成分であるグルタミン酸が塩分で引き立ち、かぐわしい燻製香とともに実に見事な出合いものである。サケは宮古を代表するローカル魚介だし、宮古由縁の食材同士で新たな地元の名物料理となる予感がする。

パラレルワールドの不可思議さが真骨頂な賢治の作品は、異なる世界の交錯から漂う未知なる魅力に、読む人がワクワクと気持ちをそそられる。北海道産の昆布を、宮古で編み出した技術で削る。花けずり昆布が醸し出す味の奥行きも、素材と加工法が異なる地域を経て交錯することで、生み出される魅力なのかも知れない。

エクストールイン厚狭@厚狭

2017年11月06日 | 宿&銭湯・立ち寄り湯
初めて下車した山口県厚狭では、駅前「エクストールイン」に宿泊した。7000円ながらサウナと露天風呂付きの広い大浴場、マッサージチェア無料で大量の漫画があるリラクゼーションルームが完備。部屋も広くバリアフリーで、部屋着はスウェット、枕元には電源とUSB端子があるなど、至れり尽くせりでオススメだ。

難点は、周囲に全く飲食店・コンビニがなく、駅ナカのキヨスクで買った弁当での夕飯となった。

ローカル魚でとれたてごはん…唐津 『玄洋』の、イカの活け造り

2017年11月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
玄洋は唐津神社の裏手にある海鮮料亭。座敷席に囲まれるように生簀が据えられ、奥の水槽にはツイーと群泳するイカの水槽も。名の通り玄界灘の魚介が集まっているよう。小杉買った箸置きの魚種を賞味したいところだが、サバは話題の新進ブランド魚の「Qサバ」、クエは滅多に入らない幻の大型魚と、なかなかの高級魚介だけに迂闊になぞらえたら財布に響きそうだ。

せめてイカならば予算内か、と品書きを眺めたら、まる一尾のつくりがなんと3000円とあった。普段食べるイカ料理の相場からすると結構なものの、「活け造り」が水揚げが近い立地ならではの仕様なのだろうか。これに決定、小鉢や茶碗蒸しなどがつく「活け造り膳」も勧められたがさらに高いので、ご飯だけ頼んでイカオンリーの刺身定食といってみよう。

イカのつくりと聞き、角皿にのった白い刺し盛りをイメージしていたところ、運ばれてきたのは砕いた氷がたっぷりの大鉢で、上にはスケルトンの謎の物体が横たわっていた。なんと、耳(えんぺら)から頭から下足まで全部揃った、イカのまるごと完全体ではないか。イカソーメンとかイカリングとか、イカ料理といえば一部の部位が食材になっており、まる一尾をひとりで、しかも生で食べることなどまずない。恐る恐る観察すると、三角のえんぺらは敷かれた笹が透過するほどの透明度で、まるで現代アートかのように見とれる美しさ。対照的に頭の部分はギョロ目が威圧し、ゲソは箸が触れるとウネッと踊り思わずビクッ。どこからどう食べて良いものか、軽く途方に暮れてしまう。

潮流の早い対馬暖流が流れる玄界灘は、身の締まった魚介の宝庫でもある。イカもこの海域の主要漁獲で、佐賀県では呼子地区を中心とする玄海地区で、主に水揚げされている。季節ごとにとれる種類が変わり、夏秋は透明度があり食感の良いヤリイカ、冬春は身が厚く甘みの強いミズイカが代表的だ。生簀から出して間髪入れずにおろし、まだ動くうちにお客に供する。語るは簡単だが、イカは人の体温で火傷するほど温度の影響を受けやすく、鮮度落ちも激しいため、捕らえてから活きたまま運んで料理屋で出すのは、かなりのスピードと設備を要するという。こうした技と鮮度も味と値段のうちと思えば、いい値段がするのもさもありなんなのだろう。

えんぺらの刺身を数切れつまみ上げると、縦横に包丁が入った透けた身は意外と薄い。醤油をつけて一口スルリ、といったところでこれは驚愕。ゴリゴリの歯ごたえは生命感にあふれ、ピュアな甘さは見た目と同じ、透明感ある味わいだ。イカの地力は鮮度にありというが、これまで出会ったことない衝撃的なイカの味に、思いがけず身ぶるいしてしまう。甘めの醤油がイカの甘味をより引き立ててくれ、逆にワサビは使わないほうが、持ち味を損なわないよう。ご飯を頼んだのが大正解で、イカをつるりとすすっては飯をかっ込むと、シンプルイズベストな至福のイカ刺し定食に、もう笑顔が収まらない。

そんなバキバキと威勢のいい歯ごたえも、食べ進めるうちにクキクキ、シコシコとだんだんトーンダウンしてくる。見た目の透明感も、次第にほんのり白っぽさがかかってきた。命の旨さは時間の経過とともに儚く収束していくようで、食欲に合いの手を入れるように時折踊ってたゲソも沈黙した様子。するとお姉さんが、まだ食べ終えてない皿をいったん下げます、とやってきた。刺身のイキが落ち着いてきたら、ゲソと一緒に天ぷらにするのが、当地流のイカ刺しの食べ方だそう。品書きに特記がなかった分、想定外に料理が倍増して得した気分だ。

ほどなく再登場した揚げたてのイカは、歯ごたえがすっかり復活していた。ゲソはブツブツと小気味好く、えんぺらはパッキパキに元気に。加熱したので、生とは違う膨らんだ甘みがまたうまく、刺身の生(き)に負け気味になったタイミングにも嬉しい。塩だけでいただくのが、イカならではの素地が出てきてよろしいよう。半分残しておいたご飯とともに、後半は至高の天ぷら定食にて締めのご飯となった。

ローカル魚でとれたてごはん…佐賀・唐津 「小杉窯」の、魚介の唐津焼いろいろ

2017年11月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
唐津の街中を歩いていると、至る所で唐津焼の店を見かける。安土桃山期から当地に根付いた焼き物で、茶陶器の名品を生み出す傍ら、普段使いの品々も広く産出しているのが特徴だ。昼食後に駅前の「五福の縁結び通り」で見かけた店に立ち寄ってみたら、一風変わった品々につい、足が止まった。様々な魚種をかたどった器や置物が並ぶ中、目をひいたのは魚の箸置き。たくさん並ぶ様は魚群のようで、どれも緻密かつ躍動感にあふれている。窯元に行けば魚の陶芸作品がいっぱい直売されている、と聞いては、午後の城下町巡りはさておいても、玄界灘に面した魚どころの焼き物を、鑑賞しに行かねばなるまい。

駅で借りた自転車を、線路に沿ってこぐこと一駅ほど。和多田駅そばの丘の上にある窯「小杉窯」の呼び鈴を押すと、突然の訪問にも関わらずご主人がにこやかに応対してくれた。名窯地の陶芸家と聞くと、年配で髭の面持ちの求道的な先生を思い浮かべるが、作家の小杉隆治さんは40歳前後とお若く、明るく気さくな雰囲気にこちらもリラックスする。そして2階のギャラリーに通されると、棚と壁一面に唐津焼の魚、魚、魚。皿に香炉に置物など、魚をモチーフにした作品群に囲まれて、いきなりテンションが上がりまくりだ。

小杉さんによると、氏の製作する作品の品数というか魚種は現在、120種を超えるそうである。カサゴやアラカブやフグなど丸みのある魚は、香炉などのふた物に。ヒラメやカレイやチヌなど平たい魚は皿にするなど、魚の形態で作品を作り分けているという。なので見た目のみを重視したオブジェではなく、実用にかなった日用雑貨なのがポイントだ。「魚図鑑」と銘打ったカタログの表紙には、マダイの平皿に盛られた刺身が実にフィットしていて、うまそうに見える。使ってみた方からは食欲が沸くと言われるそうで、食材になじむのは同じ食材の絵柄、魚料理には魚の器がよし、ということか。

ところで、なぜ魚をモチーフにした作品を主眼に置いたのか尋ねたところ、「唐津焼で魚を焼いている作家は、ほかにいなかったからですね」との答えが返ってきた。小杉さんは唐津焼の窯元の家系という訳ではなく、この世界に携わりはじめたのは大学を卒業した時から。その際、唐津に多くの窯がある中で、自分のみが作れるものを考えての結論が、魚の唐津焼なのだそうである。小杉さん自身も釣りをしていたことがあり、魚が身近な題材だったのも一因とか。周辺の唐津沖や玄界灘は、回遊魚や磯魚や砂地の底魚など、多彩な魚種が棲息している。バラエティに富んだ題材に恵まれているのも、このテーマの創作に向いた環境と言えるだろう。

そして先ほどの店でも目に止まった箸置きは、このギャラリーでは魚群の大きさがさらに倍増。80種あまりの魚種が勢ぞろいする様は、まさに唐津焼の立体お魚図鑑だ。見て分かるなじみの大衆魚では、アジにサバにカツオにイワシ、サケなどが。鯛類だけでもマダイに始まりイシダイ、イシガキダイ、チヌにメジナ、変わり者ではコブダイのたんこぶにアオブダイのエメラルド色まで、しっかり表現されている。ご当地近海ものもちゃんとフォローされており、有明海はムツゴロウにワラスボ、アゲマキなど。 唐津ゆかり魚も、呼子のイカにくんちで供え物となるクエ、養殖が盛んなクルマエビと、ローカル魚の勉強にももってこいだ。

夢中になってひとつひとつ手にとって観察してみると、細部の造作まで実に忠実に作られているのにも、改めて気付く。製作の際には写真や図鑑などの資料も参考にするそうだが、いちばんの参考情報は「釣ったときの記憶ですね」と小杉さん。釣り上げた際のリアルな感触を造形にすることが、この躍動感とリアリティにつながるのだろう。一方、適度なデフォルメもポイントで、特徴をあえて強調させることで、キャラを押し出しているそうだ。いかつい顔のヒラメは唐獅子のような睨みを効かせ、とぼけた面構えのカワハギはひょっとこ面を引き出す。どの魚にもかならず、かっこよさと愛嬌があるんです、とのご主人の言葉から、作品愛であり魚愛が伝わってくる。

もちろん何尾か連れて帰りたくなり、当地ゆかりの魚からクエとイカに加え、唐津の新ブランドサバ「Qサバ」で売り出し中のサバを選択。大きめに作られているので飾り物にもお勧めだそうで、支払いのため三つ並べた卓の一角に、ミニ玄界灘らしい海風景が即座に広がって見えた。