ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん81…徳島 『居酒屋とくさん』の、ボウゼの姿寿司

2008年10月21日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん


 夕刻の徳島駅からホテルへと歩いていく途中、響いてくる賑やかな囃子に思わず立ち止まる。囃子は沿道の公園からで、遠巻きに眺めてみるとどうやら、阿波踊りの練習をしている様子。昨日まで滞在していた高知はよさこい祭り、そして徳島では阿波踊りと、四国は夏のお祭りシーズンたけなわである。

 ホテルに荷物を置くのもあわただしく、徳島駅付近の繁華街へと再び引き返す。細い路地には間口の狭い飲食店が軒を連ねており、居酒屋や定食屋に混じり、徳島ラーメンの文字も見られる。飲んだ締めにすすりたくなりそうだな、と締めの店を検討する前に、今宵の一杯の店を見つけるのが先決。ラーメン屋の数軒隣に、鉢巻をキリッと締めた親父さんのイラストの看板にひかれ、この『居酒屋とくさん』のカウンターへとふらりと吸い込まれていく。

 卓上に置かれた箸袋や灰皿にも、看板と同じイラストが描かれており、カウンターの向こうに目をやると、イラストと同じ顔の頑固そうな風貌の親父さんが、板場で頑張っているのが伺える。板場に掲げられたホワイトボードには、この日お勧めの魚介いくつも板書されており、目で追うと鳴門の天然鯛やタコの刺身、徳島産岩ガキ、淡路近海が特産のハモの湯びき、徳島産とあるアユ塩焼きと、鳴門海峡や近海、周辺の魚介が目白押し。最近注目されている名物地鶏、「阿波尾鶏」の文字も見られる。
 まずは鳴門産のサバの刺身に、阿波尾鶏の焼き鳥でビールを、と注文したところ、あいにくサバの刺身は終わりで、かわりに大トロしめサバを勧められた。サバの大トロとの名の通り、身には茶の脂がびっしりとついていて、子持ちコンブつきなのが独特だ。徳島名物のスダチを絞って頂くと、身はサクッ、脂は旨みがどっしり。スダチの酸味に負けないズッシリ重い味で、子持ちコンブのぷつぷつの歯ごたえが心地よい。
 ツマにはワカメがたっぷりで、鳴門といえばワカメも地魚ならぬ地の「海草」だ。激しい潮流にさらされて歯ごたえがよくなり、草木灰を用いた「灰干乾燥」により、鮮やかな緑色と瑞々しい風味が保たれているのが特徴である。この手法は手間がかかる上、最近は灰の確保が難しくなったこともあり、次第に塩蔵加工が主流になってきているのだとか。
 肉汁は少なめで肉のうまみが豊かな、阿波尾鶏の焼き鳥も合わせてつまみながら、あっという間にビールをグイッと空けてしまったら、おかわりは阿波の地酒「芳水」の吟醸「明快辛口」といきたいところ。

 
そして続いての鳴門の魚介はタコ。鳴門のタコといえば鳴門鯛と並ぶ、鳴門海峡で水揚げされるブランド魚介だろう。ともに海峡の激しい潮流にもまれて身が締まり、潮流に流されてきた小魚やエビ、カニといった豊富な餌に恵まれているおかげで、味がよくなるといわれている。

 ちなみに、これらの魚介を育む鳴門の渦潮は、鳴門海峡の西側の瀬戸内海と東側の紀伊水道との間に、潮の干満によって高低差が生じ、高いほうから低いほうへと鳴門海峡を経て、潮流が流れることによって発生する。時速三十~六十キロにもなる速い潮流が、海峡部の凹凸の激しい海底にぶつかって上昇、その際に大きな渦を巻く仕組みで、大潮の頃には直径三十メートルもの大きさになるという
 追加したたこ天は、そんな環境に生息していたおかげか、身は簡単にはかみきれないほど、グッ、グッと弾力がある。あごがくたびれるけれど、かみ続けていると甘さがフワリと漂ってくる。パチパチとした歯ごたえの吸盤も香ばしく、酒の肴向きの天ぷらかも。辛さのバランスがとれた「芳水」が、タコの身の甘みをよりふくらませてくれる。



肉汁が少なめ、うまみがあふれる阿波尾鶏。左は焼き鳥、右は照焼


 さらに阿波尾鶏の照焼も注文、鳴門の魚介に阿波尾鶏を交互に肴にしながら酒宴を進め、締めくくりには徳島名物、魚の姿寿司にしよう。アジの姿寿司もうまそうだが、徳島で姿寿司といえば、地魚のボウゼに限る。ボウゼとは徳島県で「イボダイ」のこと。太平洋側では松島湾以南、日本海側では男鹿半島以南から東シナ海まで広く分布する暖海性の魚で、関西では「ウオゼ」、西日本では「シス」「シズ」、大分では「アメタ」などと呼ばれるなど、各地で水揚げされている魚である。
 徳島では、秋に沿岸に集まってきたところを、底引き網で漁獲する。白身が多く煮物や焼き魚、ムニエルに向いているが、徳島県は魚の姿寿司がよく食べられる土地柄、マアジアユなどの中で特に珍重されるのが、このボウゼなのだ。漁獲される時期が秋祭りのシーズンと重なるため、徳島ではボウゼの姿寿司を家庭で作り、秋祭りに食べる風習があるという。いわば、徳島に秋の到来を告げる魚なのである。

 
つくり方は、ボウゼを丸のまま背開きにして
で締めて、身に寿司飯
を詰めこんで、上から押して仕上げる。頭と尾がついているのが特徴で、出された皿にも丸一尾の押し寿司がのっており、身には徳島産のスダチのスライスがのっている頭も尾も食べられるように、酢でしっかり締めて柔らかくしてあるので、豪快に頭からかぶりつくのが徳島流。目玉を抜いてエラも取ってあるので食べやすく、頭肉部分の味がなかなか深い。白身はしっかりと厚くついていて、やや脂が少なくかなり淡泊な味わいで。身にのったスダチと、酢飯の上のシソ、ゴマが爽やかで、南の国の寿司らしくすっきりと食べやすい。
 イボダイは最近、日本近海ではあまり獲れなくなってきており、干物など加工品で出回っているものには、遠洋で獲ったものや、北米や南米の大西洋沿岸で漁獲した類似種の「バターフィッシュ」が流通しているという。今年に関しては徳島近海のボウゼは、九月の秋口から安定して水揚げされているとのことで、地元の人たちにとっては、秋祭りのシーズンを前にうれしい話である。

 親父さんに見送られ、店頭では親父さんのイラストの看板に見送られて、店を後に。飲んだ締めに徳島ラーメンを頂くには、ボウゼの姿寿司を平らげた直後でお腹が少々苦しい。酔い覚ましと腹ごなしを兼ねてさっきの公園まで散歩して、ついでに本場の阿波踊りの練習を見物させてもらうことにしようか。(8月中旬食記)


町で見つけたオモシロごはん125…横浜・上大岡 『ドラごんち』の、激辛ドラゴンラーメン

2008年10月11日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 かつて未曾有の激辛ブームが巻き起こったのは、
1980年代。香辛料がガンガン効いた辛さ10倍カレーや、スープが唐辛子で真っ赤な地獄ラーメン、さらにせんべいやスナック、ドリンクまで、日本中の味覚が辛味一色に染まってしまったあの大ブームから、もう20年以上にもなる。
 その激辛ブームの流れを汲むエスニックブームになると、同じ辛い料理でもタイ料理やベトナム料理、インド料理といった、本場仕込みのアジアンフードが一般に認知され、人気を博すようになっていった。単なる「辛さ自慢」から、「おいしい辛さ」へと、食べ手側の嗜好が変化した影響だろう。
 激辛ブームを牽引した料理の代表である、カレーやラーメンも、また同様。スパイスを駆使して辛味や香りに深みを出したり、唐辛子や豆板醤、キムチ用いて韓国風のテイストにシフトしたりと、次第に「辛うま」路線へと転換していった。特にラーメンに関しては、その後の爆発的なラーメンブームの影響で、いまや懐かしの激辛を売りにするところは、ほとんど見かけなくなってしまったようだ。

 自宅の最寄り駅にも、かつて激辛ラーメンを看板にしていた店があった。5段階の辛さから選べる、その名も「ドラゴンラーメン」を売りにしていたのだが、店がリニューアルされた際にコンセプトが一新。激辛と180度対称的な、魚介ダシをベースにしたあっさり和風ラーメンの店に変貌してしまった。ドラゴンラーメンはメニューに残ったものの、看板の座を明け渡したからか、品書きの片隅にひっそり載っている感じ。そのせいもあって何となく、リニューアル後は頼むことが少なくなってしまった。
 界隈には、この店から独立した職人が出した店が数軒あり、先日たまたま上大岡の近くにある店を通りかかったところ、ここには「ドラゴン」が健在の様子。しかも店頭に堂々と、炎の絵柄をバックに「ドラごんら~めん」の文字が書かれた貼紙が掲げられ、ここでは看板メニューとしてがんばっているようだ。

 店名も『ドラごんち』と、かつての本家の看板ラーメンにこだわっているようで、懐かしの激辛ラーメンで昼飯にしよう、と暖簾をくぐってみることにした。カウンターに腰掛けて品書きを広げると、ほかも激辛ラーメンが盛りだくさん。石焼ビビンバ風の「石焼からみそ麺」、肉味噌とふわふわの溶き卵をトッピングした「ドラたんたんめん」、野菜がどっさりのった「大野菜ドラゴン」など、ドラゴンラーメンをベースにした辛口ラーメンが、バリエーション豊富にそろっている。
 ちょっと目移りしたが、注文はやはり定番の「ドラゴン」でいこうと、おばちゃんにオーダーしたら、「辛さはいかがしましょうか?」と、お約束の問いかけ。本家では辛さ5段階だったが、壁の貼紙を見ると、何と7段階に増えている。ゼロ、初級、中級、上級、ドラゴン級に加え、「おいしいのはここまで」と注釈があるスーパードラゴン級、そして「責任負いません」とあるファイナルドラゴン級と、辛いほうに2つ増えているのが何ともすごい。


激辛を看板にしているのが伝わる店頭


 本家でよく頼んでいた、「ふつうの辛さ」にあたる中級を頼み、さらに品書きを眺めていると、辛さへのこだわりはそれだけではなかった。ファイナルドラゴン級の上に、「デスドラゴン最終章」なるものが、デフォルトメニューの品書きに挟まれているのを発見。ものものしい名の通り、写真を見るとスープは赤やオレンジどころではなく、もはや赤黒いというか紫色というか。値段が普通の「ドラゴン」よりやや高いのに対して、「香辛料・調味代分が高くなっています」との注釈が、より凄みを感じさせる。
 このラーメン、チャレンジメニューになっていて、4分で食べ終えると無料になるとの貼紙も見られる。「おいしいのはここまで」の辛さの2段上だから、味よりも辛さ重視のキワモノメニューなのだろうか。今は大食いブームなので、制限時間で激盛りメニューを平らげると無料、というのはよく見かけるけれど、激辛系のチャレンジは近頃ほとんど見かけなくなってしまった。だから何となく、激辛ブーム当時のノリが思い出される貼紙でもある。

 そんな品書きや貼紙の様子から、自分が頼んだラーメンはどんな辛さなんだろうと、戦々恐々としながら待つことしばし。運ばれてきた丼のオレンジ色のスープの上には、真っ赤なラー油の油膜が浮かび、かつて本店で食べたラーメンよりも、ずっと辛そうに見える。
 ビシッとした刺激を覚悟の上で、まずはスープをすすってみたら、意外にも刺激的な辛さはほとんど感じない。辛味の香りが刺激的に立ちのぼるだけで、味のほうはかなりマイルド、豚骨ベースのしょうゆ味のスープにしっかりコクがあり、その上に適度な辛味の刺激が心地よい。かつてのブームの頃の激辛麺といえば、唐辛子の辛さがガンガン、スープの味は分からないぐらい強烈だったのに、これはスープの味と辛さの二層の組み立てがしっかりしていて、辛さを味わえるラーメンとして完成されている。
 このスープが、中太の縮れ麺とのからみが抜群。具のネギとニラは、ともに刺激臭が強い上に口内でがさつくので、ラーメンの具としてはあまり好きではないのだが、ここのはしっとり瑞々しく、香りも程良く控えめ。だからたっぷりのっているけれど、全体の味の構成にうまくなじんでいる。スープに染みさせてから麺と一緒にいただくと、香りがひき立ちさらに食欲をそそってくれる。

 貼紙によると、ここのラーメンは締めにスープにごはんを入れるのがお勧めとあり、「辛さを味わう」とのコンセプトを、最後まで徹底させている。自分は麺だけで充分満腹、辛さも心地よく味わったので、軽く汗ばんできたところで、これにてごちそうさま。
 この店の本家でも、看板メニューが替わってしまったように、近頃は激辛系を売りにするラーメン店は少なくなってしまった。それでも単なる辛さ自慢ではなく、この店のように辛さをうまさとして売りにしているところは、流行り廃れに関係なくお客に支持されているようだ。
 ちなみにさっきのドラゴン最終章、壁にある成功者数を記す「正」が書かれた紙によると、割と成功しているよう。チャレンジに失敗してもペナルティーは1000円なのも良心的で、実は激辛ながらうまさをしっかり追求した、おいしいスペシャルメニューなのかも。(200810月4日食記)


街で見つけたオモシロごはん124…銀座 『ABCラーメン』の、辛子とんこつつけ麺

2008年10月05日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 自分は普段、昼食は家から弁当を持参しているのだが、毎年
8月だけは昼食は毎日外食する月間となっている。理由は、子供たちが夏休みに入って弁当が不要になるため、自分の分だけのために家内の手を煩わすのが申し訳ないから、である。
 主に仕事をしているのが、東京を代表する味の店が集結する銀座だから、いつも月の初めのうちは、Hanako最新号で話題の店に行ってみよう、ミシュラン掲載店のランチを試してみよう、などと精力的に食べ歩きを楽しんでいる。しかしながら、ランチメニューでも1000円オーバーが当たり前という場所柄、こんな調子で気ままに店を選び続けた結果、半月ほどで昼食用の予算に黄信号が点灯してしまうのもまた、毎年の恒例。マックや吉牛にゆで太郎も、銀座界隈にないことはないけれど、せっかくの食べ歩き月間なのにチェーンやFF、立ち食い系でお昼を済ますのも味気ない。

 8月も半ば近くなったこの日は、手軽な予算でお昼を頂ける候補の店に向かって、銀座通りを一丁目から晴海通り方向へとぶらり。途中、マロニエ通りと銀座通りの交差点付近には、ブルガリにシャネル、カルティエのブティックビルが、四つ角それぞれに店を構えている。ブルガリには「イル・リストランテ」、シャネルには「ベージュ・アランデュカス・東京」と、それぞれにイタリアンにフレンチのハイセンスなレストランが併設されている、と情報誌で見かけたのを思い出す。
 界隈には外国人観光客の姿も多く見られ、最近の銀座には、お金持ちの外国人旅行者が豪快にショッピングをしていくという話を耳にするが、彼らは高価ブランド品を「大人買い」した後に、そうしたブランドレストランで、東京最先端の洗練されたランチを楽しんでいくのだろうか。
 
そんな小じゃれたビル群を、横目で見ながら通り過ぎ、目指したのは銀座通りに面したビルの地下にある『ABCラーメン』である。銀座のランドマーク・和光の手前という銀座のど真ん中にありながら、メニューのほとんどが1000円を切るという、立地の割にリーズナブルな店。安く昼食を頂くなら、銀座でもラーメンが一番だ。


店は地下にある。人気メニューなど、店頭は貼紙でいっぱい


 地下にある店への入口へと階段を下りようとしたら、入れ違いに外国人の旅行者らしいグループがぞろぞろと登ってきた。銀座とはいえごく普通のラーメン屋然とした店なのに、こんなところまで外国人旅行客が足を運んでいるとは、と少々驚きつつ店内へ。奥のテーブル席へと通されて品書きを開くと、大きく記された「麻醤麺」の文字が目に飛び込んできた。ゴマ風味の濃厚スープに挽肉がのった、坦々麺風の見かけで、店の一押しメニューらしい。
 これに決めてもいいのだが、猛暑の銀座通りを延々歩いてきたこともあり、今日のところは温麺よりはさっぱりとつけ麺でいきたい。つけ麺も店の看板メニューのようで、つけだれのバリエーションが幅広いよう。しょうゆベースに煮干にかつお、昆布でだしをとった和風しょうゆ、2種の味噌にゴマを混ぜ込んだ特製ゴマ味噌、中にはカリーだれなんてのもある。暑さのせいか辛いものが食欲をそそり、カリーに決めかかったところで最下段の「辛子とんこつ」の文字にひっかかった。コクがあるカリーよりも、さっぱりと和風の辛さのほうを選ぶことにして、これに決定。
 店ではつけ麺の麺に自信があるらしく、麺自体を味わってほしいためデフォルトにはトッピングはない。別注で煮玉子、メンマ、梅干、そして辛味のダメ押しに「魔女」とのネーミングの特製辛味噌などを、好みで選ぶ仕組みとなっている。ほか、ギョーザなどサイドメニューも充実しているけれど、食べたいがままにあれこれ頼みすぎて、明日以降の昼食の残り少ない予算に影響が出てしまってはいけない。

 
うまく1000円以内で収まるように、トッピングはやめて半チャーハンをつけることにして、追加料金で量が増やせる麺は並盛りに抑えておいた。それでも、運ばれてきたざる上の麺は、結構な量。さらにトッピングは別注しなかったのに、つけだれの中にメンマやチャーシューが入っていたのはありがたい。つけ麺用に麺に絡みやすいよう、細かく刻んであるのが親切だ。
 
麺の山をひとたぐりして、さっそくつけだれに浸してひと口。つけだれは白濁のトンコツスープの表面に、ラー油のようなオレンジ色のギトギトした膜が張っていて、見るからに激辛そうな色。なんと、真っ赤な唐辛子のかけらまで浮いている。かなり濃い目のスープらしい見た目の割には、麺をすすってみると意外にそうでもない。トンコツのだしの下地がしっかりしていて、これに加えてラー油の適度な辛味と爽快な香ばしさの、2層の味が楽しめるのがいい。がっちり厚みのある、立体的味わいのスープで、辛さは大したことないがじゃんじゃん食欲をそそる。
 さらにこのつけだれに、中太のちぢれ麺が抜群によく絡む。「手もみ中太麺を温度管理して一晩寝かせ、腰を出した」とあるだけに、腰が強くグイグイと食べごたえがある。スープの重厚さとともに、なかなか力強いつけ麺である。
 卓上の薬味の中でも面白いのは、セルフサービス式のゴマ。卓に小さなすり鉢にすりこぎが一緒に置かれていて、好きなだけすってつけだれに加えるのだ。ゴマはセサミン、カルシウム、ミネラルがたっぷり含まれていて、猛暑の中の栄養補給にはもってこい。ゴマはすればするほど吸収が良くなるので、ゴリゴリ、パチパチとしっかりすっては振りかけ、麺をすすってはまたゴリゴリ、を繰り返す。


パラリとした仕上がりのチャーハン。半チャーハンは麺とセットのみ受付


 壁に貼られた品書きには、カクテル各種や銘柄ものの焼酎も揃っていて、おつまみになる一品料理も充実しているらしい。つけ麺も、半チャーハンもさっと食べ終えて、再び暑さの中へと戻る前に、サングリアかバドワイザーをぐっと空けてさっぱりしたいところだが、まだまだ夏の日は高い。今度訪れるのは、銀座の一等地では群を抜いてリーズナブルな飲み屋になった時間帯にしよう、と店を後にする。
 地上へ出る階段を昇りながら、壁に掲示された店の能書きの貼紙によると、先代はなんとフレンチ出身の料理人だそうだ。その技法や食材を用いたメニューもあり、先ほどの麻醤麺のスープも、バターと生クリームを用いてマイルドに仕上げている、とある。銀座ど真ん中のリーズナブルなラーメン屋は、実は結構洗練された店だったよう、銀座観光を楽しむ外国人のお客の眼鏡にも適ったということか。ただ単に、「ABC」という英文字の店名が、外国人に親しみやすかっただけだったのかも。(2008年8月14日食記)