口当たりはペナペナ、歯ごたえはモチモチ。麺料理とは思えないこの頼りない食感こそが、刀削麺の口福の源だ。
グラグラ湯が沸き立つ鍋の上で小麦粉玉と包丁を構え、シャッ、シャッ、シャッ…と削いでゆく。湯で上がりは麺というより、限りなく細長いワンタンのよう。これに辛めのつゆが染み込み、ピリリとヒタヒタな魅惑的うまさがいい。小麦粉玉をこねたり伸ばしたりしないから、ソフトで汁が深く染みるのも道理である。
同様の食感の料理で、岩手県の郷土料理の「ひっつみ」が思い浮かぶ。小麦粉玉を文字通りつまんで伸ばし、具だくさんの汁と煮込んだ鍋料理。鶏ダシのつゆが染み込んだのを、たっぷりの野菜といただけば、南部地方の厳しい冬もまた、ホカホカに楽しめるというもの。
刀削麺発祥の山西省は中国屈指の麺処だそうで、冷麺やじゃじゃ麺を擁する岩手県もまた、同様。独特な小麦粉麺料理からしても、両地の麺食文化の根底が、どこかで繋がっているのかも。昨今、国同士が云々いわれるが、こんな風にうまいものをたどり繋がりを見出すことで、相互理解のきっかけにならないだろうか。「食いしん坊外交」、検討の余地あり?