ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…松江 『和らく』の、宍道湖七珍

2021年02月20日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
松江・宍道湖七珍てくてくさんぽの締めに、味わいに訪れたお店は、駅に近い御手船場町にあるこちら。松葉ガニ、ノドグロ、島根和牛など、地産の食材を用いた日本料理を味わうことができる。店内の生け簀と水槽を囲むようにカウンターが配されており、魚介の鮮度は抜群。奥の調理場は半オープンで、料理人の包丁捌きをちらりと覗くことができる。

こちらの売りの一つが、宍道湖七珍を通年提供できること。頭文字から「相撲足腰」と覚える、スズキ、モロゲ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミを、すべて一度に味わえるのだ。ランチ限定の「宍道湖七珍せいろ膳」は、蒸し器によそったご飯の上に、食材に合わせた下調理をした七珍をのせて蒸したもの。蓋を開けるとバッと湯気が立ち、とりどりの魚介が品よく並んでいる。

椀によそい、七珍それぞれを散らした、まずは一杯。シジミは醤油ベースで酒煎りしてあり、粒が大きい分、味が強く滋味あふれる食べ応え。塩焼きのスズキは白味が瑞々しく、醤油で芝煮したエビは小ぶりながらパリパリの香ばしさ。白醤油焼きのウナギは脂ほどほどで身が締まりがよく、アマサギは濃いめの有馬煮で甘い中で身がホクホク。醤油でヅケにした白魚は白身の芳醇な旨みが広がり、鯉は南蛮漬けでほのかな酸味が身の味を引き出している。

この七珍、季節的・資源量的な事情で、実はすべてを同時期に味わうことは難しい。それをこちらでは地場産に組み合わせ、質的に優れたものを選び他所から揃えて提供している。この日の宍道湖産はシジミ、スズキのほか、希少な天然物のウナギに白魚。ほかは鯉は大山鯉、アマサギは諏訪湖産、エビは秋口は宍道湖産のモロゲエビを提供しているが、その他の時期は国産の手長エビを使っているという。

七珍の中でも、漁期や漁獲量が管理され資源量が比較的安定しているシジミは、七珍の中でも看板的な魚介。椀のタネもシジミで、小粒ながら汁がほんのり白濁しており、たっぷりのネギにといけば体に染み入るのが実感できる。夜の営業ではスズキ、白魚、ウナギ、シジミをだしで煮立てる小鍋や、手長エビの唐揚げ、スズキの奉書焼き、白魚の卵とじなど、それぞれの一品料理も充実。市内・李白酒造の華のある甘さの地酒「李白」月下独酌を合わせつつ、七珍の実力を楽しむのもよさそうだ。

ローカル魚でとれたてごはん…本塩釜『すし哲』の、カツオやホヤやイワシやアジや握り

2020年08月10日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
一説によると、塩釜は人口比の寿司屋の軒数が日本一といわれている。中でも随一の人気を誇る店が、本塩釜駅前に構えるこちら。夏はマグロ、秋はサンマ、冬はアンコウにカキなど、新鮮で質のいい地元ならではのネタを握った寿司が自慢。中でもマグロは近海ホンマグロをはじめとする日本随一の水揚げ港・塩釜港を控えるだけに、赤身もトロも絶妙な味わい。1階はカウンターで、職人が6人と多い。壁には近海産の魚介を使った寿司や一品料理の品書きがびっしりと貼られていて、岩がきやアナゴなど旬の魚も。三陸産のブドウエビはボタンエビのこと。光物ではアジやイワシがある。

カウンターにつくや否や、おかみさんから本日のおすすめを矢継ぎ早に推される。カツオが旬で酢の物のおひたしが人気のようで、他のお客も頼んでいるためのることに。薄めの切り身におろしとミョウガがのっていて、酢と混ぜて身でくるんでいただく。薄いながらモチモチしていて身の味が濃く、おろしとミョウガが涼感あふれるさっぱり感。酢のおかげで食も酒も進み、1本目の地元塩釜の「浦霞」本醸造辛口がまろやかに進む。

続くアテはホヤで、握り拳ぐらいある大ぶりのもの。これだけのサイズは、水揚げ地の地物ならではだ。切っつけが立ちオレンジ色が鮮やか、一切れ一切れが太く塩の香りも甘さも分厚い。この時期は養殖物で筏に吊り下げて養殖、界隈は潮目でプランクトンが多く、富栄養のため甘くみずみずしく育つという。勢いにのって、イワシとアジのつくりも追加。イワシは地物で、梅雨から夏が旬の入梅イワシのため、あっさりして身の味よい。アジは山陰もので、今は全国で一番脂がのっているそう。トロトロ、フワフワの激甘さが、光り物同士で好対照だ。

合わせて追加した「一の蔵」特別純米辛口もほどよく空き、メインの握りは上寿司で締めることに。場所柄マグロが中心で、本マグロは日本近海で水揚げされたもの、メバチマグロは近海の生マグロだ。この日の本マグロは、大間のトロ。脂ののりがほどよく、複雑で滋味深い甘みに言葉を失う。メバチマグロは赤身で、ふわりと絹のように柔らかい食感。弾力もあり、後から身の味がじわじわくる。どちらもねっとりと魅惑的な食感が、マグロどころならではの素晴らしさである。

締めは桃のシャーベットで、さっぱり口直ししてお開きに。カウンター奥の壁に、東日本大震災時の津波の高さが記してあるのを、以前その直後に来店して目にしたことを思い出す。10年近くぶりの来店ながら、板前さん方と魚談義で盛り上がりれ、懐かしいような苦難を乗り越えてこられたことに安心したような、もうなじみと言える塩釜のローカル寿司店である。

ローカル魚でとれたてごはん…松江・宍道湖の、シジミ漁

2020年07月10日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
宍道湖に臨む温泉宿「すいてんかく」にて、松江しんじ湖温泉の湯にじっくり浸ったお陰で、翌朝は6時前に気持ちよく目が覚めた。カーテンを開けるとあいにくの曇り空、風も強く湖面が波打っている。その眺めの中ほどをいきなり、左から右へと全速で駆け抜けていく、小型の漁船群。漁に出るというよりはボートレースのような勢いで、何かを目指しているかのような急ぎ具合である。これらは皆、シジミ漁に出る漁船で、6時からと決まっている操業開始の時間を皮切りに、ベストポジションを狙って急行しているのである。

しばらく部屋の窓から見ていたが、湖岸から至近で操業する船もあり、宿を出て湖岸の千鳥南公園の堤防まで降りてみた。船の数は先ほどからさらに増え、左手の宍道湖大橋から正面の白潟公園、さらに右へ嫁ケ島から玉造温泉方面まで、適度に散らばって漁を行っている。いい漁場には集中するのか、場所によって漁船の密度が濃いところも見られるようだ。宍道湖で操業するシジミ漁の組合員は、総勢300名ほど。週に4回、この季節は早朝6時から9時までと決まっている操業時間には、総出で湖面に出て漁を行っているのである。

シジミ漁には一般的に、「じょれん」という漁具が用いられる。8mほどのグラスファイバーの竿の先に、ステンレス製の籠がついた、巨大な熊手のようなイメージ。これで湖底の土や砂ごとシジミを掻き取るのだが、漁船を停めて手作業で行う「手掻き操業」と、船にじょれんを固定してエンジンをかけて獲る「機械掻き操業」の、2種の方法がある。正面では船を停めて水中で竿を繰る様子が見られ、長い竿をたぐるように湖中へ入れ、ゆっくりと揚がる都度に中からザッ、とシジミの粒があふれ出てくる。風と波に翻弄されながらバランスよく竿を扱う様子は、まさに熟練の技と呼べる。

しばらく漁の様子を眺めた後、宿で朝食をとって8時過ぎに湖岸に戻ると、船の数が先ほどより減っており、掻く作業をしている漁師も少なくなった。1日の規定漁獲量は90キロまでと決まっているため、達した船から帰港していくからだ。水揚げ後は石や質の悪い貝を取り除き、幅10ミリ以上12ミリ未満の小から中、大、16ミリ以上の特大の4種に選別。回ってくる問屋に卸して、作業が終了となる。船に選別器をのせている漁師もいて、この時間になると船を停めて選別作業に入っている。

漁の様子が落ち着いたようなので、千鳥南公園から松江駅へ向け、宍道湖大橋で大橋川を渡った。途中に東屋が設けられ、橋の直下で操業していた漁船を、真上から見下ろせた。ちょうど選別を終えたところのようで、船には青いコンテナ2つ、ちょうど規定の90キロ分がのっていた。橋を渡ると白潟公園の園地越しに、手掻きで操業を続ける漁船も見られた。松の木の合間、嫁ケ島をすぐ背後に控え、まるで宍道湖の風景画のように見える。

この地が育んだシジミを、決まりに則って資源管理しながら供給し、後世にも残していく。宍道湖大橋から見渡せる広々した湖、見上げると大きく広がる空を眺めながら、豊穣なる湖と漁師の心意気に最敬礼したくなるような、松江のローカル魚介探訪である。

ローカル魚でとれたてごはん…松江 『トタン屋』の、シジミラーメン

2020年07月09日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
観光客に向けて地の素材を用いたご当地料理の、代表的なのがラーメン。ただし地の魚介を使うラーメンは、麺料理としてはどうしても「際物」になりがちだ。そのままのせると見た目のインパクトはありながら、殻やヒレやヒゲが麺に絡んで食べづらい。むいたり外したりすると手がベトベトになり、その時間で麺がのびる。スープに魚介ダシが出る一方、身の方がダシガラになる。旅のハレの食はまずは見た目とストーリーなのだろうが、味の印象も旅先の評価につながることも、考慮すべきことではなかろうか。

宍道湖に面した松江で、地の魚介を使った料理といえば、シジミがもっとも定番である。街を歩いていても、料理屋の店頭にその名が踊り、宿でも汁物のタネはシジミをおいて他にないほど。派手さはないが広い認知度、さらに体に良いとくれば、よそから来た人にとっても味と効能から、土地の食としてありがたみが強いのもうなづける。そしてもちろん、「シジミラーメン」の文字も。松江駅前から延びる新大橋通りに並ぶラーメン屋の中から、「トタン屋」を選んで暖簾をくぐる。

シジミラーメンを出すからには、ある程度観光客を意識した店かと思いきや、狭い店内は町中華にしても煤け過ぎというぐらいの味がある。ビールを頼んでまずは餃子から、焼かずにゆでるのが此処流とあり、薄い皮からニラがたくさん透けて見える。ツルリといけばニラの香りがかなり刺激的で、ザクザク、プンとパンチが効いている。続いてのシジミラーメンは、入れ替わりやってくる酔客が皆頼んでいる定番の品らしく、地元の普段使いのレベルに対し期待が持てる。

運ばれてきた丼は、まず見た目からして観光ラーメンと異なる。澄んだスープのラーメンに、具のシジミが小さなザルに盛ったまま載せてあり、「映え」とは対極にある無骨なフォルムだ。ご主人に聞くと、シジミは丼に入れて混ぜずに、そのまま別に食べてくださいとのこと。麺に混ざると殻にからんで食べにくいからね、と、配慮がされているのが嬉しい。シジミからいくと、身が小さいのに膨れてパツパツに丸い。ふっくら柔らかく、一粒一粒からあの滋味がじわり染みてくるようだ。

ざる盛りなのは食べにくさに対してだけでなく、ダシガラにならない配慮でもある。おかげでシジミの味が抜けず、楊枝でほじりながら最後の一粒まで堪能できた。ざるに残った殻の山を見ると、値段の割に結構な量だ。シジミの後でラーメンにかかるが、中太で加水多めの麺なのでギリギリのびていない。スープはややぬるむが、その方が塩ダレとシジミの出汁が、熱々より香りと味が立ち上がる。あれだけの量のシジミからのエキスが溶け込んでおり、胃に、肝臓に染みるとあれば、一滴残らずきれいに飲み干した。

昨夜は別の街で深酒してしまい、まる一日酒が残った後でのこのラーメン。生半可な二日酔い薬より効き目あらたかなようで、スッキリした気分で店を後にした。ご当地名物を看板にしながら、素材の味を生かすことに拘った食べ方。街角のラーメン屋で見つけたさりげない味が印象に強く残る、松江のローカルラーメンである。