ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

象屋元蔵のおととせんべい@高松

2017年03月26日 | 旅で出会った食メモ
高松の魚さんぽ、アーケード商店街のはずれ寄りの田町にある「象屋元蔵」は、おととせんべいが看板の品だ。様々な魚介をプレスしたせんべいなのだが、見た目がまるで魚の絵葉書のように美しい。まさに泳いでいるかのようで、これはなかなかな技術がいる。

その秘訣をご主人に聞いたところ、厚みのあるものはなるべく平面に近くしてから、せんべいにプレスしているという。キスは三枚におろして片身のみ使用、タコは内臓を掃除していったん干す、でべらやちりめんや舌平目はそのままなど、個別対応してるのがすごい。人気はエビで、これはなにもせずギュッとプレスしてるのだとか。確かにエビだけ、なんか大雑把だ。

こうした魚のせんべいはそもそも、瀬戸内の小魚で売り物にならないのを、もったいないからと各地でやっていた。でも見た目にこだわったものはなく、こちらで取り組みだしたそうである。素材は近海の魚だが、海に限らずアユやワカサギも「形がきれいだから」使う一方、サバなど脂が強い魚介は骨が茶色くなり、美しくないのでやらないとも。見た目の美しさは味につながる、との方針は、さすが芸術祭開催のアートの地ならでは?

お得な割れせん一袋329円をおみやげにして、さあ帰りましょう。

ローカル魚でとれたてごはん…高松 『割烹 豊しま』の、メバルの煮付け

2017年03月26日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
瓦町の「魚信」のお姉さんに、昼にやっているおすすめの魚料理店を紹介いただき、「町場のほうの店なのでちょっと歩くかも」との指示通り、延々とアーケードを引き返す。飲食店街と寺町が入り混じった今新町に店を構える「割烹 豊しま」は、店頭の行燈に「座談懐石」と称し、格式ありげな構えを見せていた。ちょっととまどいながら暖簾をくぐると、カウンターの中で親父さんがにこやかに応対してくれ、ホッと一安心。片隅に腰掛けて、魚信さんに勧めてもらった旨を伝えると、瓦町からは遠くて分かりにくかったでしょう、と笑う。

オーダーはメバルのご指定に加え、旬の地魚のつくりをおまかせにしたら、カウンター越しに包丁技が眺められるのがいい。サワラはさくから桜色の身がひかれ、銀ピカでスレンダーなサワラは細かな作業で薄造りに。丸々厚めの貝柱のタイラギは、もっちりと見るからに甘そうだ。盛り合わせた小鉢から順にいくと、サワラのとろけんばかりの艶めかしい舌触り、サヨリのシャクシャク気品ある歯ごたえ、タイラギのザクザク荒っぽい食感からの貝甘さと、いずれもキャラとイキが立っていて嬉しくなる。ほのかな彩り同士を組み合わせた見た目も良く、小鉢に早めの春が控えめに咲く、といった感じである。

魚信ではまだ早めと言われたサワラは、さくからして大振りに思ったが、まだ小さい方と親父さん。4月下旬から産卵のために瀬戸内に入ってくるのは、さらにひとまわり大きい一方、冬場の寒サワラの方が脂がのって味がいいのだそうである。タイラギは食用の30センチにほどになるのに6〜7年かかり、今が充分成長したのが水揚げされるベストシーズン。香川県の近海は栄養価が高く優良な漁場が形成されており、20メートルほどの深さを潜水漁で漁獲している。透けるような身が上品な味ながら、傷みやすく刺身は水揚げ地ならでは、という走りのサヨリも合わせ、当地を訪れて味わいたいローカル魚介のオンパレードである。

そしてメバルの煮付けに箸をつけると、身は口中でほぐれず、ズルリと粘りのある舌触りが独特だ。柔軟な食感で身の味は淡く、色が薄めの煮汁にからめるとふくらみのある身の甘味の後から、磯魚ならではのほのかな磯香も楽しめる。あえて味付けをあっさりさせているのは、魚自体の味を引き出すため、と親父さん。魚信でも「オキソメバル」と呼んでいたこの魚、地元ではクロメバルを指すそうで、見た目は地味ながらアカメバルことカサゴに比べ、味に定評があるという。これからの季節が一層うまくなり、薄造りにしたり汁椀のタネにするのもオススメだそう。バラしてきれいに食べきったら、よほど美味かったんだね、とお褒めにあずかり光栄しきりだ。

今はちょうど、冬の魚と春の魚の入れ替わり時期で魚種が少なくて、と恐縮する親父さん。わざわざ来てくれたから、とおまけでシャコと小エビの軍艦巻きをサービスしてくれ、こちらの方が恐縮してしまう。ホクホク舌に崩れる味わいにプリプリの弾力は、ともに底引き網のスター魚介の名に違わぬ地力だ。今のラインナップでも充分満足、さらに今後のシーズン到来もまた楽しみな、瀬戸内の春を舌に満足した高松のローカル魚散歩である。